ルート1−1
「――あれ? 明日香、明日香どこ行ったの!?」
おそらく団体旅行客が一斉に到着したのだろう、人ごみを押しのけて神社に向かい一目散に駆けて行くオジさ
んオバさんたちに翻弄され、揉みくちゃにされているうちに、あたしは明日香とはぐれてしまっていた。
えっと…あたしの身長じゃ周りを見渡せないし……でもさっきのアレじゃしょうがないか。こう言う時は神社
の側で待ってればいいかな?
あたしたちは初詣にきたわけだし、むやみに探し回ってすれ違うよりもその方がよいと思ったあたしは、それ
でも無意識に人に囲まれて遠くまで見えない周囲を見渡しながら足を前に踏み出した――
ドスン
「あっ…ご、ごめんなさい! あたし、ちょっとよそ見してて――あっ」
「いえいえ、君のような美しい人に抱き突かれるなら僕としても――うっ」
「どうして佐野先生がここに!? たしかあたしが男だって知ったショックで精神病院に入院してたはずじゃ…」
「ふっ…ふっふっふっ…僕も色々と考えさせられることがあってね。年末になってようやく退院する事ができた
んだよ、相原たくや…君」
君付けするって言う事は、あたしを男だと認識してくれてるわけね。これだったら大丈夫かな? でもこいつ
は明日香に痴漢はたらいたりしたしなぁ……
「まったく、君にはダマされたよ。そんなに美し…いや、女々しい外見なのにまさか男だったなんてね。美を愛
する僕とした事がとんだ大失態だ」
「女々しいって…じゃあ言いますけど、そんなあたしを体育用具室で無理矢理押し倒したのはどこの誰でしたっ
け?」
「あの時の僕は少しどうかしていたんだ。なにしろ赴任したばかりで舞い上がっていたところにラブレターだ。
だから正常な美意識が働いていなかったんだよ」
「へぇ〜、じゃあ明日香に痴漢を働いたのはどう言う事なんです? しかも脅迫までして…先生が入院してうや
むやになっちゃったけど、今からでも校長とか教育委員会とかにでも訴えましょうか?」
「あれは片桐さんがあまりにも美しく……」
「じゃあまともだったわけですね、先生の美意識とやらは。それであたしに手を出したんだから…やっぱり変態
――」
「はっはっは、それほど自分を卑下する事は無いんじゃないかな? 相原君も片桐さんほどではないが、なかな
か美しいよ、その女装は」
「いえいえ、先生の自意識過剰には負けちゃいますよ。自分がみんなにどう思われているかなんてまったく気に
してませんでしたもんね
「気にしなくてもいいんだよ。美少女は僕の魅力に虜にならないはずが無いんだからね」
「あっはっは、そんなのあるわけないじゃですか」
「はっはっは、相原君もなかなか言うね」
「あっはっは、先生ほどじゃないですよ」
この先生…あたしがこれだけ皮肉ってるのに堪えてないんだか、それとも気づいてないんだか。
しかし正月早々こんなところで不毛な言い合いしてるのも時間の無駄、人生の損失。お互いに笑顔を浮かべて
はいるけれど、宿敵同士がであったかのような張り詰めた雰囲気にあたしたちの周囲だけは初詣の参拝者も避け
て通り、言葉の端々に上る危険な言葉に効いた人たちは何事かと興味の視線を向けてくる。
さて、今の先生ならあたしに何かしようなんて思わないだろうし、とっととお参りして明日香を探さないと。
「それじゃ先生、あたしはこれで」
「そうだね。紛らわしいから今度は声を掛けないでくれるかね。君と知人だと思われると僕まで変態扱いされて
しまうよ」
「ええ、ええ。そうさせてもらいます。それじゃごきげんよう!」
最後まで晴れ着姿に似合わぬ笑顔を浮かべながら、あたしはトコトコと神社に向かって歩き出した。
カランコロンカランコロン
テクテクテクテクテクテク
カランコロンカランコロン
テクテクテクテクテクテク
カランコロンカランコロン…ピタッ
テクテクテクテクテクテク…ピタッ
「………佐野先生? どうしてついてくるんですか?」
「君こそ。悪いけど僕は女性しか愛さないから、できれば早く目の前から消えて欲しいんだが」
「あたしは今からお参りしてくるんです先生こそどっかに行って下さい。じゃないと「痴漢よ!」って叫んじゃい
ますよ」
「………僕も初詣に来たんだ。せめて君は時間をずらすとかしてくれないかな?」
「先生がこの場に一時間ほど立ちほうけてくれればいいんじゃないですか?」
明日香が先に行ってるかもしれないのに、誰が先に行かせるもんですか。あっ…もしかするとこのあたりにい
るかもしれないな……やっぱりどこかに消えて欲しい。なんであたしたちが着てるときにタイミングよく初詣な
んかにきてるんだか。
ここまできたら意地の張り合いだ。あたしも女々しいとか言われて頭にきていることもあって一歩も引かない
気構えだったけど、周囲のひそひそと囁く声があたしたちの関係を噂しあっているのを耳にし、急に恥ずかしさ
がこみ上げてしまう。
「………わかりました。あたしが後から行きますから先生は先に行って――」
急速に気がなえてしまい、胸の締め付けなどの苦しさも再自覚したあたしが先生に行くように促したその時だ。
あたしの背中に誰かがぶつかり、履きなれない下駄と歩きにくい晴れ着のせいでふらふらと前によろけると、倒
れまいとしてとっさに目の前にいた佐野先生の胸にすがり付いてしまった。
「あ、相原君! いったい何を――」
「ごめんなさい。ちょっと押さ――きゃっ!」
両手が佐野先生の結構たくましい胸板に触れる。そこに頬まで押し付けてしまったあたしが、自分がどんな事
をしているのかを悟って慌てて体を離そうとするけれど、
な、なんなのよ、これ!? まるで満員電車みたいな――んぷっ!?
