第七章「不幸」04
う〜みゅ…まだ眠い……けどお腹すいたしなぁ……
昼を大分過ぎてあら目を覚ましたあたしは、かなり遅くなった朝食…もとい、朝食をかねた昼食を食べるために、娼館からそう遠くないカフェにやってきた。先日、ミッちゃんと相談したのもこの場所だ。
もっと近い場所にもレストランとかお食事どころはあったんだけど……
「おい、知ってるか。娼館に新しい子が入ったんだよ」
「知ってる知ってる。何でもやらせてくれるって噂なのに、すっげー美少女らしいな」
「胸がでかいし具合もいいし。ちょっと高めらしいけど、一度相手してもらいたいよなぁ…」
「ああ。俺もかあちゃん質に入れてでも行きてーよなー」
――なんて会話が食事中に周囲から聞こえて来るんだもん……恥ずかしくて行けますかって。
中には実際にあたしのお客だった人もいて、具合がどうの、肌の張りがどうの、中は吸い付くようでどうのこうのとまだ日も高いというのに具体的に実体験を語ってくれちゃうし……もうあのお店にはいけないわ。
「ああ……あたしの平和かつ平穏な日々はどこに行ったのよぉ……こんなの…まるで変態じゃない……」
思い出したくない、思い出したくない……けど、ほんの少しでも意識がそちらへむくと、体の奥から抗いがたい疼きがこみ上げ、体の芯が震えてしまう。
悩みながらも男たちに抱かれ、あたしの体は性欲を満足して元に戻ってもおかしくないはずなのに……今もまだ、下着に包まれた肉の膨らみは女としての性欲を満たしたくて震え続けていて、あたしは人目を気にしながら柔らかい抱き心地の体を突き上げる衝動になめかましく喉を震わせてしまう。
「忘れろぉ……忘れなきゃ普通の生活が出来なくなるぅ……」
もう…こんな生活、終わりにした方がいいのかもしれない……
まだ娼館で働き始めて三日目だけど、もう十分稼いでいるはずだ。なら覚悟を決めて男に戻る方法を捜す旅に出る方があたし自身のためだ。
そこまで分かっていながら、頭の中では昨夜の事を思い出していたりする。なにしろ十時間ぐらいずっとだったから……睡眠をとっても、まだ体の奥には大きな固まりが残っているような感触がある。それに子宮口をグリグリとこじ開けられて、否応無しに女の体の気持ちよさを教えられて……最後には縛られたまま自分から腰を振っちゃって……やだ、どうしよう…熱くなっちゃってる…こんな、街中の屋外で……うぅん……!
椅子に据わったまま身をよじる。娼館の外に出るときはいつものシャツに短パン、それに剣や鎧と一緒に買ってきたジャケットを羽織っているんだけど、額には暑さ以外の要因で滲み出した汗が急速に浮かび上がり、湯が沸騰するように蠢く肉穴からとめどなく愛液があふれ出しそうになってしまう。
「どう…しよう……」
あたしの体の変化はあまりにも劇的だった。仕事だとは言え、自分から抱かれるようになってから、あたしの中で「女」としての部分がますます大きくなっているような気がしてならない。その事に罪悪感や嫌悪感を覚えはするけれど……
「は…あぁぁ……」
「ちょっとぉ〜、ため息ばっかり突いてないでさぁ、早く注文してくれない? 私も急がしいんだけどぉ」
「へっ―――!?」
テーブルに額を押し当て、悩ましくため息を突いていると……いつの間にかすぐ隣に、髪の長いウエイトレスが立っていた。
でもって、熱くなっていた頭の中で考える事、十数秒……太股をよじり合わせ、両手を疼いちゃってる股間に当てたまま彼女の顔を見上げ―――突然、というかようやく全てを理解した。
「………ひぁあああああああっ!?」
「当店のメニューには、そのようなものはございませぇん♪ あとぉ、オナニーしちゃいけないとは言わないけどぉ、出来れば場所を選んでねぇ」
「すみません、申しません、謝ります、ごめんなさいっ!!」
だからこのことは誰にも言わないでぇ〜〜〜〜〜!!!……と、慌てて椅子を蹴り飛ばして立ち上がりぺこぺこと頭を下げる。けど、ウエイトレスの女の人は笑みを、意地悪そうでもなく何でも許してくれそうでもなく、ただ面白そうに笑みを浮かべてまぁまぁとあたしをなだめてくれた。
「そんなに謝らなくてもぉ。初めてお仕事した娘がたまにかかっちゃう病気みたいなものだからぁ」
「本当にすみま―――」
………待て。今、この人はなんていった? 「お仕事」…とか言わなかったっけ?
