Z.心配
「あぅ………」
ベタッ…ずるずるずる〜〜〜
廊下を歩いている途中で足がもつれたあたしは、メイド服に包まれた身体を顔から壁にべたりと張りつかせながら、
ずるずると下にずり落ちていった。
「た、たくやくん、大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃないです〜〜〜」
心配してくれるあゆみさんの言葉にあたしは半泣き言葉で返事を返した。
はっきり言って昨日の夜から遙くんの強暴なモノの筆下ろししたり、朝から昼まで絶倫親子にエッチされちゃうし、
これで身体がどうにかならないほうがおかしいのよ〜〜
腰どころか足も手も頭も、身体のどこを動かすにも、思いっきり力を入れなきゃ動かないの〜〜。あぁ〜〜ち〜か〜
ら〜が〜〜〜は〜い〜ん〜な〜い〜〜〜。
あたしが男だって真一さんも分かってくれたはずなのに、泣いて頼んだって止めてくれないし、「子供ができないん
なら愛人になってください。僕がたっぷり可愛がってあげますよ」って、涙が出るほどありがたい事を言ってくれるし……
あぁ……あたしはいったいどうすればいいのよ……
もう……あの二人には一年分ぐらいエッチされたような気がする………あぁ、夜には二人……いや、今度は栄子さんも
含めて三人であたしの部屋に来るって言ってたし……
まぁ……梅さんに午前中行方不明だった事でたっぷりと怒られそうになった所で、真一さんがかばってくれた事は
ありがたく思うけど……それとこれとは話が別。
「たくやくん、そんなに疲れてるんなら、こんな所に座ってちゃダメだよ」
「分かってるんですけど……動けないんですよ〜〜(泣)」
こんな状態で………………………今晩あたし生きていられるかなぁ。
「はぁ……あたしって……いったいどうしたらいいのよ〜〜」
周りの目も気にせず、つい弱音が口からこぼれ出る。
「たくやくん……そんなにお仕事がキツいの?」
「……え?」
それまで泣きそうな声はあたしだったのに、いきなりあゆみさんが悲しそうな声で話しかけたから、ビックリして
座ったまま後ろを振り向いた。
目に溢れた涙を必死にこらえ、あゆみさんがしゃくりあげながらあたしに悲しそうな視線を向けていた。
「え?え?え?」
「せっかく……仲良くなれたのに……でも…たくやくん…ひどい目にもあっちゃったから……この旅館のお仕事……
いやになっちゃったんじゃないかって………」
「そ…そんな事無いですよ!全然平気ですよ!だからそんな、泣かないであゆみさ……」
ぐらぁ……
や…やばっ!倒れる!
ぷにゅん
「きゃあ!!」
「………へ?」
あゆみさんに元気な所を見せるために勢いよく立ち上がろうとしたけど、膝がカックンとなって遭えなく自滅。
廊下の床に顔から突っ込む羽目に………なるかと思ったんだけど、その前に目の前にあった何か柔らかいものに
顔から突っ込んでしまった。
「た…たくやくん!?」
こ…これなに?ものすごく柔らかくて、なんだか甘い匂いがして、うずめてる顔がとっても気持ちよくて……
ずり落ちないように両手が必死にしがみ付いているものは、柔らかくって細い弾力的なもの。
それにあゆみさんの声が頭の上から聞こえたし、あゆみさんの手があたしの身体が落ちないように支えてくれてるし………と、
いうことは?
突然の事で混乱する頭が命じた事は、目の前の物体にふさがれた目や鼻の代わりに、手で触ってそれが何かって言う事を
確かめろ、って言う事。
自然と動いた右手が頭の横に回って謎の物体に手を触れる。
むにょん
「きゃあ!た…たくやくん!?なに!?」
なんだろう?すっごく柔らかい。もうちょっと……
むにゅん、ぷにゅん
「やだ、たくやくん、ダメ!」
触ってる手も埋めてる顔も幸せになりそうな柔らかさよね……なんだか……安心…できるって言うか……
むにゅ、むにゅ、むにゅむにゅ
「たくやくん…ダ…ダメだったら……私…隆ちゃんにしか…触られた事…無いのに」
なんだか手を離したく無くなってきちゃった……だって気持ちいいんだもん………あれ?これなんだろう?
くりっ
「あぁっ!そこはダメェ!」
え!?
耳に突き刺さったあゆみさんの悲鳴のような声にあたしは極上の羽毛布団のようなソレから顔を上げて身体を起こして―――
「あれ?」
グラリ――カクッ――ゴチン!
「はうっ!」
相変わらず力の入らない足は見事にもつれて、ものの見事に後ろの壁に後頭部をぶつけてしまった。
ひ……火花が……火花が〜〜〜!!
それでもあたしが頭がグワングワンしそうな衝撃に必死に耐えて視線を上げると、少し距離を置いて、自分の豊満な
胸を両手で抱えてあゆみさんがオロオロしているのが見えた。その顔は泣きそうなのは相変わらずだけど、頬が
ほんのりと赤くなっていた。
「た…たくやくん……あの……そのね……えっと……」
やっぱり……あれってあゆみさんの………おっぱい……だよね?
