第五章「休日」02
ミッちゃんとジャスミンさんに付き添われての買い物は思ったよりも時間がかかった。
武器と防具をジャスミンさんに選んでもらって結局「先日のお礼に…」とお金まで出してもらって買い揃える所まではスムーズに行ったものの、なぜかあたし用の服や下着を購入することになり、可愛さ重視のミッちゃんと実用性を重んじるジャスミンさんとで意見対立。自分の服の事だというのに話に割って入ることが出来ず、さりとてその場を離れることも出来なかったあたしはこめかみに汗をたらしながら苦笑いを浮かべるしかなかった。
まぁ…女の子が買い物に時間を掛けることは幼馴染との付き合いでよく知ってるし……体が女になってからのことを考えると、こういうのもどこか懐かしく感じてしまう……
そうして長い長い議論の末に、弁の立つジャスミンさんの意見が八割通る形で服を選び終わった時には時刻は既に正午を回っていた。するとそれまでぶつぶつと服のことを寝に持っていたミッちゃんは一転して明るい顔を取り戻すと「いいお店があるから♪」といい、あたし達を連れて大通りから逸れた裏道へと入って行った……
「たくやさ〜ん、お洗濯物持って来ました〜〜」
昼を過ぎ、神殿の受付業務が始まる少し前、めぐみは選択したての新しいベッドシーツとたくやの服を手にして、たくやがいるはずの部屋へとやってきた。
「……あれ? たくやさん……」
神官長の治癒の魔法で怪我は治ったけれど血を大量に流したたくやは一日安静にしているようにと言われて部屋で休んでいるはずなのだが、ベッドの上に姿はない。昨日の今日で何か事件に巻き込まれたのではないかとめぐみの胸に不安な気持ちが湧き上がるけれど、室内に揉み合った形跡など無いし、今日はクラウディア王女の静香も同じように休んでいるはずだ。
(大丈夫…もうあんなことが起きるはずないんだし……)
もしかするとトイレへ行っているだけなのかもしれない。けれど…と理由をつけて悪い方と向かいそうになった考えを振り払っためぐみは、それならたくやがいないうちにベッドのシーツを取り替えてしまおうと手にしたシーツを細い指で握り締めて部屋に足を踏み入れる。
この部屋はもともと空き部屋だったけれど、たくやが使い始めてから急に生活観が感じられるようになっていた。たくやの荷物はさして多くない。けれど、寝乱れたベッドのシーツやテーブルや椅子、そういった使われた家具の端々に見えるちょっとした変化と人の放つわずかな匂いとが住む人の個性を滲み出させているのだ。
(たくやさんの個性って……いろいろ大変だもんね。私も少しぐらいお手伝いしなきゃ)
メガネの隙間から上目で天井を見上げ、たくやの境遇や昨日の出来事を思い浮かべて「うん」と一言気合を入れる。
めぐみが神殿の僧侶となったのは、信心深いから、と言うわけではない。フジエーダの街で生まれ育った彼女は幼い頃から病弱で、何度も水の神殿で治療を受けてきた。そのため先代、そして今の神官長とは交流もあり、二人の勧めを受けて神職につく事を決意したのだ。
今の生活に不満は無い。神官長や先輩のミッちゃんにはよくしてもらっているし、誰かのためになる仕事にそれなりのやりがいも覚えている。――けれど、心のどこかでは外の世界に憧れているのかもしれない。そんな思いが、悩みながらも前を向こうと頑張っているたくやへと惹かれている理由なのかもしれない。
「………わ、私は別に、たくやさんのことはお友達だって思ってるだけで、そ…そんな……」
胸にシーツを抱きかかえ、めぐみの顔が急に赤くなっていく。湯気でも立ちそうなほど火照った頭を振って、一瞬浮かんだ「男のたくや」の払うと、数回深呼吸をして平静を取り戻す。それから胸の鼓動が収まるのを待ち、ベッドへと歩み寄るめぐみだが……その労力はシーツの上で丸まっている二つの物体を目にした途端、一気に無駄になった。
よほど寝返りをうったのだろう、シワだらけでごわごわになったシーツ。その色に溶け込むように白い下着が無造作に脱ぎ捨てられていた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
