肉欲の罠(修正版) 15
沼 隆 おことわり この作品は、フィクションです。 登場する人名、地名、団体名は、 実在するものと一切関係がありません。 登場人物 瀬口美恵子 ビューティサロン〈グランス〉の女主人 瀬口 美奈 瀬口美恵子の次女 瀬口 梨奈 瀬口美恵子の長女 鮫島 雪絵 ランジェリーショップ〈わぎな〉の女主人 万田 光夫 雪絵の愛人 残間 章吾 〈残間金融〉社長 権藤 軍治 〈残間金融〉社員 倉橋 亜美 〈わぎな〉の元店員 牟田 拓也 亜美のカレシ レ ナ ソープ嬢(ほしの麗奈) (1) 万田の来訪 月曜日の10時前のことである。 美恵子のアパートに、思いがけない男が訪ねてきた。 万田光夫(まんだ・みつお) 美恵子が行きつけのランジェリーショップ、 〈わぎな〉の女主人、鮫島雪絵の愛人である なんで、万田が・・・・・・ と、美恵子はいぶかしく思ったが、廊下で立ち話というわけにも行かず、 部屋の入れたのである。 真夏の暑さで、ぼんやりしていた。 エアコンの調子がおかしくなっているし、 おんぼろアパートが、熱気を溜め込んでいるせいだ。 美恵子は、汗を掻いていた。 ブラウスが、汗ばんだ肌に張り付いて、 下着が丸見えになっている。 シースルーのブラジャーを着けているので、乳首までがくっきり透けている。 万田の目つきで、そのことに気がついた。 けれど、万田はもう部屋に上がっている。 着がえるわけにはいかない。 「美奈ちゃん、雪絵の店で、万引きやってねぇ」 「えっ!」 「パンティ、2枚」 「・・・・・・」 「ビデオ、見るかい?」 「ビデオ?」 「ああ、防犯カメラ、設置したんだよ」 「防犯カメラ?」 「美奈ちゃんが、パンティ盗んでるとこ、ちゃぁんと写ってるんだ」 万田は、ビデオデッキを見つけると、 さっさとスイッチを入れてしまう。 「こ、これって」 「ほおら、よく見な」 「ひ、ひどい、これって、防犯カメラなんかじゃないわ」 「みょうな言いがかりつけるなよ。 見ての通りだよ。 美奈ちゃんがパンティ盗んでる」 「こ、こんなひどいこと、 雪絵さん、ひどいひとね、 こんなことするなんて」 「雪絵は、関係ねえよ」 「ビデオに撮って、おどすのね」 「人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ」 「じゃあ、どうしろっていうのよ」 「おいおい、そんな言い方するもんじゃないよ。 どうするか、あんたが考えてくれればいいんだ。 ナントカ工務店のおやじに逃げられて、 旦那にも、ずいぶんひどい目に遭わされたって? あんたも大変なめにあったねぇ。 あっちのほうも寂しいんじゃないの? 最近は、雪絵の店にとんとご無沙汰だもんな。 エッチな下着買っても、見せる相手がいないんじゃなあ、イヒヒヒ」 万田は、美恵子ににじり寄った。 満面にいやらしい笑みを浮かべながら。 「やめてっ!」 「へぇ、そうかい。わかったよ。 そうそう、あんたが試着室でオナニーしてるビデオもあるんだぜ。 じゃあ、これで失礼させていただきましょうかね」 万田は美恵子の表情をうかがいながら、立ち上がるそぶりをする。 「まって、そのビデオ、置いていって」 万田が、美恵子に顔を近づけると、美恵子は顔をそむける。 万田は、美恵子におおいかぶさるようにして、のしかかっていった。 「おほほう。いいおっぱいしてるねえ、 すごい、すごい、ゴムまりみたいだ、」 「あ」 「感じやすいたちなんだねえ、えへへへへ、」 万田は、肌に貼りついたブラウスをはぎ取った。 「きれいだ、きれいだ、あはあ、あはあ、あはあは」 万田の唇から逃れようと、顔を背ける。 