第五話
ドーム状に開けた洞窟に広がる海水を湛えた地底湖、その中心に張り出した岬の先端に立てられた石柱にレイチェル・ウィリアムスは磔けられていた。
一糸纏わぬその身を戒めているのは縄や鎖などではなく、異形の触手。洞内のいたる所に焚かれた篝火が揺らめくたびに彼女の濡れた肌を照らし、そのしなやかな肉体を闇に浮かび上がらせる。
湖を取り囲み彼女を見つめるのは、付近の漁村の男達と彼女の日本での留学先である大学の教授に率いられた学生達。彼女を知らぬ村人も、知る学生も等しく目にすることはなかった美貌の留学生の裸体が目前に晒されている。
「あぁ……なんてこと……」
両の手は頭上に吊り上げられ、膝を付いた両脚は開かされ、その艶やかな裸身の全てを暴かれる。ぞろり、と伸びてきた触手に細い顎を捕らえられ、俯いた顔を起こされると海水湖の岸に立つ男達が目に入り、彼らのギラギラとした視線を否応にも意識させられる。
先程まで身に着けていたビキニをかたどった日焼け跡も、伸びやかな手足も、華奢な肩も、豊かな胸も、なだらかな腹も、細い腰も、そして何より隠しておきたい頭髪と同じ淡いブロンドの恥毛とその下で息づく秘裂すらも。
「た、たまんねぇな」
「やっぱすげぇなレイチェル」
「ほほ、眼福眼福」
男達のざわめきの一つ一つが湖を渡って耳に届き、レイチェルを辱める。しかし、衣服を剥ぎ取られ、四肢を拘束された彼女にはその視線から逃れる術はない。
「嫌……お願い、見ないで……見ないでください……」
ずるり。幾度となく繰り返されてきた懇願を嘲笑うかのように影が蠢く。レイチェルの足元でとぐろを巻いていた触手が鎌首をもたげる蛇の様にその身を伸び上がらせた。自らの表面に分泌した粘液で湿った音を立てながらずるずると立ち上がる。
「さあ、本番だ」
「え……まだ――」
「なんじゃ?裸に剥いてお終いとでも思っとったか?」
年かさの男が嘯く間に、目覚めた蛇は獲物を捕らえる。
「ひいっ!?」
異形の触手相手とはいえ、催淫作用があるとおぼしき粘液を飲まされたうえに全身を隈なく弄り回され、軽い絶頂を経て綻びかけた秘裂をなぞり上げられ、思わず声を漏らすレイチェル。先程までの涙に枯れた声が一転艶を取り戻し、湖の向こう岸に喝采を呼ぶ。
「ふぁっ……あぁっ……あっ、あっ、あぁっ」
一撫でごとに触手の粘液と開きかけた花弁から溢れる蜜が混じりあい、粘ついた音を立てる。対岸の男達が淫らに粘つく水音に耳をそばだてる気配を感じる。秘裂が割り開かれていく様を注視する視線。それが彼女の身をすくませ、こわばった彼女の身体を――
「あっ……あぁああああ――――ッ!!」
――一気に刺し貫いた。
膝立ちのまま脚を開いた姿勢で下から突き上げられるたびに全身がガクガクと揺れる。ごく浅い部分を掻き回されているだけでは得られない快楽がレイチェルの身体を突き抜け、抑えきれないほどの嬌声を上げさせた。羞恥と快楽でじっくりと下ごしらえをした生贄は今や吹きこぼさんばかりの肉汁を滴らせて供されるのを待っていた。
「ああぁんっ……んふっ……ああぁっ」
たっぷり前戯を施した後に剛直を突き入れ膣壁を擦り上げる。力任せではなく緩急を付けての抽送はハイスクール時代の同級生との稚拙なセックスしか知らなかったレイチェルの意識を軽々と弾き飛ばす。丹念に内壁を磨き上げるような動きから一転しての深い突き上げの連打がズンズンと快楽の高みへとレイチェルを押し上げていく。
「だっ、ダメっ……突いちゃ……あぁあああっ、あっ……」
端整な顔立ちを緩ませ、色白の頬を赤く染めて快楽を貪る、否、貪り切れないほどの悦楽を注ぎ込まれてレイチェルは呆気なく絶頂に達した。
彼女を拘束していた触手が緩むと支えを失った身体が崩れ落ち、地面にへたり込んだまま荒い息を付く。
