「真夜中の図書室」作品

レッスン  第2回

沼 隆

第3章

季節が変わろうとしている。
食材が、夏のものから秋のものへと代わっていく。
街も、秋の装いだ。
《彼》と別れて、ぽっかりあいた心の空洞を、まだ埋めきれないでいる。
オフの日がつらい。
ショーウィンドウの前に立って、ディスプレーをぼんやり眺める。
これ、似合うかなあ…
一瞬心に浮かんでも、浮き立つ気持ちにつながらず、すぐに冷めてしまう。
バッグが並んだ飾り付けを見ていると、後ろから声をかけられた。
鳥越妙子だった。
お茶をご馳走するわ、と誘われて、麗奈がついていくと、そこはあのカフェ『ドゥ・マゴ』だった。
麗奈は、いやな気持ちがした。入り口でちょっとためらう。
「ここ、あたしの店なの。さ、どうぞ、お入りになって」
あの時と同じ雰囲気だった。
一瞬めまいがした。
初めて《彼》とであった日のことが、麗奈をよぎる。
「ふふ、彼と、いらしたのね」
「え、ええ…」
「大丈夫、彼、来ないから」
「え?」
「お出入り禁止よ」
妙子はウェイトレスに、マラスキーノケーキを出すように指示した。
「お馬鹿な男…」

「ねえ、どうしたの?」
妙子は、男とベッドに中にいる。
遊び相手の女の子に去られて、あろうことか落ち込んでいるというので、様子を見にきたのだった。
まちで誘ったきれいな女の子を、カノジョとも恋人とも呼ばずに、《アマン》などと呼んで、いかがわしい遊
びを、続けてきたはずだった。
ミユキ、加奈、さやか… 妙子は、そんな《アマン》たちの名前を何人か知っている。
麗奈、この男から離れていった、はじめての女の子…
妙子のレシピに従って店の厨房で焼いたマラスキーノケーキ…それは、この男、越智翔の好物である。
ポットに入れた、エスプレッソも用意して来た。
楽しんだ後で、口移しで食べさせてあげる…
男は、マンションのドアを開け、たえこを迎え入れた。
少し酒の匂いがした。ひげも剃ってはいなかった。
(おやおや…)
男の唇がうなじを這う。妙子のもっとも敏感な場所…男は心得ている。
セックスパートナーとして、あとくされのない関係を続けてきた。
妙子の性感帯を、男は知悉している。
キスを求める妙子を抱きしめ、唇を吸い、服の上からボディラインをなぞった。
(ふふ…大丈夫じゃない…)
妙子は、パンツの上から男の性器を摩る。
だらりと垂れ下がっている。

男の指が、妙子のブラウスの背中のボタンを外していく。
妙子の指が、男のパンツのファスナーを引きおろす。
下着の中に指を差し入れて、じかに触れる。グニャリとしている。
(じきに、おおきくなる…)
男の指が、スカートのホックをはずし、ファスナーを引きおろす。
床にスカートが落ち、下着フェチの男が喜びそうな卑猥な下着姿があらわになる。
男の下着を引き下ろしてやり、シャツも脱がせると、妙子は男の乳首を吸った。
男のからだが、敏感に反応する。
うふ…
男の指がパンティを引き降ろし、尻の肉をじかにつかむ。
「気に入った…?らんフェチさん…」
妙子は、越智と二人きりのとき、からかい半分で、男をらんフェチ、と呼ぶ。
ランジェリーフェチシストを縮めたものだ。
「ああ…」
男は、妙子をベッドに横たえると、ブラジャーを剥ぎ取って、乳房に吸い付いた。
成熟した妙子のからだは男の舌と指を使った技に敏感に反応し、肉壷に淫水を溢れさせた。
「ね、入れて…」
「まだだ…」
「ううん…いじわるぅ…」
男は、妙子の股間に顔を埋め、赤く膨れ上がって先端を覗かせているクリトリスを舐め、軽く噛んだ。
「あぅ…いやぁ・…」
男は肉壷に溢れている淫水をジュルリと音をたててすする。
男は中指を淫水で湿らせると、アナルに差し込んだ。
「あううぅ…」
それから、人差し指を、肉の鞘に差し入れる。
2本の指が、薄い粘膜の壁越しに触れる。
爪はいうまでもなく、指の関節のしわまでもが感じ取れるほどの薄い粘膜を隔てて、2本の指を擦り合わせる。
妙子は、はぁ、はぁ、と荒い息をしている。腰を捩る。男の指が、妙子の肉の中でよじれ、妙子にいっそう快
感を与える。
「ああ…いやぁ…ねぇ…して…して…」
いつもなら、男の指が抜かれ、いきり立ったものが侵入して来るはずなのに…
妙子は、男の肉棒がだらりとしたままであることに気づく。
「ね、大きくしてあげる…」
男は指を妙子のからだに突き刺したまま、からだの向きを変えて、肉棒を妙子の口元に運ぶ。
ジュボッ…
待ちかねていたように妙子はそれを大きく開いた口に納める。
ジュルジュルと音をたててすわぶる。
唇と、舌と口蓋を駆使して…これだけで妙子の夫はイッてしまうことがある。
「ばかぁ…」
一向に硬さを増さない男の肉棒に、妙子はあきらめ、充たされぬ肉欲のやり場に苛立った。
男がティッシュで指の始末をするのを眺めながら、気が咎めたのか、ごめん…とつぶやく。
「あとで、もう一度やってみようよ…きっと、できるよ…」
「ああ…」