「昨日は激しかったわねぇ。こっちまで「あふぅん♪」とか「うふぅん♪」とか聞こえてきてたわよぉ。お姉さん、恥ずかしかったわぁ♪」
その瞬間、頭の中で「ガン・ギン・グン・ゲン・ゴン!」と連続で殴られたような衝撃が…………って、待て、よく考えろあたし。あたしが娼婦とばれちゃってる事は驚きを通り越して、衝動的に何処かから飛び降りたくなるほどのショックだけど、こんな離れた屋外喫茶にまであたしの喘ぎ声が聞こえる? ―――いや、ありえない。そうよ、なにか、何か勘違いしてるのよ。あたしをだれかとまちがえてるとか。例えば静香さんってあたしとそっくりだったから…って、静香さんがそんな声出すか〜〜〜!!!
「あらまぁ。全然覚えてくれてないのねぇ。隣の部屋で私もお仕事してたんだけどなぁ…ねぇ、ルーミットちゃん♪」
「え、と、へ、ほ、え?」
「だからぁ、私も娼婦だって、思わないぃ? こ〜んなに美人なのにぃ」
「………ああ、そういえば!」
「娼婦ってさぁ、副業にしてる人も結構いるのよぉ。昼間は主婦とかぁ、看板ウエイトレスとかぁ」
なるほど、と手を叩く。言われてみれば廊下ですれ違った事がある。……ような気がする。
それに気づくのに時間がかかったあたしの正面の席に座るウエイトレスさんは、思わずドキッとするような色気を持っている。あたしがどうかと言われると……さすがに胸やお尻が大きくても、そういう「女」としての経験が成せる仕草までは無理…だと思う。やってない、絶対にやってない!
「あ…そういえば、こないだは別の女の子いませんでした? 頭の左っかわで、こう、髪の毛を束ねた子」
別にその子が目当てでここに来たわけじゃないけど、自分の髪を手で握ってお下げにして訊ねてしまう。
「ん〜、よく知らなぁい。ローテー、私と逆だったしぃ。店長が一人やめたって言ってたから辞めちゃったのかもぉ」
「やめた?」
「ほらぁ、あれ見て、あれぇ」
そういわれて指差された方を見ると、なぜか並木の一本が傾いでおり、その根元に壊れたテーブルが二つ置かれている。
「その子が大暴れしてぇ、この辺滅茶苦茶になっちゃったらしいわよぉ。恐いわねぇ、最近の若い子ってぇ」
そんな言い方するって事は何歳……いや、訊いちゃダメだ。女性に歳の話は禁句だし。
「あ〜、そういえばぁ、さっきここでオナニーしようとしてたよねぇ」
「し、してませんよ! いきなり現れて何言ってるんですか!?」
「おねーさんには隠したってバレバレよぉ。――ねぇねぇ、ご飯おごってあげよっかぁ?」
「えっ…またいきなりな……」
奢ってくれるのはありがたいけど……何か魂胆があるのはバレバレだ。
そんなわけであたしの視線は自然と胡散臭いものを見るものになってしまう。
「いやぁん、私はただぁ、可愛い後輩さんを可愛がってあげたいだけだもぉん♪ ねえねえ、食事が終わったらさぁ、私といい事しましょ〜。ねぇねぇん♪」
は…ははは……いやまあ、男とのエッチはイヤだと思ってたけど………今度は女の人と……もう笑うしかないかな、これ。とほほ……
「くぁあああっ! そ、そこは…くうぅん! あ、あたし、来る、またスゴいのが来ちゃう、から、あっ…はうっ、はうっ、はっ、あっ、―――――――ッ!!!!」
タイル床の上で白く濡れ輝くあたしの裸体が反り返り、甲高い絶叫にあわせて弧を描く。
