第一話


コンコンッ  ノックの音が部屋に響く。どうやら一人目の受験者の審査時間が来たようだ。 「どうぞ入ってください」 「はい、失礼します」  ボクの入室の許可を待って、一人の少女が部屋に入ってくる。  まだあどけない顔立ちで、ツインテールにしている髪形がよく似合っている。それなの に体つきはよく、なかなかに男好きのするタイプと言える。もちろんボクもキライじゃな い。  ちなみに彼女が着ているのは、彼女の学校の制服だ。これは、学生は面接時には制服を 着てくるように言ってあるからだ。別にボクは制服フェチじゃないが、やはり女子高生に 一番似合う服装といえばコレだろう。 「それじゃあ掛けてくれるかな」 「はい」  ボクの言葉に従い、一人目の受験者である彼女が椅子に座る。向かい合うボクを見る目 はにっこりと笑っているが、それは媚びるようなものではなく、どちらかというと無邪気 な物に見える。直接会うのは初めてのボクでも、彼女の性格が分かるような物だ。 「ボクは鈴木 孝則。今回の面接官だけど、変に緊張したりしないで正直に答えてくれたら いいからね」 「はい、よろしくお願いします」  笑顔で告げるボクの言葉に、彼女は再び頭を下げて応えてくれる。うんうん、初々しく てかわいいねぇ。それじゃあ、質問を開始しますか。 「まずは自己紹介をお願いできるかな。名前と年齢、それに身長、体重、スリーサイズも 教えてもらえるかな」  もちろん、これらの項目はもう既に分かっている。それでも、やっぱり本人の口からも 聞きたいからね。 「はい。新藤 彩、十七歳です。身長は162センチ、体重は46キロで、スリーサイズは 85・59・88です」  まぁ当たり前だけど、こういう場だから恥ずかしがらずに答えてくれる。しかし、やっ ぱり数値で聞いてみた分でも、肉付きの良さが伝わってくる。後々が楽しみだね。 「なるほど。ところで、どうしてうちのオーディションを受けようと思ったのかな」 「はい。私、秋月 由香里さんの大ファンで、それで少しでも彼女に近づきたくてこちらに 応募しました」  秋月 由香里というのは、去年うちからデビューした新人だ。整った顔立ちと適度なプロ ポーション、そしてアイドルとしてはかなり上手い部類に入る歌唱力で、ただ今人気急上 昇中、うちで一番の売れっ子となりつつある。  アイドルになりたいという動機としてはありがちかもしれないけど、こう瞳をキラキラ させて言われると、かなり真剣なんだと分かる。もっとも、調査の報告によると少し気に なる点もあったりするけど…… 「そうかい。ところで新藤さんってかわいいけど、つきあっている男の子とかはいないの かな?」 「そんなぁ。男の子と付き合ったりしませんよ〜」 「……そうかい」  にこやかな笑みで返す彼女に、ボクも笑みを保ちながら短く返す。が、 『男の子と付き合ったりはしない』  報告にあった気になる点というのがコレ。どうやら彼女、少しレズっ気があるらしいと の事だ。つまり秋月 由香里に対しての気持ちも、そういうものが含まれているかもしれな い。まぁもっともボクとしては、何があっても合格したいという意思さえあれば、このオ ーディションに関しては他の部分にはそうこだわらない。たとえうちに来た後に、彼女と 恋愛関係になってもね。  とにかく今は、この面接を楽しまなきゃね。 「そうかい。それって、今まで一度も男の子と付き合った事が無いということかな」 「はい、そうです」 「じゃあ、キスやセックスといった経験もないんだね」 「え?は、はい。ありません……」  これほど直接的な質問をされるとは思っていなかったんだろう。今まで浮かべていた子 供のような笑みが消え、戸惑うような表情となる。  でも、その反応も予想のうち。ボクは机に乗せた両手を組み、笑みを浮かべたまま、軽 い感じで面接を続ける。 「どうしたんだい、戸惑ってるみたいだけど。ひょっとして、こういう質問されるとは思 ってなかった?」 「あ、そ、それは、その……」 「……新藤さん」  少しだけ真剣さを加えたボクの声に、彼女が少しビクッとする。まぁ確かに普通の面接 なら、その態度は一発落選間違い無しだから当たり前か。そう、普通のならね。 「芸能人にとって、そういうスキャンダルは命取りになりかねない。特に君みたいに若く てかわいい娘ならなおさらね。」  彼女はボクの話を聞き続けてくれているが、少し心配そうな表情となっている。さっき の質問に答えられなかったという失敗を気にしているんだろうが、ボクはそんな事は気に せずに言葉を続けていく。実際、気にしていないしね。 「ボクは、うちに所属している女の子をそんな問題で潰したくない。そりゃあプライベー トもあるだろうけど、それでも出来る限り相談はしてほしい。そして、いざその時に的確 に助言できるよう、できるだけそういった情報を持っておきたいんだ。だからボクは、あ あいう性的な事を含む質問をしたんだ」  そこまで言って、一旦息を吐く。彼女の様子はというと、ボクの説明に納得したような、 そして何か決意したような表情となっている。それはボクにとって願ったり叶ったりの状 況だがそんな事はおくびにも出さず、少し心配そうな笑みで彼女に問いかける。 「そういう訳で、これからもこういった質問を続けようと思っている。でも、君がイヤだ ったら内容を変えるけど……」 「いえ、そんな!私のほうこそすみませんでした……心配してくれていたのに、あんな風 に戸惑っちゃって……でも、大丈夫です。次からはちゃんと答えますから」 「そうかい。ありがとう、女の子にとって恥ずかしい質問をしようというのに、それを許 してくれて。そんなにうちに入りたいんだね」  感心したようなボクの言葉に、彼女は照れたように笑う。ホント、表情が分かりやすい 娘だなぁ。  さて、それじゃあ許可を頂いたところで、今回のオーディションの本番始めますか。


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