第二話


(せ、先生が私に……エッチな事を……?)

 エスヘイムさんから問われた、今この瞬間まで全く想像していなかった質問。最初はその質問に怒りと戸惑いも覚えましたが、よく考えてみると重要な問題の様な気がしてきます。
 私は、その、まだそういうのは早い年齢だとは思いますが、先生は立派な成人男性。当然ながら女性に対する欲求は持っているはずです。

 だったら……もしも本当に先生が私を女の子として好きになってくれているのなら……そういう事も求めてくる……?

(ち、違う……先生は……先生はそんな人じゃない……)

 明るい性格で生徒にも優しく、学院にいる誰からも慕われているパイク先生。その人が私にエッチな事を要求するなんていくら私の事が好きでもあり得ないと、先生の事を本当に想っている私が必死に訴えかけます。ですがエスヘイムさんの持つ本に釘付けになってしまった私の思考は別の方向へと流されていきました。

(う、うぅん、そうじゃない……エスヘイムさんが言っているのは、先生がどうするかじゃない……私が先生にエッチな事をされたいかどうか……先生が私にキスして……かわいいね、って言ってくれて……私の恥ずかしいトコロに優しく、でも大胆に触れてくれて……それで……)

「……んぅ」

 瞬きのために一瞬だけ瞼が閉じられ、本来なら認識すら出来ないほどの僅かな闇に支配された私の視界。そこに鮮明に映し出されたのはエスヘイムさんが言い、そして私が想像してしまった行為を行っている私と先生の姿……。

 学院の制服を着崩し今まで男性の目に触れさせた事のないショーツとブラを露出した私に、先生は今まで他の誰にも見せた事のない笑みを浮かべながら優しく指を這わせてくる……。魔法使いらしい柔らかい指が私の肌の上を擦る度に私は悦びに身を震わせながら更に先生を求め、そんなはしたない反応をする私に先生は満足気な笑顔を見せてくれる……。

(……や、だ……なんで……? 私、こんな事想った事ないのにぃ……)

 動揺のためか普段よりも明らかに多い瞬きの度に、そんな私と先生のいやらしい行為の映像が頭の中に浮かび上がってきてしまいます。エスヘイムさんに会うまでは先生とお付き合いする想像はした事があっても、決して考えもしなかったいやらしい妄想。
 まるで今までの私はずっとこんなエッチな妄想を抱えていたにも関わらず目を逸らしていただけで、エスヘイムさんの質問でようやくその気持ちに気付けた様な気すらしてきます……。
 ……正直に告白すると、私だって男女の関係について完全に無知な訳ではありません。学院の授業では性教育もありますし、私よりも開放的な友人からそういった話を聞いた経験だってあります。
 
 ……でも私……話で聞いただけのエッチな事をこんなリアルに想像できる女の子だったの……?

(違う、よぉ……私、そんな女の子じゃぁ……んぁあ!?)

 折れそうになる心を繋ぎ止めるようにギュッと自分を抱きかかえる様に腕を回しますが、その身体を包み込む感覚が想像上の先生の腕と重なり、思わず身を震わせてしまいます。

 私を抱きしめ……耳元で愛の言葉を囁いてくれる先生……でも私は耳に吹きかけられる僅かな息にすら敏感に反応し……さらにエッチな姿を大好きな先生に見せてしまう……。

(ダメ……ダメだよぉ……これ以上考えちゃったら……私……もう……)

 既に瞳は完全に閉じられ、私の視界には先生にいやらしい行為をして貰っている私の姿が映し出され続けています。大好きな先生に全身を撫で回される悦びに身を震わせる姿を見せつけるかのような妄想の中の私……。まるでそのシーンをもっと見たいかの様に瞳を閉じているうちに、次第に私の身体にも変化が生じてきました。
 決して現実のモノではない、全ては私が勝手にエッチな想像をしているに過ぎない先生の指。それが次第に現実にも侵食してくる様に私の身体を撫で始めます。
 実際には制服に包まれた脇腹やお臍の周り、そしてまだ妄想の中ですら下着に包まれたままの膨らみかけた胸や僅かに恥毛の生えている女の子の部分……。誰にも触れさせた事のない、自分ですらお風呂でしか触れた事の無い敏感な場所を、先生の指は私の身体のことは全て分かっていると言わんばかりに繊細に刺激してくれます……。

