「クスハストーリー「ヒュッケバインvsグルンガスト」」後編
「偵察に出たリュウセイたちが襲撃されているだと!?」
先刻到着した無人ドローンからの情報の報告を受けたブライト=ノア艦長はリーンホースJrの艦橋
で思わず大きな声を上げた。
その内容は――「我、襲撃ヲ受ケル。コレヨリ迎撃ニムカウ」――短い文章ではあるが、それが全てを
物語っていた。
「総員、第一種戦闘配備! ネェル・アーガマ緊急浮上! 各モビルスーツ、スーパーロボットのパイ
ロットは五分で出撃の準備をしろ!! 急げ!! アストナージ、機体の整備の方はどうだ!?」
他よりも一段高くなっている艦長席の横に設置してあるインターフォンを手に取り、ブライト艦長が
矢継ぎ早に指示を下していく。リュウセイやクスハたちが襲撃された場所は南アタリア島近海の無人
島。そこで襲撃を受けたとなればマクロスの艦宙式が間近の本島も襲撃される可能性が非常に高く、
そしてなにより、仲間である彼らを救出に行かねばならない。
「くっ……無事でいろよ……」
「ブライト艦長、ネェルアーガマの発進に先駆けて高速機体を先行させ、SRXチームの援護に向かわ
せる事を提案します。今は一分一秒を争う時、いかに彼らが腕利きパイロットでも――」
「わかった。トーレス、マクロスに通信、バルキリー小隊の出撃を要請しろ。格納庫、Z、リ・ガズィ、
ビルバイン、サイバスターの出撃を優先。スタンバっておけ!」
特務機関ネルフから作戦参謀として出向している葛城ミサト三佐の提案を聞き入れるや否や、即座に
適切な指示が出せるのはさすが歴戦の艦長、経験の豊富さを感じさせる。が……
「はっきりいって…ちょっと間に合わないかもね。クスハちゃんならともかく、リュウセイって子は
絶対に敵に突っ込んでいくタイプだもんね……あのハンサム君が押さえてくれればいいんだけど……」
「くっ……味方の基地だと思って、油断しすぎたか……こちらから三機の様子を捉えられないのか?」
「今やってます。しかし、どうやって厳重なSDFの監視網を抜けてきたんだか……」
(ってことは、敵さんにはこっちの情報がばれてるって事か……それで喧嘩売ってきたって事は神風じゃ
なくて、準備万端、勝つ自信あり……敵を知り己を知ればなんとやら…やっかいね…)
「ええぃ、まだ出撃はできんのか! 早くしないと……」
ロンド=ベルの戦闘力から言えば三機の損失はそれほど大きいものとは言えないかもしれないが、今
まで死線を潜り抜けてきた仲間がピンチの時に何もできない無力感にいらだち、ブライトが肘掛を強く
握った手で殴りつける。
「……あぁもう! 焦っても仕方ないけど、何かする事は無いのかしら! こんなときにのためにあたし
はこっちに来たって言うのに!!」
『ブリッジ、聞こえるか!? こちらサイバスター、いつでも出られるぜ!!』
その時、焦りだけが先行していたブリッジに強い意思のこもった声が響き渡った。
「その声…マサキか!?」
『なんかイヤな予感はしてたんだ。待ってて正解だったぜ。んじゃひとっ飛びしてあいつらを助けてくる
ぜ!! 早く発進許可をよこしな!!』
「頼む! こちらも準備が整い次第順次発進させていく。それまでなんとしても時間を稼いでくれ!!」
『了解、まかせときな!!』
「その発進、少しだけ待ってもらおうか」
ようやくクスハたちを助ける一筋の光明が見えてきた時に、それはブリッジに入ってきた人物のクールな
一声で中断されてしまった。
「なっ、イングラム少佐!! 何を言っている、あなたの部下が戦っているんだぞ!?」
「それは分かっている。だが、そう簡単にくたばるような訓練はしてきていないつもりだ。それに発進する
なとは言ってはいない。彼らが生き残るために必要なものを運んでもらいたいのだ」
「必要な…もの?」
ミサトがイングラムの抑揚の無い声の裏に何か不気味なものを感じながらも、まるでそう言う配役を当て