「いひ、いひ、キッスはお嫌いですかあ? あは、あは、あはあは」 万田の口からよだれが垂れて、美恵子の胸にぽたりと落ちる。 美恵子は、ぞおっ、とする。 万田の卑しい顔が、いっそうおぞましく見える。 ハアハアと熱い吐息を美恵子に吹きかけながら、ブラジャーをむしり取る。 「あは、あは、あはあは ちんぽが、びんびんですよお おほ、おほ、おほおほ」 美恵子は、汗ばんだ背中がじかに畳に触れて、 なんとも気色が悪く、腹立たしかった。 無性に腹が立った。 惨めだった。 なんで、なんで、雪絵なんかの店に、 万田は、スカートをはぎ取っていた。 「おほ、おほ、おほ パンティ、じとじとですよ 汗でしょうかね マン汁ですかねえ」 「いや、いやあ」 「パンティ、脱ぎ脱ぎしましょうねえ えへ、えへ、えへえへ」 万田は、汗を滴らせながら美恵子を犯した。 イクときには、滝のような汗が美恵子にぼたぼたと滴り落ち、 美恵子の汗と混じって、不快な臭いを発した。 万田が出て行った後、蒸し風呂のような部屋の中で、 美恵子は放心したまま、横たわっていた。 テーブルの上には、美奈が万引きするシーンを盗撮したビデオが残されていた。 (2) 深夜の客 時計が午後10時を回った。 客足がとまって30分くらいたっている。 ランジェリーショップ〈わぎな〉 雪絵は、店を閉めようとしていた。 客がきたことを知らせる鈴がリンリンと鳴る。 男の客が入ってきた。 「いらっしゃいませ」 亜美が店を辞めたあと、加護みずきという子を雇った。 けれど、みずきは7時で帰っていく。 雪絵ひとりである。 夜遅い時間の、男のひとり客。 商店街に、人通りがあるが、気を引き締める。 「贈り物ですか?」 「おれが着るわけねえだろ」 「いえ、あの」 「これにやりてえんだ」 男は右手の小指をたてて見せる。 店の中をじろじろと見回している。 怖いところがありそうな男だ。 その手の男もやってくる。 たいていは女連れだ。 あつかいには慣れている。 「ご希望をおっしゃっていただければ、おだしします」 「おめこが楽しくなるやつ」 「え? あ、はい」 「女性の方のサイズ、お分かりでしょうか」 「さいずぅ? ちちのサイズか? ふん」 男は、ランジェリーを眺めるようなそぶりをしているが、 あまり本気ではなさそうだ。 照れているのだろうか、 「ブラジャーとかは、お胸のサイズがわかりませんと、 パンティを贈られたらどうでしょう」 「ああ、いいよ」 雪絵は、高価で過激なパンティを並べ始める。 「サイズは、Mでよろしいでしょうか」 「M?」 「ええ、おヒップのサイズが」 「おう、ちょうど、あんたくらいだろう」 「じゃあ、Mでおよろしいかと、」 男は、1枚を選んで指先でつまみ上げ、にんまりしている。 「もっと、スケベなやつ、ないかい? ここんとこに、パックリ穴があいたやつとか」 「ああ、おだししてあります。 これとか、いかがでしょう」 雪絵が、男のそばに立って、 穴あきパンティを広げて見せようとしたとき、 男は雪絵を羽交い絞めにする。 「ひぃっ」 「おとなしくしろ」 「ひぃっ」 「強盗なんかじゃねえ、見せてもらいたいもんがあるんだよ」 男は、雪絵を試着室に引きずり込む。 「なるほど、おい、これ、何だ?」 「え?」 「これだよ」 雪絵は、それに初めて気がついた。 試着室の掃除は、みずきにさせている。 気がつかなかった。 みずきも、気がつかなかったのか。 「隠しカメラだよ」 「か、隠しカメラ?」 