 その度に私の身体はピクピクと震え、口からは今まで出した事も聞いた事もない、でもソレを口に出来る事が嬉しくてたまらないエッチな声が漏れ出して……。

「どうだい、アニスさん。そろそろ答えは決まったかな?」
「え……ぁ、やぁ……!」

 現実の私の鼓膜を震わせたのは、先生の声ではなくてまだ出合ってから一時間と経っていない、でも私がエッチな女の子かもしれないと気付かせてくれたエスヘイムさんの声。

 いったい彼は質問してからの私の態度をどう見ていたのでしょうか……?

 私の認識できる限り、質問を受けた後の私は自分の身体を抱きしめながらも震えを止められず、時には妄想の中の私の様に熱い息を吐いていた気がします……。エッチな事をしたいかと問われた後、そんな反応を見せる女の子を男の人がどう想うか……。

「っ!!」

 それ以上の想像に恐怖と、そして……否定しきれない興奮を覚えてしまった私はその想いを押し固めるように強く瞳を閉じ、そして全力で身体を抱きしめます。今まではその度に先生から甘い刺激を受け続けていましたが、さすがに軽く痛みが走るほどに締め付けられてはいやらしい妄想も浮かばびません

 ……ですが、その代償として先程までのエッチな妄想で変わってしまった身体の変化にイヤでも気付かされてしまいました……。

(んぅ……ブラの中……乳首キツイ、よぉ……。それに……アソコも……やぁん……)

 何度も先生に妄想の中で撫でられた胸の中央の突起は、ジンジンと疼きながら大きく尖ってしまっています。許されるなら今すぐ上着やブラすら脱ぎ捨ててはしたない疼きから解放されたいと思いますが、公共の場である図書館でそんな姿になる事など許される訳がありません。

 なのに……だからこそ私は惨めな脱衣ショーをやりたがってる……? そして実際にブラすら脱いで胸を露出したなら、さっき先生が触ってくれていたみたいに自分でオッパイを触ってしまう……?

(違う……違うのにぃ……やぁん、またアソコ熱くなってくるよぉ……)

 膝頭と膝頭を合わせた極端な内股姿勢を取る私の意識は、次第に最も熱を帯びてくる女の子として一番重要な部分に向けられます。
 お気に入りのピンクのショーツに覆われたお股の部分……ソコは今までに感じた事の無い熱さと、そして……無視できない湿り気に包まれていました……。

(ウ、ソ……コレって……コレってぇ……!)

 女の子がエッチな気持ちになった時にアソコを濡らすという愛液。その存在は耳にして知っていましたが、今までそんな気持ちになった事のない私には半信半疑の存在でした。私のアソコから、オシッコ以外に下着を濡らすほどの液体が出るなんて信じられなかったのです。でも今、先生からいやらしい事をして貰う妄想をしてショーツが湿ってしまった以上、その原因は一つしか考えられません……。

 そう……私は男の人の前でエッチな事をして貰う妄想をし……下着を汚してしまうほどに愛液を漏らしてしまったのです……。

「ぅ……ひっぅ……んぅ……」

 今までに味わった事はおろか想像した事すらない惨めな気持ちに捕らわれた私の瞳には、次第に涙が溜まっていきます。だというのに、妄想上の先生から愛撫を受けた胸とアソコから生まれた熱はゆっくりと全身に広まっていき、肌という肌から今までにかいた事の無い粘っこい汗が染み出してきます。

 このままだと、身体のどこを触られてもエッチな反応をしてしまう女の子になっちゃう……。

 そう理解しながらも抗う術がないと思い込んだ私は、エスヘイムさんの質問に答える事すらできずに全身を嘗め回す感覚に酔いしれながらも、せめて崩れ落ちずに立っていようとするだけでいっぱいになってしまっていました……。



                      ※



(ふふふ、中々順調みたいだねぇ)

 頬と言わず、まだまともに着ている学院の制服から覗き見える肌の全てを真っ赤に染めながら、アニスはピクピクと可愛らしく震え続ける。まだどうして男女が存在するのか理解できない子供が見ても興奮するほどに愛らしい反応を見せながら、恋に恋する年頃の少女は想像上の刺激だけで普通の女の子がオナニーする程の快楽に捕らわれていた。

