第五章「休日」01
「あっ……胸が…ものすごく固くなってる……」
ベッドの上に女の子らしく内股を閉じ合わせて座り込んだあたしは、眠りを妨げた胸のジンジンとする疼きをなだめるように乳房のふくらみへ手を這わせ、その弾力に軽い驚きを覚えていた。
今までよりも大きくて重い……女の体になって一週間ほどだというのに、膨らみを持ち上げる手の平には以前よりも確かな手ごたえを感じる。それを何度か指先で弾ませてからほんの少しだけ力を加えると、呼吸をするだけでジィン…と痺れる乳房は今にも張り裂けそうなほどに張り詰めていて、わずかな痛みさえ覚えてしまうほどだ。
「………ふぅ。あたし、何やってるんだろ……自分の胸なんか触っちゃって……」
手の平全体を使い、固さを揉み解すように手を動かしながら幾度か震える呼気を吐き出すと、あたしはかぶりを振り、ベッドに仰向けに倒れこんだ。
――本当なら寝ていないといけないはずだ。つい昨日、あたしは静香さんを助けるために大怪我を負い、神官長やめぐみちゃんにヒーリングをかけられながら大急ぎで神殿へと運び込まれた。……それで終わりだ。
「う〜ん…魔王になったって言われたときからスゴく怪我の直りが早いのよね……」
自分で切った腕の傷も、今はもう跡形も無い。目を凝らして見てようやく一本の筋が見えるほどで、痛みも違和感も無く、指を動かすことも出来る。見えはしないけど頭の怪我も同じだろう。あたしが思っているよりも深かったらしいけど、ヒーリングの魔法で瞬く間に塞がったそうだ。
あたしにすれば健康状態に一切問題のないように感じられる。けれど大事を取って今日一日は部屋でゆっくり休んでいるように言われたんだけど……
「暇……ねぇ……」
本も無い、やる事も無いのがこんなに暇だなんて思いもしなかった。昨日までが忙しすぎ、今まで本の中でしか知らなかったような行動をとった事が、こののんびりとした時間を退屈だと考えさせているのだろうか……けど、
「んっ……」
あたしは未だに見ることにも触れることにも抵抗のある乳房を両手でゆっくりと揉み上げる。
「ぅ…熱い……胸がこんなに……」
シャツの上から触れても、胸の膨らみがかなり熱を帯びているのが分かる。きっと男に滴らされた媚薬が残っているに違いない……そう体の火照りの原因を理解しても、手の平に余る膨らみを揉みしだく動きを止められなかった。
「………誰もいないんだし……ブラぐらいはずしたって……」
こういうときは紐で結んだだけの下着は脱ぐのが楽だ。首の後ろと背赤に順番に手を伸ばして服の上から結び目を解くと、ぬくもりが移って暖かくなった小さな布切れを襟元から引き抜いた。
「……………」
なんだろう……自分がが着ていたものに…スゴくいい匂いが……
「すごく…変態っぽいけど……」
自分のブラを鼻に押し付ける。そして胸いっぱいに自分の香りを嗅いだあたしはうっとりとため息を突きながら、自分の取った行動の恥ずかしさに俯き、それでも手の平を乳房に当てる。
「はあぁぁぁ……」
声…漏れちゃう。だめ、誰か来たら…見られちゃうぅ……!!
まだ時間も正午を過ぎてない。この寄宿舎で生活している僧侶や神官の人たちはあわただしく働いているだろうけれど、それでも誰があたしを見舞いにやってくるか分かりはしない。……そこまで分かっているのに、下着を抜き取り、渦胃シャツ一枚越しに手指の官職が乳房に触れると、あたしは背筋をゾクゾクと震わせながら体を折り曲げ、横に寝返り打ちながらキュッと太股を閉じ合わせた。
「あっ……あっ…ああぁん……」
ずいぶんと聞き慣れた女の声が信じられないぐらいに震えている。胸に触れるだけで体を弾ませ、指を広げてグイッと揉み上げると、根元から先端に向かって鋭く歓喜の痙攣が駆け巡り、服を押し上げ形がくっきり浮かび上がるほどに乳首も乳房も固く張り詰めてあたしの指を押し返そうとする。
なんで…こんなに気持ちがいいのよ……あたし…男の子なのに……どうして………きゃうん!! さ、先っぽ…疼いちゃう、疼いちゃうぅ!!