神殿内では新米のめぐみは他の女性僧侶の下着を洗うこともしばしばあるから見慣れていないという事は無い。けれどそれがたくやの物だと意識すると、その意識の仕方が妙な方向へと向かってしまう。
「あ……あの……お風呂に行かれたんで…で、でもここで脱ぐ必要は……」
強く握っていたシーツ洗濯物が足元へと落ちる。それに気づいてようやく我に帰ると、めぐみはチラチラと視線を送り、長い時間を掛けてようやく決意を固めると、胸と下腹部とを覆う二種類の下着を拾い上げる。
それを手にして思い出してしまうのは、先日の地下室での出来事だ。清めに来る女性の肌を幾度も目にしているはずなのに、あのような事をしてしまったせいか、たくやに触れた指先には冷たい水でも冷やしきれなかったたくやの肌のぬくもりが鮮明に残っている。
「こういう場合……ちゃんとお洗濯しておいたほうがいいですよね……」
何かに言い訳するように僧衣の隠しポケットへと汚れた下着を入れる。他意はない。本当に後で洗濯し、それからたくやに返そうと気を利かせているだけだ。
「………………」
それでもどこか罪悪感を覚えてしまい、無言のままベッドのシーツを新しいものへと取り替える。
(………たくやさんの匂い…)
「んっ……私…そんなつもりは……」
ぴんと張られたシーツの上に畳み直した洗濯物を置き、前のシーツを抱えると、どこか甘い香りが腕の中から漂ってくる。そんな他人のシーツの匂いを嗅ぐ行為に羞恥心を覚えながらも、めぐみは瞳を閉じてゆっくりとたくやの残り香を胸の奥に吸い込んでしまう。
「………こんなことして…どうしたんだろう……」
たくややミッちゃんに比べればはかない胸のふくらみにギュッとシーツを抱きしめためぐみは突如きびすを返す。まだ仕事は残っているし、洗濯もしないといけない。けれど部屋を出るその前に……テーブルの上に無造作に置かれ、開かれた色とりどりの箱へと目をとめてしまう。
空いた箱から覗いていたのは、純情なめぐみが思わず息を詰まらせて驚いてしまうほどの過激な下着だった。何度かミッちゃんに着てみないかと進められたことはあっても一度たりとも触れようとしなかった高級そうな下着……それだけならともかく、それがたくやの部屋にあるということが驚きだった。
「た、たくやさんだって女の子なんだから。下着ぐらいは……」
そう、下着ぐらいなら構わない。しかし、箱と一緒に包み紙やリボンが一緒に散らかっている事がなんとなく気になってしまう。
「これも片付けておいたほうがいいですよね……」
とりあえずシーツを置き、床にまで散らばった髪の切れ端や箱を拾い集め、下着を隠すように箱を閉じ、ごみと思われるものは屑篭へと捨てる。そして箱の大きさ別に並べて行くと、軽めの箱の中に一つだけ手ごたえのある重みを返してくるものがあった。
「?」
他人のものを勝手に開けたりするべきではないと思いつつも、どういうわけかその箱の中身が気になっためぐみは細く高い箱の上蓋を開く。
中に入っていたのはビンだった。南部域では有名な果実のワインだろうか、と思って取り出してみると、色ガラスで中身が見えないようになっているビンに貼られたラベルには見慣れない文字が並んでいた。それが魔法文字と呼ばれるもので、古い魔道書などに使われるものだという事ぐらいはめぐみでも知っているが、読むとなると話は変わってくる。
「えぇっと……魔法のお薬かしら……」
僧侶の嗜みとして先輩神官から教えを受けてはいるけれど、魔法の知識に触れる機会が一般人だっためぐみにそうそうあるわけが無い。まだ単語をいくつか読み取れるぐらい……なのだが、おそらくはワインか魔法薬の銘と思しき文字、その下に書かれた細かい字で書かれた文章の中から本の短い一文だけ意味を読み取ることができ、まるで何かに取り付かれたかのようにめぐみの目がその文字へと吸い寄せられる。
「これは……女性の魅力…高める………女性の魅力……女性の………」
―――どうやらミッちゃんは、最初からあたしをここへ連れてくるつもりだったらしい。
連れてこられたレストランは普通の住宅を改装したものだった。入り口には看板も無く、一見レストランとは分からないようなお店には二階の一室にテーブルが一つしかない、予約していなければ絶対に気軽に入れるような所ではなかった。
