Cルートその1
「それじゃあ、今回は舞子ちゃんにお願いしようかな」
「は〜〜い♪ 舞子に全部お任せです〜〜♪ だからおねーさまは安心して舞子と一緒にいてくださいね♪」
「だから、なんで抱きついてくるかな……まぁ、それはいいとして、舞子ちゃんのダイエットってどんな
ダイエットなのか教えてくれる?」
「うふふ♪ それはですねぇ〜〜〜……今度の土曜の日に舞子の家に来てくれたら教えてあげます〜〜♪」
「い…家に!?」
「はい♪ その日はお父さんもお母さんも出掛けてますから………うふふふふ♪ 早くお休みにならない
かな〜〜〜♪」
「あ…はは……ははははは……(これはヤバいかも)」
そんなわけで、次の土曜日の学校の帰り。
「で、何でこうなるかなぁ……」
「そうですぅ、せっかくおねーさまにだけ教えてあげようと思ってたのに……」
「黙りなさい、あなたと二人っきりにしたら、たくやに絶対変な事するでしょうが」
思っていたよりもかなり大きな家にあたしと舞子ちゃんの貧富の差を思い知らされながら、リビングに案内
されてソファーに座っているのはあたしの他に明日香と千里と美由紀さん………
舞子ちゃんの家に招待されたと聞くや否や、「私もついていくからね!! たくや、文句ないわね!!」「あの
永田さんのダイエットですか……ふっふっふっ、面白そうじゃないですか」「へぇ、みんながいくなら私も
いっちゃお。何が起こるか楽しみね♪」なんて言うんだもん……はぁ、あたしって立場弱いなぁ……
特に千里ってば、妙にライバル心燃やしてるし……内心、どんな物でダイエットするのか、興味ありって言う
のがばればれだったり……言ったら怒られたけど。
そんなわけで、監視だったり、調査だったり、単に見物に付いて来ただけだったりとみんなの思惑はそれぞれ
違うけど、ソファーの中央に座らされたあたしを中心にさまざまな思惑が絡み合っている。
「そ…それで舞子ちゃん、例の簡単に出きるダイエットって……」
右に明日香、左に美由紀さんの二人に挟まれて、口を開く事さえなんだか辛い……
「分かりました……でも、舞子はあきらめません! おねーさまがお家に来てくれるだけでも一歩全身ですぅ!!
このダイエットに成功して舞子は絶対におねーさまとラブラブになっちゃうんですぅ!!」
そこっ!! お願いだから、妙な闘志を燃やして明日香を刺激しないで!!
「よかったわね、たくや。モテモテじゃないの、ふふふふふふ……」
ああぁぁ!! 笑いながら青筋立ててる!! 穏やかな言葉の裏で指をコキコキさせてるぅ!! それ、
すっごく恐いからやめてぇ〜〜〜!!!
「片桐さん、独り占めはよくないわよ。相原くんはみんなのものなんだから、ね♪」
明日香の静かに燃える怒りの炎にガソリンでも注ぐかのように、美由紀さんがあたしの腕に自分の腕を
絡ませてきた。
あ…当たってる……ブラウス越しに美由紀さんの大きな胸の柔らかい感触とぽっちりの感触が……
「………そう、そうね……そうよね……」
妙に迫力を感じる声で明日香が静かにつぶやく……
こ…殺される……かも……
「あ…明日香、これは違うのよ、これは美由紀さんが悪ふざけしてるだけでね、だからそんなに怒らない
でね、ね?」
「私は結構本気よ。相原くんを篭絡するなら……ねぇ……」
あたしの耳に甘い吐息を軽く吹きかかるほど顔を寄せて美由紀さんがそうつぶやくと、緊張して動かせ
なくなっていたあたしの腕をより強く抱きしめて、胸の谷間に深く腕をうずめてしまった。そして、
上下左右に身体をくねらせて、あたしの二の腕全体にムチムチのおっぱいの感触が……
「たくや……」
「は…はいぃ〜〜!?」
うっとりと身を任せてしまいそうな感触を腕に感じていたあたしは、明日香の言葉と同時に裏返った
声を上げながら慌てて首を振り向けた。
ひ…ひぇ〜〜〜…恐い…すっごく恐い……
少し俯いているせいか、瞳を前髪で隠して身体を震わせる明日香の姿に、心にやましいものがある
あたしは背筋が凍りそうな恐怖をひしひしと感じていた。
「明日香……お…落ちついて………」
ぷにゅん
「え?」
急に反対側の腕にも煮たような柔らかい感触が押し当てられる。そして眼前に近寄ってきた明日香の顔。
「そうよね、たくやは誰のものでもないもんね。誰のものでも……」
も…もしかして……今、とんでもない状況かも……
そう、何を思ったのか、明日香は美由紀さんに対抗するかのように、いきなりあたしの腕を取って自分
の胸に押し当てた。
あたしの腕に押し当てられる四つの胸。なぜかはっきりと感じられる乳首の硬さ。それがあたしの腕を
くすぐるように擦りつけられてくると……スゴく気持ちいい……でも……素直に感じられないよぉ〜〜〜!!
ボリュームと柔らかさだったら美由紀さんのほうが上だけど、張りは明日香のほうがいいかな?……
なんて考えてる場合じゃない!!
