麻耶の黒い下着(修正版) 第8回

沼 隆

登場人物  坂下大樹 アマチュア写真家 浩平の父親
      坂下麻耶 大樹の妻
      坂下浩平 大樹の先妻の子
      野口明菜 麻耶の妹 大学生
      真壁宗男 大学講師
      浜部朱美 大樹の写真仲間
      沢渡良太 大樹の写真仲間
      篠田麻妃 大樹の写真仲間
      塩津美和 坂下家の隣人

     *   *   *

(1)

あの日から一週間が、過ぎた。
再び、土曜日がめぐってきた。
大樹は、愛好会の集まりに出かけた。
帰宅は、夕方になると言う。
最近、出かける回数が増えた。
毎週末のように、愛好会がある。
麻耶は、朝食の後片付けを終えて、
〈メルモ・スポーツクラブ〉に行く支度をしに、寝室に上がっていく。
着替えをしようと、下着姿になったときだった。
浩平が、入ってきた。
「〈メルモ〉、今日は、休めよ」
きっぱりとした口調で、麻耶に命令する。
すっかり日常生活に戻った気持ちになっていた麻耶だった。
「いやだよ、友だちと、約束してるし」
「ことわれ」
「買いもの、つきあってって、あたしが頼んだの」
「ことわれ」
「ねえ、このあいだみたいなこと、いや」
「へええ」
「あんなこと、しちゃ、いけない」
「ふん」
「浩平くん、あたし、あなたのお父さんの・・・」
「なんだ、また、同じこと、言わせるのか・・・ムカツクなあ」
「だって、そうでしょ?」
「わかった、じゃあ、いってらっしゃい」
浩平は、あっさり退いた。
着替えをすませて、水着とレオタードと、化粧品と・・・バッグに詰めているときに、
階段を下りていく浩平の足音が聞こえ、それから、玄関を出て行くのがわかった。
麻耶は、廊下に出る。
そして、目を見張った。
浩平の部屋のドアに、プリントアウトした写真が貼ってあったのだ。
麻耶が、素っ裸で、
首と、両腕と、両足に黒い拘束具をつけて、
浩平のベッドで悶えている写真。
浩平を追いかけて階段を下りる。
けれど、浩平の自転車が、通りに出て、走り去る音が聞こえたのだった。
麻耶は、携帯を取りだして、浩平の番号を押す。
呼び出し音が鳴り続けるばかりで、浩平の応答がなかった。
3度目に、通話中の表示が出た。
浩平は、なにも言わない。
「浩平くん、帰ってきて」
「・・・・・・」
「お願いだから、帰ってきて」
「・・・・・・」
「許して、浩平くん、お願い、許して」
浩平が、通話を切った。
麻耶は、友だちに約束をキャンセルする電話をして、
浩平をまった。
けれど、浩平は、戻ってこなかった。
お昼になっても。
夕方近くになっても。
浩平の部屋のドアに貼ってあった写真をはがす。
写真の中の麻耶は、後ろ手に両手を縛られて、つらい姿勢で、胸を突きだしている。
乳房を誇示しているようにも見える。
乳首が、キュンと飛び出している。
ひざをおなかに引き寄せて、浩平の視線から、
少しでも裸身を隠そうとしているように見える。
麻耶は、はさみを取り出して、細かく切り刻んだ。

(2)

浩平は、九鬼杏奈の家にいた。
杏奈と、両親がいる。
リビングに、昨日届いたばかりの最新型のデスクトップが
据え付けられるのをまっている。
杏奈が、浩平に頼んでいた。
段ボール箱から取り出し、これも届いたばかりのパソコンデスクに載せて、
コードをつなぎ、それから、無線LANの設定から、
杏奈のノートパソコンを組み込んだ家庭内LANの設定までやり終えて、
お昼ご飯をごちそうになった。
午後は、家族3人に、レクチャーまでして、結局、晩ご飯をごちそうになった。
杏奈が、はしゃぎすぎるのは、鬱陶しかったけれど、
杏奈の両親が、浩平の手際よさ、説明のうまさに、しきりに感心し、
礼を言われると、浩平は、悪い気はしなかった。
「教える悦び」と、オヤジが時々話して聞かせるのを、思い出している。
浩平は、杏奈の家が、居心地よくて、
こんなに愉しい気分になったのは、半年ぶりだと、思い出した。

