隣人の妻 U 第1回
作 沼隆(ヌマ・タカシ) 登場人物 岡下 美咲 岡下 宗男 美咲の夫 四方 郁恵 美咲の友人 郷田 軍治 岡下夫婦の隣人 郷田 琴音 軍治の妻 (1) 岡下美咲 美咲(みさき)は、昼下がりの不倫ドラマを見た後、 ぼんやり窓の外を見た。 お向かいは、最近引っ越してきたばかりの、 郷田夫婦の家で、引っ越し当日、郷田は 夫婦で挨拶に来た。 郷田の嫁というのが、琴音という名前なのだが、 10代にしか見えい。 郷田は、「年の差夫婦ちゅうやつで」と言って、 にやっとした。 照れ笑いではなくて、いやらしい笑い方に見えた。 月曜日の朝、琴音が、近くの女子校の制服を着て玄関から出てきた。 隣の家の沼田の旦那の車に乗り込んで、登校していった。 「いやらしいっ!」 美咲は、吐き捨てるように言った。 〈援助交際〉という言葉は知っているけれど、 中年男と女子校生のカップルなど、 気色が悪くてたまらないのだった。 それに、幼妻の格好ときたら…… 制服のスカートが超ミニで、 むき出しの太ももは、ワイセツブツみたいだし、 目つきも、なんか、男を誘ってるみたいで、 嫌らしいし…… 不倫ドラマの絡みのシーンを思い出して、 中年男と女子校生の絡みを連想して、 気分が悪くなった。 「嫌らしいっ!」 沼田夫婦が、あの嫌らしいカップルとすぐに親しくなったみたいで、 不思議な気がした。 沼田夫婦は、まじめな人たちなのに…… お隣だから、仕方なく、なのかしら…… ご近所づきあいって、 陰で悪口言ってても、 うわべは仲良くしなくっちゃイケナイし…… お向かいに越してきた郷田さん夫婦が、 なんか、とってもいやらしい、と夫に話したが、 女子校生を妻にするなんて、うらやましいぞ、と笑った。 美咲は、そんな夫にも腹が立った。 (2) 食品売り場 晩ご飯、何にしよう…… 美咲は、食品売り場を歩いている。 今朝から、なんだかいらいらしていて、 考えるのが面倒くさくて、 なんにも考えないで、スーパーに来てしまった。 「やぁ、岡下の奥さんじゃなかね」 「えっ?」 声がする方を振り返ると、郷田がいた。 「あ、郷田さん、こんにちは」 このところ、美咲がいらいらする原因になっている男。 目つきが鋭くて、ちょっと怖い感じなのだ。 「今夜、何にすると?」 「まだ、決めてなくて」 「ああ、そうね」 「郷田さんが食事の準備をするんですか?」 「そうだよ。ヨメは、料理、できんのよ」 「そうですか」 「今夜は、あいつの好きなキムチチャーハンにするんやけどね」 「へぇ、郷田さんて、優しいんですね」 「見かけと違う、言うんね?」 「いえ、そんな」 「ハハハ、よかよか、気にせんでよか」 目つきは鋭いのに、口元はほほえんでいる。 「日曜日、あいつの誕生日やから、 ビーフシチュー、仕込もうと思うてね」 「ええっ、今日から準備するんですか?」 「ま、オレは、料理には、うるさいけんね」 「そうなんですか」 「そうや、そうや、奥さん、ビーフシチュー、好きね?」 「え、ええ」 「それなら、奥さんとこの分も、作るわ」 「そんな……」 「遠慮せんで、よか。お近づきのシルシや」 美咲の返事を待たないで、郷田は 「日曜日の晩ご飯、作らんで、よか」 と言って、肉売り場に去って行った。 日曜日の夕方、郷田が届けてくれたビーフシチューは プロ顔負けの品で、美咲の夫も、息子も、 大喜びだった。 (3) 琴音 美咲は、月曜日の朝、郷田の家に行った。 玄関に出てきたのは、郷田の幼妻、琴音(ことね)である。 琴音は、ピンクのすけすけのベビードールを着ていて、 黒のブラジャーと、極小パンティが丸見えである。 「すごぉい」 美咲は、声に出していた。 郷田は、出かけていた。 ビーフシチューの礼を言い、 キャセロールを返して帰ろうとして、 好奇心がわいた。 「お家、見せてもらえるかしら?」 郷田が相手だと、気後れしそうだけれど、 琴音は、あたしより、ずっと年下だし…… 「ね、見せて!」 厚かましく言った。 琴音は、こともなげに美咲を家に上げた。 キッチンは、郷田の性格なのだろう、 きれいに片付いていて、ぴかぴかだ。 リビングには、大画面のテレビ、ソファーのセット、 テーブルの上には、エッチ系の雑誌が置いてある。 