指が触れたのはほんの偶然に過ぎないけれど、それはあたしに新たな快感を教えるのに十分すぎる出来事だ。散々男たちにいじられる対象になってきた胸の先端を服の上から涙目で見つめたあたしは、荒い呼吸を唾と一緒に喉の奥へと飲み込み、軽く目を伏せると、小さな突起を指先でつまみあげた。
「んんんんうっ!!!」
こ、これってば気持ちがよすぎるぅ!!
緊張のし過ぎで力が入り過ぎてしまった指先は乳首を押しつぶすようにはさみ上げていた。その手を慌てて離したあたしは、それでも何度か仰向けになって腰を浮かせてベッドの上で身をくねらせると、何度も鼻を鳴らして快感が通り過ぎて行くのを待ち続けた。
「………胸って…こんなに感じちゃうんだ……」
ほう…と熱い息を吐き出して汗のにじんだ額に手を当てる。
深呼吸を繰り返すうちに胸の鼓動も少しずつ緩やかになって行く。けれど乳房全体に広がっている狂おしいほどの疼きはますます激しくなる一方で、気を抜けばあたしが着るには大きすぎるはずの男物のシャツでさえ張り裂けてしまいそうなほど大きく張り詰め、呼吸に合わせて緩やかに上下するふくらみを揉みしだいてしまいたい衝動に駆られてしまう。
「別に……悪いことじゃないよね……触るぐらいなら……」
だけど…しちゃいけないような気がする……痛い位に胸が張ってるのに……
上を向いてもほとんど形が崩れることの無い乳房を見下ろし、そっと、あたしは指先を先っぽに触れさせる。
「ううぅん……っ!」
甘い声があたしの唇から漏れる。……それが感じている証拠だというのは、いくらあたしだって分かってしまう。
「……………」
こんなことをしちゃいけない。寝よう。寝て何もかも忘れちゃえば……
でも目を瞑っても一向に眠気はやってきはしない。それどころかどんなに強く目を瞑っても、心臓の鼓動に合わせて痙攣する乳房を押さえ込むことは出来ず、何もしていないのに太股の付け根からクチュ…クチュ…とみだらな水音を響き始めてしまう。
「………このままだと…ズボンとか濡れちゃうかな……」
部屋の中に誰もいないのに…まるで自分に聞かせるようにポツリとつぶやくと、あたしは腰を浮かせて短パンをヒップラインに滑らせるようにして脱ぎ、足をもぞ付かせてベッドの下へと蹴り落とした。
そして露わになったのは、股間に張り付くぐらいに愛液を吸った小さな布地だった。腰の左右で結ばれた紐に引っ張られてお尻の谷間と恥丘の左右にクイッと食い込んだ下着は胸同様に熱気を帯びた股間のふくらみをよじり上げて、どれほど股間を膨らませているかを強烈に際立たせている。
「………あたしの体って……スゴくエッチ……」
こんなに濡れちゃって……今まで無理やりされてきて…それで痛くならないように濡れてるって思ってたのに………もしかして、男の人としたいって…どこかで思ってるのかな……
「んっ……」
不意に重たい衝撃がヴァギナを貫いた。何度も男のモノにかき回された膣内とそのさらに奥深い場所が勝手に収縮し、あたしはシーツを掴んでほとんどむき出しになっているヒップをベッドの上でくねらせた。
ダメェ…そんなに疼いたら……あたしまた…あの時みたいになっちゃうぅ……
唇を噛み締めたあたしは、伏せたまぶたの裏に忌まわしい記憶を思い描いていた。
