Gルートその5
「はぁぁ…はぁぁ…はぁぁ……」
マシンルームから逃げてきたあたしは自販機横に設置されているベンチにドカッと座りこみ、顎を上げて乱れ
た呼吸を繰り返していた。
まさか、いきなりあんな目に合うなんて……これって女になった副作用なのかしら?…………早く男に戻りた
い……
エッチに感する災難だけは次から次にやってくる自分の運命に涙をこぼす。今回はたまたま助かったけど、あ
の機械が動かなかったら、今ごろはあそこで……あんな場所で……
「……はぁぁぁ…助かった……」
珍しいと言えば珍しい。男の人にエッチな事をされて、それを途中で逃げ出せた事なんて、今まで数えるぐら
いしかなかった。あの寺田先生相手にさえ最後には……だったんだから、今回は本当に運がよかったと思える。
それにしても、さっきの事を思い出すだけで、心臓がうるさいぐらいにドキドキしている。もし誰かにあんな
ところを見られてたら……あの性欲丸出しの変態筋肉男だったら。当然あたしは犯されていたに違いない。そし
たら、あの男が言っていたように、ホテルの部屋に連れこまれてそこで――
「……やだ、あたしったら……変な事考えて……」
暗い室内、白いシーツの敷かれたベッドの上で、お尻に叩きつけるように腰を打ちこまれ、あの大きな肉棒に
おマ○コを何度も突き入れられて、粘膜を激しく擦りたてながら精液まみれにされてしまう……そんな事を、ふ
と考えてしまったあたしの体にブルッと震えが走り抜ける。
キュッと収縮した子宮から広がったその震えはすぐに収まったけど、それをきっかけにして、シャツの餓えか
ら何度も握り締められたおっぱいの膨らみや、露出させられておチ○チンを擦りつけられたお尻の谷間に、あの
男の触れた感触が残っているような気がして、全身にじわじわと這いまわるような悪寒が広がっていく。
乳首も勃っちゃったし……ああ、もう。スポーツジムにきたのに、うじうじしていてどうするのよ! せっか
くに機会なんだから、性欲がなくなっちゃうまで運動しようじゃないの!……でも…あの部屋にはあいつがいる
からなぁ……
「はぁ……どうしよう……」
「どうしたの?」
「うん、じつは変な男に絡まれちゃってね…………って」
あの男に見つからずに、どうやって運動しようかと考えていると、ちょうどいいタイミングで相槌が入ったの
で自然にそちらへ顔を向けてみると、まるでそこには鏡があるかのようにあたしの顔が……じゃなくて、
「静香さん、いつからそこに!?」
「体を震わせていた時から」
「あっ…そっ……」
そ…そこからいたなら、もっと早く声を掛けてくれればいいのに……
ズルズルと滑り落ちたくなるほどの脱力から何とか気力を立てなおして顔を上げると、静香さんの向こう側に
は廊下をふさいでしまいそうな巨漢の熊田さんまで立っている。静香さんの側に直立不動で控えるその姿は、ま
るでボディーガードのようにも見える。
でも、ボディーガードと言うよりは子馬鹿な親って言う感じが……
実際、この施設の責任者の人みたいだけど、最初の出迎えや接する態度、それに静香さんにずっと付き添って
いるのを見ると、社長の娘さんと言うよりも自分の子供か孫を甘やかしているようにしか思えない。静香さんの
お父さんの会社って、一体どんなトコなんだろう……
「それで?」
「それでって…なにが?」
「お話に割り込む事をお許し下さい。今の相原様のお話では――」
あ、相原様って……別に様付けでなくても構わないんだけど。あははは……
あまり要点を得ない静香さんの言葉を引き継ぐように、熊田さんが一歩踏み出し、あたしを見下ろす位置に移
動して喋り始めた。
「当施設内にて、何やら不快な思いをなされたご様子。もし不信人物がいたのでしたら、我々に一事言ってくだ
されば直ちに排除いたしますが、いかがいたしましょう?」
「排除…って、何をするんですか?」
「なに、たいした事ではありませんよ。他のお客様が不快に思うようなことをなされるようでしたら、お帰りい
ただくだけです。一人の自由の為に数多くのお客様の余暇を害されるのは困りものですしね」
へぇ…そんな事もするんだ。あたしはてっきり熊田さんが外に放り投げるのかと思っちゃった。
こうやって見上げると、熊田さんの今のもはちきれそうな背広の下にはさっきの筋肉男に負けない、もしかす
るとそれ以上の筋肉に覆われているのが見て取れる。でも紳士なのよね……あの男も見習って欲しいわ。
「あ……いいんですいいんです。あたしが一方的にイヤだなぁって思っただけですから。気になさらなくてもい