「どうしたんでしょうね…翔くん…」
そこは、妙子の努力も空しく、勃起しなかった。
指先でつまんだり、放したりして、もてあそんでいる妙子が言った。
「あの子に捨てられて、自尊心がずたずたってわけだ…」
「ふん…」
「わかったような口を利くんじゃない…そういいたいんでしょ」
「何でも、お見通し、ってわけだ」
「あんた、自分で思ってるより、ずっと単純なんだから…」
男の目が険しくなった。
「怒ったの…? 一度くらい本気で怒ってみたら・…? なんでも冷静な顔をして受け止めるけど、冷ややか
な目で周りの人間を見てるけど、賢こいふりをしたいだけなんだから…」
男は頬を紅潮させていた。
「あの子が、私たちと一緒に楽しめるっていったのに、あなた、それも失敗したのよ…会員失格ね…」
妙子はベッドから起き上がると衣服をつけた。
「帰るわ」

薫り高いエスプレッソを味わう。
この店、これから、時々来てもいいな…
「麗奈ちゃん、今度の日曜日、《カマルグ》で5周年記念のお祝いがあるの…うちの亭主、フランス料理、だ
めなのよ…あなた、ご一緒してくれない?」
「でも…」
「大丈夫、《彼》、来ないから…それに、いい男、紹介してあげるから…」
《彼》は学生を引率して、タイ南西部の農村調査に出かけているという。
「桂木シェフも、美由紀さんも、麗奈ちゃんにぜひきてもらいたいって…」

飛び切りのおしゃれをして、麗奈は《カマルグ》のお祝いの晩餐に加わった。
伊勢海老を使った自慢のブイヤベースをメインに、豪華なディナーが供された。
妙子は、小澤という男を麗奈に紹介した。
都心にオフィスを持ち、経営コンサルタント会社を経営するという34歳の小澤は、口元にかすかに笑みを浮
かべながら、自信たっぷりに仕事の話を聞かせてくれ、趣味の話をした。
34歳という若さで成功したビジネスマンの誇りを表情や語り口や物腰に溢れさせていた。
「麗奈さんは、私がお送りします」
「あ、おねがいね」

「ねえ、僕のオフィス、見ていきませんか」
落ち着いたジャズを聞きながら、麗奈は助手席ですっかりリラックスしていた。
心地よかった。
ビルの地下駐車場に車が滑り込む。
エレベーターでビルの上層階のオフィスに上がる。
日曜日の夜遅く、人気のないオフィス。
無機質な色合いの机が並び、電源を落とした無数のコンピュータが無愛想に静まり返っている。
案内された小澤の部屋は、広々とした空間を占めていて、それは、麗奈が暮らすワンルームマンションの10
倍は広そうだった。
豪華なデスクと椅子、それに応接セットがあった。
小澤はデスクの上のスイッチを操作して照明を落とす。
近寄らなければ、相手の表情が見えないくらいの薄明かり。
「こちらにおいで」
窓際にたつと、麗奈が暮らす都市の夜景が眼下に広がった。
日曜日の夜というのに、煌々と明かりをともしたオフィスがいくつもあった。
交通量がめっきり減ったオフィス街の道路を、ときおり車が高速で走りぬける。
厚い窓ガラスにさえぎられて外界の音はほとんど聞こえない。
「きれい…」
「きにいった?」
麗奈は、こくりと頷いた。
「いつでも、見においで」
「ありがとう」
窓ガラスに自分のシルエットが映っている。
背後に小澤が立った。
小澤の腕が麗奈のからだを包み、唇か首筋に寄せられる。
「んっ…」
唇が重なる。
侵入してくる小澤の舌に、麗奈は応える。
小澤の指が、濃いグリーンのミニのワンピースの裾をたくしあげる。
引き締まった麗奈の尻が緊張する。
麗奈のおなかに、小澤の高ぶりが触れる。

小澤は、麗奈の服をゆっくりと剥ぎ取った。
「恥ずかしい…」
麗奈の視線が窓の外を見る。
「大丈夫だよ…この部屋を覗けるやつなんていないんだから…」
性器を隠していた最後の下着も脱がされる。
「外を向いて…」
小澤は、麗奈を窓際に立たせる。
「いやあ…」
「向こうからこちらは見えないよ…暗くしてあるから、だいじょうぶ…」
麗奈は、両手を窓ガラスに押し当てる。
小澤は、麗奈の片足を抱えあげるようにして淫裂を開かせると、立ったままの麗奈に背後から挿入した。
「美しい景色をたっぷり眺めながら、イクといい」
「あはぁ…ああ…ああ…ああっ…」
背後から子宮を突き上げられ、からだ全体をかき回される。
乳房が窓ガラスに押し付けられてゆがむ。
まるで、目の前に広がるまちの夜景に包まれて夜空に駆け上る錯覚にとらわれる。
「ああ…いい…いいっ!」
小澤の腕が、麗奈の上体をがっちりと支えていた。
麗奈は、その腕に身を任せて、悶え、あえぎ、そして、達した。
小澤の精液が、びくびくと息づく陰茎の中を激しく噴きあがるのを、麗奈は感じた。

「服も、下着も汚してしまったね」
「…いいの」
「よくないさ…あした、新しいのを届けるから」
「えっ?」
「そうだ、一緒に、買いに行こう」
麗奈をマンションに送り届けた小澤はオフィスにもどると、妙子にメールを送った。