られているかのように、イングラムの次の台詞を導き出そうと無意識に声を出す。
「そうだ……」
(これでダメだったら諦めがつくというもの……生き残って見せろ……リュウセイ…そしてクスハ……俺の
野望のためにな…)
『さぁて、まずはどいつから俺の相手をしてくれるんだ? 別に三人同時でもいいぜ。できればかわい娘
ちゃんから来てもらいたいけどね』
「んだとこらぁ!! よっしゃ、だったら俺がぶん殴ってやる!!」
「落ちつけリュウセイ! あれが挑発だと言うのがわからんのか!」
目の前に聳え立つ巨大なスーパーロボット、グルンガスト――私たちの機体よりも大きいけれど、コン
バトラーVほどの大きさは無い……それでも、そこにいるだけで身がすくみそうな威圧感を誇るその
相手に踏み出そうとするR−1の肩を慌ててR−2が掴み、その動きを押さえこんだ。
「わかってらぁ! わかってるけど…お前はあそこまで言われて頭にこないのか!!」
「わかっている挑発に乗ってやるほどお人よしではないのでな。クスハ」
「は、はい!」
完全に雰囲気に飲みこまれていた私は、グルンガストと、その後ろに控えるような場所に移動した赤と
白の機体――アルトアイゼンとヴァイスリッター、ブリット君とレオナの方から目を離さずに、呼んだ
R−2の側にヒュッケバインを寄せた。
「相手が全員でこいと言っている以上、遠慮無く掛かるぞ。フォーメーションは2−1−Hだ。相手は
剣術戦闘に特化した機体だ、距離を置いて戦えばなんとかなるかもしれん。リュウセイもそれでいいな」
「……わかったよ。だがクスハ、先に言っとくが、さっきみたいな無茶はするなよ」
「そうだ。敵に突っ込むのはリュウセイだけで十分だ」
「そうそう、俺だけで十分なんだ……って、それどう言う意味だ、ライ!」
「そのままの意味だ。無理無茶無謀な特攻を毎回サポートする身にもなれ」
「……くすっ」
「あっ、クスハ、今笑っただろ!? てめぇら二人揃ってぇ…後で覚えてろ!! 今日の晩飯はお前とライ
の奢りだからな!!」
「うん、いいよ。その時は私の健康ドリンクもつけてあげるからね♪」
「……それだけは勘弁……」
「えっ…そんな……がんばって作ってあげるのに……ひどい……」
「せっかくのお誘いだ、受けたらどうだ? 断ったら彼女を悲しませる事になる――」
「わかった、わかりましたよ! 帰ったらクスハのドリンクぐらいいくらでも飲んでやる! それでいいん
だろうが! だから泣くんじゃねぇ!!」
「……うん♪」
………なんでかな…この人たちといると、目の前に恐い人がいても自分が自分でいられる……
『さっきから何をこそこそと話してるんだ? 逃げる算段も言いが、待つのも飽きた。来ないんだったら
こっちから行くぜ』
こちらがいつまでたっても(おしゃべりしていて)動かず、業を煮やしたのか、グルンガストが豪腕を私
たちの方に向けた。
「――いくぞ!」
「おうっ!」「はいっ!」
それと同時に私たちも走り出す!
R−1は前へ
R−2は左に
そして私のヒュッケバインは右に――さっき取り落としたフォトンライフルに向かってスラスターを
全開にする!!
「くらいやがれ! 一撃必殺!!T−LINK――」
『そんな真正面の攻撃、誰がくらうか! ブーストナックル!!』
R−1が青い機体の懐に飛びこむよりも早く、前に突き出されたグルンガストの握りこぶしが右腕ごと
前に発射される!
「へっ、それはこっちの台詞だ!! R−1、変形!!」
マジンガーZのロケットパンチのように飛来する鉄拳がぶつかるより一瞬早く、拳を引いたR−1はR−
ウィングに変形し、片翼が千切れているのも関わらず、バーニヤの出力だけで一気に空に舞い上がる!
『なにっ!?』
「本命はこちらだ、ハイゾルランチャー、シュート!!」
リュウセイ君が注意を引いている間に距離を置き、発射体勢を整えたライさんのR−2が両肩に装備された
プラスパーツ、片側五本、合わせて十本の発射口から同時にビームを解き放つ!
