「クスハストーリー「ヒュッケバインvsグルンガスト」」中編


『もらったぁ!!』  アルトアイゼンの右腕に装備されたステークがR−2の胸元に突き刺さる! その直前―― 「一撃粉砕!鉄拳制裁!!T−LINKナッコォォォーーー!!」  グオオォォォン!! 『ぐわぁぁ〜〜〜〜!!』  身を屈めた状態から突然バーニヤを吹かし、アルトアイゼンに突っ込んできたR−1が光り輝く拳で  アルトアイゼンに殴りかかった!! 体勢が不充分で100%の威力ではなかったとはいえ、軽量級  PTであるR−1に重装甲重武装の重量級PTが一撃でとっさに取った防御状態のまま吹き飛ばされた!! 「遅いぞリュウセイ! 何をやっていた!!」 「いや〜〜、結構いいのをくらっちまったから少し気絶してた。だが安心しな。不意打ちなんて卑怯な  真似するヤツは俺様の熱い鉄拳で根性叩きのめしてやる!」 「敵の根性を叩きのめしていったいどうするつもりだ」 「…こんな時でもツッコミが厳しいねぇ、ライ」 「それよりも…くるぞ!」  R−1に殴り飛ばされ、地面を大きく抉ってようやく止まったアルトアイゼンがゆっくりと立ちあがった。  その様子は、先ほどの一撃たいしたダメージを与えていないらしく、しっかりとしたものである。 『くっ…なんてパワーだ。やはりEOTを使用した機体は危険だ。全て破壊しなければ…!』 「なんだと!?」  姿勢を制御し、再びR−1、R−2と向き合ったアルトアイゼンのパイロットの言葉にライが驚きの声を  上げる。 「EOTを使用した機体…俺たちのRシリーズか!?」 『ライディース少尉…あなたなら分かっているはずだ。あなたの乗っている機体が一体どれだけの危険性を  秘めているかを。ヒュッケバインMK−Tの暴走事故から生還したあなたになら、EOT兵器がどれだけ  危険なものか分かっているはずだ!』 「!!」 「てめぇ、なんでそれを知ってやがる!!」  ライの左手は月面で行われたヒュッケバインMK−Tの起動実験で発生したブラックホールエンジンの  暴走事故で失われ、また唯一の生存者として知られている。しかし表立ってこの事を知る人間は少なく、  知っているとすれば関係者……  チームメイトであるリュウセイでさえ最近まで知らなかったことを敵のパイロットに言われ、ライの顔  に緊張が走る。 「そうか……そのことを知っていて、MK−V…イルムガルト中尉…彼か!」 『!!』  今度はアルトアイゼンのパイロットの方が息を飲む。念動力こそは無いものの、天才と呼ばれたライの  洞察力で、彼の背後の人物を言い当てられた事に恐れに似た感情さえ感じているのだろう…… 『…ライディース少尉、リュウセイ少尉、俺はあんたたちと戦う気はない。その機体から脱出してくれ!』 「俺の名前まで知ってるって事は、やっぱりSRX計画の人間か!?」 『Rシリーズの機体は危険なんだ! その力が発揮される前に…取り返しがつかなくなる前に破壊しなければ!』 「何言ってやがる! 俺のR−1は地球を異性人の手から守るために作られたんだぞ! それをなんでお前の言葉  にしたがってはいそうですかと壊されなきゃならねぇんだ!!」 「そうだな。俺もリュウセイと同意見だ。ここでR−2を失うわけにはいかない。俺には…他に道はないからな」 『なんで…なんで分からないんだ!!』  悲痛の叫び。正しいはずの自分の説得が二人に聞き入れられないことに苛立ちを、悲しみを、苦しみを覚えた  彼の叫び。  それに応じるようにアルトアイゼンの両肩の装甲が上下に展開し、内部の無数の発射口を露わにした。 「なに!?」 『これだけのベアリング弾、よけられるか!! くらえ、スクエアクレイモ――』 『ブリット、聞こえているか、ブリット!!』  不意に三人の会話にもう一人の声が入りこんでくる。 『中尉、どうしました!?』 (この声はやはり…イルムガルト=カザハラか!?) 