第3話
「実はさ、破けちゃった水着の代わりを買いに行こうと思うんだけど……」
ホテルの本館で五人そろっての豪勢な朝食を終えると、たくやは明日香にそう話を切り出した。
たくやたちがいるのは宿泊施設以外なにもない島だ。ホテルの裏にはうっそうと森が生い茂っているけれど、まさかどこかの原住民のように大きな木の葉で水着を作ると言うわけにもいかない以上、どこか別の島にまで船を出してもらわなければ買い物することもままならない。
その事を松永先生に相談してみると、昼頃に食料の買出しを兼ねてクルーザーを出すと言うので、便乗させてもらえることになった。これで移動の足の確保が出来たのだが、出かけるにはまだ一つ問題が残っていた。
「―――と言う訳でさ、美由紀さんとケイトは付いてきてくれることになってるんだけど、明日香はどうかなって……」
話しかけるたくやの声には気遣いがあった。明日香が昨晩、夕食の後に体調を崩してしまったことを心配しているのだ。
朝食時にそれとなく様子を観察していたけれど、明日香の顔色は悪く、食事にもあまり口をつけていなかった。徹夜でホテルの男性従業員たちに輪姦されたたくやたちも疲れてはいたけれど、若くて健康なために疲れが食欲に転化されていたのとは対照的と言えた。
明日香が買い物についてくるのは無理だろうとは、たくやにも分かっている。それなら買い物は明日でも、それでも体調が良くならないのなら明後日に延期してもいいと思い、前もって話して四人で出かけるショッピングを楽しみにさせておこうと思ったのだけれど、
「私はいいわ。たくやたちだけで行ってきて」
との予想していなかった不意打ちの返事に、しばしの間たくやは言葉を失ってしまう。
「体調を崩したのは私の責任なんだし、遠慮なんてすることないわよ。せっかく旅行に来てるんだから、みんなはちゃんと楽しまなきゃダメじゃない」
明日香の表情は決して一人仲間はずれにされた事を妬んだりはしていなかった。弱々しくも笑顔を浮かべており、むしろ頬を膨らませて拗ねるかと思っていたたくやは逆に表情を曇らせて「でも…」と声を絞り出すのが精一杯になっていた。
「大丈夫よ、今日一日ゆっくり休めば。松永先生だってそう言ってくれてるし、明日になったら私だって思いっきり遊ぶんだから。そのときは泣いて謝ったって付き合ってもらうからね♪」
「………分かったわよ。はぁ〜……なんか一気に安心した。一人置いてかれるからって明日香が泣いて駄々こねるんじゃないかと思ってたから」
「だ、誰が泣いて駄々こねるのよ!? そう言うのはいつもたくやのほうだったじゃない、昔っから!」
「そうだっけ? ま、細かいことはいいじゃない。それじゃあたしは出かける準備があるから」
「こら、逃げるんじゃないわよ、ちゃんと訂正してから行きなさい!」
「あはは♪ それだけ元気なら確かに大丈夫そうね。お土産ちゃんと買ってくるから安心してね〜♪」
「だから待ちなさいっての、たくや、こらァ!」
顔を真っ赤にして声を張り上げる明日香に心から安堵したたくやは、怒鳴られながらも楽しそうにその場を後にする。その背中が視界から消えても唇を噛み締めて肩を震わせていた明日香だが、自分を元気付けようとしてくれたたくやがいなくなったことに寂しさを覚えるのと同時に太股に力を込め、膝をよじらせながら下腹部を押さえつけた。
「く…ゥ……漏れ…る……」
いなくなった恋人にそれでも聞かれまいとするように、明日香は無意識にこぼれる声を必死に押し殺す。けれど短い時間とは言え、たくやと会話を交わしてしまったことで緩んでしまった緊張はすぐには引き締められず、次第に大きくなっていく衝動に全身を打ち震わせてしまう。
「ダメ……お、収まってぇ………!」