よじりあわされた二本の指に感じる場所を的確に擦りたてられ、パンパンに充血したクリトリスを唇に含まれて左右に転がされると、もう何度も行かされているあたしに耐える事などで気はしない。お尻を高く掲げてリズムよく指を挿入されているヴァギナを収縮させると、大量の愛液を股間からしぶかせ、何もかもを取り囲む女性たちの目の前で解き放ってしまった。
男から女になった美少女……それは娼婦の間でも噂になっていた。それに加えていきなり現れた新人に客を奪われる形になったため、娼婦内でのあたしの評判はかなり悪く、こうして「歓迎会」と銘打たれた陵辱会が大浴場で開催される事となった。
形式上、あたしは「買われた」立場だ。女性の客が来る事は時々あるらしいし、そのこと自体には何も問題はないんだけど……十人以上の娼婦に一斉に責め立てられたあたしは、当に限界など通り過ぎてしまうほどに弄ばれてしまっていた。
「やっ、いやあっ! そこ、お尻は、あ、いやあっ!! そっちはイヤあぁぁぁ!!」
「あれぇ、もう何度もこっちでもイってるじゃない。いいでしょ、いまさらもう一回イかされるのなんて」
「だって、だって、そっちは……」
変な…癖がついちゃいそうだから……前でも後ろでも感じるようになっちゃったりしたら、あたし…もう、何も我慢できなくなっちゃって、本当に……んんんっ!!
あたしが言いよどむ間に、押し当てられた指はググッとアナルの中へ入り込んでくる。
「ほら、力を抜いて。なれないってイうんなら、私たちで念入りに教えてあげるから。――ここの使い方をね」
「い、いやぁ……!!」
「嫌がってるくせに、おマ○コはぎゅうぎゅうに締め付けてくるじゃない」
「あっ…ああああ……っ!!」
ヴァギナとアナルに挿入された二組の指が、二つの穴を隔てる壁をはさんでお互いを擦り付けあうと、イき過ぎて何も分からなくなったあたしの喉が震え、太股の筋肉がビクッと痙攣する。
前と後ろ同時にもっと太いおチ○チンを入れられた事もある……けれど、百戦錬磨の娼婦の指はまた別格の気持ちよさがあった。荒々しくはないけれど、繊細なタッチで壁をなぞり、反応があった場所は的確に責め立てて来るので、あたしの子宮には休まる暇がないほどの熱と痙攣がこみ上げ、下腹部全体が内側へと絞り込まれていく。
「こ、こんなの…はじ…めてぇ……―――――ッ!!!」
喉を詰まらせ、磨き上げられた浴場のタイル床の上で足を突っ張ると唇を開いたまま、またしても登りつめる。それでもまだ指の動きは収まらず、激しく蠢く膣壁と腸壁を擦り上げられ、さらにクリと乳首の三箇所まで吸い上げられたあたしは、長く続く絶頂痙攣で意識など軽く吹き飛ばされ、豊満かつくびれた体をガクガクと震わせながら気を失い……目覚めたのもまた、オルガズムの衝撃によって、だ。
「あっ……あ………」
ようやく開放されたのは、繰り返し味合わされる昂ぶりのために長く感じてしまう時間を娼婦のテクニックの実体験に費やしてからだ。……けど、宴がそれで終わりな訳ではない。
「じゃあさぁ、次はこれ使ってみようかぁ。ローションはよぉく使うもんねぇ」
もう口を閉じる力もないほど脱力し、胸を上下に喘がせながら大浴場の床に横たわっていると、おぼろげな視界に写ったのは、液体が入ったガラス瓶だ。
「んっ……冷た……ひぁ……!」
ビンからお腹へ滴り落とされた粘液の冷たさに震えが走る。それを三人がかりで、首からつま先、当然股間の膨らみや乳房の谷間にまで塗りつけられる間に、あたしの震えは冷たさによるものから快楽によるものへと移り変わり、体の火照りは抗うようにますます熱く、昂ぶって行く。
「あらぁ、ここにも塗って欲しいのぉ?」