『レオナのヤツが一人でヒュッケバインに突っ込んでいきやがった。ひき返してお前も探してくれ!』 『しかし…』 『仲間を見殺しにはできん。頼む!』  そこで通信は終わり、三体のPTの間に微妙な静寂だけが流れていく。 『…しかたないか』  そう言うと、アルトアイゼンはバーニヤを吹かし、その巨体は信じられないような身軽さで、森を飛び越えて  いった。 「こらまて逃げるな! おとなしく俺に倒されろ!!」  慌ててR−1が銃口を向けるが、既にアルトアイゼンは木々のカーテンの向こうに隠れてしまった。 「くそったれ! ライ、俺たちも急いでクスハの援護に向かうぞ!!…ライ、どうした!?」  R−1をRウィングに変形させようとしたリュウセイだが、いつもなら判断の早いライが返事を濁した事を  不審に思い、その場にとどまった。 「…リュウセイ、俺たちは…ヤバい相手を敵に回したかもしれんぞ」 「ヤバい相手? さっきのヤツぐらいなら俺のR−1で今度こそぶちのめしてやるぜ。それよりも狙撃がやんで  るって事はクスハが向こうで戦ってるって事だろ? 急がないとあいつがヤバいだろうが!」 「リュウセイ、お前は先にいけ。イルムガルト中尉、あの人に勝つには…」 「そんなにヤバい相手なのか、その…イルミネーションとか言うヤツは?」 「イルムガルトだ。俺たちSRXチームの前身となったPTXチームにイングラム教官と共に所属していた人だ。  恐らく、俺達三人が束になっても勝てないだろう。いや、一対一ならロンド=ベルにいるスーパーロボット  でも勝つのは難しい。何故なら……」  ズンッ……ズンッ……  岩肌が剥き出しの谷間の間にヒュッケバインを一歩進ませるたびに、下から重たい衝撃が突き上げてくる。 (どこ?…どこからくる?)  ある程度振動を和らげてくれるとは言え、上下に細かく揺れるコクピットの中で私はヘルメットのバイザーを  上げ、大きく、深く、深呼吸を繰り返しながら、それでも機体を前に進ませ続ける。 (向こうが狙撃してくる事は分かっている……それに……)  何処から狙ってくるかの予測はある程度まではついている……相手も人型機動兵器を使っているなら、その姿  を隠せるような場所から私を狙ってくる……  ロックオンの警告がなれば機体の方が反射的に回避してくれる……でも、そんな事は相手もわかっているはず……  どこ?…どこから…… 「っ……」  バイザーを上げただけでは息苦しさが収まらず、大急ぎでヘルメットを脱ぎ、所々周囲の映像をアップで映した  モニターにくらいつく。  いつもならヒュッケバインの方から私の方に教えてくれる情報がない。見えそうだけど、白いもやに包まれて  ぼやけた敵意しか教えてくれない、その事が、今はプレッシャーとなってのしかかってくる。 (みんなは……アムロ大尉やクワトロ大尉たちはこんな空気の中で戦ってたんだ……私だけ…ズルをしていた  みたい…) 「…ふぅ……んっ!」  外の様子に全神経を張り巡らせていなければいけない時なのに、目をそっと閉じ、ロンド=ベルのみんなの顔  を思い浮かべながら長く息を吐き出すと、それまで感じていた空気の重さが幾分和らいだ気がした。  谷間の一本道では前と後ろはない。上……空間を遮る山肌に隠れてこちらを狙っているはず……… (どちらが早いか……引き金がひかれるのか…私が相手を見つけるのか…見ていて…みんな…リュウセイくん……  私は…守られてるだけじゃない!) (まだ……あと三歩……もう…少し…まだ…か…………来た!!)  ヒュッケバインのコクピット部分が正確にオルスタンランチャーの前にきた。人で危める事への後悔は後でする  として、その瞬間だけは迷わず、レオナはトリガーを引き絞った。 「!いまっ! 行って、ヒュッケバイン!」  