『ちっ!こっちかぁ!!』
R−1のいなくなった地面に突き刺さり、まだ右腕が戻っていなくて片腕の状態でハイゾルランチャーを
受けとめる!! あれだけのエネルギー砲の直撃を受けたにもかかわらず、縦に構えた左腕は吹き飛ぶ事
も無く、巨人はその場に平然と踏みとどまった。
「だが動きは止まった! くらえ、念動シュート!!」
『くっ!』
『隊長!!』
上空高く舞いあがったR−ウィングはその場で変形し、ヒュッケバインやR−2も含めたバトルフィールド
全体に雨あられのごとくGリヴォルバーを撃ちまくった!
『そんな攻撃、躱せないとおもって!』
「甘いんだよ! 曲がりやがれぇぇ!!」
自分たちのリーダーの身を案じて動きの止まったアルトアイゼン、着弾点を予測して回避を始めたヴァイス
リッターを上空からモニターに捉えながら、リュウセイ君が叫ぶ! そして、T−LINKシステムで増幅
された念動力が、撃ち放たれた弾丸を途中で軌道を変えさせ、赤、白、そして青の機体に襲いかかる!
ドドドドドドドドドドン!!
「よし、取った!!」
その間に私はライフルのあった地点に到達し、構えさせながらヒュッケバインを振りかえらせる。銃弾で巻き
上げられた土煙の向こう、ライさんとリュウセイ君の攻撃で身動きのとれないグルンガストの背中!
(あの人を倒せば……くっ!)
なんの怨みも無く、ただ自分が生き残るためだけに――
銃のトリガーを引く――
『やらせはしない!』
「えっ!? ブリット君!!」
土煙、そして銃弾の雨の中を、装甲をへこませながらも五体健在で突き抜けてきたアルトアイゼンが右腕の
杭を私に向けて大きく振りかぶった。
『そんなみえみえの誘導に引っかかると思っていたの!』
「レオナまで!」
とっさに銃を引いて後ろに飛びさすったヒュッケバインを追うように、銃弾を加速で振りきった白い機体が
アルトアイゼンの分厚い壁の向こうから現れ、ビームを撃ってきた。
「やめて! 私は二人とは戦いたくないの! 二人と戦う意味なんて無いもの!!」
「何を戯れ言を。敵が目の前にいるから――そして己の信念のために戦う、それだけの事。いまさら泣きつい
ても、もう遅い!!」
「目の前の敵は打と意地をもって切り伏せる! 少尉の言葉じゃないが…迷いなど貫いてみせる!!」
「いやぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
私の叫びは二人には届かず――そして――友達と戦いたくない、そんな私の迷いの為に、一度は手が届き
掛けた生き残るチャンスは、その友達に追い立てられて、どんどんと遠ざかり始めていた……
「クスハ?」
全弾を撃ち終わり、空中でGリヴォルバーの排莢を済ませたリュウセイは、クスハの叫びに反応してR−1
の視線を巡らせた。
「あいつ、反撃もしないっで何やってんだ! 待ってろ、今俺が――」
二機のカスタムPTに攻撃され、逃げまわるだけのヒュッケバインを見つけ、とっさにR−1のスラスター
を吹かして三機の乱戦に向かおうとしたその時――
グォウン!
「えっ!?」
下から突き抜け、そして背後へと近づいてきた轟音に、再び今いた空間に首を向けるR−1。所々線の飛び
出た横長の三角形のようなシルエットをした青いものが、そこにはいた。
『さすがはイングラムの子飼いなだけはあるな。結構効いたぜ』
「お前は…グルンガスト!?」
『この形態はウィンガストって言うんだよ。てなわけで変形、グルンガスト!』
そしてR−1の目の前で、翼が足に、バーニヤが腕にと変形し、リュウセイを見下ろすようば位置で、グルン
ガストがその姿を取り戻した。
『変形がお前だけの専売特許と思うなよ。そう言うわけで、こいつはお返しだ!』
「がっ、しまった!」
回避する暇も無く、グルンガストの巨大な腕がR−1の頭部を、いや、小柄なR−1であったために胸部まで
鷲掴みにされ、スラスターを吹かしているにもかかわらず、背中を無理やり真下を向けさせられる。
「やばっ!」
「じっくりと味わいな、ブーストナックル!!」
ゴゥゥゥ…ドグォン!!
「ぐあああああ!!」
R−1を掴んだまま発射されたブーストナックルは、鉄の巨人を人形のように地面に叩きつけた!!