「おかえりなさい」
麻耶が、玄関に出迎えた。
オヤジは、もう寝ている、と言った。
「オレも、寝ます」
麻耶は、腹が立った。
一日、どこにも行かないで、ひとり、この家で過ごしたのだ。
それなのに、大樹も、浩平も・・・

(3)

大樹が、土曜日にしたことを書いておこう。
麻耶に、撮影会、と言って出かけたのだが、
ほんとうは、カップル2組でした、セックス撮影である。
ビデオカメラやデジカメを買って、したくなるのは、
セックスを撮影することだろう。
自分を撮影するには、リモコンを使うことになる。
けれど、そうするには、カメラを三脚などで固定するしかない。
それでは、アングルに変化がないし、
それに、リモコン操作で、セックスに夢中になれない。
自分で撮った写真は、ちっとも満足できない。
第三者に撮ってもらうのがいちばんなのだ。
けれど、だれにでも頼めるものではない。
大樹と良太が、初めからうまくいったのは、
親友同士だからかもしれない。
若い頃からずっと、愉しい遊びは、一緒にやってきた仲なのだ。
あとは、つきあう女が、そういう遊びを一緒にできる女かどうかにかかっている。
大樹は、朱美と寝るようになって、数ヶ月だが、
リモコン撮影の期間を経て、ようやく撮影会をOKさせるところまで来たというわけだ。

夕方まで、時間はたっぷりある。
4人で愉しく遊ぶのだ。
女をリラックスさせ、楽しませ、
そして、いい写真を撮る、
男ふたりには、なかなか気配りがいるのだ。
ホテルは、決めてある。
新宮海岸の、〈マリンブルー〉だ。
スワッピングルームがひとつあるのだ。
ダブルベッドが2つあり、設備も、そろっている。
食事は期待してはいけない。
持ち込めばいい。
レンジが備えてある。
〈ロースン〉で食べ物、飲み物を買い込んで車を走らせ、
10時過ぎに、ホテルに入った。
女たちは、緊張を隠すためなのか、妙にはしゃいでいる。
やはり、ダブルベッドが2つ並んでいる光景には、驚いている。
これから、なにをするのか、意識してしまう。
大樹と良太は、持ち込んだ飲食物をテーブルに並べたり、冷蔵庫にしまったりする。
カメラは、バッグから出して、ベッドわきに置く。
大樹は、スコッチのビンを開ける。
グレンフィディックは、シングルモルトの、うまいスコッチだ。
大樹は、日頃スコッチを飲むわけではないが、こんな時には、
強い酒を少し飲むのが、いい。
4つのグラスに、注いで、それをみんなに配った。
「愉しい週末に」
「ウン、楽しもう」
大樹が、一息で飲み干すと、3人が続いた。
麻妃が、むせる。
「このお酒、強い」
「スコッチ、初めて?」
「たぶん」
「そうか。すぐに、気持ちよくなるよ」
大樹と良太が、申し合わせたように上着を脱いで、上半身はだかになった。
ズボンも脱いで、パンツ一枚になる。
「ダイさん、もうイッパイくれ」
良太が言うので、大樹は、グラスに注いでやり、自分の分も注いだ。
といっても、これくらいにしておかないと。
飲酒運転で捕まるなんてことは、困る。
女たちも脱ぎ始め、下着姿になって、麻妃は良太の隣に、
朱美は大樹の隣に座る。
つまらないことをいうと、しらけるだけだ。
大樹は、朱美を抱き寄せて、唇を吸う。
良太も、麻妃を抱き寄せた。