PTが隠れる事ができそうな岩ばかりをアップにしたウィンドウの中の一つに直感的に目を向け、自分の方を  向く細長い銃口を発見した、と同時に、私はヒュッケバインを「加速」させ、真っ直ぐ前に突き進んだ! 『なっ!』  着弾の瞬間、ズームアップしていたモニターから機影が消え、何もない地面に鉄甲弾が着弾したのを確認する  よりも早く、レオナが慌ててヴァイスリッターの隠蔽モードを解除してヒュッケバインを探した。 「てやぁぁぁ〜〜!!」  ギュゥン、ギュゥン!!  バーニヤの推進力をそのままに、Uターンして山の斜面を登ってきたヒュッケバインが白い機体に向かって  狙いもつけずにフォトンライフルを連射する。 『そんな攻撃、当たるものですか!』  視認した白いPTはそれまで隠れていた岩の後ろに移動すると、私と距離を開けるように高速で後退しながら、  左腕に装着された銃口から連続してビームを発射してくる。 『機体照合、PT007−03C、ゲシュペンストMK−Uカスタム、ヴァイスリッター』  モニターに捉えた瞬間、私の頭の中に相手の機体の情報が流れ込んでくる。 (ゲシュペンストの改造機…機動力が高い…だったら逃げられる前に!) 『こいつ! 何を考えている!?』  機体を左右に軽く蛇行させてビームを回避しながら、私はさらに加速させてヴァイスリッターに接近する。  そして、左腕に装着されているチャクラム・シューターの発射準備をはじめる。 『くっ! ここは一度距離を取って――』  それまで隠れていたせいか、思っていたよりは動きの鈍いヴァイスリッターがふわりと宙に浮かび上がる。 「空を飛んで距離をあけて、また狙撃するの? そんな事させない!」  ズゥン!  スラスターを全開にしてヴァイスリッターに突っ込んでいたヒュッケバインにその場で地面を全力で踏み込ま  せる。スラスターの前進力と、地面からの上へ向かう力が合わさって斜め上に向かう力となり、ヒュッケバイ  ンは空中に浮かぶヴァイスリッターへと直進していった! 『ばかな、体当たりだと!?』 「捕まえた!」  空中でぶつかり合いながら、ヒュッケバインの両腕がヴァイスリッターにしがみつく! そしてそのまま、  空中に機体を浮かせ続けることが出来なくなったヴァイスリッターを下にして、私たちの機体は地面に衝突した。  ズウウウウゥゥゥン!! 「くううぅぅぅ!」  ショックアブソーバーの限界を超えた衝撃がコクピットを上下に激しく揺さぶる。気が遠くなる重たい振動に  目をキツく閉じ、歯を食いしばって耐える! 「おのれ…まさか私がこのような攻撃で…」 (えっ!…この声って…まさか!?)  機体同士が触れ合っている状態で行われる接触通信。宇宙などでよく使われる会話手段だけど、今、その方法  で聞こえてきた女の人の声は私にある人の姿を思い出させた。 「いつまでしがみついているつもりです! 離れなさい!」 「!!」 (この感じ…やっぱり…生きていた!)  ヒュッケバインの下敷きになってもがくヴァイスリッターが右手の長銃を離し、右手のソードを、左手のビーム  砲を私に向けてくる。その動きに反応して、私はヒュッケバインの両手で相手の両腕をそれぞれ押さえつけた。 「くぅ…このっ!」 「レオナ、間違いない、あなたはレオナ=ガーシュタインでしょ!?」 「!!な…なんで私の名前を…」  私の呼びかけに動揺したのか、ヴァイスリッターの抵抗する力が少し弱まった。 「やっぱりレオナなのね。私よ、クスハ=ミズハよ!!」  戦闘の最中、しかも敵パイロットで目の前のPTに乗っているにもかかわらず、宇宙での輸送機爆破でブリット  くんと一緒に行方不明になっていたレオナが生きていた事を知って、私の目には涙が溢れ、自然と喜びの笑みを  浮かべる。でも―― 「何を言っているの? 私はあなたの事など知らないわ!」  ――それは一番ひどい形で裏切られる事になった…… 「そんな…どうしたの、レオナなんでしょ! クスハよ! マオ社のパイロット候補生で、寮で同室だったクスハ  =ミズキよ!」 