「いっ―――!! うあっ、いッ…あああっ、ああっ、クあああああああっ!!!」
敏感な部分は特に念入りだ。天井を向き、興味津々の美女たちの注目を集める乳房は、喉元に悲鳴がこみ上げるほど指を食い込まされ、そのまま搾り出されるように突き出た乳首を別の人の指が扱く。クリトリスも同様だ。
いつしか五人に人数が増え、全身の至る場所を異なるタッチで冷たいローション液を擦り込まれたあたしはもう何も聞こえないほど意識を飛ばし、ぱっくりと口を開いた割れ目を突き出すように腰を跳ね上げる。そこを誰のものともわからない指でタップリと粘液を塗りたくられ、割り開かれた膣口からはローションとは違って熱く煮えたぎった愛液がトロトロと溢れてアナルへと繋がる恥部でグチャグチャと音を立ててローションと混ぜ合わせられている。
「いあああぁぁぁぁぁ!! ひあっ、ひあっ、も…やめ……くぅん! イっちゃう、また、また、ダメ、そこは、言っちゃうから、イ…イイのっ、いいのぉぉぉ!! 感じ、すぎちゃう、あたし、あたし、ダメぇぇぇ〜〜〜!!!」
「満足してくれたぁ? これだけテクニックを教えてもらえたんだからルーミットも一人前の娼婦よねぇ。じゃあぁ、最後にぃ……」
まだ絶頂は終わっていない。浴室に長々と響く嬌声を放ち、光沢を持つほどローションを塗りこめられた乳房を震わせ、全身を波打たせながらアクメに飲み込まれていたあたしの右足が高々と持ち上げられる。そして上下に広げられたあたしの脚の間へ体を入れた娼婦は、自分の割れ目をあたしの左足へ擦りつけながら……お互いの股間を密着させてきた。
―――クチュ
「あ―――――ッ!!!」
音を立てて、あたしと娼婦の粘膜が密着する。――淫裂同士の濃厚な口付けだ。
「んっ……いいわぁ。ルーミットにお客が夢中になるのぉ…分かっちゃうぅ……」
蕩けるような声を上げて娼婦が腰を押し付けるたびに、口を開いた貝同士がお互いの花弁を食みあいながら絡み合い、すくい取れるほどあふれ出したあたしの愛液を潤滑液に淫らによじれあう。
「こ…これ…いい…んくっ……やっ、はあぁぁぁ!!」
これが女同士のエッチ……いままでモノを入れてエッチするのが普通だと思っていたあたしには衝撃的なスタイルで秘部を擦り合わせながら、腰を振り、自分から動きをあわせて秘所をこすり付ける。まるで水音で曲を奏でるように、リズム良くなり始めた愛し合い方に気をやってしまったあたしは密着部に大量の淫液を放ち、より大きくより淫らにグチャグチャと音を響かせ陰部を押し付けてしまう。
「んっく、んっ…んっ、んはぁ…はぁっ……!!」
もう…動きが止まらない。いや、止められない。あたしの秘部からあふれ出した愛液は床にまっすぐに伸ばされた左足の太股を塗られたローション以上にぐっしょりと濡らし、肉が同士がはじき会う強烈な感触に小水とも絶頂液とも分からない汁を噴き上げながら、全身を駆け巡る快感に胸を震わせる。
唇を閉じようとしても、喘ぎが次から次へと溢れ、だらしなくタイル床へ涎を滴らせる。その内に別の娼婦の女性があたしの頬に両手を当て、恥ずかしさをおぼえるほど大きな音を立てて涎を吸い上げてくると、それまで推移を伺っていた住人を超える娼婦たちが一斉にあたしの体へ手を……いや、まるで貝合わせをするように、自分の体を我先にとあたしの肌へと擦り付けてくる。
「あっ、あっ、あああ―――んむぅ! んん…んふぅ…ん…んんんっ!!!」
