■第四話


誰も居ませんように・・・
「よし! 誰も居ない!」
さっきと同じように紙を体に巻きつける。
沢山あったのでたっぷり5ロール使う。環境破壊に一役買ってるなあ。
数分かかって作業完了。次は体操着。
もう人も増えてくる時間帯。贅沢は言ってられない。多少見つかってでも全速で回収して着よう。
「行くわよ!」
気合を入れてダッシュ。
階段をを下りようとした時に先生に出くわした。顔を隠して通り抜ける。
「あ? え? オイ、待て!」
待てるわけないので無視して逃走。
階段を下りて一階まで着いたとき、マズい事になっていた。
所詮は紙。走るだけで綻びて破け、肌がチラチラ見え出している。
胸や腰の辺りには重点的に巻いているけど過信はできない。
慎重に。でも出来るだけ早く走って中庭へ。幸い誰もいなかった。

「体操着体操着・・・確かこの辺に・・・」
しかしいくら探しても見つからない。誰かに拾われた?
「探し物はコレかしら?」
体操着を着た女の子が体操着袋を持っていた・・・・ってアンタは
「浅野さん、それ返して! ってなんで着てるのよ!」
「これは教室にあった私のよ。杉原さんのはこの袋の中」
そうだった。教室には他にも体操着があったんだ。
「じゃあ私の体操着貸す必要なんて無いじゃない」
「それもそうね」
笑いながらウインクしている。ムカつく!
大体私も緊急事態なんだから他のコの体操着を借りれば良かったのに・・・
後悔しても遅い。とにかく今は目の前の体操着を!
「返せッ!」
「やだ」
飛び掛った私をひらりと避けて逃げた。
思ったより足が速いけど部活で鍛えた私ほどじゃない。
「あんまりハデに動くと危ないんじゃないの?」
そんな事はわかってる。動くたびにズレて破けて、段々と肌が露になってくる。
でも体操着さえ取り返せば!
「ほら。ここまで来られる?」
「う・・・」
浅野さんは校庭の方へ走っていった。
もう朝練が始まっていて男子も沢山いる。この格好で追いかけるのはちょっと。
「杉原さん大丈夫? しっかりしなよ杉原さん。モタモタしてると授業始まっちゃうよ杉原さん」
名前連呼するな! 見つかっちゃったらどうするの!
「杉原さんセクシーな格好ね! 皆に見てもらえば? おーい、みんなー!」

ぶっちん

もう我慢の限界。絶対にとっ捕まえてひん剥いてやる。
「このぉ!」
「うわっと」
再び追いかけっこ。

もう紙が破けるなんて気にしていられない。全力で走る。
「うわ速い。本気出すね」
なんと浅野さんは更にスピードを上げて走っていった。私の全力とほぼ同じ速さ。
そりゃ陸上は本職じゃないけど、本ばっかりの女の子が部活で鍛えた私と同じなんて!

サッカー部のパス練習を横目に走り、
ランニング中の陸上部とすれ違い、
野球部がキャッチボールをしている隣を抜け、
テニス部の素振りの前を通って走り続ける
「なんだアレ!」
「誰? あの子?」
「2組の杉原じゃね?」
当然ながら注目が集まってしまう。
前を走っている浅野さんには見向きもせずに、あられもない姿の私だけを観察している。
スケベな連中め〜〜!

「いい加減に止まれー!」
しばらく走ってやっと浅野さんのペースが落ちた。
体力の差が出た・・・訳ではなかった。
「んん・・・擦れるぅ」
そういえば下着は着けてないのか。
ノーパンノーブラで走ってイロイロと刺激されてしまったらしい。いい気味。
「さあ、返して貰うわよ」
「いやです〜」
悪あがき上等とばかりにまだ逃げる。そしてプールのフェンスをよじ登っていった。
チャンス!
鍵が掛かっているから出るためには再びフェンスを登らなくてはいけない。
私はこの1ヶ月くらい毎日登り下りして慣れている。
ここで追い詰められる!
続いてフェンスを登り、反対側に下りようとした浅野さんの腕を掴んだ。
「あう。離してよ」
「離すもんですか。もう逃がさないわよ」
もう片方の手で素早く体操着の袋を掴んだ。やっと服が着られる!

「すげえ。見えそうだ」
「もうちょっと足開けば・・・」
へ?
気がつくとフェンスの下に男子が集まっていた。
教師も何人かいるが止めもしないでこちらを見ている。
視線は私の下半身に・・・
「きゃあぁぁぁぁ!!」
思いっきり走った上に汗もかいて、巻きつけた紙はもうボロボロだった。
特に激しく動かした腰の紙はほどんど無くなっている。
「いや! 見ないでよ!」
なんとか隠そうとして身を捩ったらバランスを崩してしまった。
「うああ!」
そのまま二人でプールサイドに落っこちた。


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