そこへ自分の家のように入っていくミッちゃんに続き、どこか新しい感じのする調度品で彩られた室内へと入ったあたしは、ジャスミンさんに簡単なテーブルマナーを教えてもらいながら、談笑を交えた楽しい昼食の時間をすごし……
「村の祭りが三ヶ月前!?」
驚きの声を上げるあたしに、ジャスミンさんは食後の紅茶に口をつけながら小さくうなづいた。
「ええ。アイハラン村の鎮霊祭には我が国からも使者を出しています。その使者に静香様を向かわせる話もあったのでよく覚えています」
「で、でもあたし、女になってからまだ半月も経ってないんですけど……」
「それは…未だ私にも信じられませんが、たくや様が女性になった事とは無関係だと思われます。アイハラン村からフジエーダ近辺までの距離を転移されたそうですが、それほどの長距離の転移、街一つを魔方陣としても到底為しえるものではありません。現在の魔法技術で不可能な以上、結論を出すことは出来ませんが……時間の概念をも含めた空間跳躍の可能性があります」
「………ごめん。よくわかんない」
「難しく考える必要はありません。人が移動するのに時間が必要なように、時間を掛けて空間跳躍を行った……つまり、場所だけではなく、時間も飛び越えたのです。――もっとも、たくや様にとって重要なのは三ヶ月過ぎていると言うことなので、理解する必要はさしてありませんが」
「それもそうね……三ヶ月、か……」
そんなに時間が経ってたら明日香とかおばさん、あたしの事を心配しっぱなしだろうなぁ……ここからじゃ手紙を出してもいつ着くかわかんないし……女になっちゃってる事もそうだけど、アイハラン村に着いたら着いたで遅くなりすぎたとかで明日香に殴られて……
「あぁ……村に帰ったら、確実に殺されそう……」
「なになに? なんか物騒なことを…あ〜、分かった。たくや君って…ふふふ、かわいい顔してるくせに、このぉ♪」
「?」
なぜか満面の笑みを浮かべ、向かいの席からひじを突き出し「このこの、色男」と言うミッちゃんの言っている意味がよく分からず、きょとんとして見つめ返してしまう。
「そうなんだぁ…たくや君、恋人が待ってるから男に戻りたいんだ」
「恋…人……………え、えええええええええっ!!?」
あ、明日香があたしの恋人!? 違う、違うって。明日香はあたしのことを男とも思ってないんだから!
「そうよねぇ…あたしだって彼氏がいて、急に女の子になっちゃったりしたらショックだもん。そこへ別の男の人が現れたりしたら、失意の底にあったあたしは…ああ、ダメ、だけど…ああ〜〜〜」
「み、ミッちゃん! 変な声上げて体をくねらせないで! それにあたし、恋人なんていないもん!」
この数日であたしのそっち方面への想像力も豊かになっていた。あたしが側にいない明日香が誰か村の男に……そんな事ありえるはずがないのに想像してしまったことへの罪悪感を払拭するかのようにあたしは声を荒げてしまう。
「まぁまぁ、落ち着いて。たとえばの話よ。それじゃあたしはデザートを持ってくるからちょっと待っててね〜♪」
「う〜〜……」
あたしの心の内など娼婦もしているミッちゃんには手に取るようにわかっているのだろう。からかうように笑みを残して立ち上がったミッちゃんはうめき声を上げるあたしに背を向けて廊下のほうへと出て行ってしまった。
「……おかしいですね」
「ホント。ミッちゃんってば意地悪なんだから…帰ってきたらとっちめてやる」
「そうではありません。なぜ、客であるはずの彼女がデザートを受け取りにいくのです? 今までの料理も全て給仕が運んできましたが」
「え…あ、そういえば……」
ジャスミンさんに言われるまで失念していたけれど、テーブルに並べられたお皿は全部ウエイトレスさんが運んできたものだ。こういった場所で食べる事など村ではまず無かったので、ミッちゃんが出て行ったことに何の疑問も抱いていなかった。
「―――気になりますね」
そう言って立ち上がったジャスミンさんは、室内にある扉――全部で三つあり、一つはあたしたちも通った廊下へ繋がる扉。残る二つのうちの一つへと歩み寄って開け放った。
「………お風呂?」
「そのようですね」