『まだまだ行くぜ!!』
そして上空高くから落ちてきたグルンガストの膝が、R−1の腹部にめり込んだ。
「ぐっ…はぁ……」
『さすがにEOTで作られているだけあって頑丈だな。あれだけくらっても破壊できないとは……だが…中の
人間の方は耐えられなかったみたいだな』
大地を十秒近く奮わせ続けてから、ゆっくりとグルンガストが立ち上がる。その足もとに横たわるR−1は
原型はとどめているものの、硬い地面にめり込むほどの衝撃を叩きつけられた腹部のフレームは歪み、まるで
死んだかのようにピクリともしなかった。
「リュウセイ、早くそこから離れるんだ! どうした返事をしろ! 聞こえないのか、リュウセイ!!」
ようやく土煙が収まり、R−1が倒れているのを見つけたライが通信機に向かって何度も呼び掛けるが、
リュウセイからの返事は無かった……
『お前のお友達には悪い事をしたが…諦める事だな。怨んでもらってもいいが、次は…お前だ、ライディー
ス少尉。イングラム=プリスケンの計画を止めるために、その機体、破壊させてもらう。計都、羅喉剣!!』
「くっ…リュウセイ……」
上空に掲げた手に宙から現れた黄金の剣を掴む姿を見ながら、ライはコクピットの中で義手が軋むほど強く
握り締めながら、一刻も早くR−1の傍からグルンガストを引き離すべく、R−2を高速移動させ始めた。
「リュウセイ君!!」
突然響いた轟音にヒュッケバインのカメラを向けると、土煙の向こうにグルンガストが、そしてその足元に
リュウセイ君の乗るR−1が横たわっていた!
『敵を目の前にどこを見ている!』
「くぅ!!」
突き込まれてくる杭が念動フィールドにぶつかって突進スピードが一瞬遅くなる瞬間に、ヒュッケバインを
アルトアイゼンの横をすり抜けさせ、R−1の方に向かおうとする。
『隊長のところに行かせはしない!!』
「くっ、レオナ!」
『スクエア・クレイモア!!』
「きゃあ!!」
(だめ…向こう側に行けない……リュウセイ君が倒れてるのに…)
なんとか躱し続けてはいるけれど、前に進もうとすればアルトアイゼンの厚い壁に阻まれ、躱したり距離を
置こうとすれば、すかさずヴァイスリッターの砲撃が襲いかかってくる。それでも無傷とはいかず、フォトン
ライフルはビームの光嬢に貫かれて爆発し、機体の所々にもビームがかすって焦げた後や、ぶつかって出来た
へこみや擦過傷が目立ち始めた。
「お願い! ヒュッケバインは壊してもいい。だから私をリュウセイ君のところに行かせて!! 早くしないと
リュウセイ君が!!」
『くっ…いまさら命乞いか! ふざけるな!! 己の意思を通したいなら俺たちを倒して見せろ!!』
「この…わからず屋!!」
(アルトアイゼンの攻撃パターンはもうわかってる! ブリット君…ごめんなさい!)
一気に接近してきて完全破壊しようと爆発する杭を突き出してくる、それを逆手にとってアルトアイゼンの
左手側に半歩、足を滑らせ半身になる。
「グラビティ・ウォール!!」
『ぐぁ!!』
ヒュッケバインの左手側を通過しようとするアルトアイゼンと機体が触れ合いそうになる瞬間、最大出力の
フィールドが目の前に現れ、アルトアイゼンの全身を絡めとる!
『何をやってるの、ブリット!!』
そしてそのまま左に機体を動かすと、グルンガストとR−2の戦闘している地点との間、私の目の前に回り
込むように左へ移動したヴァイスリッターの銃口がこっちを真っ直ぐ狙っている――でも!
完全凡用型のヒュッケバインの全身に取り付けられたアポジモーター、そのうち左半身に取り付けられた
ものの出力を全開にし、踏み出した左足に溜めこんだ勢いと一緒に開放して来た道を戻るように右へ!
『なっ!?』
斜め後ろへ――アルトアイゼンの目の前、一歩の距離。
既に動けるようになった赤い機体、その影を隠れるようにヒュッケバインが移動したため、誤射を恐れて
慌てて銃口を上に向ける。
「いって、チャクラムシューター!」
『くっ!!』
『そんなもの!!』
それまで一切攻撃してこなかったヒュッケバインからの攻撃に、アルトアイゼンは右手を突き出しいて
重心のずれのままに、私の左へ、ヴァイスリッターは移動の勢いのまま、私の右側へ。
そして……私の目の前には一本の道が開けた!