暗い森で女の「初めて」を奪われ…目隠しされて何人何十人もの男たちに弄ばれ…昨日も、媚薬をそそがれただけで恥じらいも何もかもかなぐり捨てて放尿し、それ以上に恥ずかしい液体まで迸らせて……
「あの時のおしっこ……ものすごく熱かった……」
湯気立つほどに煮えたぎった小水が尿道を駆け抜け、一気にほとばしった感覚が股間を襲う。
「ん…んんっ……!!」
か…考えちゃダメッ!………我慢…出来なくなっちゃうじゃない……
けれど体の火照りはどんなに歯を食いしばっても一向に引く気配を見せない。震える脚をよじり合わせるたびにジィ〜ンとする甘美な痺れが下半身に広がって行き、甘い快感に身をよじれば下着の中でヒクヒクと震えていた陰唇からねっとりとした愛液が滲み出してくる。
それでもあたしは必死に快感を押し殺した。胸と同じように手でひと撫ですれば……きっと、男たちに抱かれた記憶を思い出しながら濡れそぼった割れ目を掻き毟ってしまいそうで、そのことが…スゴく、恐い……
「男なんか……男になんか……」
禁断症状で震えるように、下半身を露出したあたしの体はベッドの上で白い肌をよじらせる。けれどそうすると、たっぷりと愛液をたたえたおマ○コの中がこすれあってグチャ…グチャ…と耳をふさぎたくなるほどいやらしい音を体内に響かせながら粘つく愛液をさらに濃密にするように掻きまぜ、あたしが男の時では信じられないぐらいにたわわに膨らんだ乳房が右に左に、重たげにその身を震わせる。
「あたしが男のとき……か」
もし……今のあたしが男のあたしの前に現れたら……どうなるだろ……
男のことなど思い出すまいと耐え続けていたあたしは、たった一人…嫌悪感を抱けない男の存在を思い出した。
そう…あたし自身、だ。
「はぁ……はぁ………あたし…なに考えてるのよ……」
あたしの身体が魅力的なのは十分分かっている。大きくて張りのある乳房と引き締まったウエスト、そして昔からコンプレックスを感じていた幼さのある表情は女の子になった途端に可愛らしさが際立って違和感がなくなってしまっている。
「………………」
きっと…あたしだったら何も話せなくなって……でも目が離せずに…胸とか…こことか……
「んっ……ああぁ……」
手が…勝手に動いちゃうぅ……ハァァ……濡れてる…あたしのおマ○コが、スゴく濡れて……ひゃあん!!
右手を乳房に、そして左手を股間に……ありえるはずの無い、自分自身からの視線を意識しながらあたしの手はゆっくりと熱を帯びた場所に衣服の上から軽く触れるけれど、それだけで全身に震えが走り、もう下着としての用を果たしていない布地から暖かい液体が滲み出してくる。
「だ、だめなの…本当に…あたし…こんなことをしちゃったら……んんんっ!!」
けれどあたしの手は動きを止めるどころか……さらに強く、あたしの乳房に食い込み、下着に浮かび上がった秘書の縦筋に指の腹を押し込んで上下にゆっくりと擦り上げ始める。
「ど、どうしよう…乳首がこんなに大きくなって…クリトリスも……ぼ…勃起…してる……」
無意識に覚えたばかりの淫語を使い、羞恥心と興奮とを高ぶらせたあたしはパンパンに張ってもまれることを渇望していた乳房を根元から先端に向けて揉み上げて行く。
「あふぅ…! おっぱいが…スゴい……乳首がビリビリしてるぅ……」
はぁぁ…声が出ちゃう……胸…自分で触って、こんなに気持ちいいなんて……し、信じられない…!!