「知らないって言うんじゃないだろうね」 「し、知りません、わたし、ほんとに知りません」 「ここ、あんたの店だよね」 「・・・・・・」 「このカメラで撮った絵は、どうなってるのかな」 「ほ、ほんとに、知らないんです」 「誰が取り付けたんだろうねえ」 男は雪絵のワンピースを力任せに引き裂いた。 「やめてっ!」 「こんなことやってたら、カメラの向こうにいるやつが、 あんたを助けにとんで来るんじゃないかな?」 (光夫だわ、光夫しかいないもの、くそ、なんてやつ、) 「いやっ!」 「暴れると痛い目にあうだけだぜ」 「やめてっ! いやぁ!」 男は、雪絵の薄いセミの羽のようなブラジャーをむしり取ると、 パンティも引きずり下ろした。 「だめっ! やめてっ!」 入り口の鈴が鳴る。 「たすけて!」 男は、チッ、と舌打ちをして、雪絵を離す。 雪絵は、全裸同然の姿で試着室から店の中へ逃げ出した。 入ってきたのは、残間だった。 権藤はホッとする。 「おい、権藤、手荒なことをしちゃあいけないよ」 「しゃ、社長。す、すみません。 このひとが、あんまり知らないって言い張るもんですから、」 「鮫島さん、ここはあなたのお店ですよ。 隠しカメラ仕掛けといて、知らない、はないでしょう」 ふたりの男は、じろじろと無遠慮に雪絵の裸体を見つづけている。 雪絵は羞恥と恐怖でわなわな震えている。 「おやおや、気がつきませんでした。権藤、何か着せてさし上げろ」 「へぇ」 権藤は、店の売り物であるベビードールの中から1枚手際よく抜き出すと、 雪絵にほおってよこす。 「権藤、おまえ、いい趣味してるじゃないか」 「えへっ」 着けたところで裸同然のベビードールを雪絵は着た。 「じゃあ、その万田という男、会いに行きましょうか」 雪絵は、着替えをさせてもらえないまま、ベビードール姿で残間の車に乗せられた。 (3) 報復 万田は、雪絵のマンションでアダルトビデオを見ていた。 《ナマ撮り! 処女●姦! 引き裂かれる●●膜》 テーブルの上には、ビールの缶が転がっていた。 パンツ1枚で、赤い顔をしていた。 雪絵がふたりの男を連れて、 裸同然の格好で戻ってきたのに驚き、うろたえる。 しらばっくれるのを、権藤がなぐりつけると、 鼻血が噴き出し、万田は、盗撮ビデオが亜美のアパートに置いてあることを白状した。 亜美のアパートが、美恵子が住むアパートにあると知って残間は激怒し、 万田を激しくなぐりつけた。 権藤が止めにはいる。 万田の顔は紫色に腫れ上がり、万田とはわからない形相になった。 亜美は拓也とセックスの真っ最中だった。 亜美のあえぎ声が廊下にまで聞こえる。 なんてひでえアパートだ、と残間は思った。 夜更けに激しくドアをノックされて、 居留守を決め込めなくなって、 パンツ1枚の拓也がドアを開ける。 権藤が、残間と立っていた。 拓也は、ぎょっとする。 権藤の顔は、知っている。 連れの男は、初めて見るのだが。 「なんだ、タクヤじゃねえか。 おめえら、クーラーのねえ部屋で、よくおめこできるなあ」 「権藤、このガキ、知ってるんか」 「へえ、大田黒のところで、何度かバイトしたやつです」 「大田黒も、からんでるのか」 「どうですかねえ、痛めつけて、吐かせますか」 「まあ、いい」 残間は、亜美をじっと見ている。 布団の上に座った亜美は、 セックスの真っ最中に乗り込まれて、 下着を着ける間もなかった。 強面のふたりを見て、 亜美はおびえきって、 乳房を両腕で隠すのがやっとだった。 「なあ、タクヤ、おまえ、万田のテープ、あずかってるだろ?」 「万田のテープ?」 「ああ、下着屋のオヤジだよ、知ってるだろ」 「テープ、なんて、知りません」 「おい、くそガキ、ナメたくち、きくんじゃねぇよ」 「万田の野郎が、ここにあるって、言ってるんだよ」 「お、おれ、知らねっす」 ごき 権藤が、拓也を殴りつけた。 