一週間前………


「相原先輩……例の薬のことなんですけど……」 「?どうしたの千里。あっ、ひょっとして男に戻る薬が完成したの?」 あたし相原たくや(元男今女)。今科学部の部室である科学室にいるんだけど、話し掛けてきた科学部の後輩の、 あたしを女に戻す薬を作ってくれている(女になった元凶でもある)河原千里に期待を込めてそう尋ねた。 「いえ…じつは…その……」 いつもの千里らしくないしゃべり方にあたしの中で一抹の不安がよぎった。 「……ひょっとして、また研究費用が足らなくなった、なんて言うんじゃないでしょうね?」 そう言うと同時に、今までのやってきたアルバイトや苦労の数々が走馬灯のように思い出される。女になって すでに二十日は経っている。その間にやった資金稼ぎのアルバイトの数も、結構な数になる。 家庭教師では小学生の生徒と父親に犯され、カラオケハウスでは酔払い親父どもの前でストリップ、果ては フリフリの服を着てモデルをさせられたり、静香さんの写真を撮るため女子寮に潜入したり……涙無しでは 語れない苦労の数々…… これだけ苦労して稼いだ研究費用でも、まだ足らないっての?本当に研究してくれてるんでしょうね、千里は。 「いえ、薬は完成しました。この天才科学者である私に不可能などありません!」 「ほんとっ!」 その言葉に今までのあたしの不安は吹き飛んだ。あぁ、とうとう男に戻れるんだ。でも…… 「…千里、何か隠してない?」 吹き飛ばず、頭にしがみついていたしつこい不安に、ついついジト目になってしまう。 「!い、いったい、な、何を言ってるんですか。さあ、これが薬です。これを飲めば先輩は男に戻れるはずです。」 ……どもってるわよ、千里。 あたしの目の前に出された薬は毒々しいほどに赤い色をしている。見た感じ、赤インクか濃縮シロップと言う感じ。 飲めばむせること確実だろう。 本当に大丈夫なんでしょうね……でも、良薬口に苦し、と言うし…… 「大丈夫です。一切副作用はありません。ここまで着たら一気に飲んじゃってください」 ……やっぱりおかしい。いつもの千里なら「貴重な実験です。データを取らなければ…」とか言いそうなのに、 何かやけになっているように感じる。 「さぁ先輩、ぐいっと一気に。さぁ」 しかし男に戻るためにはこの薬を飲むしかない。ここは覚悟を決めて…… 「分かったわ千里。それじゃあ、飲むわね……」


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