第三話


 質問に答えられなかった私にエスヘイムさんが新たに提示してくれた条件。それは到底頷けるものではありません。
 まだキスやエッチな事はおろか、男の人と手をつないだ経験すら少ない私が、男の人の前でスカートを脱ぎショーツを見せるなんて絶対にできない……はず、です。
 ……それに今の私の下着はさっきの妄想のせいで、はしたない湿り気を帯びてしまっています、多分、まだ染みまではできていないと信じたいのですが、エッチな汚れのついた下着なんて親や親友にすら見せられません。いえ、恐らくは私自身がそんなショーツを着ている自分の姿を見ただけで、卒倒するほどの羞恥に捕らわれてしまうでしょう。
 しかも、ここはまだ日も高い図書館の中。幸い、まだエスヘイムさん以外の人を目にはしていませんが、いつ誰がこの場に訪れるかも分からないのです。もしかすると毎日学院で顔を合わせていた男の子にも、私の恥ずかしい姿を見られるかもしれません。そんな所でスカートだけを脱ぎ、濡れ始めたショーツを見せつけるなんて……。
 
(ダメ……そんな事、できるはず、ない……?)

 つい先程も否定したはずも図書館内での脱衣行為。だと言うのに、私の視界はその禁忌の行動への甘い誘惑の様に先生の前で制服を脱ぎ捨てていく私自身の姿に占められていました。

 初めて肌を曝すことへの恥じらいを感じながらも……先生の視線に舐めまわされるのが嬉しくて……その悦びに指先は震え、毎日脱いでいる制服を脱ぐ事にすら戸惑ってしまい……焦らされた私の身体はどんどん熱くなり、やっと見て貰えたショーツには遠目でも分かるほどにエッチな染みが……。

「ハァ……ん……」

 今の私から見れば、まるで理想とすら言えるほどに恍惚とした表情でストリップショーを演じる幻想の私。瞼を閉じなくても浮かぶその姿に激しい羨望を感じながら、口の中にすら愛液が湧き出た様に粘っこい唾液が溜まっていきます。
 やがてソレは一筋唇から零れ落ちるまでになりますが、私は舐め取る事も出来ず激しい葛藤を続けます。

 私は……こんな所でスカートを脱ぐべきなの……? スカートを……脱ぎたいの……?

 答えを出せない……出してはいけない問いかけがいつまでも頭の中を駆け巡るだけの私を嘲笑う様に、幻想の私はついに先生の前で一糸まとわぬ姿となりました。成熟した男性を喜ばせるには、明らかに未発達な私の身体……それでも私は先生に興奮してもらいたくて、必死に恥ずかしいポーズを曝していきます。

 限界まで脚を開き……まだスリット状の女の子の部分を指で押し開け流れ出る愛液を見て貰う……先生が望むならと、あまりの恥ずかしさにヒクヒクと蠢くお尻の穴まで見せて……うぅん、違う……見せるのは、私が見て欲しいから……先生に……男の人に、私の恥ずかしい部分を全部見て欲しい……。

「どうだい、そろそろ答えは出たかな」
「ぇ……ぁ、んぅ……」

 完全に幻想に取り込まれていた私を現実に引き戻したのは、私の肌や恥ずかしい穴を見つめていた大好きな先生の声……ではありません。当然ながら、先程から私の目の前にいながらも視界に入っていなかったエスへイムさんです。
 なぜか現実と幻想の区別すらつきにくくなった私は時間の感覚すら狂い始めたのか、彼の姿を見るのも随分久しぶりに思えます。

 いやらしい幻想に酔い……どんどんとエッチな気持ちが止まらなくなって……それだけで、もうショーツには絶対に染みが出来ていると分かるほどに愛液を垂れ流して……イヌの様にヨダレまで零してしまった……普通の男の人なら、嫌悪の表情すら浮かべかねないほどに一人で興奮してしまっている私……なのに、変わらない優しい笑みで見つめてくれるエスヘイムさん……。

「ん〜。脱がないっていう事は、アニスさんはパイクとエッチな事はしたくないと判断していいのかな」
「ぁ……ぅ……」

 そんな事……ある筈がない……。

「そうすると、私はそうパイクに報告するけど……本当にいいんだね? 戦争が終わり、パイクが帰ってきても彼は君に指一本触れない……そんな生活が延々と続く未来を君は望むんだね?」

(そんなの……絶対にヤだよぉ……)

 ようやく想いが通じた先生と出会えても、今までと同じ様な関係でい続ける。そんな結果に私の心は耐えられそうにもありません。
 ……そう。エッチな事だって、今の私の年齢ならまだ早いというだけです。いつかは女の子なら誰でも通る道……。私はそれが少し早まるかもしれないだけで……好きな人と結ばれたいと願うのは間違いではないはず……。

