第七章「不幸」03
「や…だ……こんなの…やぁ……」
下着だけを身に着けてベッドに横たえられたあたしの声が弱々しく室内に響く。
黒い布で目隠しをされ、両手を頭上に、両足を閉じる事が出来ないようベッドへ縛り付けられたあたしの相手は、細身の暗い感じのする男だった。
『客の要求は聞くように』
そういい含められていたあたしはされるがままに拘束され……何もされずに、ただ、身をよじるだけだった。
いや、何もされていないと言う言い方はおかしい。だって……においを、嗅がれているんだから……
「うっ……やめてよぉ……いやぁ……」
「へ…へへへ……ルーミットちゃん…スゴくいい匂いがする……」
締め切った部屋の熱気にあぶられて玉のように汗がにじんだ肌に男の息が吹きかかる。
「〜〜〜〜〜〜!!!」
ゾクリと、背筋に震えが走る。
男の声が聞こえてきたのはあたしの右側の脇からだ。要望通り、仕事に入る前に入るはずのお風呂をやめているので、その場所は……臭っているとは思わないけど、あまり…綺麗じゃない。
けれど逆らっちゃいけない。どんな相手でも機嫌を損ねるわけには……
「はぁ……最高だよ。興奮、してるんだね。臭いがキツくなってきたよ。肌の熱で汗が蒸発して…とても香しいんだ、へ、へへへ……」
「うっ……や…ぁ……」
くんくんと鼻を鳴らす音が、脇からしっとり汗ばむ肌を滑るように移動し、耳の傍でわざと大きく音を立てて髪の臭いを吸い込んでいく。
「すごく…いいよ。僕の思っていたとおりだ……こんなにいやらしい体をしてるのに、まるで処女のようだよ……瑞々しくて…ああぁ……いい匂いだ……」
「く……っぁ……あたし……いっ…ひあぁ……」
唯一体に触れる男の鼻息がゆっくりと移動し、首元をなぞり、目隠しをされて敏感にどんな刺激も感じるようになってしまった肌の表面を這い回る。
乳房…おへそのくぼみ…足の指の間からお尻の穴に至るあらゆる場所に、得体の知れない熱気を帯びた客の鼻息が吹き掛けられていく。
吸っては吹き、肌が震える様子を楽しんでから微妙に変化すると言うあたしの体臭を嗅ぎ取って行く。
いっそ……あたしの意志など無視するように陵辱された方がまだマシとさえ思えてしまう。
まるで変態だ……犬のように鼻を鳴らす男が傍にいるだけで、何もされていないのに、触れられてさえいないのに……アソコを疼かせちゃうなんて……
「うわぁ……ずいぶんとビクビクしてきたね」
「―――ッ!?」
その指摘が聞こえてきたのは、隠すことが出来ない股間の正面。胸が脈を打つたびに震え蠢き、知らないうちに蜜まで滴らせ始めた恥ずかしい場所の、そのすぐ傍だ。
「よく…見えるよ……ルーミットちゃんのいやらしい場所が……僕は何もしてないよ。こんな、お尻にまで垂れちゃうぐらいにお漏らししたのは…全部ルーミットちゃんのせいだよ」
「あ…あたし……違う、違…う……うっ……うあ……」
恥ずかしくて、恥ずかしすぎて、目隠しの下で涙が溢れ出す。
だけどあたしの体は、そんな言葉一つにもいやらしく反応を示してしまう。何時間と感じるほど、丹念に男の鼻を触れる寸前にまですり寄せられ、触れられる事を恐がり、けれど期待していながらも何もされずにいた肌はシーツが湿るほど大量に汗をかき、肌がわななくほど熱を孕んでいる。―――だけど一番熱くなっているのは、男に触れられる事を、男に犯される事を、そして男の熱い精の味を覚えてしまった淫裂の奥深く…鼻を鳴らす音が、男の声が、肌に触れてわずかな振動を伝えるたびに体の中だけに響く小さな水音を響かせる充血した膣の柔肉だった。
「―――くっ」
笑い声。短く、けれど心底嬉しそうに声を上げた男は、唾液の湿り気を帯びた大量の息を吐きかけてくる。