男同士、ペースを会わせるように互いに気を配りながら、
パンツを脱ぎ、女をはだかにした。
4人は、黙って行為を続けた。
「沢ちゃん、オレから、先に、いいかな?」
「ウン、ダイさんから、どうぞ」
大樹のペニスも、良太のペニスも、ムクリとふくれ始めている。
良太は、立ち上がると、カメラを取った。
大樹は、したくなったし、朱美も、したくなっていた。
麻妃が、ベッドに腹ばいになって、大樹と朱美をじっと見ている。
良太は、ふたりの行為を邪魔しないように、
静かに移動しながら、シャッターを切る。
大樹は、良太に、麻妃に、オレのセックスを見せてやる、
というキモチになってきた。
それが、朱美にも通じたのか、しだいに、いつもの反応を見せ始める。
朱美は、視界のすみに、麻妃を感じながら、
良太のレンズを感じながら、
熱くなっていき、
腰をくねらせ、
背中を反らせ、
足をひくつかせながら、
高まっていき、
良太の肉棒が、勃起しているのを眺めながら、
抑えられなくなって、
ヨガリ声を上げながら、
イッた。
良太も、麻妃も、熱くなっていた。
大樹と朱美が始末するのを待ちかねていたように、
セックスを始める。
そのふたりを、大樹は、撮り続ける。
悶える麻妃の顔、
濡れた唇、
開いた鼻腔、
とろんとした目、
飛び出した乳首、
濡れた淫裂、
埋め込まれる肉棒、
麻妃の淫水に濡れて、淫裂をこすり続ける肉棒、
カシャッ・・・カシャッ・・・カシャッ・・・
ふたりの邪魔をしないように気を配りながら、
大樹はしっかり撮ってやった。
朱美は、他人のセックスを初めてナマで見て、
熱くなり、汁をしたたらせていた。
ベッドにあぐらをかいて座り、股間に両手を当てているのは、
あふれ出る汁を抑えるというより、
そうしているのが、キモチいいからであった。
ティッシュで拭きたいとも、思わなかった。
あふれ出した汁で、指がびしょ濡れになっても、
熱い汁に指を浸している。
麻妃が、絶頂に向かって高まっていくとき、
凄まじいヨガリ声を上げて、イキまくった。

4人は、持ち込んだ寿司を食べる。
午後も、撮影会を続けた。
フェラチオ、クンニ、体位を変えながら。
もうひと組の、カップルに、見せつけるように。
見ることで興奮し、
見られることで興奮し、
自分たちのテクニックを駆使しながら。
真剣にセックスしたのだった。

(4)

日曜日の朝。
今日も、快晴だ。
どこかに出かけたくなる。
浩平は、昼ご飯はいらないと言って、出かけた。
カメラの入ったバッグを、肩から提げていた。
どこに、行くの?
なにを、撮るの?
聞けない、そんなこと。
昨日の朝から、浩平は麻耶を無視している。
大樹は、たまっている仕事を片付けなくちゃ、と書斎に入っていった。
日曜日の朝、
麻耶は、リビングに取り残された。

(5)

大樹は、パソコンを立ち上げた。
きのうの撮影会の写真を、パソコンにダウンロードする。
撮影会の写真といっても、大樹の作品ではない。
沢渡良太が撮影した写真だ。
大樹は、朱美と一緒に、被写体となっているのだ。
昨日の出来事を思い出しながら、ゆっくりと〈観賞〉するのだ。
麻耶が、ドアをノックする。
「大樹さん、お買い物に行っても、いい?」
「ああ、いいよ」
「お昼ご飯前には、帰ってきますから」
「麻耶、ゆっくりしてきて、いいよ」
麻耶が出かけて、大樹は、心おきなく、楽しめる。
携帯を取り上げて、朱美の番号を押す。
「もしもし」
「すみません、まだ、決められなくて。あとで、こちらからかけ直します」
「ダンナが、いるの?」
「はい、すみません」
まもなく朱美から電話。
「ごめんね、ダンナがそばにいたもんだから」
「いまは、いいのかい?」
「釣り竿の手入れ、してる」
「ん? サオの手入れ?」
「ウン・・・あはは、もぉ!」
「肉竿のお手入れ」
「釣り竿だよぉ」
「ふふ」
「なにしてるの?」
「きのうの写真」
「どぉ?」
「よく撮れてる、良ちゃん、腕、あげたから」
「見たいよ」
「したいよ」
「うふ、したいよ」
「思い出して、チンポが堅くなってる」
「もぉ・・・あたしも、ゆうべ、夜中に思い出して」
「おいおい」
「ムスメが、したいって」
「ムスメ? 朱美、女の子、いたか?」
「もぉ、ムスメ!」
「朱美の、スケベムスメのことか」
「なによぉ」
「で、ムスメが、したがって、ダンナにおねだりしたじゃないだろうね」
「へへ」
「おいおい、おねだりしたのかよぉ」
「だってぇ、大樹、いないんだもん」
「で?」
「そしたらさぁ、仕事で疲れてるから、勘弁してくれ、だって」
「あ、かわいそうだねぇ、朱美のムスメ」
「そうだよぉ、ずぅっと、ウツウツしてるんだよぉ」
「したくて、したくて、たまらないんだね」
「うん、したいよぉ」
「ああ、オレも、したい、朱美」
「ねぇ、これから、だめ?」