しかし異形は贄が絶頂の余韻に浸る暇を与えず、さらにその肉を貪らんと触手を伸ばす。
「え、あ……う、そ……」
石柱に寄りかかり座ったままの姿勢から両の膝裏を抱え込むようにして両脚を割り開き、触手が女陰を貫く結合部をよりはっきりと見せ付ける。慌てて触手を振り払おうとした手も新たな触手に絡め取られ、石柱を後ろ手に抱えるような姿勢で再び拘束された。
異形との肉のつながりを誇示するポーズをとらされた強烈な羞恥心が快楽漬けにされていた脳を覚醒させる。しかし、言葉にならない拒絶の声も蠢く触手の愛撫によって、甘い喘ぎに変えられてゆく。
赤黒い触手が色素の薄いピンク色の粘膜を割り開いて抜き差しされるたびに秘唇が捲れ上がり、外側に比べて一際赤みの濃い粘膜を覗かせている。それぞれの粘膜が擦れ合うたびに触手の表面を覆う粘液とは明らかに違う蜜が溢れ出し、会陰部を滴り落ちていく様が取り囲む男達の目にもはっきりと見える。
「あぁん……あぁっ……ああぁっ……」
充分にすり合わされてすっかり馴染んだ粘膜が触手を包み込み、度重なる刺激を受けて分泌された愛液がより滑らかな抽送を促す。レイチェルの意思とは関わりなく二度の絶頂で異物を受け入れる用意を益々万全の物とした彼女の膣の中で自在に身をくねらせる触手。奥まで深々と突き上げ、ごく浅い入り口を小刻みに掻き回し、内部を隅々まで探るように擦り付ける。内壁に当たる場所や強さが変わる度に彼女は快感を包み隠すことなくダイレクトな反応を示してしまう。
「生娘ではなかったか、まぁ致し方あるまい」
「なぁ、あの娘やっぱ向こうじゃやりまくってたのかな」
「しっ、知るかよそんなこと俺が」
「でもあんな激しく突きまくっても感じるぐらいだし……」
開かれた両膝の間から湖の向こう岸が見える。その岸辺に立つ男達が視界の下でもはや彼女の意思と関わりなくうねる腰に喰い入るような視線を向けている。一糸まとわぬ姿のみならず、得体の知れない化け物相手に自ら腰を使うところまでを衆目に晒していることを意識させられると火照った肌がより一層熱くなってしまう。
「ふぁっ……ああぁっ……ふぅわぁっ……あ……?」
恥らう余裕もなく自ら腰をくねらせて快楽を得ようとするレイチェルをいなす様に触手が引かれ――
「……ひゃあぁっ!?」
一拍の間を置いて膣のごく浅い箇所の天井が小刻みに擦られる。散々摩擦に晒されて充血した膣壁の一部が粒状に隆起し、潜り込んだ触手はその他所とは違うざらりとした感触を味わおうと自らの先端を擦りつける。
「あっあっ、あああああああああっ!!」
深々と奥まで突かれるのとはまた違った快感が膣から全身を駆け抜け、悪寒のように身体を震わせる。触手の拘束を振り切らんばかりに激しく痙攣し、それでも収まりきらない衝動が叫び声となって咽喉から溢れ出す。レイチェルの体内を吹き荒れる嵐のその中心もまた許容量を超えた刺激に耐え切れず、激しく肉壁をうねらせ、嵐を巻き起こした主を捕らえ、絞り上げると、どこまでも柔らかな肉の壁に押し潰され、破裂したかのように触手の先端から粘液が吹き出してくる。襞の伸縮と合わせる様に触手もまた痙攣し、その度に幾度となく射精を繰り返す。触手が自らの身にまとい、獲物の全身に塗りこめ、咽喉に注ぎ込んだそれよりはるかに濃厚な、ゲル状になるまでに凝った粘液が粘膜同士が触れ合うわずかな隙間に流れ込み、膣を満たした。
快楽の嵐になぎ倒された様に石床に倒れこんで絶頂の余韻にときおり身体を震わせるレイチェルから今まで彼女を犯していた触手が引き抜かれると、どろり、白濁した残滓が溢れ出し、取り囲む男達に彼女が改めて海神と呼ばれる化け物の供物に捧げられたことを知らしめた。