いですよ」
「む…そうですか。そう言われるのでしたら」
とは言っても、あんな事があったらどこかに行っちゃってるだろうし、あまり事を大げさにもしたくないと思
ったあたしは、両手を振って何でもなかったように装う。それにここで口にしてしまえば、すぐ隣にいる静香さ
んにも聞かれてしまうかもしれない。それは男の人との恋愛をしたいと考えている彼女にはあんまり聞かせたく
ない話だった。
まぁ、よくある事だしね。ここはちょっとだけ我慢しよっと。
「それで、運動しないの?」
「えっ……運動?」
熊田さんとの会話がだいたい終わったのを察知してか、タイミングよく小さく呟かれた言葉に返事をすると、
静香さんは細い顎を小さく上下に動かした。
「さすが静香お嬢様。気分が暗い時には体がくたくたになるまで汗を流して気分をリフレッシュするのが一番で
す。いかがですか、O・S・C自慢のマシンルームには行かれましたか? あそこには古今東西、最新鋭のフィ
ットネスマシーンが――」
「あ……あれはその…ちょっとあたしには合わないかなぁ…って。あはははは……すみません」
ううう…せっかく招待してくれたのに、なんだか我侭っぽい事を言っちゃって……ごめんなさい、静香さん、
熊田さん……
「そうですか。室内の運動は苦手なわけですね? でしたら屋外で自然を満喫しながら体を動かすのがいいでし
ょう。ここの敷地内にはテニスコートもあればピクニックコース・ジョギングコースなどもあります。アスレチ
ックなどもありますし、ゴルフコースもハーフまでなら。道具の貸し出しなども行っていますので、もしよけれ
ばそちらに行ってみられては?」
「う〜ん…テニスかぁ……」
ゴルフなんかも面白いかもしれないけど、あたしの想像は静香さんといっしょにするテニスへと向いていた。
静香さんのテニス姿ってのも似合ってるわよね。あ、それじゃ、あたしでも似合うか……二人でボールを打ち
合うって言うのも面白いかもね。
「静香さん、あたしといっしょにテニスしない? 二人でやればきっと楽しいと思うけど――」
「いや」
ちょっと下心……って言うのか、静香さんがテニスをしたらどんな風になるだろう、なんて言う事を考えなが
ら口にした提案は、モノの一秒と持たずに却下されてしまった。
「へっ?…な、なんでよぉ」
「運動、苦手」
あ、なるほどね。それを忘れてた……それに、あたしと同じ顔で運動神経抜群っていうのも、見たいようで見
たくないような……
「相原様、私でよければお相手いたしますぞ。これでもこの熊田は学生時代にインターハイにまで勝ち残った腕
前。初めての方でも、親切丁寧に指導させていただきますぞ」
「熊田さんが…テニス………」
どこからどう見てもありえそうにない事を口にした熊田さんを見上げ、それから首を捻りながら小さい頃から
の付き合いだと言う静香さんに顔を向ける。でも、この事は静香さんも聞いた事がないらしく、彼女には珍しい
事に困惑の表情を浮かべ、首を横に振っていた。
ジィィィ〜〜〜………
それから、申し合わせたようにあたしと静香さんの疑いの眼差しが熊田さんに突き刺さる。
「お、お嬢様、相原様、信じていただかなくても結構なのですが…その視線はさすがに……本当です、本当なん
です。ちゃんと全国でベスト8に……そこまで信じてくれないなんて……そ、それでいかがいたしますか? テ
ニスをなさるならば今すぐ道具をご準備いたしますが……」
そうねぇ……あたし一人でやってもなぁ……それに、熊田さんと一緒にって言うのも抵抗があるし……うん、
決めた。
「あの…悪いんですけど、ジョギングコースに行ってみます。今日は天気がいいから気持ちいいと思うし」
「そ、そうですか……いえ、別に残念というわけでは……ただ、いいところをお見せする機会が……」
言っている事とは反対にかなり残念そうな表情をする熊田さんはとりあえず放っておいて、あたしはベンチか
ら立ちあがる。
「いってらっしゃい。気をつけて」
「うん。静香さんは少し待っててね。そんなに長い距離は走ってこないからすぐに戻るだろうし。そしたら一緒
にお昼ご飯を食べよ」
「………うん」
あたしの言葉に少しだけ嬉しそうな、それでいてどこか恥ずかしそうな顔をした静香さんににっこりと微笑み
ながら、そのまま歩いていこうとして――
「……そういえば…ジョギングコースってどっちでしたっけ?」
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