 妙子さん
 素敵な子を、ありがとう
 セックスの相性もぴったりだ
 このお礼は、いずれ

翔くん、愛してるなら、取り返すのね…
ディスプレーに映った冷ややかな自分の顔を、妙子は美しいと思った。


第4章

「あっ…いやぁ…」
上座に座った老人の膝に、髪を結い、あでやかな着物を着た若い娘が横たわっている。
老人の右手が、着物の裾を割って両足のあいだに入り込み、ももの内側を付け根に向かって這い上がるところ
である。
すべすべとして柔らかい肌を摩る指が娘のもっとも敏感な部分に触れる。
「んっ…」
としは、23、4。雪乃と言い、可憐さで人気のある芸妓である。
老人は、この孫娘のような雪乃を贔屓にし、可愛がってきた。
月に一度女と交われば十分という年齢に達しているのだが、雪乃は、その月に一度の逢瀬をこの上なく楽しい
ものにしてくれた。
雪乃は床上手であった。
布団の上で示す雪乃の痴態は、老人の趣味にぴったりとあっており、まるで自分を喜ばせるために生まれてき
た女のように思えた。
二人きりの席でうんと甘えるつもりで来た雪乃は、小澤が同席していることに落胆した。
雪乃は小澤を嫌っていた。
10歳ほど年上のこの男が、無表情に自分を見ている視線に、雪乃はいやな感じを抱いた。
小澤の表情から、何も読み取れなかった。
冷徹な、敏腕のビジネスマン…
手勺で酒を飲む小澤の目の前で、雪乃は老人に抱き寄せられていた。
「いやあん…だめぇ…」
甘えたそぶりで抵抗して見せたが、老人はグイと雪乃を引き寄せていた。
「いやっ…やめてぇ…」
着物の裾を割って挿し込まれた老人の右の指先が情け容赦もなく秘所をまさぐる。
同席している小澤をはばかって、身を捩って逃れようとする。
老人の指は雪乃の急所を外さなかった。
雪乃の唇から、なまめかしいあえぎ声が漏れる。
白い足袋をはいた指先がきゅっと反り返り、かすかに上体をのけぞらせる。
「ふふ…ここが、いいんだね…」
「ああん…んっ…」
雪乃の頬の桜色がいっそうあでやかになる。
ふすま一つ隔てた隣りの部屋には、宴席の後、老人と娘が睦み会う寝床がしつらえてある。
鮮やかな緋色の寝具は、老人の嗜好に合わせてこの料亭の女将が調えたものである。
以前なら、小澤が座敷を退いた後、性の営みが始まったものであるが、今宵は、小澤の前で痴態を見せようとし
ていた。
羞恥に雪乃がもがくほど、老人はそれを楽しんでいる様子である。
老人は、小澤に見せ付けるように雪乃の陰部をいじり、よがらせた。
老人は、雪乃の秘所から抜いた指に猪口を持ち、小澤が勺をした酒を口に運んだ。
指先が、淫水で濡れている。
小澤にもう一度勺をさせると、老人は、口に含んだ酒を、口移しで雪乃に飲ませる。
「うまいか…ふふ…いい、酒だ…」
酔いは勃起の助けになるようほどほどにする自制心を老人は心得ていた。
飲みすぎては睡魔に負ける。
齢70を超えているのだ。
いっぽうで、雪乃には、羞恥心を忘れさせるほど飲ませるのだった。
時間をかけて、掌中の小動物をいたぶる快楽に浸りながら、愛らしい唇に酒を注いでやった。
小澤は、老人の向かいに座ってその痴態を眺めながら、酒を味わっている。
板長が老人のために技量を注いだ繊細な料理は、しかし、この宴の彩りに過ぎない。
老人にしてみれば、この贅沢な料理は、飽きるほど慣れ親しんだものである。
ほとんど箸をつけないまま、雪乃との遊びに興じている。
「ああ…いやあっ…」
老人は、雪乃の帯を解いた。
「いやぁ、かんにん…」
押しとどめようとする細く愛らしい手を、しなやかに、力強く跳ね除ける。
「小澤さん、いやはるのに…」
「はずかしいか?」
「はい…」
「そうか…恥ずかしいか…うふふ」
手馴れた様子で紐を解き、長襦袢をはだける。
草叢があらわになる。
「あ、いやぁ…」
「ここは、恥ずかしゅうて、見せられん、いうんか…」
「うち、恥ずかしぃ…」
老人は含み笑いをしながら雪乃の着物を脱がせていった。
「この男は、気にせんでいい…置物とでも思っていなさい…」
「そんな、ひどいこと…」
全裸の娘は、顔を赤らめながら、小澤を一瞥する。
何一つ感情を示さない目があった。
すぐに視線をそらせた。
老人は、娘を抱きかかえると、小ぶりの乳房を音を立てて吸った。
指は、再び濡れそぼつ襞のあいだに侵入している。
乳首が、固く膨れ上がる。
白い肌が桜色に染まり、老人の指の動きに応えるように、悶えている。