グオォン!!
『しまった!!』
真っ直ぐ、前へ、リュウセイ君のところへ!!
ヒュッケバインのスラスターを全開!! 踏み出した一歩目で動き出し、二歩目で加速が始まりアルト
アイゼンの横を抜け、三歩目で最高速、そのまま一気にヴァイスリッターも躱して、遠くに行ってしま
った青い巨人に向かって突き進む!!
「! クスハか!!」
『ちっ、一対一の勝負を邪魔するな! ブーストナックル!!』
突然突っ込んできた私のヒュッケバインにR−2とグルンガストの注意が一瞬だけこちらを向く、と同時
に飛んでくる左のブーストナックル!
「そんなもの見慣れています!!」
(真っ直ぐ飛んでくるだけなら!!)
手持ち武器が無くなった右手に握っていたライトセーバーを起動! 少し身を屈めて、下から切り払う!!
『マジか!? ブーストナックルを!』
(動きが止まった!このまま一気に!!)
泣き崩れ、萎えてしまいそうになる心を必死に奮い立たせる!!
威圧感に押しつぶされそうになる心で必死に前だけを見続ける!!
軌道のそれたブーストナックルをくぐりぬけ、見を屈めながらさらに加速!!
『だったらお前から先にやらせてもらう!』
「クスハ、よせっ!」
(止まれない、止まらない!! だって…リュウセイ君が!!)
R−2を無視し、こちらを振り向きながら右手に持った金色に輝く剣を振りかぶるグルンガスト。
ただ前だけを、グルンガストの向こうに倒れているR−1だけを見つめて突き進むヒュッケバイン。
二体の距離はぐんぐん狭まり――黒の機体と、青の巨人が――交錯する!
『計都羅喉剣、弾けるもんなら――弾いて見せやがれ!!』
天を突きそうなほど大上段に構えられた大剣が風を引き裂きながら振り下ろされ――地面を叩き割った!!
『なにっ、下だと!?』
左腕を戻しながら、表情を変えぬグルンガストから慌てた声が響く。
私は全力で振り下ろしてきたがゆえに出来た隙間――グルンガストの股の間をスライディングで潜り抜け、
眼前のR−1に機体を走らせる。
『素通りなんかさせるか!』
(くるっ!!)
『くらえ、ファイナルビーム!!』
「横に飛べ!!」
「えっ?」
私が操縦桿を動かすよりも早く、T−LINKシステムが私の脳波をキャッチして、反射的に回避する。
そのまま真っ直ぐ前に進んでいればヒュッケバインがいたであろう地点が、グルンガストの胸部から発射
されたビームで赤く変色し、溶けて溶岩になりかかっていた。
「こいつは…俺からのお返しだ!」
「チャクラムシューター!」
「俺を忘れるとはなめられたものだな!」
ゴゥゥゥン! ギャリギャリギャリ!! ゴゴゴゴゴゴォン!!