「知らないと言っているでしょう! あなたに会うのは今日がはじめてよ!!」 「そ、そんな…じゃあ、あなたは…」 「私はSRX計画のテストパイロット、レオナ=ガーシュタインよ!」 「えっ……」  どうして……私のことを…覚えていない?…まさか記憶を失っているの!? 「!しめた、いまなら!」  私の動揺がヒュッケバインに伝わり、その一瞬の好きをついて、レオナの乗るヴァイスリッターが身をよじり、  手放した長銃を左腕で掴むと、そのまま肘でヒュッケバインの頭部を狙ってきた。 「くっ!」  とっさに機体を起きあがらせ回避したけど、その間に白い機体は私の下から抜け出し、身を起こしながら銃の  照準を合わせてきた。 「グラビティ・ウォール!」  間髪入れずに撃ちこまれてきた銃弾がヒュッケバインの胴体手前で見えない壁に阻まれたかのように空中で  動きを止めた。しかし運動エネルギー全てを受けきる事は出来ずに数瞬後には進路をずらされて、機体のわき  腹の横を通り抜けて行った。 (本気で…コクピットを狙ってきた…レオナが……)  あれだけ仲の良かった友達…親友が躊躇なく私の命を奪おうとしてくる。まっすぐ私の乗るコクピットを銃弾  が狙ってきたと言う事実が、私にその事を思い知らせた。 「レオナ…なんで……」 『なにをやっている!』 「えっ!?」  いきなりコクピットの中に響いたリュウセイくんでもライさんでもない別の男の人の声。 (この声…この感じにも覚えがある…) 「ブリット…きゃあ!!」  断続的に走る衝撃! ヒュッケバインの背中に無数の銃弾が叩きこまれて、事態の移り変わるスピードについて  いけていなかった私は姿勢制御もろくに出来ず、ヒュッケバインは前のめりに倒れてしまった。 『もらった! その機体、破壊させてもらう!!』 「うっ……あ、あの機体は……」  赤く、どっしりとした重量感を漂わせる機体が真っ直ぐこちらに向かってくるのが背面モニターに映し出される。 (くぅ……頭が…息が……こ、このままじゃ…)  背中からの突き抜けるような衝撃に目の前がゆっくりと白くかすんでいく。それでも私は諦めずに、操縦桿を  動かし、ヒュッケバインの左腕を動かす。  それだけで十分。赤い機体がその右手についている杭のようなものをこちらに突きこむよりも早く、左側の支え  を失ったヒュッケバインはそちら側へと倒れこんで地面の上を半回転する。  グオゥン!  標的が直前で予測できない動きを見せ、狙いを外して地面に突き刺さった杭がいきなり爆発し、その威力と、  吹き飛ばされた地面の塊とで、ヒュッケバインはさらに一回転横に転がった。 「ぶ…ブリットくん……どうして……」 『!?どうして俺の名前を!! 乗っているのは女の子か!?』  転がった拍子に通信装置がオンになったのか、苦しげにつぶやいた声を聞いた赤い機体のパイロットが驚いた  声を上げる。 「ブリットくんも…私の事…覚えてないの?」 『えっ!?』 「…クスハ……マオ社で一緒だったクスハ=ミズキ……あの時…輸送船が爆発した時に一緒だったクスハよ……」 『…なんの事だ? 俺は輸送船の爆発なんて知らないぞ。それにマオ社にいた事もない』 「そんな……じゃあ…あなたたちは一体……」 『俺は…SRX計画のテストパイロット、ブルックリン=ラックフィールドだ!』  息が苦しい。二人の攻撃で受けたダメージで一時的に呼吸困難になっているのもあるけど、それ以上に二人が  私の事を覚えていないと言う事実の方がよっぽど苦しい……心が…痛い…… (なんで…こんな事になっちゃったの……どうして私たちが…戦わなきゃいけないの……どうして……) 『…すまないが、俺たちはSRX計画の機体を破壊しなくてはならない。君の乗っているヒュッケバインもだ。  