「くあっ! は……あ、うぁ…くっ、う…ああぁ……!」
ベッドがギシリと軋む音を上げた。腰がうねり、体を右に向けるように身をよじるけど、男の鼻は動く事を許されない股間から吸い付いてはなれず、あたしが興奮するたびに濃密になっている愛液の芳醇な香りを満足そうに吸い上げ続ける。
男の吐いた息があたしの股間を撫で回す。皮から頭を出したクリトリスを、溢れそうな女の蜜を必死に溜め込んでいる陰唇の内側の秘粘膜を、手も口も、おチ○チンさえ使わずになぞり上げるなんて……
「見えるよ、見えるよ、ルーミットの膣口が開いてるのがよく見えるよ」
「いや……もう、いやあぁ……こんなの、こんなの……」
何度も、何度も、何度も、何度も。身をよじり、豊満な乳房をつきあげながらあたしはむせび泣いた。苦悶とも、喜悦ともつかない吐息を唾液で汚れた唇から悩ましく、狂おしく、けれどどこか恍惚と吐き出してしまう。
時間はまだ半分も終わっていない。―――あたしは、決して触れることの無い男に対して、ただ素直に、喜びの声を上げていた……
「こ、これ、ルーミットのために彫ったんだ。プレゼントだ。いつも俺で、俺のチ○ポで感じて欲しかったんだ」
「ん〜〜〜ッ!! んむうぅぅぅ!!」
「そうか、そんなに喜んでくれるんだ。俺、俺、嬉しいよ。早速入れてやるから、な、な?」
(そんなに太いの、入るわけ…入るわけ無いじゃない!)
今度の客は部屋に入るなり、全ての衣服を脱ぎ捨てた。
思わず見惚れるような筋肉だ。上背もあり、まるで彫像か何かと思うほどに磨き上げられ、香油を塗って光り輝いている筋肉は……あたしに生理的嫌悪感と抱かせるのに十分なものだった。
そしてそんな男に圧し掛かられては、どうする事も出来はしない。瞬く間に後ろ出に縛り上げられ猿轡をかまされると、男が取り出したものを見せられて目を見開いてしまう。
それは木を彫って作った男根の型だった。30センチはあろうかと言うそれは、先端も大きく、押し込まれればアソコが裂けるのではないかと言う太さだけれど、表面にヤスリも何もかけておらず、ささくれこそ無いものの彫った後が無数の鋭角な凹凸を作り出した、まさに凶器だ。
………言っておくけれど、その男性自身のものの大きさは小さい…かなり小さい。あたしの小指の大きさがあるかどうかだ。その反動が、握り締めた木型の大きさに反映されてしまっていた。
「んんっーーーーー!!」
逃げようと膝を立てると、丸田のような腕に腰を引き寄せられ、ベッドの上で腰を高く突き出してしまう。それを見た男は怯えるあたしを前にして嗜虐の色が覗く笑みを浮かべると、乾く暇もなく湿り気を帯び続けているヴァギナへと硬いものの先端を押し当ててきた。
「あ、安心、していいよ。柔らかいのを選んだ。吸水性がよくて、俺の精液に漬け込んだ。だから、だから」
「んんんんんっ!!」
そんな物を入れられたくない――涙を流した目で懇願の眼差しを送っても、男は喜びこそすれ手を止める事など無かった。
「んんん―――――ッ!!!」
太いものを迎え入れられるほど濡れてはいない。そんな場所へ無理やりねじ込まれた木型に子宮を突き上げられた瞬間、あたしの目から火花が飛び散った。
「す、すごいよね。俺の力でも動かせないぐらい、俺のものを締め付けてるんだ。ルーミットさん、ルーミットさん……っ!!」
「んんんっ、んんんっ、んんっーーーーーー!!!」
男の手が乱暴と言えるほどの力で木型を引き抜くと、捻りを加えながら再びねじ込み、奥の壁を押し上げるとまた引き抜いた。
