その4「敗北・・・そして」


 「うぁ・・・」  いつものように、スズメが鳴き交わす声で、姫子は目を覚ましていた。  場所は自分の部屋のベッドの上。  パジャマがわりのスウェットも着たままだった・・・が。 「・・・夢・・・じゃないよね・・・」  天井を見つめながらつぶやく。  いまだにピンと固くとがっている乳首には、洗濯バサミのような責め具で挟まれた感触がいまだに残っている。  かすかに痛いような、甘く、深い疼き。  そして、壮絶な絶頂とともに秘裂の奥から転げ出て来た赤い宝玉の感触。 「仮面ファイター麗裸・・・SMな事一杯されて、イかされて、負けちゃった・・・」  天井に虚ろな視線を投げながら、姫子はつぶやく。  その脳裏では、麗裸によって与えられた、神経が焼ききれそうなほど甘美で強烈なSM責めの数々がフラッシュ  バックする。  敗北感と同時に、奇妙な満足感が心の奥に残っている事に、姫子は混乱している。 『や・・・やぁ・・・おはよう、仮面ファイター羞姫・・・』  何だかちょっとばつが悪そうなカメの声が脳裏に響いた。 「あーーーーっ!!カメさん!三つ四つ問い詰めたい事があるんだけど、いいよね!?」 ベッドの上に起き上がって  姫子は叫ぶ。 『・・・どうぞ・・・』 「質問その1!なんたら玉っていうのを取られちゃうなんて、全く聞いてませんでした!納得のいく弁明を聞かせなさい!」  実際は頭の中で考えればカメには伝わるのだが、生憎姫子はそんな器用な事ができる気分ではなかった。 『えーっと・・・エクスタシースフィアの事だよね・・・仮面ファイターがかぶっている仮面って、実は特殊な能力を  持った上級淫魔なんだよ』  姫子に十分な説明をしていなかった後ろめたさがあるので、カメは素直に話し始める。「・・・って、事は寄生虫  みたいなものなのぉ!?」 『寄生虫だなんて恐れ多い!人間に取り憑いて、その欲望を満たす為の超能力を貸し与える存在なんだよ。上手く  使えば、その力は上級クラス淫魔に勝るとも劣らない』 「・・・で、エクスタシースフィアだっけ?それって何?」 『うーん、簡単に言うと、淫魔との契約の証みたいなものかな・・・』 「何で三つあるの?」 『さあ・・・』 「さあって、そんな無責任な!!」 『だって私はしがない中級淫魔なんだから、上級淫魔の事を全部知ってる訳じゃないんだよ』  やや逆切れ気味のカメ。 「・・・質問その2!仮面ファイター同士がどうして戦うの?」 『それが仮面淫魔の本能だから・・・』 「って、本能かよっ!!」  マッハ突っ込みを入れる姫子であった。 「・・・最後に凄く気になる質問。仮面ファイター麗裸に聞いたんだけど、スフィアを全部取られたら、仮面に  犯し殺されちゃうって、ホントなの?」 『うーん、それは一概にはホントだとは言えないなぁ・・・そういう場合もあるし、そうでない場合もあるし・・・  ケースバイケースであって・・・』 「だああああああああっ!政治家の答弁じゃああるまいし、はっきりせんかい!はっきり!」  ベッドのマットレスをバンバン叩きながら姫子は叫ぶ。  第三者が見たら、かなり壊れているように見える姿だった。 『それよりも、今回明らかになった君の弱点なんだが・・・君って乳首が物凄く弱いね』「話題をそらすなぁ!!」  ズバーン!!と轟音を立ててベッドのマットレスをぶっ叩く姫子。  はたから見ているとかなりアブナイ状態である。 『べっ!・・・別に話をそらそうなんて思っていないよ。今後の戦いで、これはかなり問題になる。特に君の  おっぱいは、大きくて責めがいがあるからねえ・・・』 「うううう・・・そう言えばみんなおっぱい虐めてくるよぉ・・・」  スウェットの上からでもそれと判るFカップのバストを抱き締めるようにして姫子は身をよじる。  それまでエッチな事に縁のなかった彼女にとっては、ここ数日の体験はあまりにも強烈なものだった。 『ね・・・だからちょっと修行しなきゃいけないねぇ・・・あ、それはそうとして、そろそろ仕事に出かける時間  なんだけど・・・』  妙に家庭的なカメの指摘に、姫子はベッド脇の時計に目をやり。 「遅刻だああああああっ!」  叫ぶと同時にダッシュで着替え始めた。    「ごめんなさいいいっ!遅くなりましたぁ!はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」  姫子は定時より三十分近く遅れて、グローバルビデオジャーナル社のオフィスに駆け込んでいた。 