「小澤君、そろそろ、面白い集まりを開いてくれてもいいんじゃないかな」
老人は、四方浩三といい、火災保険会社の会長職にある。
中央官庁からの天下りで10年余り社長を勤めたあと、会長に退いている。
といっても、官庁の後輩のためにポストを空けてやっただけで、院政を敷き、経営の実権はしっかりと握ったま
まである。
小澤はいろいろと世話になってきた。
経営コンサルタントとして財界のメンバーに紹介してもらっていた。
アメリカ東海岸にあるビジネススクールに学び、さらに経営の実務を修業してきた小澤の実力は高く買われた
のだった。
34歳の若さでここまでやってこられたのは、実力と、そして四方の後押しによるものだった。
四方からは、遊びも教わった。
それだけではない。
保険会社の首脳部の執務室が並ぶフロアーに、後期印象派を代表する画家の明るい太陽に似た大輪の黄色い花
を描いた作品が飾ってあるのだが、十数億という絵画の購入にあたって仲介の業務を任され、口銭を稼がせて
もらった恩義もあった。
マスコミで報道されたのはだれもが知るこの絵画だけであったが、その金額に世間が目を奪われている背後で
1点が億を越す絵画が十数点購入されていた。
小澤は大きな利益を得ていた。
会社から受け取った口銭の何割かをこの男に渡さなければならなかったのだが。
「このあいだ、デパートで見かけたよ」
「は…?」
「若くい女性を連れて、買い物をしておっただろ…婦人服売り場で、結構値の張るものを買ってやってたじゃ
ないか…」
麗奈にブランド物の衣類を買ってやるところを、目撃されたようだ。
「水商売の女性ではなさそうだな…」
「はい」
「きれいな子だ…ふふ」
「はい」
「いい趣味だ…うちの会社の受付に欲しいくらいだ…秘書室のほうがいいかな…ふふ」
「会長…」
「あの子なら、私も、いくら出しても惜しくない…ふふ…」
「…」
「きれいな服を着せて、宝石を身に着けさせて…じいさんどもの集まりに連れて行ったら、みんなうらやまし
がるぞ…ふふ」
四方の指は、全裸の雪乃の肉の内部を掻きまわしつづけている。
「小澤君、きみが選んだ娘だ、きっと、セックスのほうも、いいんだろうねえ…ふふ」
「いえ」
「おいおい、うそをついてはいけない…あの子がきみに寄り添っているところは…ふふ…まるでセックスをし
ているように見えたよ…ふふ」
快感の壺を突かれたのか、雪乃は腰をひくつかせる。
「おうおう、よしよし、もうすぐ入れてあげるからね…」
娘の股間から溢れ出した淫水が滴り落ちて、畳に染みを作っている。
「ほうほう、そんなに、いいのかい? 雪乃は、敏感な子だね…ふふ」
四方は、雪乃を抱きおこした。
それから、恥ずかしがる雪乃を膝に乗せ、からだの正面を小澤に見えるようにして、背後から抱きかかえた。
「あ、いや、いや、いやぁ…」
雪乃は、小澤の視線から隠そうと乳房を両手でおおう。
「小澤君に、見せてあげるんだ…そうそう…見てもらいなさい…おまえがイクところを」
「ああ…イやぁ…いやぁ…」
それから、老人は、口をきかずに娘の乳房を愛撫し続け、肉の奥に指を出し入れした。
小澤の目には、雪乃の膨れ上がったクリトリスが、肉の裂け目の上端部にはっきりと見えた。
「ああん…いいっ…いいっ…いくぅ…」
雪乃は腰をわなわなとひくつかせながら、四方の膝の上で達し、淫水を溢れさせた。
抱きかかえる四方の腕に支えられて、上体をがっくりと前のめりにさせる。
「うふ…いい子だ…いい子だ…」
四方の顔には笑みが浮かんでいる。
しかしその眼光は、厳しい。
穏やかな口調で、しかしはっきりと小澤に命じるのだった。
「あの子を交えて、一度四人で遊びたいねえ」
小澤の目をしっかり見据えたまま、四方は雪乃の唇を吸った。

麗奈は、グレーのキャミソールとパンティ姿でベッドに横たわっている。
ぱらぱらと雑誌をめくりながら、フランスの女性歌手が歌うボサノバの新譜に耳をかたむけていた。
約束の時間に合わせてシャワーを浴び、化粧を済ませて着替えようとしたとき、電話が鳴った。
「四方というひとに呼ばれて行かなくてはならない、日ごろ世話になっているひとで、断れない…遅くなるけ
ど、夕食は一緒にするから、待っていてくれ…」
それは、セックスの約束でもあった。
グレーの下着を選んだのは、それが一番のお気に入りだったからだ。
越智翔が贈ったシルクの下着は、シンプルで飾り気がないものであったが、肌触りが滑らかで、光沢が美しく、
麗奈に似合っていた。
身に着けるとき、これを着て《彼》と過ごした一夜が思い出された。
麗奈の誕生日だった。
《カマルグ》で食事をした後、シティホテルのスイートに一泊して、明け方まで何度も交わった。
あの、《プエルトアスール》のパーティ…
乱交パーティだなんて、思っても見なかった…
ひどい男…
《彼》は、謝罪の電話をかけてこようともしなかった。
待っていたのに…
プライドばかりが高くて…
いじっぱり…
ばかよ…
ブラジャーをはずした。
右の乳房に、大きなあざができている。
おととい、車の中でセックスをしたときに、小澤が激しく噛んだ痕跡であった。
クリトリスをかきむしられながら、愉悦のあえぎ声を上げている最中に、剥き出しになった乳房を小澤が激し
く噛んだのである。
ああっ…
激痛に悲鳴をあげ、上体をのけぞりながら小澤の頭を押しのけようとして、麗奈は苦痛の中に悦びがあること
に気がついた。
「麗奈…おまえを食べてしまいたい…」
小澤が耳元でささやく。
麗奈は悦びにすすり泣いた。
それから、小澤の陰茎をすわぶり、どくどくと噴出してくる精液を飲みほした。
キャミソール越しに乳房に触れる。
まだ痛む。
あの時、狭い車の中で、小澤はもう1箇所、麗奈の太ももの一番柔らかい場所、性器にもっとも近い場所にも、あ
ざをつけたのだった。
激しい愛撫だった。
痛みを伴った。
以前の麗奈なら怒り出し、小澤に平手打ちをくわえていたことだろう。
麗奈は小澤に魅せられていた。
自信に溢れ、仕事をこなしている男らしい小澤に、心を奪われてしまっていた。
セックスにも…
小澤が示す愛の形を、麗奈は受け入れた。


