第2章「−1」第5話
な…なんでこんな時にあんなに大きくしてるのよ! まるであたしが…その…夜な夜な変なことを考えてるみ
たいじゃないの〜〜!!
暗闇に慣れてきて、窓から入ってくるわずかな月の光でも室内が見えてきたあたしの目は、顔を覆ってもつい
つい少しだけ開いている指の間から、くっきりしっかりはっきりと「たくや」の勃起したおチ○チンを捕らえてし
まっていた。
「たくや」のペ○スは真上よりも少し前――おへその方に傾いている。確かこの時はまだ童貞だったんだけど(
うう…告白するのも恥ずかしい…)、こうやって女になって、自分のおチ○チンとしてじゃなくて別人の視点で
見ると、長さ、太さも結構あって、結構立派だった。シルエットのようにくらい部屋の中に浮かび上がるその形
はくびれも大きく、自分で思っていたよりも結構立派なペ○スをしていた。
うっ…なに考えてるんだろ……これはあたしのおチ○チンなんだから……別に堂々と見たって恥ずかしくなん
かない……んだから……
「う〜ん……明日香ぁ……えへへ……」
あ〜〜! 明日香になに変なこと考えてるのよ!…でも今の明日香はあたしとじゃなくてこっちと関係があっ
て…もう、訳分からないわよ!
寝言に明日香の名前が出てくると反射的に嫉妬してしまうけど、それはこっちの世界じゃ当然の事。明日香は
「拓也」と幼なじみなんだし、その関係が続いている時もこっそりと明日香の事を想っていた事を知っている――
というより覚えているだけに、嫉妬よりも目の前で自分の恥ずかしい過去を告白されるような恥ずかしさが勝っ
てしまう。顔から手を離し、握りこぶしを作ってワナワナと震わせても、叩いたり口を塞いだりなんてできない
この状況……ううう…早く起こして帰ろう……
かと言って、「拓也」がおチ○チン丸出しの状況で起こしたりしたら、話を聞く前にどんな誤解をされちゃうか
……たぶん、勝手に家に侵入した痴女か何かかと思われるんだろうなぁ…それに昼間に夏美にも見掛けられてる
からストーカーとか……まずは布団をかぶせて隠してからでも。
顔どころか首や耳まで熱くなっているのを感じながら、それでも視線を動かして布団を探すと、すぐに見つか
る。「たくや」の体の横で抱き締められたり蹴飛ばされたりでグシャグシャに丸まっている。しかも…あたしとは
反対側、ベッドを引っ付くまで押しつけられた壁際……手が届かない位置に……
………仕方ないわね、ちょっとだけごめんね。だから少しだけ目を覚まさないで……
あたしは一度深呼吸をすると、ベッドの端に膝を乗せ、体重をかけていく。
ギシッ……
「うっ…うぅん……」
途端に安物のベッドは大きな軋み音をたてる。それを耳にした途端、心臓が一瞬だけ風船のように膨張し、胸
が痛いほどに苦しくなる。
ドクッ…ドクッ…ドクッ…
全身に響く心臓の音。鼓動を一つするたびに、あたしの全身は小さく震え、あまりの緊張からこの場に倒れ伏
したくなる。
こ…こんなところで倒れたら……「拓也」が目を覚ましちゃう!
口の中に溜まった唾をジンジンと痺れる喉に流しこみ、無理矢理胸の鼓動を押さえこむと、あたしは「拓也」の
体をまたぐように反対側へと左手を突く。でも、あたしの体の下には「拓也」のおチ○チンがあり、勃起している
せいでずいぶんと高い位置にある先端に触れないように∩の字(数学に出てきた記号。なんだっけ?)に腰を曲げ、
かなり窮屈な姿勢のまま、右手を布団へと伸ばす。
もう…少し……あとちょっと……
よく考えればそこまで体を曲げなくても体をずらしたり、足でまたいだりすれば布団まで手が届くのに、腰で
はなく、体を折り曲げてしまったせいで少し下向きにたわんでいるブラウスの胸元に先端が振れないように最大
限の注意を払い、中指の先端にわずかに触れる布団を必死に引き寄せていた。
こっちにきて……くっ………やった、掴んだ♪
くすぐるように布団を指先で何度も弾いているうちに、少しだけこちらに近づいていた布団の端が引っかかる。
それを指を曲げて引き寄せ、あたしの手にようやく布団を掴む事ができた。
そして、そんなあたしの努力を無駄にするように「拓也」が動く。
「好きだぁぁ!!」
「きゃあ!!?」
上に被さっていた(ギリギリ触れてないけど…)あたしの事を布団とでも思ったのか、突然両手をあたしの右肩
と左腰に回し、自分の体へと抱き締めてきた!