乳首に押し上げられた血液が流れ込んで行く。すでに限界まで大きく固くなっていたはずの乳首はそれ以上膨らむことは出来ないのに先ほどよりも疼きが激しくなり、吸ってと言わんばかりに布地を突き上げている。
「す…吸われ…ちゃうんだ………あ、あたし…おっぱい……吸って…欲しい…………ああああ、もうだめ、我慢できない!」
シャツの締め付けに耐えられなくなったあたしは片手で強引に服を胸の上までまくり上げ、白い乳房を露出させる。そして丸々と盛り上がった乳房に右手をあてがうと、自分で吸い上げているところを想像しながら、指の先ほどもありそうなぐらいに勃起した乳首を捻り上げる。
「んああああああぁぁぁ―――!! 乳首が、乳首がスゴいぃ!! あたしの、おっぱいが、んんんんんっ!!!」
今にも母乳を噴射しそうなほど尖りきった乳首を指の腹で扱く。その快感だけで意識の糸が何本かはじけ飛んでしまったあたしは、どんな男にもされたことが無いぐらい自分の乳房を強烈に握り締め、指の間から柔肉をはみ出させながら乱暴に揉みしだいた。
「ああ、あああああ〜〜〜〜!!! おっぱいが、おっぱいがはじけちゃうぅん!! おっぱいも、先っぽも、スゴい、スゴいぃぃぃ!!」
ベッドの上で我を忘れて身をよじったあたしは乳房を突き出し、握りつぶしてしまうほどタップリと揉みしだく。そして指先で突出した乳首を押し込んでぐりぐりとこね回すと、反対の乳房へと手を移して爪が食い込みほど張り詰めた丸みを圧迫してひしゃげさせる。
「ひゃああああああっ!! だめ、旨ばっかりそんなにされたら、あたし、あたしぃぃぃ!!」
どうして…どうして創造の中のあたしは胸ばっかりいじるのよ。……スケベ、スケベでも…いい。いいからお願い、アソコも……あたしのおマ○コも………っ!!!
あたしの手はあたしの意志では動かなくなっていた。全部想像の中のあたし…拓也のものになったように、必死に懇願した末にようやく左の腰の紐を解き、右の太股に下着を纏わり付かせたまま秘所を露出させる。
そこはもう大洪水だった。あたしの指は愛液で濡れまみれているそこをいとおしそうに撫で回すと、ぱっくりと開いた割れ目に指を滑らせて愛液を掻きとって、空気に触れるだけで息がつまるほどに充血して敏感になったクリトリスにそれをまぶすように塗り付ける。
「あああ、ああああああっ、あっ―――――――ッ!!!」
太股どころか腰まで痙攣させながらあたしの指はクリトリスを揉みしだいた。揉めば揉むほど大きくなる敏感な小豆を皮から露出させ、男を絶頂に導くように根元から先端に向けてひと扱きすると、あたしの体は射精する代わりにヒクつく膣口からドプッと濃厚な蜜を吐き出してしまう。
「だめ……もう…これ以上は……しちゃ……んんんっ!!!」
左手がクリトリスを摘んだままヘソの方へと移動すると、開いたスペースに乳房を揉みしだいていた右手が滑り込む。
「い…入れるんだ……」
腰に震えが走る。
緊張と興奮でカラカラに渇いた喉に唾液を流し込んだあたしは涙のにじんだ瞳をうっすらと開いた。………そこに男のあたしの姿は当然無く……あたしは男の幻影ではなく自分の欲するままに、股間に右手の指を押し込んだ。
「くぅ…ああああああああああっ!!!」
直後、今まで溜め込んでいた快感が一気に噴出し、あたしは一気に絶頂へと押し上げられてしまう。
「ああん、ああああっ! 気持ちいいのぉ、自分でしてるのに…ふあああああっ!! あたし、あふ、あふぁ、と、とまらないぃぃぃ〜〜〜!!!」
Mの字に開脚し、露わにした股の間に右手を押し込み、クリトリスを摘みの様にクリクリと捻り上げるたびに、あたしの頭がドロドロに蕩けてゆく。涙と涎と、もう流せるものは何でも流して熱くぬるぬるとした膣内に指を突きいれ、ベッドの上で張り詰めたヒップを何度もバウンドさせてよがり声を上げる。
「ああっ、あっ、ああああっ!!」
指先をねじ入れるたびに子宮の奥から愛液が噴出してくる。匂いがキツく、粘り気の強いそれをかき混ぜながら圧力を増した膣穴を指で蹂躙したあたしは、いきなりうつぶせに体を回転させると、胸の先端をシーツへ擦り付け、腰を左右に揺らしながら指を使い続ける。
こんな格好で…こんな恥ずかしいことして……だけど感じちゃって…とまらないよぉ………!!