 吐く息は実際の男女の交わりの時の様にハァハァと荒く、本人は意識していないだろうが細く白い太股はその付け根にある部分の疼きを解消しようとモジモジと擦りあわされている。それどころかエリートの象徴とすら言える王立魔道学院の制服であるプリ―ツスカートに包まれた腰すらもユラユラと揺れ動き、既にメスの香りが染み付き始めているであろうショーツもチラチラと見せてくれていた。

「ぅ……ひっぅ……んぅ……」

 自分がどれ程年頃の女の子として惨めな姿を晒しているか。それはある意味私以上にアニスが理解しているのだろう。先程からつむられたままの目には涙が滲み、今にも頬を伝い落ちそうだ。……もっとも涙を流した所で、今の彼女ならその頬を伝う感触にすら腰を震わせてしまうだろうが。

 私の質問に答える事もできずに、恐らくは生まれてから初めて知った快楽に身悶えを続ける少女。男なら誰でも嗜虐心を刺激されるであろう痴態を目の当たりにした私は、しかし優しさを持ってアニスに語りかける。

「……ごめんね、アニスさん」
「ん、うぅ……え?」

 いきなり謝罪の言葉を口にした私の真意が掴めないのだろう。アニスは久々に瞳を開き、この私と視線を組み合わせてしまう。

「いくら好きな相手とだって、エッチな事がしたいなんてアニスさんみたいな女の子が言える訳ないよね。うん、私の配慮が足りなかったよ」
「い、いえ……そんな……」

 淫らな告白の強要を打ち消された少女は安堵の表情を浮かべるも、瞳の奥に宿った落胆を私は完全に見透かしていた。
 私と出会うまでは女の子として真っ当な性感しか持っていなかったであろうアニスは、まだ自分でも気付いていないだろうが既に私によって恥辱を快楽として受け取る様に上書きされてしまっている。十五歳の女の子なら泣き叫んで拒絶するほどの辱めを求めてしまう様に変わりつつある精神と、それに引きずられ強引に性感を開花させられる小さな肢体。その両者が少女に屈辱的な発言をさせる様に迫るが、短いながらも今までの人生で積み重ねた常識や倫理観がギリギリのラインで変態的な行為の実行を押し留めていた。

「でも私としてもパイクに頼まれた手前、しっかりと確認するべき所は確認しなきゃいけないんだ。ソレは分かってくれるね」
「は、はい……」
「よしよし、良いコだね。それじゃあそうだね……もし君がパイクとの愛を求めるなら、スカートを脱いでくれないかな?」
「……え?」

 何の脈絡も無く、性行為に関心があるという告白以上の羞恥行為を求められ、再びアニスの顔から安堵が消える。だが太股は今まで以上にギュッと押し付けられ、まるで愛液が零れ落ちるのを我慢している様にしか見えないポーズを取ってくれた。
 瞳は涙で潤み、頬は真っ赤に上気している。吐き出される息はどこまでも熱く、男を悦ばせる女の香りが周囲の空気を染め上げて満たしていく。図書館という知的な公共の場で決して見せてはならない蕩けた表情の少女は、私の意図を読み取れずともその行動に対する期待だけで更なる興奮を掻き立てられいた。

「どうし、て……」
「うん、君がパイクと愛を交わすとする。だったらその時はスカートも脱ぐだろう。いや、着衣エッチも良いモノだけど、やっぱり初めては互いの肌の熱さを感じたいだろうからね。だから、もしその気があるのならコレはその予備演習とでも考えてくれたら良いよ」
「ぁ、ぅ……」

 自分でも噴き出してしまいかねない程に訳の分からない理論。しかし初めてだらけの事態に戸惑い、そして私の術中にある少女は反論すら出来ず、目前にいる私ではないナニカを見つめ続ける。
 恐らく今のアニスの瞳には、パイクの前で衣服を脱ぎ捨てていく自分の姿が映っているのだろう。敬愛する男に凝視されながら、一枚一枚まるで淫らな踊り娘の様に肌を曝していくアニス。その幻想を少女がどう感じているのか物語る様に、半開きとなった口元から一筋の唾液が零れ落ちていった。


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