そして、連続して大技を放ち、動きの止まったグルンガストに、振り返ったヒュッケバインMK−Uの
チャクラムが、間合いを取ったR−2の銃撃が、そしてわずかに身を起こしたR−1の右手に構えた
ブーステッドライフルが――グルンガストに連続して直撃した! さすがの巨体も一方向からの一斉
攻撃に踏みとどまる事が出来ず、踏みとどまろうとする両足で地面を抉りながら、後方に押し飛ばされた。
「へっ……ざまぁ…見やがれ……」
「リュウセイ君!!」
「リュウセイ、無事だったか!?」
「あ…あったりめぇよ……俺は…無敵のリュウセイ様だぜ……ちょっと…気絶してただけよ……」
やっと一所に戻る事が出来た私たち。その中央で、R−1が多少軋む音を立てながらもなんとかその場
に立ちあがった。
「よかった…無事だったんだ……よかったぁ…うっ……ひっく…うぇ……んっ……」
さっきグルンガストに突撃した時の恐さにもこぼれなかった涙が、リュウセイ君が無事だとわかってホッ
とした途端に一気に溢れ出てきて、私の視界をグチャグチャに歪めてしまう。
「クスハ…お前、また泣いてるのか?」
「……うん…だって…リュウセイ君が……」
「リュウセイ…女性を泣かすのはよくないぞ」
「ったく…二人がかりでこんな時に……それよりも…来たぜ」
どんなに我慢しても涙が止まらなくて、ヘルメットを脱ぎグローブの甲で涙を拭っている時、センサーが
後ろから敵機が近づいてきている事を示し始めた。
『やられたぜ……まさか生きてるとはな』
「勝手に俺を殺すな。てめぇこそゾンビみたいにいつまでもピンピンしてやがって」
『こらこら。俺は一度も死んでねぇぞ。こんな美男子を勝手に殺してるのはそっちだろうが』
後ろには多少ダメージを受けてはいるものの、未だ健在なグルンガスト、そしてアルトアイゼンとヴァイス
リッター……ブリット君とレオナ……
『さて、結構時間を食っちまったが、ふりだしに戻っちまったな。だが、そのダメージだ。今諦めれば命だけ
は助けてやるぜ。どうする?』
「何度も言うようだが…俺たちの機体を破壊させてやるわけにはいかん」
「そうだぜ……それに、今度は俺たちの反撃なんだからよ……覚悟しやがれ!!」
『ライ少尉、リュウセイ少尉……今のあなたたちの状況がわかっているんですか? このままではあなたたち
は機体と一緒に――』
「――うるせぇんだよ」
ゾクッ
ブリット君はブリット君なりにこちらを心配してこちらに要求を飲むように言ってきた……それにリュウセイ
君が答えた途端、私の背中に言い様の知れない寒気が走り抜けた。
「さっきまでクスハを殺そうとしてたヤツの言う台詞じゃねえぜ……ふざけてんのか……」
『なっ…それは彼女が抵抗したから……』
「そうか……だったら……俺も抵抗してやるぜ!!」
ギュォン!!
瞬きほどの時間、その間にR−1はアルトアイゼンの目の前まで移動し、光り輝く右拳で胴体を殴って後方に
吹き飛ばした!!
「クスハが…抵抗しただと?……ふざけた事言いやがってぇ!!」
「待て、リュウセイ!! お前の今の状況では――」
『死にたがりなど放っておきなさい。あなたはそこで馬鹿な男の死に様でも見学している事ね』
「確かにリュウセイは馬鹿だが死に急いだりはしない。それは俺が一番知っている!」
『だったら、そのお友達と一緒に仲良く討ち死になさい!!』
「やれるものならやってみろ!!」
「リュウセイ君! ライさん!」
私の声を聞こうともせずに、リュウセイ君はブリット君と、ライさんはレオナとそれぞれで戦闘を始めて
しまった。
「やめて、みんなやめてぇ!! なんで…なんで私たちが闘わなくちゃいけないの!? 同じ人なのに……
どうして…どうして……」
『君みたいなかわいい子に涙は似合わないぜ。ほら、ちゃんと前を見て』
「えっ……あっ!?」
いきなり話しかけられて、思わず顔を上げると、ヒュッケバインの通信用モニターに長めの髪の男の人が
映し出されていた。一目見て美形だとわかるけれど、ライさんのように寡黙なクールさは感じられず、
どちらかというと活発で野生の獣のような鋭さと力強さが感じられる顔立ちをしていた。
『やっぱりな。声を聞いてて絶対に可愛いと思ってたんだよ。クスハちゃんだったよね。どうだい、俺と
付き合わないかい?』
「え?え?な、なんで、こんな、えっと、あのその…こまります……今はその…戦闘中ですし……」
『へぇ、君も結構乗りがいいね。それは余裕ってヤツかな? でも…もう俺たちしか残ってないんだ。イヤ
でも付き合ってもらうぜ』
「あの…あなたは一体……?」
モニターの隅には双方向回線――外部には漏れずに二人だけの通信が行われている事を示す文字が浮かん
でいた。多分、ワイヤーか何かをヒュッケバインの外装に張りつけて通信しているんだと思う……
『俺のことがわからないの? やだなぁ、こんなすぐ目の前にいるのに』
「目の前………! ま、まさか!?」
私の目の前……通信用スクリーンの上、コクピットの正面モニターに映し出された映像……そう…グルン
ガスト……この人がこのスーパーロボットのパイロット……イルムガルト=カザハラ中尉………
ファーストバトルへ