第5章

おとといは季節外れの蒸し暑い一日だった。
祭日で、客が立て込み、次々にやってくる客をテーブルに案内し、注文を受け、料理を運ぶ。
自分よりも年下のウェイターやウェイトレスの仕事振りにも気を使わなくてはならない。
麗奈は市内を見下ろす高台にあるイタリアンレストラン『ジャンノッティ』の主任ウェイトレスなので
ある。
ときおり上司から叱責を受ける。
年下の従業員の不手際を叱られるのは麗奈である。
くたくたになって部屋に帰り着いたとき、時計は11時を回っていた。
夕食の支度をするのが面倒で、コンビニで弁当を買ってきた。
テレビをつける。
昼間の蒸し暑さが続いている。
台風の接近で暖かい湿った空気が南から吹き込んできているせいだと天気予報が伝えている。
ブラジャーをはずしてルームウェアに着替える。
ベランダのガラス戸を開ける。
街の音が飛び込んでくるが、空気が入れ替わってほっとする。
テレビを消してCDをスタートさせる。
気だるいボサノバ…
女性歌手がサントロペの海岸へ誘う。
♪ 太陽が光り輝くサントロペの浜辺に、女の子たち、いらっしゃい…
♪ 日に焼けた肌は、生きる歓び…
♪ 星空の下、ヨットの上で、愛の交歓…
サントロペ…そこがどんな場所なのか、麗奈は知らない。
電話のベルが鳴る。
「麗奈? いまからそっちに行っていいかい?」
小澤の声に、からだにたまっていた疲れが消し飛ぶ。
「今、仕事、終わった。会いたいよ…いいだろ?」
あたしの部屋で…?
初めてのことだ。この部屋に来たがるなんて…
小澤が麗奈の部屋に来たことは一度もない。
麗奈が小澤の住居を訪ねたこともない。
あの初めての夜以来、もう何度も寝ているが、シティホテルを使うことが多かった。
それと、車の中…
…忙しくて、おれのマンションに帰る暇はないんだ
…着るものは、社長室のクロゼットにしまってある
…掃除などしていないから、麗奈に見せたくないよ
自宅でくつろぐ時間をもてないほど仕事に夢中になっている小澤が、麗奈はまぶしい。
でも、このごろは、ちょっと不満に思い始めている。
もう少し、かまってほしい…
もっと、愛してほしい…
愛撫がおざなりに思えることも何度かあった。
唇を重ね、乳房を愛撫し、肉の裂け目をひとしきりもてあそんだあと挿入し、果てると、眠り込んで
しまう。
疲れてるんだろうけど…寂しいよぉ…
寝息を立てている小澤を眺めながら、まだからだの芯でくすぶり続ける肉の疼きを麗奈は持て余
している。
シティホテルで一晩過ごした明け方、麗奈が小澤の固くなったペニスに唇をつけると、まるで時間
に追われてでもいるかのようにあわただしく交接し、ルームサービスの朝食のコーヒーをすすった
だけで、下着姿の麗奈を残して出社していくこともあった。
ひどいよぉ…
仕事に間に合うように着替えを済ませてひとりホテルの部屋を出る。
ちょっぴり哀しい…
その小澤が、麗奈の部屋に泊まりに来るという。
今夜は、思いっきり…
嬉しくなり、大急ぎで部屋を片付ける。
浮き立つ自分がおかしく、かわいらしく、切なくもあった。

小澤がやってきたのは、さらに2時間後であった。
時計は2時になろうとしていた。
麗奈は、それでも嬉しかった。
小澤を待ち焦がれていたから。
10日ぶりだ。
小澤がボストン近郊にある母校のセミナーに出かけているあいだ、ずっと会えなかったから。
子犬が飼い主にじゃれつくように小澤に抱きつき、唇を吸い、からだを擦りつけた。