「ハァ、ハァ、ハァ…もう…あたし……」
あふれ出た愛液が指を伝い手の平に集まってくる。それを股間のふくらみに叩きつけて飛び散らせる。
「あっ……!」
おマ○コが指を欲しがっている……腰が勝手にヒクついて右手に自ら擦り寄ると、喜びに打ち震えた子宮が音を立てて収縮し、割れ目からブシャッと愛液が噴出した。
「あたし、また…恥ずかしいっ…!」
枕に赤く染まった顔を押し付け、悲鳴とも喘ぎと持つか無い声を押し殺したあたしは、二度三度と収縮を繰り返し、軽い潮噴きを続けるヴァギナの肉壁を指でなぞり、充血した膣肉を激しく摩擦する。
―――ブシャ
「んっ…うううっ……!!」
あたしったら…ダメなのに、こんなに恥ずかしいことしたくないのに……!!
けれどあたしの指はさらに動きを速めていく。太股がムンッと張り、愛液の滴る秘孔にただまっすぐ入れるのではなく円を描き、上下に振り、そんな自分の指の動きに恥ずかしさを感じるたびに興奮を覚えて身を震わせると、
―――ツンッ
「ひっ!!?」
指を根元まで入れた瞬間、おマ○コの奥で何かに指先が触れる。背を反らせて顔を跳ね上げ、見事に突出した乳首がシーツに引っかかる。
………イ…イっちゃう……イっちゃうぅぅぅ………!!!!!」
「―――――! ――――――――ッ!!!!」
声を出しちゃいけない。最後の最後で働いた理性は飛び込むように顔をベッドへと押し付けさせ、絶頂の叫びを何とかかき消すけれど、おマ○コの方はそうもいかない。ぽたぽたと愛液をベッドへ滴らせ、体の中で快感をはじけさせ、あたしは両手を淫裂にあてがったまま声にならない声を迸らせた。
「―――――…んっ……んんんんっ……」
や……やっちゃった………あたし自分の手で…最後まで……
何度か体を震わせていくうちに、全身から力が抜け落ち、あたしはベッドに横向きに倒れこんだ。
「ふぅ……んっ…スゴ…い………はぁ……」
長い長いため息を突きながら、今の今までヴァギナに突きいれていた手を自分の前にかざす。
………こんなに濡れちゃって……どうしよう……下着もシーツも汚れちゃった………ばれないように洗濯しなくちゃ……
達した直後、不意に襲われた現実感で我に返ると、指や下着どころかベッドまで愛液でビショビショだ。日中の暑さならこのまま放っておいても乾いてしまうだろうけれど、立ち上る匂いはかなり濃密で、知る人が嗅げばあたしが何をしていたのか思いっきりばれてしまう。
「ああぁ……何とかしなくちゃ……」
「しょうがないわね。ほら、ベッドから降りて。あたしが洗濯してきてあげるから、たくやくんはここで待ってて」
「うん…………」
と、ボンヤリ返事をしてから数秒。
「………へ?」
「それにしても激しかったよね。たくや君ていつもあんなオナニーしてるの? そりゃ男の子なんだから女の子の体に興味はあるだろうけど、大怪我した次の日にアレはちょっとねぇ」
「え………えっと」
先ほどまでの体の熱はどこへやら、あたしの体は一気に凍り付いてしまう。
「ああ…あの…えっと…だれ?」
筋肉が緊縮するあまり、ギギギと強引に首を動かし、声の聞こえてきたテーブルの方へと顔を向ける。
「はぁい。ノックしても返事が無いから入ってきちゃった♪」
な……なんでミッちゃんがここにいるのよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
椅子に腰掛け、こっちに手を降っているのは二本の三つ編みと可愛い八重歯がトレードマークのミッちゃんだった。その姿を確認した途端、あたしはベッドから跳ね起きるとシャツを引っ張り下ろして乳房を覆い隠し、乱れたベッドのシーツを引き寄せて体に巻きつけた。
「そんなに慌てる必要ないじゃない。あたしたち、地下の清めの場でもう体の隅々まで晒しあったんだし、娼館のお仕事でもっとスゴい場面を見てるんだしさ」
「んなの恥ずかしいに決まってるでしょうが! 見ないで、見ちゃダメ〜〜!! って、なんでミッちゃんがここにいるのよ!?」
「ふっふ〜ん、ちょっとね。たくや君にプレゼントを持ってきてあげたの」
プレゼントって……それ?