「ぁ……ふぅ……」

 熱い息を漏らす私の指は、自分でも気付かないうちに腰へと伸ばされていきました。その目的はもちろん一つ、私は今から図書館の中でスカートを脱ぎ捨て、エスヘイムさんにショーツを見せるのです。だってそうしないと、私は先生とエッチな事ができないのですから、これも仕方の無い事……です……。

(……違う)

 そう割り切りながらスカートのファスナーを外しつつも、私の頭は別の考えにも支配されつつありました。
 私がスカートを脱ぐのは、いつか先生とエッチな事をするためではない……今この場でエスヘイムさんに……そして訪れるかもしれない誰かに染みのできたショーツを見てもらいたいからだ、と……。



                      ※



 強制的に目覚めさせられた露出快感への期待に焦らされ続けた哀れな少女は、口元に薄っすらと笑みさえ浮かべながら女の子にとって最も大事な下半身を隠す布地を捨て去ろうと指を動かす。
 ゆっくりと伸ばされた細い指先は桃色に染まり、緩慢にスカートの留め金を外していく。絶対の必要性があっての事ではない。単に観客である私と全身を疼かせるアニス自身を満足させるための、少女にとって生まれて初めての男に見せつける脱衣ショー。そんな貴重な場面を楽しむ私を焦らす様に、そしてそれ以上にアニス自身が焦らされる事を望んでいるかの様に指先の動きは鈍いが、躊躇いは一切ない。そして彼女がスカートを脱ぐ決断をしてからたっぷりと三十秒が過ぎた頃、ついに私たちが望んできた結果が訪れた。

「……はふぅ」
「ほぅ、コレはコレは」

 支えを外されたスカートは宙を舞うようにゆったりと、しかし確実に床へと引き寄せられ、その役目を完全に放棄した。
 現れたのは細く白い脚、そして人目に曝してはならない部分を柔らかく覆い隠すピンクの薄布だ。愛らしいレースで飾られたショーツは制服のブラウスに隠されているためその全ては見えないが、男の興奮を誘うには十分すぎる。しかもそのクロッチ部分は、近づかなくとも分かるほどに濡れそぼってしまっていた。私の誘導によって思い描いてしまった妄想により、よほど興奮したのだろう。今まで太股を愛液が伝い落ちてこなかったのが奇跡と思えるほどの濡れようだ。もしかすると、元々この娘には露出思考があったのかもしれないね。

「えらいね、アニスさん。好きな男の人のためとはいえ、こんな場所でスカートを脱ぐなんて……男の私でもちょっとできないよ。うん、しかもこんなにビショビショの下着を見せてくれるなんてね」
「ぁ、んぅ……コ、コレは、違うんです……私、そんな……やぁ……くぅん!」

 これ程に下着を濡らす事がどれだけ恥ずかしい事か、そしてそれを他人に見せる事がどれ程惨めなのかを少女は理解しているのだろう。必死に腰をくねらせて私の視界から濃い桃色に染め上げられた部分を隠そうとするが、一番容易な方法である手で隠そうとはしない。
 理由は二つ。一つは単純に、実はアニスがこの汚れきった下着を私に見せ付けたいため。よく観察してみると、腰の揺らめきもどちらかというと私の視線に合わせ最も濡れた部分を見せ付けるように動いている。ピッタリと閉じられていた太股も自然な力加減にまで緩められ、腰の動きとも相まって愛液がタラリと滴り落ちていく。無論、アニスもその事実には気付いているのだろう。さっきから太股を擦り合わせ、ニチャニチャといやらしい音を奏で続け、その音に酔いしれる様に恍惚とした息を溢れ出している。

 そしてもう一つの理由は、もし股間を手で隠そうとして、うっかりでもソコに手が触れたなら……その時自分がどう行動してしまうか予想がついているからだろう。
 私の視線と少女の脚の間で生まれる淫音だけでもアニスが昇り詰め掛けているのは明らかだ。そこに下着越しではあるものの敏感なスリットへの刺激が加われば、間違いなく彼女はオナニーを開始するだろう。恐らくは自慰の経験すらない少女。いくらスカートを脱ぎ、濡れた下着は見せられても自分の指で股間を弄る行為には、例え私の目が無くともまだ躊躇いを持っているのだろう。
 男の見ている前で、しかも公共の場で行う生まれて初めての自慰。今の彼女にならその想像はたやすく行え、そしてその痴態を求めてしまうだろう。いや、既にそれは始まっているのかもしれない。
 スカートを脱いだ後、胸の前で組み交わされていた手はゆっくりと股間へと近づき、直後慌てた様にまた胸の前に戻される。さっきからその繰り返しだ。

 もう後一分も待てば、この儚げな少女は淫欲に屈し自らの意思でファーストオナニーを開始するだろう。私の面前で涙を流しながらもはしたなくショーツの中に差し入れられた手が蠢く様は容易に想像できたが、さて、これからどうイヂメてあげようかねぇ。


つづく