「明日香ぁ……柔らかい…いい匂い……」
「こ、こら、どこに顔をうずめてるのよ! 早く離して、離しなさい、離してってばぁ!!」
腰だったらまだよかったんだけど、肩から背中に斜めへ巻きついた腕はなかなか振り解くことが出来ず、しか
も「拓也」が左脇へと顔をうずめてくる。触られるだけでビクッとしてしまうほど敏感な部分に鼻を押し付けられ、
クンカクンカと匂いを吸われると制服の下ではそこを中心に肌があわ立っていく。
「あんっ…も、いやあぁぁぁ!!!」
匂いを嗅ぐだけじゃなく、両手にも背中をまさぐられて思わず色っぽい声が出てしまうけど、その事があたし
の抵抗心に火をつけ、大声を上げながら身をよじり、やっと非力な「拓也」の腕から脱出する事ができた。
なにがイヤって、相手は「あたし」なのにあたしが感じるなんて絶対いや!!
同族嫌悪……と言うわけじゃないんだけど、いくら別人だって意識しても相手は間違い無く「あたし」。それの
どこがなんでイヤとか説明できないけど、その事に対してだけは一線を踏み越えられる感じがしなかった。
も、もうさっさと帰りたい……紙か何かにメモでもしておけばいいかも……
ベッドの空いているところに座って、うるさく響く鼓動に弾んでいるような胸を押さえて必死に息を整えると、
何も無理して起こさなくてもいいような気がしてきた。ようやくドキドキも収まって、ベッドから降りようとす
ると――
ドンッ!!
「こら、拓也! 今何時だと思ってんのよ! 今度うるさかったらただじゃおかないわよ!!」
「ひっ!?」
今のって夏美!? まだ起きてたの!?
いきなり強く殴りつけられたドアの音で再び胸が一気に跳ねあがる。そして向こう側から聞こえてきた夏見の
怒鳴り声に、条件反射的にあたしは体を固くした。
「まったく、のんびりオナれやしないじゃないの。せっかくいいところだったのにさ」
お…オナですか……それはごめんなさい…あはは……
そして怒り度合いを表すかのようにドスドスと床を踏み抜きそうな勢いで足音を立てながら夏美の部屋のある
方とは反対の方へ――たぶんトイレかな?――歩いていった。
そ…それにしてもほんとにビックリしたぁ……夏美にはいじめられてきたから完全に立場が下だって事が染み
ついてるなぁ……
遠くからドアが勢いよく閉められる音を聞きながら、どこか脅えによる緊張の残る体をさすっていたあたしだ
けど、背後で誰かが動いた気配を感じ、慌てて腕で体をかばいながらお尻をベッドから浮かせて振りかえる。
するとそこには、ベッドからむくりと体を起こし、半分と自他目を手の甲で擦りながらあたしの方を見つめる
「拓也」がいた………って、起きちゃったの!?
どうもあたしが暴れたり夏美が怒鳴った事が原因みたいだけど、まだ完全には起きてないようで、目の前にあ
たしみたいな女の子がいるのに露出したままのおチ○チンを隠そうともせず、眠そうな顔でぼんやりとあたしの
方を見つめている。
けど、それとは反対にあたしは内心焦りまくっていた。
ど、どうしよう……まだ起こすつもりじゃなかった…でもどうせそのうち起こすんだったら別に構わないわよ
ね。下半身丸出しになっててもうろたえた様子も無いし、寝ぼけているからあたしがここにいても驚いてないよ
うだし……うん、結果オーライ♪ 今は前向きにいきましょ、あたしが「女」にならないためにも!