早く機体から脱出しろ、さもないと……』  ヒュッケバインのメインカメラに、杭の尖った先端が突きつけられる。とは言われても、動く事が出来ない  今の私にはどうしようもない。コクピットの中で仰向けになったまま、時間だけが過ぎていく。 『出てこないのか…仕方ないのか……!』  そして赤い機体はゆっくりと右腕を振り上げる。あれが振り下ろされた時にはさっきの地面みたいにヒュッケ  バインが爆発するのだろうか…… (ヒュッケバイン…ごめんね……私がもうちょっとしっかりしていれば……でも二人が無事だった……それが  わかっただけでも……) 『ブリット……』 『分かっている……俺はもう躊躇ったりなんかしない』 『違う、そうじゃない! その機体のパイロットは――』 『俺は…俺たちをモルモットにしようとしたイングラムの企みを叩き潰すんだ!』 『まって! そう言う意味じゃ!!』  一番高くまで上がった右腕は、そのまま落ちてくるしかない。  なぜかゆっくりと感じられる死の到達に眺めながら、私が最後に思い浮かべたのは…… 「クスハーーーーーーーー!!!」  ギャゥゥゥン!!  アルトアイゼンのステークがヒュッケバインのコクピットに向かって振り下ろされようとする瞬間、リュウ  セイの乗ったR−ウィングが突っ込んできた! 振り向いたアルトの前には既にR−ウィングが到達しており、  鋭角的な翼が重いアルトアイゼンにぶつかり、火花を散らしながらヒュッケバインの上から叩き落した。 『ぐぅぅ、またあなたか! リュウセイ少尉!!』 「ちっ、R−1変形!!」  片翼を失ったR−ウィングがバランスを崩して地面に衝突するよりも早く変形を済ませたリュウセイは、R−1  に左手をつかせてでこぼこの山肌を勢いのままに滑らせながら、右手でGリヴォルバーを腰から引き抜き、銃を  構えていたアルトアイゼンに向かって撃ちまくる。 『ヒュッケバインはやらせないって言うの? ならブリット、こいつは私が引きつけるからそっちは!』 『任せてくれ! この距離なら!』  叩き落され距離が開いたとはいってもPTにとってはわずかな距離。そしてアルトアイゼンにはその距離で最適、  そして一撃でヒュッケバインを破壊できる最強の武器が装備されている。 『怨みはないけど…悪く思うな! くらえ、スクエアクレイモア!!』 「させるかぁ!!」 『あなたの相手は私よ! ブリットの邪魔はさせないわ!』 「どきやがれ、くそ女! 女相手でも邪魔するなら遠慮はしねぇぞ!!」 『面白い。男女同権のこの時代に女だからと言って手加減をしてもらおうなど思っていませんわ。どうぞ全力で  かかっていらっしゃい』  一度は自分に向けられたようにアルトアイゼンの肩の装甲が上下に開くのを見て、慌ててリュウセイがR−1  の体を起こし、倒れたままのヒュッケバインに向かおうとする。しかし、そうはさせじとレオナの乗るヴァイ  スリッターが宙に舞い、オルスタンランチャーのビームをリュウセイの行く先に撃ちこんでそれを阻止する。 「くぅ……クスハーー!!」  回避する先々に襲いかかってくるビームをほとんど直感だけで躱してはいるものの、R−1はなかなかヒュッケ  バインに近づけない。リュウセイの見つめるモニターには装甲を展開し終わり、すでに発射の態勢は整っていた。 「起きろクスハ! 目を覚まして、そこから逃げろ! クスハーー!!」 「リュ…リュウセイ…くん……」  途切れていた意識の糸が今は懐かしくさえ感じる幼なじみの声で再び繋ぎ合わされる。 (私が…死んじゃったら…悲しんでくれるかな…リュウセイくん……)  そう…あの人なら悲しんでくれる……かってに自分でそう思った途端、すぐに自分で否定した。 (ううん…違う……きっと…怒ると思う……あの二人に……そして…自分に……そして…諦めた私を…怒って  くれると思う……ふふふ…なんだか…いやだな……)  子供の頃もそうだった。