「麗奈に会って、疲れが吹き飛んだよ」
「ほんと?」
「今夜は、寝かさないよ」
「あは」
麗奈は裸体を小澤に摺り寄せる。
乳房が小澤の胸板に触れる。
先ほど小澤が放ったものが股間から流れ出し、足を伝ってシーツに滴る。
始末をしにトイレにたち、戻ってくると小澤がバッグの中から何か取り出してベッドの上に並べてい
た。
それが何をする道具か、麗奈は一目でわかった。
黒い皮製の拘束具だった。
不気味な光沢で、妖しく光っている。
ベッドに腰を下ろす。
「いいだろ?」
「……怖いよぉ」
「遊びだよ…SMプレイ…」
「…う…うん…じゃあ、痛くしないでね」
「もちろんだよ…麗奈が怖がることはしないからね」
あなたが喜ぶなら…
縛られてみたい…
小澤が背後に回って最初に麗奈につけさせたのは、不思議な形状のブラジャーだった。
胸につけるから、まあ、ブラジャーなのだろうが、乳房をささえる役目など果たしそうにない。
乳房をおおう部分がぽっかり開いていて、ひも状の縁取りだけでできていた。
プレイ用の下着というか、コスチュームだった。
輪っかの中に乳房を入れる。
ただ、背中でフックがかけられると、胸がきゅっと締め付けられた。
皮の匂いがする。
エッチなにおい…
小澤が、飛び出した乳房をつまむ。
「ああんっ」
麗奈はあえぐ。
乳首から子宮に快感が走ったのだ。
皮製のTバックをはかされた。
「似合ってるよ」
「いやん…」
「あとで、鏡に映してみたらいい」
「なんだか、エッチすぎて、恥ずかしいよ」
「はは」
小澤は、麗奈に首輪をつけた。
首のうしろで止め具がかけられたとき、麗奈の性器がきゅんと締まる。
「苦しくない?」
「う…うん」
首輪から伸びた皮ひもを小澤は、軽くひいた。
「んぐっ…」
喉に軽く力が加わって、ちょっと息が詰まる。
麗奈の両腕が後ろに回され、縛られる。
両腕を締め付ける二つの皮ベルトは、鎖でゆるくつながれていて、背中に回した腕が痛むことは
なかった。
ちょっと窮屈なだけ…
小澤は、麗奈の足もとに屈み、最後の道具を足首に取り付ける。
腕に取り付けたものと同じ仕組みで、両方の足首で固定され、鎖がつないでいた。
麗奈は、足首に取り付けられた禍々しい拘束具を目にして、胸がきゅんと鳴るのを感じていた。
なに…?
変な気持ち…
こんな恥ずかしい格好させられてるのに…
とっても恥ずかしいのに…
でも…
「立って」
鎖が音を立てる。
「痛い?」
「ううん…」
「そう…歩いて」
足かせをつなぐ鎖は、ほどほどの長さがあって、麗奈の歩行の妨げにはならなかった。
大きく足を開くことはできないだろうが。
「麗奈、今夜は、私の奴隷だよ…いいね」
「……」
「奴隷は、ご主人様の言うことを何でもきくんだよ」
「…ああ…怖いよ…」
「心配しなくていい…麗奈…私は、優しいご主人様だから」
「怖いこと、しないで…ね…?」
「ああ」
小澤は、麗奈を優しく抱き寄せると、唇を吸った。
「おいで」
「あ、いやぁ」
小澤が鏡の前に導こうとしたのに気がついて、麗奈は抵抗した。
「おいで」
「恥ずかしいよぉ」
「いいから、おいで…おまえのいやらしいすがたを自分の目で確かめるんだ」
「……」
「ほら、麗奈のエッチ好きのからだが…。似合ってるね…きれいだよ」
「いやぁ…」
「ほんとにエッチだ」
麗奈は目をそらせた。
乳房が、妖しい皮ひもに縁取られて、突き出している。
下腹部には黒い小さな皮革が張り付いているだけだ。
卑猥な格好だった。
全裸でいるよりも恥ずかしくなる姿だった。
見ていられなかった。
小澤は、視線をそらせている麗奈のあごを捉えると、グイと鏡に向けた。
「見るんだ」
小澤の指先に力がこもり、麗奈はあごに痛みを覚えた。
「いやらしいね」
「……」
「後姿も、とってもいやらしいよ……お尻は剥き出しになってるし……」
「……」
「おまえのからだが、こんなにいやらしいなんて、思ってもみなかった……」
屈辱感にさいなまれ、涙が滲む。
「よく見ろっ!」
「いやぁ…」
「おまえ、おっぱいの形、気に入ってるんだろ?」
「いやっ!…うううっ!」
小澤の指が乳房をぎゅっとつまむ。
「ほら…むちむちして、おれの指をはじき返す…いいおっぱいだ」
「こんなかっこう、はずかしいよ」
「そうか…?」
鏡の中に、麗奈の背後に立つ小澤の冷酷な視線が目に入る。
目をそむける。
「ほら…おまえのからだが、エッチしてくれって…正直だね」
小澤は、乳首をつまんだ。
「こんなに大きくなって…」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「気持ち、いいんだね…ほんとだ、ここ、ぐしょ濡れだ」
「いやっ…やめてぇ…」
「おれのからだも、正直だ、麗奈…ほら」
鏡の中の小澤が、麗奈の背後に隠れていた下半身を見せる。
ペニスが怒張している。
「フェラ、してくれ」
小澤に肩を押し付けられるようにして膝まづく。
両腕が後ろ手に固定されていてつかえない。
小澤が猛々しい節くれだった肉棒を麗奈の口元に持っていく。
後頭部をつかんだ小澤の手が、麗奈の頭をグイと引き寄せ、喉の奥にペニスが突き入れられる。
ぐえっ…
ペニスを吐き出してむせ返る麗奈を、小澤はニヤニヤしながら見下ろしていた。
「苦しかったか? おれも、痛かったよ…おまえの歯があたったからね」
「ご、ごめんなさい…」
苦しさのあまり、麗奈の目に涙が滲んでいる。
「いいよ…」

