第3章「−5」第3話
うっ…う〜ん……
「へぇ。拓也って女の子だったんだー。なかなか可愛いじゃない」
こ、これは学校で薬をかぶっちゃって……
「きゃはははは! そんな冗談みたいな話、本当にあるんだ!?」
いいじゃないの…もう放っておいてよ……
「ごめんごめん。でも本当に女の子になってるんだ。この胸も本物?」
あっ! さ、さわらないで……
「やだ、変な声を出さないでよ。こっちまで変な気分になるじゃない」
だって…んっ!……そ…そこは……
「いいじゃない。女同士だし、もうオナニーまで見ちゃったんだから。せっかく義妹ができたんだから……」
だ…ダメ…やめて…その手に持ってる手錠は何なのよ!? 来ないで…やっ、いやあぁぁぁ〜〜〜〜!!
「はうっ!……………はれ?」
夏美はどこに行った!? たしかさっきまであたしの胸をサワサワしてたのに……おや? あたし…ひょっと
して寝てた?
首の辺りに衝撃を受けて目を覚ましたあたしが驚いて見開いた目には、義理とは言えれっきとした姉弟なのに
胸の膨らみを触りながら覆い被さろうとしていた義姉の姿はどこにもなく、視界いっぱいには灰色のコンクリー
トと青い空だけが広がっていた。
……………そ、そうよ。確かあたしは屋上で夏美に捕まって、それでそのまま疲れが出て……ものすごくイヤ
な夢を見たなぁ……あの時の…か……
何気なく右手を動かすと、金属が触れ合う音と一緒に手首を引っ張られる感触を感じる。それでようやく自分
の状況を思い出し、代わりに持ち上げた左手で顔を覆うと、今度は興奮した目つきであたしに迫ってくる姉の顔
が目蓋の裏に……
思えば一年前のあの時から、女のあたしに対する夏美の悪戯は始まったんだ……
あたしの初体験の相手…と言えば体育の寺田先生(しかも無理矢理で、それを経験してると色々と問題が…)だ
けど、性別を考えないんだったら……その相手はあの夏美。しかも女になってから一時間ほどで……
その後にも、部屋に呼び出されてレズってしまったり、夏美の恋人の誠司さんとのSEXに混ぜられて3Pに
なったり、なぜかフライトアテンダントのアルバイトをしていた夏美に飛行機の中で痺れ薬を飲まされて……
………改めて思い出してみると、これも近親相姦なのよね……男の時だったら危なかった……
でもまぁ、夏美が男のあたしにそう言う事をするはずが無い。
男のあたしに対する夏美の行動は基本的に、だらしないあたしをいじめて楽しんでいる、と言う物だったけれ
ど、女の時にはまさにお姉様。理由はよくわからないけれど、エッチな事をしてくるのである。でも、下着の着
け方を教えてくれたり、服を貸してくれたり、女としての基本的な知識を教えてくれたのも夏身だったりする。
ひょっとすると、あの義姉は妹が欲しかっただけなのかも……
しかしスゴい夢よね……手錠持ち出してあたしを拘束して…あそこまで過激な趣味じゃないと思うんだけど…
…
「うっ…んん……」
「あっ…あれ? この子はさっきの……」
夏美の行動がいったい何なのか、もはや考える事さえ無駄に思えてきたタイミングを見計らったかのように、
あたしの近くで誰かの呻き声……ではなく、まるで無理矢理起こされたみたいな眠そうな声が聞こえてくる。
その場所はあたしの太股の上。いつの間にか右手を手錠でつながれたままだと言うのに眠っていたり、夢の無
いようが過激過ぎた事もあって今まで全然気づかなかったけど、スカートから伸びるあたしの太股に頭を乗せ、
顔をあたしのお腹に方に向けるように、手首をあたしと繋がれた男の子は眠っていた。
こ…こんな状態でよく……
左手は手錠の鎖が通っているパイプの方に伸ばしたまま、下半身は脱がされたままで眠っているのに男の子は
すやすやと寝息をたて、とても気持ちよさそうな表情をして目を閉じている。伏せられた睫毛がちょっと色っぽ
