Z.日曜日夜中


「ん……うん……」 私が真っ暗で深い眠りから目を覚ますと、うっすらと明るい天井が目に入った。天井で反射した淡い光でも目が 痛くて、無意識に手で目をかばう。 「ここ…は……」 カーテンなどの遮蔽物に遮られて弱くなった明かりに照らされた天井は、私がよく見知ったものだった。 「保健室……」 そう言えば……私……保健室に来たんだっけ…… 千里に変な薬を飲まされて……それで気分が悪くなって…… 「あれは…夢だったの……」 どこまでが夢だったんだろう……私が女になた子とか……先生に触られたことか……それとも…… 夢であって欲しかった……まさか私が女になってあんなにいっぱい…… 「ん……」 あまりにも生々しい夢…あまりにも隠微な夢…その光景を思い浮かべた途端、私の身体が鈍く疼いた。 まるで身体が勝手に動き出したように胸が苦しくなって、股間はジンワリと熱くなって震えているみたいだった。 光には目が慣れたので、まるで鉛のような身体を動かして右手を胸に、左手を股間に持っていく。 ズンッ 「んっ!」 それぞれの手が目的地に同時に触れる。すると同時に走った刺激に身体がピクリと反応する。 そして一瞬の甘い刺激が去ると信じたくなかった現実が私に襲い掛かってきた。布団の上から胸にやった右手には ぷにぷにと柔らかい手触りがあり、逆に布団の下で股間に持っていった左手には素肌をそこだけ覆っている布地 以外手に触れるものはなかった。 「私……本当に……女に……」 信じたくなかった……でも現実を知ってもそれほど衝撃無く受け入れることができた。それどころか…… 「夢じゃなかったんだ……」 このとき何に対して夢じゃないって言ったんだろう…… 私が自分のつぶやきに思いを馳せて女であることをゆっくりと噛み締めていると、私が眠っていたベッドの周りを 囲んでいたカーテンがシャッと擦れる音を立てて開かれた。 「工藤くん、目が覚めた?」 カーテンを開いたのは松永先生だった。ベッドで横になりながら視線をやると、うらやましくなるようなメリハリに きいた身体にいつも着ている白衣を身に付け、明かりを背にして微笑みながらそこに立っていた。 「せん…せ……」 「よかったらこっちにこない?お茶を入れてあげるわよ」 先生はそれだけ言うと私の背を向けてポットのあるほうに歩いていったので、私からは見えなくなってしまった。 取り残されたと感じた私は重たい身体を起こしてベッドから降りると、靴下のようなものを履いている足で床に 置いてあったスリッパを履いて立ちあがった。 その一連の動きの中で自然と自分の身体が目に入る。 「これって……」 私の身体は下着姿だった。当然男物のブリーフやトランクスじゃなくて、女性の下着。 それほど大きくない胸を半分以上さらけ出してるような白いブラジャーに、横や後ろが紐のように細く大事な所さえ 何とか隠せるぐらいの大きさしかない小さな白いパンティ、そして腰の辺りから白いタイツに前と後ろから四本の手 を伸ばして吊り上げている白いガーター。 自分の身体を見下ろしている私にも、身体の要所要所を適度に締め付ける下着の白さとほとんど隠されていない肌の 白さが相俟ってため息が出るほど淫らで美しく見える。 「これが……私の身体……」 見下ろす視界の中で、両脇から心地よい程度に押し上げられているせいか、胸が不自然でない程度に持ち上げられて、 人の目を引き付けるような綺麗な谷間を作っている。そしてピンク色の乳首が硬くツンッと尖って、細かい刺繍の 施された下着の端から飛び出して、白い中にアクセントを添えていた。 「やだ……」 思わず自分の身体を抱いて身震いをする。 私の身体の中、胸やアソコで「何か」が蠢き出して、溢れ出しそうになってくる。 「あっ……!」 自分の肌に触れる手や押しつぶされた胸から悩ましい刺激が身体中に広がって、口から小さな喘ぎ声を漏らしピクリ と身体を振るわせる。 「工藤くん、どうかしたの?まだ調子が悪いの?」 「あっ…いえ、何でも無いです……すぐそっちに行きますから」 もう少しで押し寄せてきた快楽の波に飲み込まれそうになっていた時に、出てくるのが遅い事を心配したのか、 見えない向こう側から松永先生がかけてきた声にハッと我に返る。 わ…私ったらなに考えてたんだろ…… 私は一息つくと、それでも自分の姿の気恥ずかしさに、胸の部分を片手で隠して恐る恐る囲いの中から出ていった。 「あら♪よく似合ってるわ。かわいいわよ、工藤くん」 「は…ははは…ははは……」 「それは女の子になった工藤くんに先生からのプレゼント。大事にしてね」 どうやら私にこれを着せたのは松永先生らしい。 「さぁ、そんな所に立ってないで、こっちに着て座りなさい」 「は…はい……」 囲いから出たところで一生懸命自分の身体を小さな手で隠そうとしていた私は、松永先生がかけたごく普通の声で 自分の行動の無意味さを悟って、それでも少し恥ずかしくて乳首の飛び出た胸を隠しながら机の前に用意されて あったパイプ椅子に腰をかけた。 「んっ……」 保健室の中は適度に暖房がかかっていて寒くは無かったけど、お尻に伝わるパイプ椅子の冷たさがほとんど剥き出し のお尻に直接触れる。そのせいか、少し靄のかかっていた思考が急速にすっきりしていく。 「さぁ、どうぞ召し上がれ」 カチャリと陶器の触れる音がして、私の前に受け皿に乗ったティーカップが差し出される。 なにかハーブでも使ってるんだろうか、漂う優しい香りが私に届くと口の中に唾液があふれてくる。 