たくやの言葉を否定したばかりなのに、明日香のキツく閉じあわされた瞳からはポロポロと涙が溢れ出す。無性に沸き起こる寂しさと恥ずかしさが心をむき出しにしてしまい、小さな子供のように感情を制御できずに泣き出してしまったのだ。
こんな姿は誰にも見られたくない……宮野森学園では優等生として通してきた明日香は、人前で弱みを見せないように振る舞い続けてきた。たくやの前でだって無様な姿は晒したくない。それなのに……明日香が気持ちを落ち着かせているのを邪魔するように、ホテルの男性従業員の一人が物陰から姿を現してしまう。
『なかなか楽しませてもらったよ。学生と言うのも可愛いもんだよね、ピュアって感じで……思う存分汚したくなる』
そう言う男はたくやのコテージでの輪姦に参加していたのだが、明日香はそのことを知らない。ただ、たくやを前にした時と違って露骨に嫌な顔をすると、敵意も露わに小さく呟く。
「今度はあなたなの?」
―――明日香の足元には、白く濁った雫がポタポタと滴っていた。
「ふあぁぁぁ〜……完璧に寝足りないよぉ……」
三日月のように両端が突き出した島の中央にホテルがある。そのホテルから見て左手側にある桟橋でクルーザーに乗り込もうとしていたたくやは、空に向けて大きく口を開けて眠気を吐き出すと、寝ぼけ眼とコシコシと手の甲で擦っていた。
そんなたくやの仕草をおかしそうに笑いながら、水着にパーカーと言う行った出で立ちで先にクルーザーに乗り込んでいた美由紀やケイトが声を掛ける。
「それもこれも船長さんがあんなにいっぱい人を呼ぶからよ……年中こんな島に閉じこもってるからって、みんな性欲溜め過ぎだってのにさ……う〜、腰がだるい……」
「まあまあ、後腐れなく得がたい体験させてもらったって思えばいいじゃない。それに眠いなら船の中でだって寝れるんだし」
「ケイトは寝てなんかいられませんネ! みんなでれっつショッピング、テンションはとっくにマキシマムですネ!」
言われるまでもなく、たくやも当然そのつもりだ。例え目の前に生唾ものの水着美女が二人いても、さすがに昨晩で精魂を吐き出しすぎていて、興奮よりも眠気の方が勝ってしまっている。
そもそもたくやと二人とでは身体的スペックが違う。「演劇は体力が命」の美由紀は舞台上での長時間の演技にも耐えられるようにしっかり身体を鍛えているし、水泳部のケイトも遠泳はお手の物の体力がある。その上ケイトは水泳部の男子たちとの乱交が日課のようなものなので、多人数プレイにはたくやたちよりも断然慣れており、ペース配分もばっちりだった。
ただたくやだけが文科系の科学部で運動もあまり得意ではない。それなのに二人にも勝るとも劣らない体つきと名器ぶりのせいで男たちの人気を集めてしまい、昨晩は三人の中で一番回数をこなしていた。おかげで消耗も一番激しく、明日香に会うからと気を張り詰めていた朝食時はともかく、今はもう足元もおぼつかない有様だった。
「う〜……悪いけど、中に入って休ませてもらうね。ベッドルーム使っても――」
「タクヤちゃんタクヤちゃん、ほら、あそこ見てくださいですネ! ホテルから明日香ちゃんが手を振ってますネ♪」
「明日香が?」
旅行初日に降り立ったのとは別の島に行くらしいのだが、行った先でも泳ぐ気満々の美由紀たちと一日付き合うには、到着するまでの時間を全て睡眠に費やしてもまだ足りない。ズキズキ痛み出した頭を押さえながらも、ケイトの声に思わず反応してホテルへ顔を向けると、二階のバルコニーから手を振っている明日香の姿を捉えることが出来た。
「まったく……体調悪いなら寝てればいいのに」
そう言いながらも、見送りに顔を見せてくれたことへの嬉しさは隠せない。
横で美由紀とケイトにクスクスと笑われて顔を赤くしながらも、たくやは、そして美由紀とケイトも、バルコニーにいる明日香に向けて「行ってきます」と大きく手を振り回した―――
ストーリー分岐
F)たくや・美由紀・ケイトルート
G)明日香ルート