次の団体客が来たのか、それとも先に行った旅行客が引き返してきたのか、参道に今までの倍――いや、三倍
以上の人が溢れかえり、あたしは佐野先生にしがみついたまま身動きが取れなくなってしまった。
「せ…先生、ごめんなさい…こんなところで…んっ!」
こんなところで立っている方が悪いんだけど、着なれない着物姿のあたしに遠慮する人など誰もおらず、肩や
背中を休むことなく押しのけられてしまう。
んっ…苦し……だから人ごみは嫌いなのに……それに佐野先生にしがみついちゃうなんて……あっ…む、胸が
……!
腕を動かすスペースも無いのに、佐野先生への嫌悪感からなんとか体を引き離そうと身をよじっていたので、
あたしの胸は先生の体に何度も押し付けられてしまう。着物は体同士の擦れあいで徐々に乱れ始め、晴れ着の下
の乳房が着物と襦袢を押し上げて帯の上にポヨンと載ってしまった。
やだ、ブラを付けてないのに……あっ…襦袢と擦れちゃう……早く離れないといけないのに……
「あ…い、いやぁ……んっ……はぁ…はぁ……あぁ…!」
こ、声が漏れちゃった……でも…苦しくて…乳首がグリグリ擦れるしおっぱいがつぶれて……やだ…もう……
佐野先生の前でこんな姿を…
今日は温かい元日とは言え、肌にじっとりと汗がにじんでしまう。あたしの体は新年早々も関係なく敏感に感
じてしまい、着物の中ですっかりいつもの形を取り戻した乳房があたしたちの体に挟まれて押しつぶされるたび
に先っぽからふもとまで二つの丸い膨らみ全体がジンジンと痺れてしまう。
胸が潰れる感触…弱いのに……でも、さっきみたいに少ししたら人ごみだってどこかに行くはず……も、もう
少しだけ…我慢を……
あたしは唇を噛み締めると、体をブルルッと小さく震わせ、固く強張らせた。股間の割れ目はこんな場所だと
言うのにすっかり潤ってしまって、気を抜けば夏美に履かされたあの下着から愛液がこぼれてしまいそうだった。
恥じらいながらも何とか刺激を誤魔化そうと体を振る。胸の疼きに我慢できなくなって無意識に行ったんだけ
ど、それが逆に胸をまんべんなくこねられる結果になり、あたしの体を霞めて人が通りすぎていく中で徐々に唇
からこぼれ出ると息が荒く乱れていく。
震える手が佐野先生のジャケットを強く握り締める。そして先生の胸に額を押し当て、時間がたつのをじっと
待っていると、あたしの体を抱くように先生の腕が振袖の左右から回されてくる。
「せ……先…生?」
あれだけあたしを毛嫌いした先生がどうしてあたしを守る様に……不思議に思って顔を上げたのとほぼ同時に
着物がぴったりと貼りつき、張りのあるラインを惜しげもなく晒しているヒップに佐野先生の十本の指が食い込
んできた。
「ひゃあん!」
「あ…相原……君……僕は欲情なんかしていない…男…男相手なんかに……」
そうは言うけれど、先生の指は赤い着物に包まれたお尻を鷲掴みにし、谷間の立て筋に沿って優しく擦ってく
る。荒々しく、その中に優しい愛撫を混ぜ込まれ、バスでの痴漢などですっかり準備の整っていたあたしの体は
たちまちのうちに官能の渦に巻き込まれてしまう。
「先生……お願い…これ以上はやめて……やだ、こんな場所……!」
こんな至近距離では恥ずかしくて目を合わせることも出来ず、あたしは顔を横に向けると握った手で口元を抑
え、あたしの意思に逆らって唇から漏れこぼれる吐息を必死に抑えようとした。
そんな時間が数分続いた。
その間にあたしもお尻を振って抵抗したりしたけれど、先生の手はあたしのお尻をがっちりホールドし、着物
を谷間に食い込ませてより奥へと指を滑らせてくる。
も…やだ……こんな事をされつづけたら…あたし……
人ごみで淫らな行為をしていると言う恥ずかしさと、あの佐野先生の手で責められていると言う嫌悪感が混ざ
り合い、あたしの胸は痛いぐらいに鼓動が早くなっている。暖冬の温かみよりも頬を熱くし、アナルに時々指が
触れるたびに反応してしまっていたあたしだけど、突然佐野先生の体が一歩後ろに下がり、堕ち掛けていたあた
しの意識は強制的に我に帰ることになった。
「あっ…!」
よろめき、なにかにつかまろうと伸ばした右手を佐野先生に掴まれる。
助けてくれたんじゃないと言うのは、お礼を言おうと顔を上げたときにわかった。長い前髪で顔が隠れるぐら
いに俯き、ぶつぶつと囁くその姿にいつもの自意識過剰のナルシストのイメージはなかった。
「相原君………こっちにこい」
低く重たい声でそう命令する佐野先生。
体が火照り力が抜け掛けていたあたしには、その狂気じみた力に逆らう事はできなかった………
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