いかなっと思わないでもないけど……その顔に、さっきまで泣きじゃくっていた様子は見て取れそうも無い。
出来る事ならもうちょっと眺めていたい……そんな風に思ってしまうほど可愛い寝顔だったのに、あたしが目
を覚まして動いてしまったせいか、さっきのように小さな呻き声をあげながら目蓋を開き……あたしと目が合っ
てしまう。
「あ…あはは……」
「あっ…あああっ! ご、ごめんなさい! 痛っ!!」
愛想笑いを浮かべて誤魔化そうとしたんだけど、あたしの顔を見た途端に男の子はガバっと頭と体を跳ねあげ
る。けれど手錠をつけられた左手は動かす事が出来ず、細い手首に金属の輪っかが食い込んでしまった。
「だ、ダメよ、こっちに来て!」
男の子の顔が激痛に歪んだ瞬間、あたしは咄嗟にあたしと同じかそれよりも少し小さな体を自分のほうへと引
き寄せた。
「あの…そ、その……」
「う〜ん…ちょっと赤くなっちゃったけど、血は出てないから大丈夫かな?」
近くに来た男の子を気にもせず、あたしは彼の左手に顔を寄せると傷口に顔を寄せる。幸い出血はしていない
けど、真っ白で弱々しそうな皮膚に一筋、痛々しいまでに赤い線がつけられている。
「……ちょっとごめんね」
それを見たあたしは自然と傷口に顔を近づける。そして少しだけ開いた唇から舌を突き出し、赤い線をゆっく
りと舐めあげ、唾液を塗りつける……
「んっ……」
ピチャ…ピチャ……レロ……
「や…やぁ……そんな事……ひぃんっ!」
舌の先っぽに触れるのは、冷たい金属の味と、表面に汗が浮かんで少ししょっぱい男の子の――
ピチャ…ピチャ…ピチャ……
「く、くすぐったいです…やめて…もういいからやめてぇ…!」
なぜか…舌を止められない……
消毒のために唾を塗ってあげるつもりだったのに、暖かい肌に舌を這わせて、男の子の身悶えするような声を
聞いていると……
――って、あたしは何やってるのよ。変な気分になっちゃうじゃない……さっきの夢の興奮が残ってるのかなぁ……
「はい、これでいいわ。もうすぐしたらこの手錠も外してくれるだろうから、そしたらちゃんと保健室に行ってね」
「………………」
あ、あれ? なんでそんなに真っ赤になってるのよ。やっぱり舐めるのって…ちょっとやりすぎだったかも……
自分が興奮しているのを隠そうとちょっと大きな声で、出きるだけ淡々と話しながら振り向いた先では、当の
男の子は耳まで真っ赤にしてうつむいてしまっていた。
ただ痛そうだなって思った事への無意識の行動だったんだけど、相手がこんなに恥ずかしがるとそれが見てい
る方にも伝染してしまう。
「あ……あはははは…その…ごめんね。その…さっき、あんな事があったばっかりなのにこんな事……もうちょ
っと気を使ってあげるべきだったよね、ごめん……」
「そんな…そんな事無いです! あの、僕、あの…僕は……す…好きです……お姉さんの事……」
「………………………………………………………………………………………………………へっ?」
それはそれはもう、自分が作っちゃった気まずい雰囲気を何とか誤魔化しきろうと乾ききった作り笑い……が、
たっぷり10秒か20秒の間を置いた後、ビシリッと盛大な音を立てて固まってしまう。
「そ…それはいったいどのような意味で……」
「………お姉さんみたいに…優しい人が……その……自分でもわかってるんですけど…でもあの……一目惚れ…
です……」
義姉が童貞(?)を奪い…あたしが告白される……あたしは…この場合なんて返事すればいいんでしょうか……
しかも…あたしは男なのにぃぃぃ〜〜〜!!
手を伸ばせばすぐに触れられる距離にいる男の子…彼を前にしたあたしの胸中にはかな〜り複雑な想いが溢れ
かえる事になった……
第3章「−5」第4話へ