「バカ野郎」 亜美が、 「そ、そこに」 押し入れを指さした。 「ネエちゃん、さっさと、出しなよ」 亜美は立ち上がりかけて、下着を着けてないことに気がつき、 しゃがみ込んだ。 「さっさと、出しな」 亜美は、脱ぎ捨ててあった下着に手を伸ばす。 「もたもたするんじゃねぇよ、さっさとしな!」 亜美は、押し入れまで這っていき、 ビデオテープが収まった段ボール箱を引っ張り出した。 「これか?」 亜美は、ウン、とうなずいた。 「おまえら、このテープ、売ったりしてねえだろうな」 「い、いえ、そんなこと、おれたち、そんなやばいこと」 「そうかい、ならいい、ネエちゃん、おまえ、万田の共犯だからな」 「あ、あたし、なんにも」 「タクヤ、おまえ、仲間にテープ流してねえだろうな」 タクヤは激しく頭をふった。 「もし流してたら、承知しねえからな。 社長、こいつ、AVに出てるんですよ」 「なんだとお、まさか盗撮ビデオなんて商売、 やってるんじゃあねえだろうな」 「やってませんから、ほんとですから、」 拓也は震えていた。 「お隣の迷惑になるといけねえから、ひきあげるぜ。 タクヤ、おまえ、テープを下に運べ」 パンツ1枚のタクヤは、段ボール箱を残間の車まで運びおろした。 盗撮ビデオが流出していることがわかり、 激怒した残間が、万田光夫を半殺しの目に遭わせるのは、 少し後のことである。 (4) 女闘 拓也は、寝床からのろのろと起き上がった。 右の顔面がうずいている。 ゆうべ、権藤軍治に殴られて、 口の中が切れ、唇も切れて、 赤黒く腫れ上がっている。 今日は、AVの撮影が入っている。 これじゃ、無理だ・・・・・・ 「きょう、休みますから」 「バカやろーっ!」 携帯の向こうで、〈カイカン企画〉の社員が怒鳴った。 「なんか、食べる?」 亜美が、心配そうにたずねた。 「痛くて、食えるかよ」 「そんなに、痛いの?」 亜美が、のぞき込む。 「うぜぇんだよ」 「そんなこと、言わんでよぉ」 「おまえ、今日、仕事は?」 「ある」 昨夜の出来事が、よほど恐ろしかったらしく、 亜美は、睡眠不足からか、 目を腫らしている。 「おまえも、どやされるぞ」 「え?」 「顔、見てみろ」 鏡のなかの亜美は、不機嫌そうにむくんでいた。 「あたしも、休もうかな」 「ばかやろう」 「なんでだよぉ」 拓也は、亜美が休むことで失う金を、惜しんでいた。 「顔、冷やして、なんとかしろ」 「うん」 「どこに、行くんだよ」 「おしっこ」 亜美は、パジャマを着ると、廊下に出て行った。 共同トイレは、廊下の奥にある。 ぱしゃぱしゃ、ほとばしる排尿の音を、 亜美は、ぼんやり聞いている。 もう、AVの仕事、やめたいよ・・・・・・ 拓也が、押し入れにしまってある、 《月刊泡姫ジャーナル》 グラビアに並ぶ、ソープ嬢たち。 ほしの麗奈が、ほほえんでいる。 〈姫御殿〉で貴男を待ってるレナさん。 好きなタレントは? 竹之内豊 好きなタイプは? 話しじょうずで優しい人 好きな食べ物は? イタリアン 好きな音楽は? J―POP 好きなスポーツは? K―1 性格は? 実は淋しがり屋さん 休みの日は何してるの? お掃除 旅行に行くとしたら、どこに行きたい? ハワイ 今一番欲しいものは? 愛情 好きな下着の色は? ピンク あのですねぇ……性感帯ってどこ? 胸 得意プレイを教えてください。 マット 大好きです 今はまっているものは? ネイルアート ズバリ! 夢を教えてください。 お店を持つこと! レナさんから一言 マット、がんばります。