下着は濡れすぎてる。これをこのまま恥ずかしくて気持ちが悪いので、シーツの中でこっそり紐を解き、代わりにシーツと一緒に引き寄せたズボンをごそごそと履きながら視線をテーブルの上へと目を向けると、朝から神官長に連れて行かれた魔王の本の代わりにいくつか箱が積み上げられていた。
「なにそれ?」
「決まってるじゃない。たくや君の娼婦レベルが一気に上がったから、娼館のほうからプレゼントが出たの。ほらほら、新しい下着。濡れたばかりだからちょうどいいでしょ?」
「あうっ……」
そう言ってミッちゃんは小さな箱の一つを開けると、中から取り出したものに指を引っ掛けて左右へと広げる。
「な、なに、えええっ!?」
「スゴいでしょ、このビキニショーツ。股間のところの食い込みと来たらたくや君のふんどし紐パンにだって負けないんだから」
「で、でもそれ、ものすごく布地が……」
ハイレグとかどうこう言う前に、それほとんど紐じゃない。そりゃあたしが履いてるのはもっとスゴいけど…でも前の部分だって小さな三角があるぐらいで、後ろも結構スゴいことになっちゃってるんだけど……
「うん、まぁ、これはDに昇格したときのだもんね。えも悩殺率は高いんだけどな。――で、本命はこっち。ふっふっふ…じゃ〜ん、最高級下着セットぉ♪」
なにが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべてミッちゃんは次の箱をパカッと開ける。……と、まるで宝石をあしらってあるかのように美しく輝く白い下着が現れた。
「極上シルクで履き心地も抜群。細かく手作業で施された装飾は女の子の魅力アップ間違いなし! これでたくや君はうちの店のナンバー1ゲットよ!」
「ちょっと待ったぁ!! な、なんとなく高そうなのは分かるんだけど……股間の部分がうっすらと透けてるような……」
「さっすがたくや君。目の付け所が違うわね。これはね……」
「いや、いい、聞きたくないったら聞きたくない! どうせまた魅力アップとかそういうつもりなんでしょ! あたしいらない、そんな下着いらないからね!」
「そんな我侭聞けません」
どこが我侭なのよ〜〜! 男のあたしに魅力がどうとか言われたって……やだ、ミッちゃんが不吉な笑みで近づいてくるぅ〜〜〜!!
「たくや君さぁ、お客の前で裸で出れば娼婦だとでも思ってるの? だめ、そんなんじゃダメダメよ。お客様に最高のひと時をご提供するには身だしなみにも気合入れなきゃダメなの。っていうわけで……」
「そ、その目は……冗談、だよね?」
「ううん。本気と書いてマジと読むの♪」
「………やだあああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「観念してお姉さんに任せなさい。ほらほらほらぁ♪ 一口飲むだけで男をめろめろにしちゃうぐらい魅力的になれちゃう薬もあるし、やっぱり装飾品も大事よね。たくや君は色気はあるけど飾り気が無いからその辺から責めてみよっか」
「いや、やめて、ご無体な、後生だから堪忍してぇぇぇ!!!」
―――なんていう攻防がベッドの上で十数分。
「うっうっうっ……ついに踏み越えちゃいけない一線を…ううう〜〜〜……」
ミッちゃんの言葉どおり、今まで身に着けていたお手製下着とは比べ物にならない着心地のよさと締め付けの白い下着に身を包んだあたしはベッドの上でヨヨヨと目元を押さえて泣き崩れた。
なにしろ身に付けたことが無いものを他人の手で強引に着せられたのだ。
『ほぉら、おっぱいはこうやって寄せ上げてカップに収めて…うわ、すっごい谷間。うらやましいなぁ』
と、まだまだ敏感なおっぱいをグニグニ揉みしだかれ、
『せっかくの下着が濡れるのもね。まずは綺麗に拭わなくっちゃ。ふふふ…奥のほうまでしっかりとね♪』
と、脚を大きく開かされて、すっごく恥ずかしい格好で……あああああ、考えただけでも顔から火が出るぅ〜〜!!