美咲は、 (こんなもの、出しっ放しで、嫌らしい!) と思う。 寝室は、ダブルベットと、ドレッサー、キャビネット。 浴室は、美咲の家の浴室よりずっと広く、 洗い場にたっぷりスペースが取ってある。 壁に、銀色のマットが立てかけてあり、 金色の、ちょっと変わった形の椅子があった。 何に使うのだろう? 金色や銀色の道具は、美咲の好奇心をかき立てた。 「ね、あれ、どんな風に使うの?」 琴音は、 「知らない? ローションプレイに使うんだよ」 と答えた。 「ローションプレイ?」 「そ」 琴音の返事は、素っ気ない。 美咲は、〈プレイ〉という言葉に、胸が騒いだ。 美咲は〈ローションプレイ〉がどんなことか知らないけれど、 なんだか、いかがわしい遊びのような気がした。 美咲は、家に帰ると、 友だちに電話する。 〈ねぇ、郁恵、聞いてよ〉 〈何よぉ、なんか、おもしろいこと、あったの?〉 〈このあいだ引っ越してきた……〉 〈ああ、年の差夫婦?〉 〈うん〉 〈今、お家の中、見せてもらったんだけど〉 〈ン?〉 〈お風呂場が、すごく広くて〉 〈へえ、リッチ! 温泉でるとか〉 〈違うよ、この辺、温泉でない〉 〈で?〉 〈なんか、ヘンなんだよ〉 〈何が?〉 〈金色の椅子とか、銀色のマットとか……〉 〈アハハハハハ……〉 〈何よぉ、何がおかしいのよぉ〉 〈美咲、なぁんにも知らないんだから〉 〈もぉ、バカにして!〉 〈それ、スケベ椅子と、ソープマットって言うんだよ〉 〈やだぁ、何、それ?〉 〈ネットで、調べなさい〉 〈わかったよ、スケベ椅子……嫌らしい名前〉 〈でも、お向かいさん、すごいね〉 〈ン?〉 〈年の差夫婦で、ソーププレイしてるんだ……すごいっ!〉 〈わけ、わかんないよ〉 (4) 寿司 「やぁ、岡下の奥さんじゃなかね」 「郷田さん」 「このあいだは、せっかく来てくれたのに、 出かけとって、すまんことしたねぇ」 と郷田が言った。 キャセロールを返しに行った日のことだろう、 と、美咲は思った。 「留守にしてて、すまんかったなあ」 「いいえ、私こそ、勝手にお家の中を見せてもらって」 「いやいや」 「今夜、お宅へ伺おうと思っていました」 「おっ、なんね?」 「郷田さんご夫婦を、うちにお招きしろって、 主人が申しております」 「おお、そうね! そりゃ、うれしかぁ!」 「私、お料理、うまくないんで、 お寿司の出前にしよう、と思っております」 「ああ、そうね……」 「お寿司、嫌いですか?」 「いやいや、そんなこと、なか。 好物たい。ばってん……」 「何か……?」 「どこの寿司、取るとね?」 「いつも《がんたれ寿司》とってるんですけど」 「奥さん、あそこんとは、寿司じゃなか」 「はい……」 「奥さん、オレにまかせんね」 「え? どこかよいお店をご存じなら、 そちらから取りますけど」 「いやいや、オレが握るけん」 「え?」 「オレが、旨か寿司食わするけん」 「そんな……」 「奥さんは、材料を買うだけでよか。 あとは、オレがやるけん」 (5) 寿司会の夜 寿司会の日の午後、郷田は美咲の家にやってきて、 寿司飯をこさえ、魚をさばき、 寿司職人よろしく、 美咲、美咲の夫と息子、琴音を前に、 寿司を握った。 美咲の息子は、 「こんなおいしいお寿司、初めて!」 と、大喜びし、 美咲の夫、宗男(むねお)は、 琴音をちらちら見ながら、 極上寿司を味わった。 「みんな、喜んでくれて、嬉しか!」 と言いながら、郷田と琴音が帰っていった。 「美咲、久しぶりに、いいだろ?」 寝床に入った美咲に、宗男が覆い被さってくる。 「なによぉ」 宗男は、琴音のせいで、性欲が高ぶっている。 子供には目の毒になるような格好で来た。 キャミソールに、ミニスカート。 ショッキングピンクのパンティが、 琴音が立ち回るたびに覗けた。 男を誘うような視線。 男を誘うような唇。 意味ありげな指の動き。 仕草の一つ一つが、 宗男を刺激した。 寿司を食べながら、ビールを飲みながら、 肉棒を堅くしていたのだ。 「琴音ちゃんのせいね?」 「バカ、言え!」 そうやって、宗男は美咲に挿入し、 美咲が感じ始める前に射精し、 美咲が股間の後始末を終える前には、 いびきをかいていた。 「ばかっ」 美咲は、宗男の背中に向かって、つぶやいた。進む