狂ってる。あたしの背中に舌を滑らせ、空いた手で乳首をつまみながら動かす木型はピストンよりも荒々しく、ストロークが早い。自分が快感を感じていないからあたしの体の事など考えずに膣内をかき回すのだ。
だけど……あたしも、おかしくなってるのかもしれない……木型を埋め込まれ、引き抜かれるたびに、ズボッズボッと愛液の奏でる音が激しくなっていく。無骨な彫り目に肉壁を擦られ、引っ掛けられるたびに腰が跳ね、猿轡を噛み締める唇から涎がこぼれるように、かかげ上げた股間からぽたぽたと愛液の雫が滴り落ちてしまう。
「き、気持ちいい? ここが気持ちいいんだよね、女は」
「んむうううっーーーーーーー!!!」
より深く、より力強い衝撃が、膣壁を擦り子宮口を圧迫する。
「き、気持ちいいんだよね、気持ちいいんだよね、俺じゃなくても気持ちいいんだ、ははは、はははははっ、こんな木の固まりでも、感じちゃうんだ、女の人は!」
「んんんんんんんんんっ!!!!」
苦しい。まるで棍棒で抉られるような衝撃にあたしは何度となく男の前に差し出した張りのある尻を震わせ、裸体を痙攣させる。
もう痛みは無い。太く巨大で、粗雑な木型だと言うのに、あたしのアソコは蜜を溢れさせながら収縮し、猿轡の舌から甘く、けれど乱れた声を響かせてしまう。
「そ、そうさ。だから僕は、僕は、女の人をイかせる為にプレゼントするんだ。滅茶苦茶に、滅茶苦茶にいやらしい、いやらしくして…う、うあああああっ!!」
足が攣りそうなほど伸びてシーツを蹴る。股関節が外れる限界まで開脚し、その中央に木型を突き刺される隊に、蜜を溢れさせながら腰を震わせる。
「〜〜〜〜〜〜、――――――――――ッッッ!!!」
猿轡を噛み締め、俯いていた頭を跳ね上げる。硬くなった乳首をシーツに擦りつけながら、全身の筋肉と言う筋肉を収縮させて汗の噴出した体をオルガズムへと押し上げる。
「んんんんっ、んんっ、んムぅ――――――――ッ!!!」
膣の最奥で木型が回転する。膣肉が、そして大切な場所がねじれ、あたしは何もかも忘れ、大声を上げて登りつめる。
「んんんんんんっ!!! ……………んっ…ん………」
あたしが達すると、男の手も止まっていた。まるで強いショックを受けたように、ベッドの上でがっくりと肩を落としている。
「や、やっぱり…俺…俺なんか……すみません…すみません……」
(………なんだか…かわいそう…かな……あたしもひどい事されたばかりなのに……)
息も絶え絶えに唾液を吸った猿轡を噛み締めながら目を向けると、木型を握り締めたまま理解できない失意のどん底にいる男は……まだ、小さなおチ○チンを膨らませたままだった。
「……………」
口も、手も、縛られてどうする事も出来ない。だからあたしは……ベッドに仰向けになると、そっと、足の親指をヒクつくペ○スへと滑らせた。
「う、うわあぁぁぁ!?」
腰を引く男を追い、あたしの足の指はペ○スを離さなかった。精一杯開いた指と指の間に皮をかむった先端を挟み、ネチョッとした先走りをローション代わりにぎこちなく往復を繰り返す。
「や、やめてください…そんなこと……だ、ダメです…俺…俺……あああああっ、やっはああああああああっ!!!」
射精はあまりにもあっけなかった。足のしごきを少し強くし、皮を下へとズリ下ろそうとすると、目を見開いて体を仰け反らせ、体の大きさに見合った、けえどペ○スの大きさには見合わない大量の白濁液をあたしの足へと解き放った。
「…………………」
そのとき…やっぱりあたしの頭はどうかしていたんだと思う。
ドクドクと性液が溢れ出し、生暖かい感触が指の間を伝って流れ落ちて行くと……ここで終わりにしてあげたくなかった。
「んっ………」
狂ったように吐き出された男の精液で白く汚れた足を引き、あたしは男の前で膝を立ててベッドに横たわる。