レナに、会いに来て! たっくん、レナとマット、したんだろうか。 マットが、どんなことをするか、亜美は知っている。 亜美も、最近、経験した。 《沢井みあ ぬるぬるマット ソープで●精》 AV女優、沢井みあの新作。 ソープ嬢のテクニック、ご紹介ビデオ。 みあちゃんが、ソープ嬢のお姐さんから手ほどきを受ける、という設定。 おしっこをすませた亜美は、薄暗い廊下を、のそのそと進む。 仕事、休みたいよぉ ドアを開けて部屋に一歩踏み込んだとき、 ばたばたと迫ってくる足音がして、 驚いて振り向きざま、部屋の中に突き飛ばされた。 布団に横たわった、パンツ姿の拓也が、 顔をこわばらせた。 「お、おまえ」 「こんな、きったねぇアパートで暮らしてたんか」 「麗奈」 「ふん、てめぇら、よくも、あたしを、こけにしてくれたね」 「なに、言ってるんだ!」 「おい、みあ、この、ドロボウ猫」 「なによっ!」 「おまえみたいな、カス女に、拓也をとられて、たまるかっ」 「なによっ、ばかっ、あんたなんかっ」 「この、どブス!」 つかみかかった麗奈の下腹部を、 亜美は蹴り上げた。 「うえっ」 前のめりになった麗奈に、亜美は飛びかかると、 布団の上に押し倒す。 よけ損ねた拓也のひざに、麗奈は顔面を打ち付けた。 鼻血がほとばしる。 「うごっ」 「この、くそ女っ!」 流れる血が麗奈の鼻から、口へ、あごへ、首筋へたれていく。 「よ、よせっ」 拓也は、叫んだ」 「や、やめろっ」 麗奈を抱き留めようとした拓也の手が、 体をつかみ損ね、 麗奈の着衣を引き剥いだ。 流れ落ちる血が、胸を赤く染め、 ピンクの下着を赤く濡らす。 拓也は、麗奈の腰に抱きついて、引き倒す。 「拓也っ、離してっ」 「やめろ、麗奈、やめろ」 亜美が、麗奈の顔面めがけて、目覚まし時計を振り下ろす。 ぐぎっ 「ぎぇっ」 目覚まし時計は、麗奈の鼻を押しつぶし、 一瞬ひるんだ亜美の手から、布団の上に転がった。 「でめぇ」 アパートの中は、静まりかえっている。 住人がいるに違いないのだが、 男女の争いごとに首をつっこむお節介は、いない。 麗奈の鼻から噴き出した血が、 麗奈の体だけでなく、 亜美の、拓也の体に、飛び散る。 布団が、べっとりと血に染まる。 「ぐぼぉ」 鼻からノドに流れ込んだ血で、麗奈はむせかえる。 亜美は、思わずやってしまったことの結果に、 おびえて、体をすくめている。 「ごぼっ」 「だいじょうぶか、麗奈」 拓也が、麗奈をのぞき込む。 麗奈は、憎しみに燃える目で、拓也を見返す。 拓也は、ティッシュを差し出した。 そんなものでは、追いつかない。 「亜美、タオル、とって」 亜美は、とまどい、そして、うろたえながら、 タオルを麗奈に渡す。 タオルは、真っ赤に染まり、 麗奈のゆがんだ顔が、さらにすさまじい形相になった。 いきなりドアが開いて、男が踏み込んできた。 男は、室内の様子に、ぎょっとして、立ちすくむ。 「お、おまえら、なにやってるんだ!」 〈カイカン企画〉の社員、玉井達治だった。 「いつまでも来ないから、来てみたら、 なんなんだよっ、この、バカどもが」 そして、血まみれの顔で、うずくまっている女が誰か、気がついた。 「お、おまえ・・・・・・麗奈・・・・・・」 パトカーのサイレンが近づいてきて、アパートの前で止まった。 アパートの住民だろうか、誰かが通報したようだ。 「バカどもが、テメェらの始末、テメェらで付けろ」 玉井は、警察との関わりを避けようと、さっさと姿を消してしまった。 3人がべったりと座り込んでいる部屋に、 警官が踏み込んだのは、そのすぐあとだった。 それから、救急車が、呼ばれた。進む