朱美は、大樹を知って、みだらさが花開いた。
女ざかりとは、よく言ったものだ。
女として、いちばん魅力のある時季、
それは、女として、さかりがついた時季なのだ。
欲情した女は、美しい。
ベッドで乱れる女は、美しい。

(6)

朱美は、平尾駅のそばで待っていた。
〈ココミル〉は、満室、近くの、〈ルナマックス〉に入った。
「普段は、おとなしい下着、つけてるんだね」
朱美は、ごくふつうの、白い下着を着けていた。
「ごめん、着替えられなかったんだもん」
「はは、いいよ」
「だって、ダンナ、エッチ系の下着、いやがるんだもん」
「へえ」
「一度、黒い下着着たら、娼婦みたいだって」
「娼婦か・・・面白いね」
「あたしには、着て欲しくないみたいなんだ」
「へえ」
「週刊誌のエッチな写真、見てるくせに」
「なるほどねえ」
「きまじめっていうか」
大樹とは、なんて、相性が、いいんだろう、と朱美は思う。
セックスの相性。
ダンナ、物足りない。
優しい人だし、家族のこと、よく考えてるし、
で、エッチ、おとなしい。
大樹とだったら、思いっきり、愛し合える。
恥ずかしい格好をさせられるのも、
恥ずかしいことを言わされるのも、
うれしい。
大樹となら、思いっきりからだを開き、
思いっきり声を出して、イケる。
「ダンナがね、おまえ、最近、テクあげたって」
「へえ」
「どこで、練習してるんだって、言うんだよ」
「おいおい、疑われてるのか?」
「ううん、大丈夫よ。ダンナ、あたし、信用してるモン」
「そうか、なら、いいけど。でも、用心しろよ」
「ウン、気をつける」
「きのうの写真、よく撮れてるんだよ」
「そうなんだ、でも、恥ずかしかった」
「朱美とオレが、思いっきり楽しんでる、ってかんじでさ」

「ねえ、いつか、きのうの写真、見せてよ」
「ああ」
大樹は、朱美のパソコンに写真を送るつもりは、全くない。
朱美のダンナに万一見られたら、マズイ。
肉遊びの記録を、朱美に残してやることもない。
「見られるのって、すごく、興奮したよ」
「そうか」
「恥ずかしいってキモチ、あるんだけど」
「ああ」
「それだけじゃないんだ」
「へえ」
「夢中になったよ」
「オレもだ」
「ウン、すごかったモン、大樹」
「朱美、たしかに、いつもより」
「うふ」
「よかったよ」
「あたしも」
「思いっきり、声出してたな」
「だって、出ちゃうんだもん」
「麻妃の声も、すごかった」
「ああああああっ、て」
朱美は、麻妃のヨガリ声をまねる。
「ははは、あれは、驚いたよ」
「麻妃、あんなに、イッたの、初めてだって」
「おい、おまえたち、もう・・・」
「うふふ・・・だって、麻妃に教えたかったんだもん、
 すごく感じたって、ものすごくいけたって」
「麻妃ちゃん、なんて?」
「あのとき、あたまンなか、真っ白になったんだって」
「潮、吹いたもんなあ」
「ウン、すごかったね」
「シーツ、おしっこしたみたいに、濡れてさ」
「びしょびしょ」
「ちゃんと写真に撮ってやったけど」
「潮、吹くところ?」
「ウン、ちょうど、足下にいたからね」
「どんなだったの?」
「ビュウッ、って吹き出してきてサ」
「へええ」
「チンポ、ハマってるだろ」
「うん」
「チンポとおめこのすきまから、ビュウッ、って、吹き出すのさ」
「見たかったな」
「そうか」
「写真、見せてって、頼んじゃおうかな」
「沢渡、ウン、て言うかな?」
「ふふ、頼んでみる・・・大樹、したくなったよ」
「ああ」
「おめこ、して」
進む

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