「おっ。姫ちゃんが遅刻だなんて珍しいなぁ。ひょっとして昨日の夜は彼氏とラブラブ?はははははっ!」  取材してきた映像に英語の字幕をつけながら、正社員の一人である滝という青年がさわやかな口調で言う。  学生時代は海外を放浪していて、語学が得意であり、海外に提供するコンテンツは全て彼の手で英語とスペイン語  の字幕が付けられる。 「滝・・・姫ちゃんが困ってるじゃないか。彼女はそういう話はNGなんだから・・・」 社員の中ではリーダー格  である本郷という名の男が渋い声で言う。  元モトクロス選手で、海外の大きなレース体験もあるスポーツ万能の男である。 「そうそう。・・・お花見も終わっちゃったしなぁ・・・今度はゴールデンウイークの行楽シーンでも撮りに行くかなぁ」  重そうな機材を軽々と担ぎ、機材室から出てきたのは、一文字という名の青年だった。 武道フェチで、柔道、  空手は黒帯クラスの力持ちである。 「おっ・・・ようやく来たか、眠り姫・・・」  そう言いながら給湯室から出てきたのは、この会社の社長である立花という中年男だった。  江楠田市内で手広く事業を営んでおり、喫茶店やスポーツショップ、バイク屋等、色々な店を持っている。  通称『おやっさん』あるいは『キャップ』と呼ばれる。 「ほれ、仕事の前のスペシャルブレンドだ。店では一杯400円の品物だぞ」  いい香りの湯気を立てているコーヒーカップがテーブルの上に並べられた。  立花はまめな男で、毎朝こうして自慢のコーヒーを淹れてくれる。 「あら、キャップは姫ちゃんには優しいんですねぇ♪」  副社長である綾丸 由美子が砂糖とクリームの乗った皿を持って、給湯室から出て来た。 「ん?俺は誰にでも優しいよ・・・ん〜いい香り」  自分で淹れたコーヒーの香りに酔いしれる立花の姿に、姫子は苦笑する。  彼の人柄がいいので、仕事場が和やかなムードになるのだ。  昨日の晩の敗北で沈みかけていた気持ちがちょっと持ち直していた。 「あ、姫ちゃん、そう言えば、昨日話した取材のアポとってくれた?」  由美子の問いに、一瞬、?マークを浮かべた姫子だったが。 「あーっ!忘れてたぁ!あの、ちょっと嫌な美人の取材ですよね?」  先日、花見のカラオケ大会で出会ったSMクラブのナンバーワンへの取材を持ちかけられた事を思い出していた。 「ん?美人だって、姫ちゃんが乗り気じゃないなら俺が替わろうか?」  意外と軽い性格の滝が早速話に乗ってきた。 「だーめ、滝さんはお客さんになっちゃいそうだからNG♪」  由美子がやんわりと却下する。 「由美ちゃん、お客さんって?」  一文字も興味を持ったようだ。 「言っちゃってもいいかな?」  いきなり由美子に問われ、姫子はちょっと返答に困る。 「・・・ええ・・・まぁ・・・いいですけど」 「うふふっ。姫ちゃんはねぇ。ビーハイブの取材に行くんですよぉ♪」 「ビーハイブって!あの、超有名なSMクラブかっ!いいなぁ・・・」  少し興奮した口調の立花に、みんなの少し冷めた視線が注がれた。   夜。  姫子は繁華街の外れを歩いていた。  電話でアポを取った結果、すんなりと取材許可が下りたのである。  最新のネットワークコンテンツ製作会社が林立している新興都市である江楠田市だが、エッチ関係の店はいくつか  存在している。  しかも、どの店も妙に女の子のレベルが高いのだ。  ネットコンテンツで美形女性のヌードを嫌というほど見慣れている目の肥えた連中を相手にするせいなのだろうか?  そして、どの店も結構繁盛している。  バーチャルな世界で『濃い』作品を作るためには、現実世界でも色々と勉強しておく必要があるらしい。  っていうか、スケベ男が多いだけなのかもしれないが・・・。  風俗店の方も、ネット広告を有効活用し、お店の女の子をブロードバンドのお色気番組に出演させたりしている。  受信エリアが限られ、放送コードに縛られるテレビ番組と違い、全世界を相手にするブロードバンドコンテンツでは、  かなり濃い演出が可能であった。   ビーハイブは、ヨーロッパ貴族の館を思わせる、古風な造りの洋館だった。  地上3階、地下2階で、全部で20ほどの個室があるらしい。  特に、地下の特別室は雰囲気バッチリの拷問部屋になっているという噂である。  