快楽の余韻から抜け出せないままのレイチェルに触手が絡み、その身体を反転させる。自分では指ひとつ満足に動かせないほどに弛緩した身体がマリオネットのように引かれ、頭を岬の先端の石柱に向けて跪いた四つん這いの姿勢をとらされる。肘に力が入らずに上半身を石床に突っ伏してしまうが、冷たくぬめる濡れた岩肌が彼女の火照った肌に心地よく感じられた。
幾本かの触手に支えられて下半身だけを岸に向けて突き上げると、彼女の優美なラインを描く尻が男達の眼前に晒された。荒く乱れた呼吸に合わせてまるで見る者を誘うかのように悩ましく揺れる尻。その双丘に触手が絡みつき、執拗に撫で回すと、男達に羨望の溜息が広がる。
「畜生、いい尻してんなぁ」
「ああ、細っそいジーンズなんて穿いてると最ッ高だぞあの尻は」
「そういや前、電車の中で触られたとか言ってよな」
丹念に弄り回されてすっかり触手に馴染んだ彼女の秘裂。その柔らかに脹らむ肉唇に何度目かの挿入を受け入れると蕩け切った嬌声が上がる。
「あぁんっ……ああぁん……」
ゆるゆるとしたピッチに合わせて美尻がうねり、宙に淫らで歪な円が描かれると、日に焼けていないビキニラインの内側の白い肌が目映く篝火を照り返す。抽送もそこそこに新手の触手が伸び、下を向いた乳房の先端を下から突付くとたまらず床に顔を埋め、そこからくぐもった呻きが漏れる。異形の責めに抵抗がないと見るや次々と新手が殺到し、耳から首筋、鎖骨、脇から脇腹、腿から脚へ、そして足の裏や一本一本の足指の間……とにかく身体中の敏感な場所を徹底的に突付き、撫で、擦り、揉んでレイチェルの性感帯を暴き立てていく。
「あはぁっ……ああぁんっ……あんっ……んんっ……」
火に掛けられたまま忘れられた鍋の如くぐつぐつと煮立てられ、スープの具の様に中の理性が煮崩れ始めた頃を見計らい、最後の援軍が到着した。
群れからはぐれた様に震える裸身に触れることなく、鎌首をもたげた蛇の様に獲物を見据える触手。それが絶妙のタイミングで愛撫と愛撫、喘ぎと喘ぎとの間に割り込み変拍子を奏でる。
「……ひぁあぁっ!?」
尻の谷間の最深の窄まり、そこを突かれて蕩け切っていた声が鮮烈さを取り戻す。そのまま先端でぐりぐりと押し込まれると、其処はあっさりと進入を許した。
「んくっ……んふぅ……うぅんっ……」
裏門を破られ異形の進入を許した彼女が身体を押し拡げられるような感覚に苛まれ、今までとは違う苦しげな声を上げると、向こう岸が息を呑んで静まり返る。
「なぁ……アレ……」
「マジかよ……あれ尻だろ」
「後ろまでやられたのか」
ゆっくりと触手自身と直腸壁を馴染ませるような、膣へのそれよりさらに緩やかな抽送。その圧迫感を少しでも和らげようと呼吸を整える彼女だが、他の部位を撫でられると意に沿わず身体に震えが走り、肛門で侵入者を締め付けてしまう。触手がやや強めの締め付けに応えるように内壁を撫でるとそのおぞましさに彼女の背に悪寒が走る。
掘り進み、少し戻って、内壁が馴染んだらまた進む。穴の主に呻き声を上げさせながらもそれを繰り返し、ある深度に到達すると裏門への侵入者を何者かが出迎えた。臓器越しとはいえ、開通式の握手の如く膣の奥を突いた触手と先端を交えると、彼女の体内に今まで以上の衝撃が走る。そのまま掘り進めた両穴の奥に突き当たって生まれた波同士が壁越しにぶつかり合い、激しく渦を巻く。その波が腹腔から体全体を逆巻き、身体の内側で荒れ狂う。身を捩っても、声を挙げても逃し切れない情動の洪水の中、幾度目かの射精が注ぎ込まれるとそれを貪欲に貪らんと深奥が震え、哀切な、悲鳴じみた嬌声を挙げて彼女は果てた。
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