木型が抜かれたあたしのアソコは、まだ少し傷みが残っているけれどヒクヒクと蠢き、偽者じゃない、本物のペ○スを欲しがっていた。
「ル、ルーミットさん?」
その声にあたしは言葉を返さず……ただ小さく、熱く火照った顔を頷かせた―――
「ふえぇぇぇ〜〜〜……きょ、今日も生き延びた……」
最後の客を作り笑顔でロビーから見送ったあたしは、閉店の札を掛けられ玄関の大扉が閉められると手近な柱にすがりつき、その場にずるずる崩れ落ちた。
来る日も来る日も来る日も来る日も! なんでこう、あたしのところにはマニアックなのとか変態チックとか問題大有りの男ばっかりやってくるのよぉ〜〜〜!!!―――と叫んでしまいたい心境だ。実際には、明け方まで遅漏の男性相手に腰を振っていたので精根尽き果てちゃって……「精はいっぱい注がれちゃった♪」なんつーギャグの一発でもかまして寝たいと言うのが現在の心境です、はい。
ここに泊まり始めて早三日。初日はトラブルのおかげでエッチな事をせずにすんだけれど、あとの二日は時間さえあればエッチにエッチにエッチ……昼を過ぎれば一番客。そしてこうして明け方まで入れ替わり立ち代り、色んな男の人とエッチをして、力尽きたらヒーリング、失神してても中には突き入れられちゃう、まさに人権無視の最悪な職場だ。
「やっほ〜。昨日の夜はよく眠れた?」
きた……事の発端と、あたしの相手するお客の管理を一手に握ってる人が。
あたしが重たい首を振り向かせると、歩いてくるのは僧服に身を包み、今から神殿に出勤するミッちゃんだ。ナニが嬉しいのか、朝から元気に笑顔を浮かべて手ぇ振ってるし……ううう…疲れてるせいか、あの元気が恨めしい……人が抱かれたくも無い男に抱かれて、毎晩ふらふらになるまでイかされてるって言うのに……
「う〜〜……」
「まぁまぁ、そんな目をしなくたって言いたい事はわかってるって。いいお客をいっぱいまわしてくれてありがとう、こう言いたいんでしょ?」
―――ぷちっ
「だああああああああああああああああああああっ!!! いいかげんに、しろーーーーーーーーー!!! あたしは男らああああぁぁぁ!!!」
「きゃあ! な、なによいきなり大声上げて」
「…………はにゃぁぁぁぁ…………」
ダメだ…さっきの大声で力を使い果たした……立ち上がったまではいいけれど、そのまま再びズリズリと柱にすがって座り込んでしまう。
「ううう……いいもんいいもん…いつか絶対に男に戻ってやるぅ…そしたらミッちゃんに同じ事して泣かせちゃうんだからぁ…ぐすっ……」
「疲れすぎてちょ〜っと精神困惑気味ね。―――しかたない。朝ごはん食べたらすぐにお仕事させようかと思ってたけど、昼間でお休みにして……」
「ふにゃああぁぁぁ……」
「むっ……体が資本のお仕事だし…ええい、夕方まで休憩! ったく、せっかくの稼ぎ頭なのに…ぶつぶつ……」
稼ぎ頭だからって、この扱いは不当だぁぁぁ……男に戻る前に吹く腹上死ちゃうよぉぉぉ……
ともあれお休みをもらえたんだ。じゃあ休んでいいってことで―――
「んじゃあたし、寝るから…おやすみなさい………ぐぅ……」
「ちょい待ち! こんなところで寝たら美容に悪いでしょ。寝るなら自分の部屋に帰って――」
「むにゃ……うっ……も、もう男はいや…うぁあああぁぁぁ………ぐぅ……」
「だから寝るなー! 戻ってこいルーミット、おーきーろーーー!!!」
まぁ多少うるさいけれど、これだけは言える。―――人間、寝ようと思えばどんな格好でも寝れるんだって……ふみゃ……
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