「しくしくしく……これで男への道がまた一歩遠のいたぁ……」
「まぁまぁ、いいじゃない下着ぐらい。男に戻ってからも絶対に役に立つから覚えておいて損は無いわよ」
「………何の役に?」
「女装」
「う…うわあぁぁぁ〜〜〜ん、ミッちゃんのバカぁ〜〜〜!!!」
ついにさらし者になるのに耐えられなくなったあたしはベッドから飛び降りると、何も羽織らずに部屋の扉へと駆け出した。
「ちょっと、たくや君、そんな格好でどこいくの!?」
どこだっていい。ミッちゃんのいないところで泣いてやるぅ〜〜〜!!!
混乱したまま裸足で部屋を横切り、扉のノブに手を掛ける……けど、そのタイミングを見計らったように扉が廊下側へと開き、それに引っ張られたあたしは走った勢いのまま外へと飛び出していき、
―――柔らかい感触に顔から突っ込んでしまった。
「たくや様、どうかなさいましたか?」
「…………」
「事情は神官長より伺いましたが、下着姿で廊下に出るのはあまり感心いたしません」
………顔の左右があったかくて…柔らかい。それに…スゴくいい香りが……
「たくや様」
「………ほえ?」
「そのように胸をもまれるのは…さすがに私も困ってしまうのですが」
「あ……ジャ、ジャジャジャジャスミンさん!!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」
顔を挙げ、すぐ真上に知的な美貌があった事に気が動転して反応が遅れたあたしは、正気に戻ると飛びのくように後退さった。
「こほん……私は気にしませんので、たくや様もお忘れください。よろしいですね?」
よろしいですねって言われても……さっき、あたしは両手でなにを握ってた? なんか大きくて、さっきまでも触っていたのと似てるようで違うようで…手の平に甘い感触が……うああああっ、忘れられないって、絶対無理ッ!
「………しかたありません。お忘れいただけないようでしたら、記憶操作の魔法で頭の中を少々……」
「はい、忘れました、忘れられないけど忘れましたぁ!!」
ジャスミンさん……今、目がマジでしたよね……笑顔で人の脳みそを…ううう、恐い……
「あれぇ、ジャスミンさんじゃないですか。どうしたんですか。また王女様が誘拐されました?」
「そういえば……って、ミッちゃんそれ冗談になってないぃ!! あたしは出来ればああいうことはもう御免だってばぁ!!」
いきなりの美人来訪に不思議そうな声を上げるミッちゃん。その言葉に少々眉をしかめたジャスミンさんはクイッとメガネを持ち上げて位置を直す。
「王女の護衛の方は問題ありません。問題は明日からなのですが……今日はたくや様にお礼をと思いまして」
「お礼…ですか?」
「身を挺して静香様をお守りくださったクラウディア王国の恩人です。あいにくと旅の途中で十分な謝礼を出すわけにもいかず、後日クラウディアにお越しいただいた際には――」
「いいですよ、お礼なんて。元はといえばあたしが静香さんを観光に案内しようって言い出したんだし、助けに行ったのも今考えたら無謀の極みで、運が良かっただけで大した事してないんですから」
「謙遜される必要はありません。誘拐犯のうち二人は街の外へ逃亡したようですが、残り二人を捕まえ、なおかつ姫を救出したのも全てたくや様の功ではありませんか」
「だから全部偶然で……」
「それに運だけと言われますが、二階の窓から飛び降り馳せ参じるのが運でしょうか。自分を身代わりに差し出すことも運ですか? 運や偶然といわれますが、たくや様が姫のために行動をなさった結果、運を掴み取られたのではないですか? ならばその運と偶然をもたらしてくださったたくや様に礼を申し上げるのは当然だと判断いたします」
「そ、そう言われても……」
だけど改まってお礼なんて言われると、気後れしちゃうんですけど……
