[.目撃


ギシ………ギシ………ギシ……… 「ふぬぅ!」 ギシ………ギシ………ギシ……… 「くぬぅぅ!」 全然女の子らしくない(男なんだけど…)掛け声をあげながら、あたしは手摺にしがみ付きながら、二階に上がる 階段を、重たい足に全力を込めて一歩一歩踏みしめながら登っていた。 こ…この階段……こんなに……きつかったっけぇぇ〜〜!! それでも 昨日まではトン♪トン♪トン♪てな具合に上れてたのに〜〜!! ギシ………ギシ……… 「はぁ、はぁ、はぁ……疲れた〜〜〜」 「たくやくん……私が肩を貸してあげようか?そうすればちょっとは……」 亀の十倍は遅いスピードのあたしの後ろにピッタリ付いて来ているあゆみさんが心配そうに声をかけてくれる。 確かにあゆみさんに肩を貸してもらったら、今より早く歩けるし、なによりあゆみさんと身体をピッタリくっ付け られるのも魅力的に思えてきちゃう。でも……でも…… 「だ…だめ……これ以上は…男の…男の面子がぁぁぁ〜〜!」 「え?たくやくん男の子だったの?」 ズル……べしゃ そのあゆみさんの一言で無け無しの力が一気に抜けて、あたしの身体は手摺からずり落ちていった。 うう……いたい……階段の角で頭打ったぁ…… 「あ…ごめんなさい。さっきの冗談だったんだけど……大丈夫?」 「真面目なあゆみさんが言うと全然冗談に聞こえませんよぉ〜〜…今のタイミングでそんな事言うなんてぇ…… ただでさえ気にしてるのに……シクシクシク……」 この旅館に来てから女性街道まっしぐらなだけに、今の一言はキツい…… 「やっぱり肩貸してあげる。ほら、つかまって」 「うう…すみません……」 「それじゃあいくよ。せ〜の……!」 こてん あゆみさんがあたしの腕を肩に回して、かわいい気合を入れてあたしの身体を持ち上げようとしたけど、お約束、 二人揃ってまたこけた。 「あゆみさん、大丈夫ですか!?」 「う…うん……これぐらい平気♪たくやくん、がんばろうね♪」 そんな、目に涙を浮かべながらがんばろうって言われても…… 結局、あたしたちは短い二回の廊下を三回こけて、ようやく松永先生の部屋に着いたのでした。 さて……部屋の前に着いたのはいいけど、なんだか入りにくいなぁ…… なにせこの部屋では先生にあれだけメチャクチャにされて、隆幸さんとも……あゆみさんにばれたらどうしよう…… チラッと横を見ると、あゆみさんが「どうしたの?早く入りましょ?」って顔であたしのほうを見つめている。 どうやら最後まで付き添ってくれるみたいだけど…… しかたない。松永先生が変な事を口走る前に速攻で薬をもらって、とっとと帰っちゃおう。 そんなわけで、あたしは手っ取り早く用事を済ませるために、松永先生の泊まってる部屋の入り口を開けた……のは いいけど、あゆみさんが慌ててあたしに話しかけてきた。 「た…たくやくん、ダメだよ、ノックもしてないのにいきなり入っちゃ。知ってる人でもお客様なんだから……」 「え?……あ、これはちょっとですね、疲れてたって言うか……」 ジッ……… あぁ……そんな「たくやくん、ダメったらダメ、ダメなの……」って目で見ないで下さいよぉ…… 「……すみません。ちょっとボーっとしてて……次から気をつけますから」 「うん。気をつけてね」 そう言って、あゆみさんはにっこり微笑んだ。分かってやってるのか、この人は? 「えっと……襖でもノックするんですか?」 入り口と部屋は襖で仕切られている。これを普通に開けちゃったら、またあゆみさんがジッ…と見つめてきそうだもんね…… 「外から声をかけて入ればいいよ。「失礼します」って」 「分かりました。えっと……失礼します、松永先生いらっしゃいますか?」 ガラッ 「あ、せんせ……」 「あら?」 「なっ……」 襖を開けて、目の前に広がった室内の状況を見た途端、あたしはピタリと動きを止めた。 「たくやくん、ダメだってば。ちゃんとお客様からの返事を……」 後ろからついて来たあゆみさんも、あたしの肩越しに室内を見て、動きを止める。 松永先生の部屋の中には、先生ともう一人いたんだけど…… …… えっと…上半身が裸になってて ………… その…後ろから松永先生の手に ……………… あの…胸を寄せて上げてされてて …………………… 「……失礼しました」 カラカラ……パタン 一体どう言う反応をして言いか分からなかったあたしは、一分以上はその場に立ち尽くしてからゆっくりと襖を閉め、 部屋を見つめつづける視線を遮った。 まさか……ね……あの人がこんな所であんな事を…… 部屋の入り口が奇妙な静寂に包まれる。 それは襖の向こうの室内も同じみたいで、取っ手に手をかけたままの襖からは、向こうで何の物音もしていない事が なんとなく分かった。 「………あゆみさん、帰りましょうか。あたしもちょっと寝てれば回復すると思いますし」 「え?あ…えっと……えっと……う…うん……私もそろそろお仕事に戻らなくちゃいけないし……こう言うのは二人の 邪魔をしちゃ行けないと思うの」 「そうですよね。邪魔しちゃ野暮ってもんですよね。さ、それじゃあ行きましょうか」 そして二人揃って入り口に向かって振り返った時―― バァン!! 「二人とも……ちょっと待てや、コラ……」 背後で壊れそうなほどの勢いで襖が開き、睨まれてるだけで冷や汗が噴き出しそうな殺気を含んだ声が響いてきた。 ……なんだか関西弁が入ってるような……それが余計に恐い…… 「「……はい」」 あたしとあゆみさんはその声の主――真琴さんに引きこまれるままに、女性にとっての蟻地獄、松永先生の部屋へと 連れこまれてしまったのである……


\.胸威へ