「い…いただきます」 私は意を決して胸から手を離すと、両手で包むようにカップを持ち上げる。 暖かいカップから少し冷えていた私の手にチクチク痛みを残しながら熱が伝わってくる。 カップに口をつけると、いつか飲んだ記憶のある砂糖を多めに入れたミルクティーの甘さと香りがのどからお腹へと 伝わっていって、身体中にゆっくりと広がっていく。 手の痛みが薄れるころには少しずつ飲んでいたミルクティーも無くなって、硬くなっていた身体も緊張がほぐれていた。 「ご馳走様でした。おいしかったです」 「どういたしまして。でも二日ぶりに飲食したんでしょ?お腹は痛くない?」 「はい、大丈夫です………?」 紅茶を飲み終わったカップを置いた手がそのままピタリと止まる。 二日ぶり?それって一体…… 目を窓の外に向けるとカーテンで視界を遮っているが夜という事は分かる。確か私が千里に薬を飲まされたのが 金曜日だったから……先生の言葉が本当なら今は日曜日の夜ということになる。 その間に何があった? 少し考えれば分かる。それは…… 「先生……お聞きしたいんですけど……」 「家のほうには連絡を入れておいたわよ。部活の合宿で連休中は帰れませんって」 「いえ、そうじゃなくて…あの……」 「何かしら?工藤くんが彼らに抱いてもらった事なら本当よ」 松永先生が一番聞きたかったことを、そして一番言って欲しくなかったことをあっさりと口にする。 ザワリ その言葉に反応するように「何か」も私のお腹の中で動き出す。 「ビデオで見たけど工藤くんも気持ちよかったみたいね。最後なんか五人同時に相手してものすごく喘いじゃって。 私もいっしょに苛めてあげたかったわ」 目の前で足を組んで座っている松永先生が楽しそうに話す。 「な…なんで……」 まだカップを持っていた手がカチャカチャと振るえている。 同じように口から出てくる言葉も震えを帯びている。 「何で…こんな事したんですか?」 「簡単なことよ。工藤くんに相原くんと同じことを経験してもらいたかったからよ」 「え?」 先輩と…同じ事? 先生のその一言に手の震えも止まって、うつむいた顔を上げて先生のほうを向く。 「それって…どう言うことですか?」 「ごめんなさい。実は私が河原さんに工藤くんを女の子にするように頼んだのよ」 「そんな……それじゃあ、何であんな……」 「でもね、工藤くんが彼らにされたことって、工藤くんが相原くんにしてきたことでもあるのよ」 私が先輩に? 先生のいった言葉を理解することができない。私は今まで先輩にあんなひどいことは…… 「あなたはいつも無理やり相原くんに迫ってたでしょ?この前もここで倒れて眠ってる相原くんのことも考えずに。 それと彼らがしたのは同じ事よ。相原くんを思うあなたの気持ちを無視した、それだけの事よ」 「で…でも先輩は……」 「「先輩は」何?工藤くんが相原くんのことが好きだから?自分のものを咥えてくれた?無理やりしても感じてくれた からいいの?確かにそれも大事なことだけど、相手の気持ちを無視して何をしてもいい事の理由にはならないわ」 最初はただやさしかっただけの先生の口調がだんだんとその中に緊の色を持って私を諭し始めた。 「今の工藤くんなら分かるでしょ?相原くんがどんな気持ちで女になってしまったか、どんな気持ちで工藤くんを 受け入れていたか……」 「………」 何も言うことができない。 先輩が私とSEXしてくれるのは先輩が私のことが好きだから、そして私が先輩を気持ちよくしてあげれば先輩も もっと私のことを好きになってくれると思ったから…… でも先輩が、男子たちに犯された私のような気持ちで私を受け入れていたんだとしたら…… 先輩と……同じ気持ち…… コトン不意に聞こえた硬い音に何時の間にかうつむいていた顔を上げると、先生が机の上に赤い液体の入ったビンを 一つ置いていた。 「相原くんのためとはいえ、工藤くんを女の子にしてしまったのは私の責任だものね。私が工藤くんと全部しなかった のはこの薬のためよ。佐藤さんにお願いしてこの薬を作ってもらっていたの」 「佐藤って…佐藤部長のことですか?でも佐藤部長のデータは私が全部……」 「学園内だけでしょ?私個人のデータベースから探したのよ。なかなか大学の方にも現れないから探すのに苦労したわ」 ということは目の前にあるのは私や先輩が男に戻るための薬…… 目の前に置かれた薬は透き通ってはいるけど毒々しいほどに赤く、イチゴシロップや赤インクと大差は無いよう見える。 これを飲めば私は先輩とまた…… 「先に言っておくけど相原くんの分の薬は作ってもらってないわ。相原くんは拗ねちゃったけど、今までの河原さんの 努力を無駄にするわけにはいかないから。それと彼らのことは安心して。このことは決して口外しないし、二度と 工藤くんに肉体関係を迫ってくることはないから」 薬を見つめる私に先生が安心するように声をかけてくれる。いろいろと心配してくれてるんだろうけど…… トクン まただ……私の中でまた「何か」がうずいてる…… 私の白い下着に覆われた胸や股間を中心に「何か」が身体の中を蝕むようにざわざわと蠢いている…… 先輩と同じ気持ちになって……先輩と肌を重ねて……先輩と愛し合って…… その光景を思い浮かべるだけで、私の中で「何か」は身体の中から溢れんばかりに膨らんでいった。 でも……私は……それが…… トクン そして…私は手を伸ばした……


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