後頭部を小澤の手に支えられ、ひざまずいたまま舌と唇で小澤をいかせた。
噴出してくる樹液をごくごくと飲み込む。
小澤が満足そうに見下ろしている。
「いい子だ…」
小澤は、見上げる麗奈の髪を優しくなでながら、足の先で麗奈の淫裂に触れた。
指が、濡れる。
「ふふ…すけべな女だ…」
「あっ!」
小澤は、麗奈を床に転がす。
屈辱的な姿で床に転がっている麗奈を見下ろしたまま、小澤は衣服をつけ始める。
「帰るの?」
「…ああ…帰るよ」
「いやぁ…」
「もう、たっぷり遊んだからね」
「わかったよ…」
「ふふ」
「これ、はずしてね」
「はは…心配するな…そんな格好で、あした仕事に行くわけにいかないだろ?」
「うん」
「ばかだな」
「うふっ」
小澤は服を着てしまう。鏡に映して身なりを整える。
「さ、でかけようか」
「え…?」
「散歩に出かけるんだ」
「……」
「立つんだ」
「…あ…いやぁ…いやよっ!」
「立てと言ってるんだっ!」
「いやだ…そんなこと、できないよっ…!」
「無理やりにでも、連れて行く…痛い目にあわせてでも」
小澤の目が、ぎらりと光った。
「ひどいよ…なんで、なんで、こんなひどいことするの?」
「おいおい、いっただろ? 今夜は、おまえは奴隷だ」
「でも…でも…」
「ご主人様の言うことをきくんだろ?」
「いやぁ…いやだよ…」
「遊びだって…おまえを怖がらせたり、痛めつけるつもりはないんだから」
「でも、こんな格好で、外になんかいけないよ」
「麗奈、今、午前3時だ、この時間にうろうろしてるやつなんかいないよ」
「……」
「おまえの、いやらしい姿を人に見られる心配はないよ」
「……」
「それに、人気のないところを散歩するだけなんだから」
「…でも…でも」
「誰か近づいてきたら、何か着せてやるよ」
「…うう…うう…ううっ」
「ちょっとエッチなお遊びをするだけさ…さ、立って……立つんだっ!」
麗奈は、のろのろと立ち上がった。
鏡に惨めな姿が映っている。
「胸、隠して…お願い…お願い」
「剥き出しだと、恥ずかしいか…? そうか…じゃあ、ちょっと痛いかもしれないけど…」
「いやぁ…なに、するの…?」
小澤は、バッグから取り出した小さな器具を手に、麗奈に近づいた。
金色のチェーンの両端に、きらきら光る花飾りがついたそれを、小澤は麗奈の乳首に取り付けた。
「あっ…!」
クリップ状のそれが乳首を噛み、両の乳首のあいだに金色のチェーンが渡される。
「ほほう、なかなかきれいだ…」
「…うう…ううう…」
「これで、乳首は隠せたし、おっぱい、ますますきれいになったよ」
乳首の先端に取り付けられたきらきら光る花模様が、麗奈の姿を一段と猥褻なものにする。
「寒いといけないからね」
麗奈は、皮ジャンパーを着せられる。
丈が短いので尻は剥き出しになっており、後ろ手に縛られているので、前はすっかり開いている。
「さあ、でかけよう…おいで」
「ねえ、いやだ、行きたくないよ」
「いつまでごねてるんだ…! ぐずぐずしてると、夜が明けてしまうぞ…大勢の人に見られてもいい
のか!」
「……」
「なんと言おうと、おまえを散歩に連れて行くんだからね」
「……」
「楽しいお散歩、しようよ」
動こうとしない麗奈を、背中から押し出すようにして玄関先に連れて行く。
素足にかかとの高い靴を履くように命じられる。
小澤も靴を履き、ドアノブに手をかける。
「さあ、いこうか」
「お願い、どんなことでもするから、これだけは許して」
「だめだ」
ドアがあけられる。
背後から押し出されて通路に出る。
深夜で、照明が落とされていてほの暗い通路に、人影はない。
同じ階の顔だけは知っている住人たちも、寝静まっている様子だ。
「こっちにおいで」
麗奈の首輪から伸びた皮ひもの端を小澤がクイとひいた。
小澤はエレベーターホールに向かって歩き出す。
背後で、かちゃりとドアのロックがはずされて扉が開く。
航空会社の営業所に勤めるという同年代の女が顔を出す。
Tバックで尻が剥き出しという恥ずかしい姿を目撃される…
そんな幻影に襲われて、身震いし、立ち止まる。
「どうしたんだ?」
振り向いた小澤が尋ねる。
「ね、いやだよ…やめようよ」
小澤の顔に怒りが広がる。
「ぶちのめされたいのかっ!」
「大声、出さないで」
小澤の指先に力が入り、皮ひもをグイと引き寄せた。
麗奈は、前のめりになりながら小澤に従った。
くだりのエレベーターを呼ぶボタンを押す。
「誰か、知ってる人にみられるよ」
「ふふ…そうだね…顔を見られたくないな…」
小澤はスーツのうちポケットから何か黒いものを取り出して、それをかぶった。
頭と顔をすっぽりと覆い隠すマスクだった。
目と、鼻と、口だけがのぞく、不気味なマスク。
驚いて目を見張る麗奈に、小澤がほくそえむ。
「ふふ…心配するな…おまえの分も用意してある」
小澤が取り出したのは、目の周りを隠す蝶の形をしたマスクだった。
「ほら、これで、おまえだってこと、わからなくなったよ」
エレベーターが1階につく。ドアが開く。
「車、いつもの有料にとめてある」
「えっ…」
50メートルは離れた場所にある、ビルの地下駐車場だ。
「ここで、待ってるから」
「ばか言うな。一緒に行くんだ。散歩だよ」
「だって…」
大通りではないにしても、深夜でも車は通る。
「来るんだ」
歩道を駐車場に向かって歩き出す。
からだが震える。
寒さからではない。
他人に見られることの恥ずかしさ、いや、恐怖。
わずか50メートルの距離が、とてつもなく遠い道のりに思える。
両足を繋ぐ鎖が、歩幅を狭めていたし、小澤がことさらゆっくり歩いているように思えた。
向こうから車が近づいてくる。
「あっ、いやっ!」
「ふふ」
ヘッドライトの明かりがぐんぐん近づいてくる。
麗奈は、足がすくんで立ち止まる。
小澤の指先が剥き出しの尻を撫でる。
「見せてやろうよ、麗奈の、きれいなからだを」
「だめ…」
「ほかのやつらに見せてやりたいよ」
「いやだよ…もどりたいよ…部屋に…」
「聞き分けのない子だ」
小澤は、つ、と麗奈から離れると、先に立って歩き始めた。
麗奈は、慌てて小澤を追う。
小澤は急ぎ足になる。
麗奈は、必死で後を追おうとするが、足首を繋ぐ鎖が邪魔をする。
「まって…わかった…言うとおりにするから」
「そう、はじめっから、素直にすればいいんだ」
近づいてきた車がスピードを落とす。
ドライバーの若い男は、不気味なマスクをかぶった小澤の鋭い視線を見ると、卑猥な言葉を吐い
て、走り去った。