気になったのでジャスミンさんの後ろについて行き、開いた扉の向こうを覗いてみると、そこには白い陶器の浴槽があった。さすがにお湯は入れられていないけれど、湿気の多いフジエーダの街なら水蒸気を集める魔法球ですぐに水を集めることも出来るだろう。
もともと民家だったみたいだし、お風呂ぐらいは…と思っていると、ジャスミンさんはそれ以上中を調べようとはせず、きびすを返してもう一つの扉へと向かう。
あたしもそれに続き、先ほどと同じく隣の部屋を覗くと、こちらと同じぐらいの部屋に床を埋め尽くすような大きめのベッドと、小さいテーブルに一人がけのソファーが二脚置いてあり、ひと目で寝室だということが見て取れる。けど……
「レストランにお風呂と寝室……う〜ん…」
ひょっとするとここはレストランじゃなくて宿屋なのかもしれない。そう思わせるような部屋の構成に、あたしは頭を捻った。
「………変ですね」
「そうですよね……ミッちゃんもレストランだって言ってたのに、これじゃ宿の一室だから」
「そういう事ではありません。昼間は食事処として営業している宿はありますから。ですが…家具がまだ真新しい」
言われてみると確かに。食事をした場所も家具が新品ぽかったことにはあたしも気づいてたし。
「でもそれなら開店したてとか」
「この店は普通ならまず気づかないような場所にあります。看板もない、そんな隠れた店に私たちを招待した以上は彼女はここをよく知っていたことになります。私たちと違ってこの街に長く住む彼女の方が土地勘はあるとはいえ、質素な生活をしている僧侶たる者が……」
「あ、だけどミッちゃん―――」
娼婦だから…そう言おうとした口をつぐむ。基本的に娼婦のことは秘密にしていないといけない。ジャスミンさんにミッちゃんの副業をばらすと変な誤解を与えかねないし……
ジャスミンさんも現状では結論を出せないらしく、細いアゴに指を当てて思案に暮れている。……でも、なんていうかその…そういった表情と姿もスゴく綺麗なのよね……
「あれぇ? 二人とも、なにしてるの?」
ジャスミンさんに思わず見惚れていたあたしは、戻ってきたミッちゃんの声に背筋を震わせ、ようやく我へとかえる。
「べ、別に、何でも無いったら何でも無いから!」
いたずらしているのを見つかった子供のように、慌てて振り向き誤解を晴らすべく開いた手の平を左右に振る。が、
「少々腑に落ちない点がありましたので、部屋を調べていたのです。失礼をした事はお詫びします」
「ジャスミンさん、ちょっとはごまかしてよぉ〜〜〜!」
「礼に失する行為ですが、身の安全を確保する為には当然のことかと。……たくや様があまりに静香様に似ていたのでつい。申し訳ありません」
「気にしなくてもいいって。確かにここ、普通のレストランじゃないもん」
慌てふためくあたしと頭を下げるジャスミンさんを前にして、ミッちゃんはさらりとあたしたちが疑問に思っていたことに答えてしまう。
「実は二人にはさ、開店前にお店の具合を体験してもらおうと思って。ごめん、事情を話すと素直な反応がもらえないと思ったから」
「そうなんだ……もう、なんか変なこと考えちゃったじゃない」
「あはははは、だからごめんって。まぁ、お詫びって言うわけじゃないけど、二人にはこの店の最高のデザートをご馳走しちゃうから」
「………デザートと言うのは、そちらの少年たちですか?」
「へ…少年?」
ジャスミンさんの視線は笑顔でぽりぽり頭を掻くミッちゃんではなく、彼女の背後へと向かっていた。その視線を追うと――
「………んなっ!?」
全裸にエプロン……肌の大部分を露出した小さな男の子が、あたしの視線の気づいて恥ずかしそうにモジモジとしていた。
しかも……六人。年端も行かない可愛らしい少年が、食事をしていたテーブルの前で横一列に並んであたしたちの方を向いていた。
「そうですか……ここは娼館ですね?」
「さっすがジャスミンさん。飲み込み早くて説明の手間が省けるわ。―――そう、ここはフジエーダの娼館二号店! ただいま出展許可申請中! 美女と美少女にかわい〜男の子を紹介しちゃう男娼の店、その名も……白薔薇の園ぉ!!」
「へ? へ? へ?」
娼館? 男娼? 白薔薇? い、いったいなにがどうなってるのよぉ!?