喘ぎ声さえ吸い上げられながら、左の手の平には誰かの乳房の重みと柔らかさが、左の指にはお尻の谷間を割り開いてアナルに触れる感触が。乳房には二人の女性の豊乳が押し付けられて六つの乳首が一箇所で連続して擦れ合い、ヘソや足の指先など至る場所に生暖かい舌先が這い回る。
「んむうううううう〜〜〜〜〜〜!!!」
身悶えた。腰をくねらせ、絶頂痙攣を繰り返す割れ目を押し付け、全身からローションと、唾液と、十数人の美女の奏でる愛液の音とを響かせて、あたしの意識は女体の中へと埋もれて行く。
(こんなの…は、じめて……こんなに…エッチ……あたし…もう蕩けて……)
全身を暖かく柔らかい女体に包み込まれ、鼻と口にはむせ返るほどの女の匂いを充満している。
―――グチャ
「―――――、―――――――――ッッッ!!!」
腰を捻った表紙に割れ目がよじれ、覗いた淫裂から音を立てて愛液が噴き上がる。そこへすぐさま別の娼婦が顔を寄せると、クリトリスに吸い付かれ、全ての意識が吹き飛ぶほど強烈な火花が視界いっぱいに広がった。
「んっ! んっ、んんんんんっ!!!」
頭の中で「イっちゃう!」とか口にするのも恥ずかしい言葉を連続して繰り返し、女体の海の中であたしの背がバネのように反り返る。
手の中の乳房を握り締め、指に触れる肉壁を押し込み、誰とも知れない胸へと顔をうずめてばらばらになりそうな体を必死にしがみつかせる。
「んあぁあああっ、あっ、いああぁあああああっ!! あたし、ああっ、イっちゃう、イっちゃう、イっちゃうぅぅぅ〜〜〜〜〜〜!!!」
肉壷の奥で、肉棒も何も受け入れていない膣肉が激しく蠢き、奥からあふれ出した濃厚な汁が搾り出されて股間から噴水のように放たれる。そして―――
「んぁあああああああああっ!!!」
ガクガクと全身が痙攣する最中、いつの間にか足の間から貝合わせをしていた女性の姿は消え、今度は別の女性が息を乱しながらヴァギナへ張り型をねじ込んできていた。
「今度は、わ・た・し♪ ふふふ…私のコレクションで、もっともっと感じさせてあげるからね……」
あたしが絶頂を迎えても、相手は十人以上いるのだ。当然、休む暇もなくあたしは弄ばれ……そして、
「あっ、あっ、あああっ……!!」
絶頂を迎えたばかりの体が挿入された擬似男根を食い締めて、一瞬強く硬直する。
愛されている……もしかすると、ここにいる全員に、あたしは愛されているのかもしれない……
錯覚かもしれない。けれど、あたしが知らなかったSEXで次々に新たな快感を味合わされるたびに、その強烈さに比例するようにその幻想はあたしの中で大きくなっていく。
「あっ……次…次の…人ぉ……♪」
あたしは動かなくなった体を、精一杯開いて迎え入れる。全部……あたしにされる気持ちのいいことを、全部……全部……
「気持ち…いいの……もっと…もっと気持ちよくして…気持ちよくなって……あたし…あたし…は、ぁぁぁ………♪」
柔らかい女体に囲まれて、かき混ぜられた意識が肉欲と蕩けあう。
そしてあたしは考える事をやめ、大浴場の真ん中で、いつまでも快感に身を震わせていた―――
「ああ……あたしはなんて事を……」
お肌はつるつる。芯までしっとり。……昼過ぎから日が暮れ、娼館の仕事が始まってもしばらくするまで浴場で「歓迎会」をされていたあたしは、疲れきった体をロビーを見渡せるに買いバルコニーの手すりへともたれかからせた。
「そうよねぇ……ルーミットとエッチしたらこんなに高いなんてぇ。今度はプライベートで楽しみましょうねぇ」
「え、遠慮しておきます……深みにはまっちゃいそうで……」