出迎えてくれたのは、メイド姿の美人だった。  美女というよりは、可愛いという印象のある二十歳前後の女性である。  微妙に『虐めて光線』が出ているような気がするのは、姫子の先入観だろうか? 「グローバルビデオジャーナルから参りました。あの・・・早速ですが、取材させていただいてよろしいでしょうか?」 「ええ。よろしくってよ。あなたが記者だったなんてね・・・昨日の昼間はごめんなさいね、うちの子が、目に入った  ゴミを取ろうとしてコンパクトミラー開けたら、反射光が偶然あなたの目に入っちゃったみたいで・・・」  自ら案内人を買って出てくれた例の美人・・・麗子という名前だそうだ・・・が、笑みを浮かべながら言う。 「あ・・・あの時はこちらこそすみませんでした。ちょっと聞き間違えちゃったみたいで・・・ごめんなさい」  姫子はそう言って、ぺこりと頭を下げる。  『相手が謝ったら、こっちも謝る』というのが、立花から教えられた記者の処世術である。 「・・・ふふっ、それで、お詫びといってはなんですけど、調教シーンを見せて差し上げますわ。いい取材になるで  しょう」  地下への階段を下りながら、麗子は言う。 「え?調教って・・・」 (毛むくじゃらのデブオヤジが調教されるとこなんて見たくないなぁ・・・)  と、内心思ってしまう姫子。  そんな彼女の心中も知らぬかのように、颯爽とした足取りで麗子は地下の一番奥にある特別室に姫子を案内していた。 「さあ、入って・・・」 「お・・・お邪魔します・・・」  恐る恐るといった感じで室内に足を踏み入れた姫子は、噂以上の雰囲気を漂わせる室内に見とれてしまう。  石積みの壁、黒タイル張りの床、かなり広い室内には、ジムのトレーニングマシンのように各種拷問器具が点在  している。  部屋の中には妖しい香りのする香が焚かれていた。 「さて・・・今夜の獲物を見せてあげる」  麗子がそう言って、ぱちんと指を鳴らすと、高い天井の真ん中辺りが開き、拘束された人影が鎖で吊り下げられて  降りてきた。 「えっ!」  姫子はその顔に覚えがあった。  昨日の昼、ミラー攻撃云々でもめた女の子だった。 「無意識とは言え、あなたの優勝を妨害した罰を受けさせる事にしたのよ。しっかり録画してね・・・」  麗子はそう言うと、身に纏っていたデザイナーズブランドのワンピースを脱ぎ始めた。「うわ・・・」  その下から現れたのは、黒い皮製の女王様ルックだった。  肘まである黒ラバー製の手袋をはめると、非の打ち所のない女王様の完成である。 (ん?・・・何だかこのボディラインに見覚えがあるような・・・)  女王様姿の麗子に目配せされ、姫子は操られるかのように、録画を開始した。  カメラに妖艶な流し目をくれた麗子は、ゆっくりとした足取りで、拘束された女性の所へと向かう。  黒いボンテージからはみ出した、染み一つない白いヒップが歩くたびにキュッ、キュッと引き締まるのが、女性で  ある姫子から見てもセクシーだった。 「亜矢・・・お仕置きの時間よ」  甘く蕩けそうな声音でそうささやかれた女性は、白いレースのブラとパンティのみの姿だった。  ボールギャグを噛まされて声を封じられた彼女は、許しを請うような視線を麗子に送る。  (この子も虐めて光線出てるよぉ・・・)  目の前の光景に圧倒されながら、姫子は思う。  黒い手袋をした玲子の指が、下着の上から亜矢のおっぱいを揉み始めた。 (レズSM調教なんて、いきなりハード過ぎるよぉ・・・)  姫子はそう思いながらも、しっかり録画を続けている。  キュッ、キュッとゴムの擦れる音を立てながら、Dカップはありそうな亜矢のおっぱいが揉みこねられる。 「んんん・・・んふぅぅぅ・・・」  くぐもった声を上げる亜矢。 「いやらしいおっぱいねぇ・・・もう乳首が起って来たわ・・・ほら・・・ほらほらぁ」 ブラ越しに乳首を摘んで  捻り上げられ、亜矢の身体がわななく。 「・・・」  姫子はその姿に、昨日の晩の自分の姿を重ねていた。  仮面ファイター麗裸に、あれよりもっとハードなやり方で嬲られたのだ。  お腹の奥がキュン!と疼く。 (えっ!?・・・やだっ!・・・あたし・・・感じちゃってるの?)  困惑する姫子の目の前では、レズSM調教が、さらにハードな展開を見せつつあった。  続く


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