車は麗奈が勤めるレストラン《ジャンノッティ》の前を通り過ぎ、湾を見下ろす展望台の駐車場に止
まる。
「降りるんだ」
後ろ手に手首を縛られた麗奈は、抱きかかえられるようにして車を降りた。
マスクは車に乗ったときにはずしてある。
「まだ、暗いな」
午前4時とあっては、さすがに街の明かりもポツリポツリと灯っているくらいである。
「ここからの眺めが好きだ」
夜の薄明かりの中に都市の全景が広がっている。
「時々、ここに来るんだ。そして、おれは、この都市を支配するぞって思うんだ」
「……」
「はったりじゃない。おれのおかげで息を吹き返した会社もあるし、経営権を握った会社も少しずつ
増えてる」
「すごいんだね」
「ああ、そうだ…麗奈、おまえのおかげだよ」
「えっ? まだ知り合って、間がないのに…」
「おまえは、おれを慰めてくれる…」
「だって…」
「おまえといると、力が湧いてくる」
「ほんと?」
「ああ、ほんとさ」
「嬉しい…」
夜明け前、気温が下がってきた。
「寒いよ」
「車に戻るか」
「うん、そうしたい」

小澤はエアコンをつける。やがて車内が暖かくなった。
「麗奈、おまえは、おれのもんだ」
小澤は麗奈を抱きしめる。
「ね、手が、痛いよ」
「ああ、はずしてやるよ」
両手首を繋いでいた鎖が解かれる。
麗奈は、自由になった腕を小澤の首に回した。
「好き…」
「ふふ」
小澤は、麗奈のうなじに唇を這わせる。
耳たぶを軽く噛み、そして、唇と舌で舐める。
ふっ、と息を吹き込む。
麗奈のからだが、ピクリと反応する。
小澤の唇がゆっくりと首筋を下がっていき、胸元に達する。
乳首を噛んでいた器具がはずされる。
ずっと刺激を受けつづけていたからか、それは膨らんでいた。
指先で右の乳房を揉みながら、左の乳房を吸った。
小澤の指先が胸から腹、そして下腹へと下っていく。
臍とパンティの間の部分を、まるでじらすようにさする。
乳房を吸いつづける小澤の頭を麗奈は抱きかかえている。
整髪料のにおい…
小澤の指は太ももにおりてゆき、内側の柔らかい場所をそっと撫でさする。
麗奈の膝頭がひくりとする。
小澤の指が、足の付け根と膝のあいだをゆっくりと往復する。
麗奈の太もものすべすべした感触を楽しむように。
それは麗奈のからだの奥底から快感を溢れさせる。
乳房を吸われながら愛撫を受けることで、肉の悦びが全身に広がる。
「ああ…いい…いい…」
小澤の愛撫に応えるように、麗奈の口から小さくあえぎ声が上がる。
(もっと…もっとして…)
小澤の指が太ももの後ろから這い上がり、尻をつかむ。
その弾力を味わうように何度か指先に力を加えた。
Tバックの紐の下に滑り込む。
からだにぴったり張り付いていた細い皮ひもの部分が引っ張られて、淫裂にぐっと食い込む。
秘肉が擦られる。
Tバックは割れ目に食い込んで、あふれ出る淫水にぐしょ濡れになっている。
食い込んでいるひも状の部分を指先でずらすと、小澤は指を挿し込んだ。
ぬちゅ…
それから乳首を噛む。
小澤の指が、きゅっと締め付けられる。
麗奈の淫水で濡らした2本の指で、小澤は充血して赤く染まった秘肉を愛撫しつづける。
指先が、淫裂が始まる部分にある肉のつぼみに這い登る。
そこは包皮がめくれてぷっくりと膨れ上がり、小澤の愛撫を待ち受けていた。
擦りあげるたびに麗奈は腰をひくつかせた。
「ああ…ああん…ああ…」
体温で指先が乾いてくると、小澤は指先を肉の壺に沈めて湿らせ、再びつぼみを擦りあげるのだ
った。
乳房と、クリトリスと、2箇所を同時に攻められて、麗奈は達しようとしていた。
からだの芯から何かが噴出してくるような気持ちがして、頭の中が真っ白になり、それから
「ああ…ああ…いい…いいっ…いいっ…!!」
と叫ぶと、腰をひくつかせ、おうおう、とすすり泣きながら、淫水を小澤の手に溢れさせた。
小澤はぐしょ濡れになった人差し指と中指をそろえると、麗奈の肉壷の奥深くに挿し込んだ。
その指を、麗奈の秘肉はギュウッ、ギュウッ、と締め付ける。
小澤が、麗奈の乳房を激しく噛んだのはそのときであった。
「あああああああっ!!!」
激痛が走る。
小澤の指が激しく締め付けられる。
「あはぁ、あはぁ、あはぁ…」
麗奈は、泣き声ともよがり声ともとれる大きな声をあげた。
乳首が、はちきれんばかりに膨れ上がっている。
麗奈のからだを、痛みを超えた激しい快感が走り抜けていた。

麗奈の淫裂から小澤が出した白濁液が流れ出す。
小澤がハンカチで拭うのを感じながら、麗奈はすすり泣いていた。
抱き寄せようとする小澤に自分からしがみついた。
「とてもよかった…麗奈、とてもよかったよ…」
「あたしも…」
麗奈は涙に潤んだ目で答えた。
「おまえは、おれのものだ」
「うん・…」
夜が明けるには、まだ時間があった。
「眠いか?」
「…うん」
「送るよ」
二人を乗せた車は、まもなく目を覚ます都会へ下っていった。
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