あんな目にもう一度あったら、まず間違いなく男に戻れなくなるだろう……そんな恐怖心から、介抱してくれた娼婦のお姉さんに何とか浮かべる事が出来た苦し紛れの笑みを向ける。
魔王になってから怪我の治りや体力の回復が早くなってはいるけれど、一時間経っても全身が気だるい。昨日までの疲れもあるけれど、十人の娼婦に入れ替わり立ち代り…と言うことは、この人たちのほうが魔王よりも怖いのかもしれない。―――エロ本なら確実に負けると思う。スケベだし。
それに……あたしもいろいろと考えさせられたし。
「やっぱり……あたしに娼婦なんて無理だったのかも……」
「あらあらぁ、いきなり黄昏れちゃってどうかしたのぉ? ルーミットは十分娼婦としてやっていけると思うけどぉ。可愛いしぃ、いい体してるしぃ、それに何よりエッチだしぃ。最後のが一番重要よねぇ。エッチが嫌いな娘に娼婦は勤まらないからぁ」
うっ……あたし、やっぱりエッチだったんだ……けど、いくらエッチだからって娼婦になれるとは…今はちょっと思えなくなっている。
「でも…あたし、みんなのようには出来ないから……」
視線を下に向ける。
ロビーは待合室もかねていて、男性客がソファーに座ったり柱にもたれたり、休憩中の娼婦の子と話したりしている。その中にあたしの姿を見つけ、手を振ってくれる人もいたので、あたしも軽く手を振りながら。少し重たい唇を開く。―――もしかすると誰かに聞いて欲しいのかもしれない。
「あたしがここに来たのって、お金が簡単に稼げるって、そんな軽い気持ちだったんです。そのときは自分から何かしなくちゃいけないって思ってたんだけど、お金がほしいならもっと別のアルバイトでも何でもすればよかったんだって…そう思っちゃって」
「それは娼婦がいやな仕事ってことぉ?」
その言葉を聞き、あたしは手すりに腰掛けるように背を向け、首を横へ振った。
「そうじゃなくて……「あたしでもできる」なんて、甘い考えだったって。だってそうでしょ。エッチするのはそれほど好きじゃないし、出来ればしたくないって思ってるし。お客さんが多いのだって、ほら、胸が大きいとか可愛いって言うだけで、あたしは別に触るのが上手かったり舐めるのが上手い訳じゃないんだから……う〜ん……」
こういうのは得意じゃないんだけど、頭の中で必死に言葉を選んで……
「―――失礼かなって」
「ん〜、いいんじゃなぁい? SEXが上手くても下手でもぉ、客が満足してればそれでさぁ。難しく考えすぎなのよぉ、ルーミットは」
「そう…かな……」
「そうそう。まぁ、言いたいことは分からないでもないけどぉ」
先生みたいだから恥ずかしいんだけど、そう前置きすると話を聞いてくれていた娼婦はあたしの横へと並び立ち、手すりに頬杖を突いて活気のあるロビーを見下ろした。
「娼館に来るお客はねぇ、お金を出して何を買ってくと思う?」
「そりゃ………エッチなサービス」
「言いよどんだので減点ねぇ。エッチなら家で奥さんや恋人にしてもらえばいいんだからぁ、お金を出してするほどのことじゃないでしょ?」
それもそうだ。あたしの言ったとおりなら、もてない人が大勢来そうなものだけど、客の中には妻帯者や名士っぽい人も大勢いる。そういうひとが普通にエッチする分には問題ないはずなんだから、ここに来るって事は……
「わかった。もっとスゴいサービス!」
「力んじゃやぁん♪ それじゃあ初心なルーミットに人気が集まるって言うのもおかしくない?」
「じゃ、じゃあ、えっと、奥さんとかがしてくれなさそうなもっともっとものすごい事…とか」