そんな悩めるあたしの肩にミッちゃんの手が置かれる。
「まぁまぁ。たくや君も難しく考えちゃダメだって。貰える物は貰っておく。それが冒険者の流儀ってものよ」
「そうなの?」
「そうそう。当たり前のことよ。とりあえずたくや君の欲しいものを言ってみなさいよ」
「う〜ん…欲しいもの……」
男に戻る、って言うのは無理だろうし……でもお金って言うのもあれだから……
「剣…かな」
しばしの思案の末、あたしはポツリとつぶやいた。
「やっぱりナイフ一本じゃモンスターと戦うのって大変なのよ。これから旅を続けるならちゃんとした剣を欲しいところなんだけど、武具の良し悪しってわかんないから……って、どうしたの?」
なぜかジャスミンさんとミッちゃんの様子がおかしい。呆れていると言うかなんと言うか…
「たくや君……ナイフ一本しか持ってなかったの?」
「う、うん……そうだけど……」
「あたしも見に行ったけど、あの辺の建物、全壊してたよね。……そんな化け物と戦うのにナイフ一本!? 無謀にもほどがあるわよ!」
「えっ…あの辺のを叩き壊したのは……」
驚き呆れるミッちゃんの言葉に違和感を覚えて視線を横へ向けると、ジャスミンさんは唇に指を立てて目配せをしている。どうやらあの巨人のことは秘密らしい。
「え〜っと…まぁ、そういうこと…かな。最後は助けられたけど……」
「うわぁ…いい、冒険しようって言うんなら、ちょっとは自分の力量を弁えなさいよね。下手するどころかまさに九死に一生じゃない」
「ま、まぁ、こうして生きてるわけで結果オーライって事で」
「笑い事じゃないって……」
こめかみを押さえるミッちゃんに苦笑いを返す。あたしも機能のことは考えなしだって十分反省してるし。
「―――それではこうしましょう」
と、あたしとミッちゃんの会話が一段落付いたところでジャスミンさんが話を切り出してくる。
「本日中にこの街で最も優れた武具をたくや様にお贈りいたしましょう。それでよろしいですか?」
「そこまでしてもらったら悪いですよ。お金はあたしが出すから選んでくれるだけで」
下手をしたらとてつもない物を貰ってしまいそうで、あたしは両手を広げてジャスミンさんを押しとどめる。けれどジャスミンさんは不満そうに顔をしかめると、
「それでは私の気が……姫様をお救いいただいた礼には十分と言えません」
「だ、だったら鎧も見て欲しいな〜〜。あ、そうだ。この際だから服も買っちゃおうかな。ね、ね、いっぱい買うものがあるからそれを選んでくれたらありがたいな〜〜なんて」
「………わかりました。たくやさまがそういわれるのでしたら、私の全能力を持ってたくや様にふさわしい品をお選びいたしましょう」
うっ…ま、まぁ、とてつもなく高価な品を貰うとか、そういうのじゃなければいいか。――なんかジャスミンさん、スゴく残念そうだけど……
「だったらあたしも付いていこうかな」
ほっと安堵する暇も無く、ミッちゃんが買い物参加に手を上げる。
「午後からお休み貰ったんだ。たくや君と遊ぼうかと思ってたけど買い物行くならそっちのほうが楽しそうじゃない」
「そのほうが私としてもありがたい。この街には昨日到着したばかりで不慣れですから、よろしければ道案内していただけますか?」
「まっかせなさ〜い。たくや君とジャスミンさんのために、あたしが一肌脱いであげようじゃないの。――そう言う訳でたくや君」
さすがにあたしほどじゃないけれど、スカートを短くした僧侶服の上からでも見て取れるほどにふくよかな胸をポンッと叩いたミッちゃんは、にこやかな笑みをあたしへと向ける。そして――
「出かける前に、服、着よっか」
「あっ……」
―――あたしはようやく、自分が貰ったばかりの白い下着しか身に着けていないことを思い出した。
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