気弱で引っ込みがちで、なんでもすぐに諦めていた私をいつも叱って、引きまわして…… (そう…諦めちゃダメ……諦めたら…もうあの人に会えない!)  そして…ゆっくりと目を開き―― 「はぁ…はぁ…はぁ……」  狭いコクピットの中に荒い呼吸と一緒に吐き出された音が響き渡る。  後はトリガーを引くだけでクレイモアは発射され、目の前の機体は完全に破壊される。  だが、そのトリガーに掛かった指が、たった一本の指が、まるでそこに無いかのようにピクリとも動かなかった。  この引き金を引けば恐らく中のパイロットも一緒に死ぬ事になる。  いまさら自分の手が汚れていないとは思ってはいないが、さっき聞いたパイロットの女性の声が耳から離れず、  見た事も無いはずの彼女の顔を思い浮かべ、悲しそうな瞳で見つめらるだけで、自分のしようとしている事の  重圧に押しつぶされそうになる。 (落ちつけ…いまさらなんだって言うんだ……俺は…俺は決めたはずだ……イングラムを倒すために闘うと!)  極度の緊張で、顔に上から下に向かって大量の汗が流れ落ちる。それを拭おうと思っても両手が操縦桿のグリップ  から離れない。いくら頭が命令しても体がそうはさせまいと、目の前の機体を破壊する事だけはさせまいと、  固まってまったく動かない。 (くそっ…なんだって言うんだ……あいつは…一体なんなんだ!!) 「う……うう…うああああぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!」  突然叫んだかと思うと、次の瞬間にはアルトアイゼンはスクエアクレイモアを発射せずに、バーニヤを噴射して  未だに倒れたままのヒュッケバインに向かって突撃した。 『俺は…Rシリーズを破壊する! ヒュッケバイン、お前もだ!!』  発射はしていなくても肩の装甲は展開したままで、加えて右腕のリボルビングステークも構え、頭部について  いる一際長い角も赤く発熱し始めた。 「待て、待ちやがれ!! 動けねぇあいつよりも俺と勝負しろ、てめぇ!!」  今一歩、アルトアイゼンに届かなかったR−1が長射程のブーステッドライフルで狙撃しようとするが、空中  のヴァイスリッターに妨害される。  被弾覚悟でビームの雨の中を突っ切ろうとしてももはや届かない、絶望的な距離にあるアルトアイゼンの背中。  その向こうのヒュッケバイン。 「ちくしょう、ちくしょうーー!!」  声に力があれば、助ける事もかなわないクスハの姿を見ながらリュウセイが叫ぶ。 『これで終わりだ、至近距離で全弾叩きこむ、くらえ――なに!?』  自分自信に勢いをつけたまま、トリガーを引こうとしたブリットの声が突然驚きに変わる。  発射体制を取ろうとした瞬間、アルトアイゼンの右足が強い力で前方に引かれ、重い機体はバランスを取り戻す  事無く、前にすべりながら後ろに倒れこんだ。 「あっ…ごめんなさい、ブリットくん。まさかそんなに上手く倒れるなんて思っていなかったから…」  そして変わりに起きあがったのは――私の操縦するヒュッケバイン。発射したチャクラムと繋がる線はしっかり  とアルトアイゼンの足に絡みついていた。 「クスハ、お前起きてたのか!?」 「うん、さっき目が覚めたの。リュウセイくんの声が聞こえたから…」 「あ…あぁ、うん、そうか、聞こえてたか、そりゃよかった、ははは…で、俺、なんていったっけ?」 「たしか私の名前を…!リュウセイくん、危ない!!」 『戦場でのんびり隙を見せるとは甘いな。貰った!』  私が無事だったと知って気を抜いたリュウセイくんの後方に白い機体――ヴァイスリッターが回り込み、片手で  構えた長銃をR−1の背中に向ける。 (ライフルは――さっきレオナと組み合った時に落としたまま。取りに行ってる時間は無い。だったら――) 「確かに隙を見せる方が悪い」  グウォン!  