プロローグ「マジシャン再び」


 ビルの谷間を冷たい風が通り抜けていきます。季節は本格的な寒さが迫って来ようかという 頃。乾いた街を吹く風は、まるで今の世の中を象徴しているかのようです。賑やかなはずの繁 華街でさえ、なぜか寂しく見えてしまいます。何かに導かれるようにその片隅に足を運ぶと、 小さな劇場の前に立てられた一つの看板が目に入りました。そこには見慣れた言葉が書いてあ ります。「真夜中のマジックショー」と。あの、一年前のショーを再び見られるというのでし ょうか? 再びあの男に会えるというのでしょうか?  さて、どうしましょう? 行くか、それともやめるか。どうやら、悩む必要はないみたいで すね。もう一度、あの夢の舞台を覗いてみましょう。  中に入ると、大きなロビーがあります。外観とは裏腹に、なかなかしっかりとした劇場のよ うです。その片隅に一枚のポスターが貼ってありますね。大事そうにガラスケースに囲まれた それは、なんと女性の等身大ヌードポスターです。モデルは20歳前後くらいでしょうか。後 手を突き脚を開いて秘部を突き出したポーズの物をとっています。しかも、胸はもちろん、そ の生殖器さえも無修正のままさらけ出されています。  下には「恥らうポスター」と命名されています。なるほど、その挑発的な姿とは逆に少女の 顔は羞恥に赤面していますね。その瞳は、これ見よがしに開かれた股間に視線が這うのを拒ん でいるようにも感じられます。しかし、やはりどうしてもその部分に視線が行ってしまいます ね。大きく開かれた脚の間の器官は、その開脚のために内部さえも覗かせています。驚くほど 濡れたその部分は、写真とは思えないほどリアルで、ひだの一枚一枚、皺の一本一本までもは っきりと見て取れ、その脈動までが伝わってきそうです。一瞬動いたかのような、そんな錯覚 さえも覚えますね。  再びその顔に視線を戻すと、心なしか呆けた表情になっているように見えます。まさか写真 の表情が変化するとは思えませんが、あの魔術師の備品ですし何か仕掛けがあるのかもしれま せん。  と、噂をすればなんとやら。問題の人物が現れました。黒いタキシードに身を包んだその姿 は、一年前とまったく変わりませんね。 「ようこそおいで下さいました。あなたが来るのをお待ちしておりましたよ」 「この町でショーを開けば、必ずお会いできると思っていましたから」 「えっ、このポスターに仕掛けがあるか、ですか?」 「さて、どうでしょう?」 「それは後ほどお聞きしたらどうですか? 本人に直接、でも」 「それよりも、もうすぐ開演の時間です。お席の方に案内致しましょう」 「今夜も、きっと楽しいショーになりますよ」


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