とりあえず「拓也」を完全に起こして、話を聞いてもらわないといけない。できれば夏美を刺激したくないから
穏便に。
「あのね、あたし――」
「ああ、これは夢なんだな。可愛い女の子が俺の部屋にいる」
………口を開いて最初に言うのがそれ? ううう…なんだかあたしって馬鹿っぽいのかも……
寝起きと言う事もあって、どこか抜けた印象を感じさせる目の前の「拓也」に、自分自身で思っていた自画像っ
てなんなんだろう…と少々考えてしまうけど、今はそれよりもやるべき事がある。
「驚かないで聞いて欲しいんだけど、実はあたしは未来からきたあなたなのよ」
「……ふ〜ん……かわいいなぁ……宮野森の制服なのもいいかな……」
「それでね、あなたは佐藤先輩やもうすぐ後輩になる千里って言う娘に女にされちゃうのよ」
「佐藤先輩かぁ……先輩も結構胸大きいけど、君も胸大きいね……」
「そ、それでね、化学室の棚を掃除する時とか、身長が伸びる機械なんかには気をつけて――」
「ふ〜ん…へぇ〜…いいなぁ……」
………ブチッ
こ…こいつわぁぁぁぁ!!人の話を全然聞いてないどころか、胸や太股ばっかり見ておチ○チンおっきくして
ぇぇぇ!!
「………!!」
あ…あたしが男の時に明日香が殴ってた気持ちがよっく分かるわ……もうちょっときちんとして……!
「ねぇ…話は終わったの? ふぁ〜〜あ〜〜……」
「そ…そうね、一応終わったわね……」
どうせ聞いてなかったんでしょうけどね、と心の中で付け加えておく。
「じゃあさ、今度は楽しませてくれるよね」
「楽しむ? なにを?」
放っておきたいと強く念じながら、今にも拳を振り上げそうになるのをグッと我慢していたあたしは、あまり
に場違いな言葉に怒りに震える声で返事を返す。
「こういう事さ」
それまでベッドに胡座をかいてあたしをじろじろと眺めていた「拓也」は不意に腰を上げると、あたしの肩を掴
んで、仰向けに押し倒してきた!
「なっ! なにするのよ、ちょっと、やめて!」
「こんなに可愛い女の子が出てくる夢なんだからさ、楽しませてもらわないとね」
そしてそのまま体重をかけてあたしを動けなくすると、事もあろうに顔を…顔を近づけてきた!
待って待って待って!! 一体何考えてるのよ、こいつは! よりにもよって、自分で自分にキスしようとし
てるのよ!? 全然分かってないでしょ!
「力を抜いて、僕にまかせて……全部僕がしてあげるから……」
あ〜ん、全然わかってない〜〜〜!! あたしは元々男の上に、あなた自身なのよ? それなのにムッチュ〜
〜って唇突き出して迫ってくるなんて、後で明日香に言っちゃうんだからね!!
顔を背けて「拓也」の唇から必死に逃げても、唇を少しだけ浮かせて再び迫っられる。あたしが美少女だって言
うのはある程度自覚はしてるけど、それでも「拓也」の顔が眼前に迫ると鏡に映る自分の姿にキスするような感覚
を覚えてしまう。
「ほら、怖がらなくてもいいんだから」
「やだ〜〜! あたしはそんなに変態じゃない〜〜〜!! あたしはナルシストじゃないんだってば〜〜!!」
数センチの隙間を挟んであたしと「拓也」のキスをかけた熾烈な戦いが繰り広げられる。ギリギリのところで顔
を背けても頬や首筋に「拓也」の唇が触れるだけで全身に鳥肌の立つようなおぞましさが広がっていく。もしこれ
で本当にキスされたらと思うと……
「い…いいかげんにして! あたしはこんな事をするためにきたんじゃ――」
パタッ、パタッ、パタッ
この音って……あ、もしかして夏美がトイレから戻ってきた!?
微かに聞こえてきたスリッパの音にあたしは開こうとしていた口を慌てて閉じる。
それと同時に、「拓也」はあたしの頬に手を当てて正面を向かせると、とうとう…あたしは自分に唇を奪われて
しまった……
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