「具体的にはどんなのぉ?」
「だから、その……ああぁん、もう! あたしに分かるわけ、無いじゃないですか!」
「まだまだ経験不足よねぇ。そんなんじゃ一流の娼婦にはなれないわよぉ。んじゃ正解を教えてあげるぅ。――授業料は明日のお昼ご飯ねぇ」
授業料取るの!? ひ、ひどい…とほほ……
これでつまらない内容だったら授業料返還請求だ。そう考えながら耳を傾け続ける。
「ここに来るお客はねぇ、何かしら、満足したくてきてんのよぉ」
「満足?」
「そ。奥さんへの不満とかぁ、仕事でのストレスとかぁ、そーんなことを全部忘れて気持ちよくなるの。そうすれば、また明日も頑張るぞー、って気持ちになるでしょ?」
「そういう…ものなんですか?」
「そういうものよん、男ってぇ。―――かわいいでしょ?」
可愛い可愛くないは置いといて……う〜ん…そういうもんなのかな、あたしも……べ、別に男のときにエッチしたかったとか、そんな事を考えてるわけじゃないんだけど……今となっては分かりえない、壮大なミステリーって感じが……
「これはみんなが持ってるって考えじゃないわよぉ。どちらかと言うと、ここの娼館特有って感じがしないでもないわねぇ。けど、私みたいにアルバイトで娼婦やってるんじゃなくて、ちゃんとした専業娼婦なら誇りを持って娼婦をしてると思うわよぉ。体を磨き、芸を磨き。心を磨いてお客と向き合う仕事だものぉ」
「始めたばかりのあたしには、その「誇り」がないって事ですか?」
「ん〜…わかんなぁい。だって、そんなの分かるほど頭がよかったら別の仕事してるしぃ」
「………それ、さっき言ってた誇り云々と矛盾してるような……」
「だってぇ、私だってここに来たのってルーミットと似たようなもんだしぃ。あそこにいる娘のほとんどがそんなところよぉ」
ロビーにいる女の子たちは大勢とはいえないけれど、少ないともいえない。こういう商売だから可愛い子が多いけれど、その娘達の何人が好き好んでここにいるんだろうか……歳だって、あたしより年下も年上も様々。彼女たちに何か共通の「理由」を求めようとする事の方がいけないことなのかもしれない。
「始めてここに来る娘は色々よぉ。親の借金抱えてたり、旦那が働かないとか、当然エッチが好きでお金が欲しいって娘もいるけどぉ。ま、最初から娼婦の覚悟を持ってる娘なんていないと思うわよぉ」
「う〜ん…よく分かんないや」
「考えたって仕方ないわよねぇ。難しく考えずにアルバイト気分でやってればいいと思うわよぉ」
それが出来たら悩まずにすむんだけど……あたしの場合、事情が複雑だから……
お願いします。ここで働かせてください!
「―――ん?」
結局答えが出たような出てないような、微妙な感じで話が終えた時、足元から女の子の声が聞こえてきた。
体を回し、手すりから身を乗り出して下を覗くと、受付に立っていたミッちゃんに女の子が詰め寄っているのが見えた。
「あれ、あの娘……」
上からじゃよく分からないけれど、頭の左側で結い上げた髪型には見覚えがある。
「もしかして……あ、お話ありがとうございました。あたし、ちょっと見てきますから」
話を聞かせてもらった娼夫の女性にぺこりと頭を下げると、あたしは長いスカートを踏まないように注意しながら階段へと駆け出した。
「あれぇ…あの子、綾乃ちゃんじゃない」
背後から聞こえるその声は、急ぐあたしの耳にも届いていた。
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