再起動したばかりのヒュッケバインでR−1をかばおうと踏み出したと同時に、空中のヴァイスリッターが横  から銃撃を浴び、墜落するように地面へ着地した。 「あれはR−2、ライさん!!」 『くっ…不意打ちとは卑怯な……名門ブランシュタインの名が泣きますわ!』 「個人プレイばかりで互いの隙を埋めようとしなかったお前たちのミスだ。どうこう言われる筋合いは無い。それ  よりも無事で何よりだ、クスハ」 「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です」 「そうか」 「にしてもお前、もうちょっと急いでこいよな〜〜。間一髪のおいしいタイミングで出てきやがって。まるで俺が  引きたて役じゃねぇか」 「悪かったな。だったら今後はお前だけは助けてやらんから安心しろ」 「あ、嘘です、うそうそ。ライちゃんってば、す〜ぐ本気にするんだもんな〜〜。そんじゃま、大事なのはチーム  ワークだって言う事を…たっぷりノシつけて教えてやるぜ!」  そう言ってR−1が前に動き出し、R−2が手に持ったマグナ・ライフルを倒れたままの二機に向けて構えなおす。 「ま、待って、あの機体には私の友達が――」  ギュウウゥゥゥン!!  とっさに二人を止めようと私が声を出す。しかし、それを途中でかき消すほどの轟音を立てながら、私たちと  アルト、ヴァイスの二機の間に二条のビームが突き刺さった!! 「ちぃ…もう来たか…」 「きたって…あれは!?」  ヒュッケバインのメインカメラがビームの飛んできた方向を向く。それは山の頂上近くに佇み、私たちを見下  ろしていた。 「なんだ、ありゃ? ひょっとして戦車か?」 「うん…私にもそう見えるけど…」  モニターに移った機影は、PTほどの大きさはあるものの、足に相当する部分が無く、手も短めで機体上部から  二本の砲塔が延びている。そのシルエットはPTやMSが開発されてから、ほとんど姿を見なくなった戦車の姿  を彷彿とさせていた。 「…違う。リュウセイにはさっき説明したはずだ。あれが……」 『二人に全部任せようかと思ったんだが…まだ荷が重かったか。ま、この辺が経験値の差ってヤツかな?』  私たちが通信に使っている周波数に、突然別の男の人の声が割り込んでくる。同時に、頂上にいた戦車のような  機体も山をものすごい勢いで降り始めた。 「あれが、アメリカのテスラ=ライヒ研究所が開発した名機――」  そして私は自分の目を疑った。  斜面を走り降りてきていた戦車は途中で軽くジャンプしたかと思うと、正座した足を伸ばすかのようにキャタピラ  部分が人型の足へと変わり、側面のパーツが回転され伸ばされながら腕部になる。上に伸びていたビーム砲は背中  に回り、かわりに鋭角的な印象の頭部が胸から上にスライドする。 「『超闘士』…グルンガストだ」  ズズゥゥン……  いつまでも震えつづけているようにさえ思える重たい地響きと共に、私たちの目の前に青い色をした巨大なロボ  ットが降り立った。 (これが…グルンガスト…)  ヒュッケバインよりもさらに大きな姿には私を押しつぶすような圧迫感さえ感じる。それ以上に、ヒュッケバイン  を通じて感じられる、内に秘めたパワー………強い…… 『さて…それじゃ今から俺が相手だ。イングラムを止めるためにも、お前たちの機体、破壊させてもらうぜ』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― パーソナルデーター クスハ=ミズハ  精神:加速 幸運 信頼 激励 愛 奇跡  スキル:未定 ブルックリン=ラックフィールド  精神:熱血、必中、突撃、ド根性、鉄壁、魂  スキル:SP回復 レオナ=ガーシュタイン  精神:隠れ身、閃き、挑発、威圧、手加減、熱血  スキル:天才


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