「ご…ごめんなさい、あゆみさん。あたし、あゆみさんのおっぱいをその……思いっきり握っちゃって……」
「そんな事よりたくやくんは大丈夫なの?ものすごい音がしたよ。頭割れてない?血出てない?怪我とかしてない?」
頭が割れてたらこうやって話もできないと思うんだけど……
「大丈夫ですよ。ちょっとコブになったぐらいですから。それにこのぐらいの事、日常茶飯事でしたから。はははのは〜〜♪」
明日香の熊殺しの右に比べればこんなの平気よ、平気………でも、やっぱり痛い。
でもここで我慢しなくちゃあゆみさん本気で泣き出しちゃいそうだもんね、我慢我慢。
「ほんとに……大丈夫?我慢してない?」
……そんな……涙目で思いっきり覗きこまれると……ちょっと困っちゃうんですけど〜〜
あゆみさんは何故かあたしの前に正座で座って、心配そうにあたしの顔を覗きこんできている。
あぁ!なんだかすっごく可愛いのに!あたしが男だったらこのまんま押し倒しちゃいそうなぐらいに、泣きそうな
表情のアップがたまんない!
「ほ…本当に平気ですよ。全然痛くなんかありませんよ。あ、あはは、あはははは〜〜〜♪」
「………そう、よかった♪」
あたしの乾いた笑いでなんで安心できるのか、あゆみさんは目に溜まった涙を袖で拭ってにっこりと微笑んだ。
「あ………そうだ、あゆみさん。さっきの事なんですけど……」
「え?さっきの事って……あ……」
あたしの手を引いて立ち上がらせてくれたあゆみさんの顔が――というか首や耳まで――見る見るうちに思いっきり
真っ赤に染まっていく。
ほんと、あゆみさんって思ってる事が顔に出る人よね。
「あの……おっぱい揉んじゃった事じゃなくて――その事も謝りますけど――あたしにこの仕事がイヤになったのかって
聞いたでしょ?」
「あ……そっち……あうぅ……」
あ〜あ……間違えちゃったから、俯いちゃった……指先でエプロンの端っこをモジモジ弄ってるし……でも見られてると
言いにくいし……
倒れないように背中を壁に預けて、一息ついて、あたしは話し始めた。
「あたしね……この旅館に来れて本当によかったって思ってるんですよ」
「え?」
あゆみさんが顔を上げたけど、そっぽを向いて視線を合わせずに、そのまま話しつづける。
「だって、あたしってちょっと前まで普通の学生だったのに、いろんな事情でここで働く事になったでしょ。だから
最初は不安だったんです。今までのアルバイトと違って、誰も側にいないところで…一人で働けるのかなって……。
そしたら来た日に考える間も無く働かされて、いろんなひどい目にもあったけど、あゆみさんと真琴さんが本気で
あたしの事心配してくれたでしょ。それ、本当に嬉しかったんです」
自分の頬が熱くなってるのが分かる。
そりゃこんな恥ずかしい事を真面目な顔で言ったんだもん。恥ずかしくって逃げ出したいぐらいよ。
それまで明後日の方を向いていた視線を戻して、あゆみさんのほうを盗み見ると、さっき顔をさらに真っ赤にして
俯きながら、あたしがしっかりと揉んじゃった大きな胸の前でリボンの先っぽを両手の人差し指で弄っている。
……こう言うのは言う方も聞く方も恥ずかしい……
「あ、でも隆幸さんはエッチだったかな〜〜なんて。あたしの胸とかお尻とかジロジロと見てましたもんね〜〜」
「そ…そんな事無いもん!隆ちゃんは、隆ちゃんは……その……えっと……」
「エッチ、なんですよね?」
あたしがそう言うと二人揃って顔を見合わせて、楽しそうにプッと噴き出した。
「もう……だめだよ、たくやくん。隆ちゃんを誘惑しちゃ」
「分かってますって。あゆみさんの旦那様には指一本触れませんよ」
「あ、それって隆ちゃんが魅力無いって事?たくやくん、ひどいよ。ぷん」
「あゆみさんはあたしに隆幸さんを誘惑して欲しいんですか?」
「えっと………やっぱりダメ」
あたし達はここにいない隆幸さんをダシにクスクスと笑い出した。
「もう……言ってる事がメチャクチャじゃないですか。さて、それじゃ仕事に……って」
かくん
あたしが自然に歩き出そうとすると、忘れていても直ってない、力の抜けた足は前には進まず、その場にへたり込んだ。
「あ…たくやくん、やっぱり動けないんだ……」
「そんな事無いですよ。ほら……この……とおぉぉりぃぃぃ!」
ギ……ギギギ……って音がしそうなぐらいに力を入れても、あたしは壁にもたれながら出ないと立つ事ができなかった。
「たくやくん……やっぱり休んでた方がよくないかな?今からだったら従業員室が開いてるし」
心配してくれたあゆみさんが、そう言ってあたしの身体を支えてくれる。
「でも、あたし午前中サボってたし、それに梅さんが恐いから……」
「砥部さんにお仕事を頼まれてたんでしょ?だったらお仕事を休んでた事にはならないから安心して」
お仕事じゃなくて、弄ばれてたんですけど……なんて、口が裂けてもあゆみさんには聞かせられない。
「梅さんの方は大丈夫。もうすぐ真琴さんが夕食の仕入れに行くから、それに付いて行ったって言っておくから」
「そうしたら午後の仕事が隆幸さんとあゆみさんの二人でする事になるじゃないですか?そんな事……」
「午前中に頑張ったから、お掃除はほとんど終わってるよ。だから心配しないで、ね」
そこまで言われたら……どうやって断ればいいのよ、ほんとに……
「……分かりました。それじゃ、お言葉に甘えちゃいます」
「うん。今日はゆっくり休んで。夕食の準備の前に起こしてあげる。でも……お医者様とかに行った方がよくないかな?」
「そこまでしなくても大丈夫ですよ。たんに疲れてるだけ……」
お医者様
その言葉を聞いて、あたしとあゆみさんは何かを考え始めた。
う〜ん……なんだか、つい最近、どこかでお医者様にあったような気がするんだけど………
……お医者様……医者……薬……白衣……先生……………先生?
「あっ!」
「松永先生!」
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