「そういうわけで二人には当店のフルコースをご体験……と、言いたいんだけど、この子達、まだ女の子とエッチした事が無いのよねぇ。それでちょっと困ってて……」
「あの…ミッちゃん、ちょっと聞いていいかな?」
「あたしが筆おろししてあげてもいいんだけど、この子達とはちょっと訳ありで、あたしもエッチしにくいのよ……そこでさ」
あう、無視された……
「私たちに彼らの初体験の相手をしろ…と言うのですね、あなたは」
「そそ。こういうのは最初に年上の、それも飛びっきりの相手にしてもらえれば最高でしょ。だからジャスミンさんにも来て貰ったんだけどさ…嫌ならいいんだけど。その分たくや君一人に頑張ってもらうし♪」
「あ、あたしに拒否権は!?」
「ナッシング。たくや君、ファイト♪」
「そんなぁ…とほほ…なんかジャスミンさんのおまけみたいな扱いの上に、男の子と……あうううう……」
「あの…僕たちじゃ、いけませんか?」
「ん?」
なんかどうにもこうにも散々な状況に嘆き俯いていたあたしは側から聞こえた男の子の、どこか中性的な感じを覚える美しい声に呼びかけられて顔を上げた。
六人の少年の内、最も細身で髪も長く、少女がそこに立っているのではないかと一瞬思ってしまうほど整った顔立ちをした子が両手を胸の前で組み、訴えかけるような瞳であたしを見上げていた。
「…い、いやって言うか…そういうんじゃないんだけど……」
かわいい……エプロンで股間の前しか隠していないので、白い肌が露わになっている平らな胸を見ればこの子が男だというのは誰にでもわかるはずなのに、あたしの胸はなぜか女の子を前にしたようにドキドキと大きく脈を打っている。
この子が可愛くないというわけじゃない。あたしが男のままだとしても、こんなうるうるとした瞳で見つめられたら家に泊めて世話を焼くぐらいの事はしたかもしれないけれど……あたしの胸にこみ上げる今の気持ちは、それとはちょっと違うものなのかもしれない……
「僕…まだ娼婦の資格をもらえていませんけど、精一杯ご奉仕させていただきます。だから……あの…僕の始めてを……その………」
「あ…い、いやいやいや、その前に大問題があるでしょ。ミッちゃん!」
なにが楽しいのか、半泣きの男に詰め寄られて慌てふためくあたしをニヤニヤと見つめているミッちゃんへと鋭い眼差しを向ける。
「この子達にちゃんと説明してよ。あたしが男だって!」
「そのことならもう聞いています」
あたしの言葉に答えるように歩み出たのは六人の中で最も背が高い――それでもあたしよりは低く、身長が高いことでかえってスラリとした手足を強調している、どこか彫像のような美しさを持った少年だった。
「……説明するのが苦手で…これ、見てください」
一番の年上なのだろう、出てきたのはいいけどそれから何も言えなくなってしまった男の子は、一度だけ肩越しに後ろを振り向いて小さくうなずく。それから唇を噛み締めて恥ずかしさに耐えると……底に並ぶ五人全員が一斉に唯一の性器を隠す衣服である白いエプロンを捲くり、ペ○スと呼ぶには幼すぎるモノをあたしとジャスミンさんにさらけ出した。
「まぁ……これは素敵な光景ですこと」
「ジャスミンさん、なに言ってるのよぉ〜〜!! ほら、さっきみたいに理論武装でこの子達を説得してよ。あたしじゃなくて、他の女の子にしなさいって」
「―――私は別にかまいませんわ。どなたが相手してくださるのかしら?」
「ジャ……ジャズミンざ〜〜〜ん!!!」
ジャスミンさんはあたしの味方だと思っていたのに、少年たちのペ○スを瞳をとろかせてじっくりと見回すと、その視線に応じるように一人の少年がジャスミンさんの側へと近寄って行く。
「あなたたちは私でいいのかしら?」
「僕は…年上の女性のほうが……」
「ふふふ……そんなに私、老けてるように見えるの?」
「そんなことは。とても魅力的で、僕がお相手していいものか…んっ!!」
うわ…ジャスミンさん、いきなり男の子にキスを……あたしもされてみたいなぁ……
言葉を返していた少年をいきなり抱きしめたジャスミンさんは上を向かせた男の子の唇に自分の唇を押し当てる。そしてなめかましく鼻から息を漏らすと、ピチャピチャと舌を絡み合わせる音を響かせる唇の触れ合う場所から首にまで伝い落ちるほど大量の唾液をあふれ出させると、それを拭おうとする腕を押さえ込んでそのままエプロンの中へと手を差し込み、さきほど目の当たりにした幼いペ○スを弄び始める。