「た…たくや……私のほうが気持ちいいよね?」
「私のほうが胸は大きいんだもん……もっと気持ちよくしてあげるから……」
ますますエスカレートする二人の動き。段々と固さを増してくる乳首をあたしの腕に押し付けるたびに
二人の身体はビクンと震え、ブラに包まれた乳房の谷間にますます深くめり込んでいくあたしの腕。
その上、手のひらを掴まれたかと思ったら、太股の上に導かれて……いったい二人ともどうしちゃった
のよ!! このままじゃ…このままじゃあたしだって………
「こほんっ!」
張り合うあまり、引き際を逃してさらに加熱していく二人に挟まれてどうしようもなくなっていたあたし
たちは、千里のわざとらしい咳払いでようやく動きを止めた。慌ててあたしは二人の太股から手を離して、
姿勢を正して座りなおした。
「まったく……何をしているんだか……」
「あ…あはは……」
もう…笑ってごまかすしかないよね……でも千里…ありがと……
あたしも明日香も美由紀さんも顔を赤らめ、三人座りのソファーの上で少しだけ隙間を空けて座り直した。
ただ、その後が続かない。両隣の二人は顔を赤らめたまま喋らないし、千里は我関せずと言った態度を
貫いている。
「あれ? 何かあったんですか?」
誰も喋り出さず、室内に充満する重苦しい雰囲気を吹き飛ばすかのように、部屋に入ってきた舞子ちゃん
の明るい声が響き渡る。
「な…なんでも無いのよ、全然別に何でもないったら…あはは〜〜〜♪」
「?」
「それよりも……そのペットボトルがダイエットに?」
「はい、そうですぅ♪ このお水を飲めば痩せられるんですよ〜〜♪」
そう言って舞子ちゃんは、どう見ても美味しい水のペットボトルにしか見えない容器から、どう見てもただ
の水にしか見えない液体をコップに注いでくれた。
ふ〜ん……これを飲めば痩せられるのか……ダイエットって結構簡単なのね。
「それじゃあ舞子ちゃん、早速いただくね」
押し黙っているよりは何かをしているほうがいい。あたしは謎の液体が注がれたコップを手に取ると、恐る
恐る口をつけた。
………あれ? やっぱり普通の水のような気が……
特にこれと言って味もせず、口触りも喉越しも水そのもの。あたしはコップを傾けるとごくごくといっぱい
飲み干してしまった。
「さっ、おねーさま、もっといっぱい飲んでください♪」
「うん、ありがと」
そしてあたしは舞子ちゃんに促されるままに二杯・三杯と瞬く間に飲み干してしまった。
「これってほとんど水よね。これで本当にダイエットになるのかしら?」
「確かに水を何リットルも飲んでダイエットするって言う話は聞いた事があるけど……それとは違うような気
がするな……」
明日香や美由紀さんもちびちびとコップから水をすすっている。どうやら二人ともこんなダイエットは聞いた
事が無いようだ。
「永田さん、これはひょっとしてにがり水ですか?」
不意に千里が口を開いたかと思うと、何やら聞いた事があるようで聞きなれない言葉を口にした。
「わぁ、千里ちゃんって、やっぱり物知り〜〜♪」
「千里、にがりって何よ? この水、そんなに苦くないわよ」
あたしは舞子ちゃんから注いでもらった水を口の中でじっくりと味わったけど、苦味どころか、これと言った
味はほとんど感じなかった。
「先輩、そう言う意味ではありませんよ。にがりと言うのは海水から取れる塩の事で、多くのミネラルを含んで
います。塩化マグネシウムを主成分とし、別名・粗製海水塩化マグネシウムとも言われ、豆腐を固める時にも
用いられます」
「ふむふむ」
ま、千里の説明は難しそうだからあんまり聞かないに限る。とにかく、これは健康にいいんだから飲んでれば
ダイエットになるのよね。
「そのにがりを200リットルお湯に30ccほど入れてにがり湯にすれば美肌効果があり、水で薄めて飲めば
血糖値を下げる働きがあるので糖尿病などにも用いられる事があります」
「わ〜〜、すごいすごい、大当たり〜〜♪」
「ただし――」
ぴた
あたしのコップを傾ける手が止まる。
………なんだろう……今の千里の言葉……なんだかすっごく嫌な予感がするんだけど……今までの経験上、
千里をこういう言い方をする時って………
「永田さん、このにがり水は2リットルに対してどれだけにがりを加えましたか?」
「う〜んっとね……小さじ二杯♪」
「だとしたら一杯ぐらいで飲むのをやめておくべきですね。にがりは効果が強すぎるんです。腎臓に作用する
ので腎機能が弱っている人が飲んでしまうと大変です。インシュリンと併用するのもダメです」
「なぁんだ、だったらあたしは大丈夫よね。身体は何処も悪くしていないんだし」
そう言って、あたしはコップの中身を一気に飲み干す。
「そうとばかりも言えませんよ。健康な人にも聞きすぎる事は確かですから。恐らくは飲みすぎると下痢に
なるはずです」
「………え?」
「聞こえなかったんですか?下痢ですよ、下痢。お腹を下してしまうんですよ。いくら健康にいいとは言っ
ても適正な量を取った場合だけですから」
「………へ?」
「たくや……さっきから差し出されるがままに飲んでたけど、何杯飲んだの?」
「……………七杯」
ぐるぐるぐるぐるぐる………
なんだろう………今何処かであまりにも恐ろしい音が聞こえてきたような気がする………
そして……その日からあたしのとてつもなく苦しいダイエットの日々が始まったのであった………
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