「んんんっ! ふぅんっふぅぅぅん!! んむぅ、んっ…んぐううううううっ!!!」
「まだ触れただけよ。娼夫になりたいのなら私の手でイってはダメ。さぁ…」
「だって、だってそんな、ん、んん―――ッ!!! んっ!? んむうううっ!!!」
手の平に包み込んでしまえそうな小さなおチ○チンをどのように弄ばれているのだろうか……エプロンの中は見えないけれど、息を乱し、ジャスミンさんの腕の中で必死に身をよじる男の子を見ていると……
「あっ……」
どうしよう……あたしもなんだか…興奮…してきちゃった……もう愛液が……
出かける直前まで一人エッチをしていて、まだ昨日の媚薬が抜けきっていない体は、他人が行うエッチを目の当たりにしただけで火照りあがってしまう。ジャスミンさんの巧みな手指に追い詰められていく少年に自分の姿を重ね、肉棒の代わりに想像した指先になでられただけでヒクリと蠢いた股間の膨らみへ意識を集中させると、全身に汗が噴出すように放漫な女の体が熱くなっていった。
「はうぅ……」
あたしの胸に巻けず劣らず豊満なジャスミンさんの胸……唇を離し、必死に喘ぎを押し殺して快感を耐えようとする少年はブラウスに包まれたそのふくらみに顔をうずめると、膝をキュッと閉じ合わせ、ガクガクと全身を震わせて――
「ごめんなさい…僕…ダメです…イっちゃいます、イっちゃいますぅ!!」
腰を突き出した動きに合わせて、エプロンが白羽の様に舞い上がる。そしてジャスミンさんの手に包まれたおチ○チンの先端を覗かせると、斜め上を向いた先端から白い液体を放物線を描くように打ち出した。
―――スゴい……あんなに……
あたしはその光景を身じろぎさえせずにじっと見つめていた。
男が射精するところを見たのはほとんど初めてだ。けれどそのこととはまったく関係ない、衝動とさえいえるような感覚に身を振るわせてしまう。
あんなの…あんなの見せられたらあたし……
室内は外より涼しいぐらいなのに、あたしの頭は熱に浮かされたようにぼうっと暑くなっていた。
ミッちゃんに吐かされた下着は今までの食い込みが激しかった布地とは異なり、まるで優しく撫でられている様な感触を疼き続ける地球のふくらみへと送り返す。胸も同様だ。大きなふくらみが脈打つたびに、滑るように乳首がシルクのブラと擦れあい、そのくすぐったさに軽く身をよじると、暴れそうになる体を必死に腕で押さえつける。
「あ…あの……」
誰かが体を固くするあたしの服を引っ張る。――傍に来ていた少年だ。
「僕のおチ○チンも…見てください」
「!?」
そ、そんなのを今見せられたら……あたし、どうにかなっちゃうよぉ……
ジャスミンさんの少年なぶりを見ているうちにあたしの中でなにか「女の子」のようなスイッチが入ってしまったようで、体の大きさに比例して先端まで皮に包まれているおチ○チンを見た瞬間、あたしは口の中にたまった大量の唾液をごくりと音を立てて飲み干してしまう。
「ふふ〜ん、期待の新星ルーミット、少年の色香に敗れちゃう!……ってとこ?」
「ミッ…ミッちゃん! いい加減にしないと、あたし怒るからね!」
「まぁまぁ。減るもんじゃないんだから、そんな深く考えないで。それじゃグループ分けするよ。ルーミットとジャスミンさん、童貞捨てたい相手の方に移動してね〜〜」
もう……あたし、本当に知らないんだからね!
―――六人のうち四人。
ジャスミンさんの方へと行った二人の少年は、当のジャスミンさんと連れ立って浴室へと行ってしまい、ミッちゃんも片づけをすると言って食器を持って出て行った。
残されたのは……あたしと、四人の男の子。
どうすればいいか分からない……第一、筆おろしをしろって言われたって、それがどういう事なのかさえいまいち理解できていないのだ。
だけど、あたしは―――
「………………」
言葉を発さないまま、寝室へと足を踏み入れる。そして後ろに続く少年たちを引き連れて全員が上がってもまだ余裕のあるほど大きなベッドの上に座り込み、あたしを取り囲む男の子たちを見回して、ドクドクと胸を高鳴らせていた――
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