「居酒屋にて」その1


  出張でやってきたこの街で、私は納入先の営業部長と一緒に一軒の居酒屋に入った。 まだ混む時間では  ないのか、広い店の客の入りは五分といったところだった。私と営業部長は奥の方の座敷席に上がってビール  を注文する。すぐにキンキンに冷えたビールと、ざるに入った枝豆が出てきた。  本当は日帰りの予定だったのだが、納入した機械の説明に予想以上に時間がかかってしまったのである。無理  をすれば帰れないこともないのだが、営業部長に誘われたのだ。 「今日はお疲れ様でした、まあ、一杯どうぞ」  営業部長はそう言ってビールを勧めてくれた。冷たいビールは素晴らしく美味かった。この一杯のためだけに  生きていても良さそうだ…とその瞬間には思えるほどの美味である。 「今夜は泊まっていかれるんでしょう?」 「ええ。駅前のビジネスホテルを予約しました。……しかし、初めて来ましたが、ここは活気のある街ですねぇ」 「そうでしょう。この街以外の所には住みたくないぐらいい街ですよ」  営業部長は何とも表現しようのない笑みを浮かべて言う。 「さて、本格的に飲むとしましょうか、まずは……おっ! 今日は香奈ちゃんが入ってるのか、それじゃあ、女体  盛りを頼んで……」  注文を取りに来た店員にそう告げた営業部長の言葉に、私はちょっと驚いていた。冗談にしてはその後のフォロー  もないし、店員も真面目な表情で、手に持った伝票に書き込んでいる。 「あとは、オプションでわかめ酒を……」  またまた聞き捨てならない言葉が発せられていた。  わかめ酒とは、まさか……。 「……あの……さっきのオーダー、本気なんですか?」  注文を聞き終えた店員が去った後、私は営業部長に尋ねていた。 「ええ。本気ですよ。ああ、あなたはこの街は初めてでしたね。まあ、一度体験すればすぐに慣れますよ。楽しみ  に待っててください」  営業部長はそう言うと、つき出しの枝豆を口に放り込み、ビールを美味そうに飲み干した。私もなんだか釈然と  しないものを感じながらも、ビールをちびちび飲みつつ、注文の品が来るのを待っていた。  やがて、奥の厨房から大きなワゴンに載せられたものが運ばれてきた。上には大漁旗がかぶせられているのだが、  そこに浮き上がっているシルエットはどう見ても人間のものだった。  まさか本当に!? いや、きっと人形だろう……そう思いながらも、心の奥底が期待にわなないている。空きっ腹に  程好く染みはじめたビールの酔いが、私の性欲と食欲の橋渡しをしていた。 「おほほっ! 来ましたよぉ! さて、楽しむとしましょうか」  営業部長は楽しげな笑みを浮かべてそう言いながら、かぶせられた大漁旗を一気に剥ぎ取っていた。 「あっ!」  私は思わず声を上げてしまう。そこには、小柄で色白な少女が仰向けに寝かされていた。その顔立ちは清楚という  表現が一番似合うだろう。まるで眠っているかのように軽く目を閉じているが、堅く引き締められた唇と、フルフル  と震えている長いまつげ、そしてほんのりと朱がさした頬が、彼女が目覚めている事を告げている。  肩の下あたりまでの艶やかな黒髪が、彼女が寝かされている巨大なまな板の上に広がっていた。細い首から鎖骨の  ラインがまだ未成熟な少女ならではの繊細な美しさを見せている。そして、その身体は各種刺身で見事に装飾されていた。  マグロ、タイ、ヒラメ、シマアジ、アワビ、イカ、タコ、ウニ、イクラ……少女は、私が知りうる限りの種類の冷たい  魚肉片を白い裸身に纏い、ワゴンの上に仰臥しているのだ。  屈強な男性店員が二人がかりで彼女が乗った特大のまな板を座敷席のテーブルに載せた。 私と営業部長は、テーブル  に寝かされた女体盛りの美少女を挟んで向かい合う。 「さあ、遠慮なくどうぞ」  営業部長はそう言って勧めて来るが、私は圧倒されてしまってその身体に箸を伸ばす事ができなかった。 「さあ、早く食べてあげないと、香奈ちゃんが風邪引いちゃいますよ」  その言葉に私は決心し、箸を伸ばしていた。脇腹の上に置かれたひらめの刺身をそっと摘み上げると、透き通るように  白い肌がその下から現れる。  私はその白い肌に視線を据えたまま、小皿に入れたしょう油に刺身を浸し、口に運んだ。美味い……かどうか、はっきり  いってわからなかった。生まれて初めて女体盛りというものを目の前にして、脳がオーバーヒートしてしまっているのだ。 「香奈ちゃんの胸の上のやつ、生きたタコの足なんですよ。美味いから、どうぞ」  もぐもぐと口を動かしながら営業部長がうながしてきた。 「え?」  私は小柄なわりには豊かな彼女のふくらみの頂点にかぶせるように置かれた青竹の輪切りの中を覗き込んだ。 「うわ!」  直径十センチ足らずの青竹の輪の中では、いまだにうねうねとタコの足だけがくねっていた。よほど新鮮なのだろう。  そして、蠢く触手の中で吸盤に吸い付かれて蹂躙されているピンクの乳首が鮮烈に眼を射る。  この少女は乳首の周囲に蠢くタコ足の感触に耐えているのだ。その光景はまさに人外の生物に陵辱されているよう  にも見えた。 「おお、今日のタコ足は特に新鮮だな、香奈ちゃん、今助けてあげるからね」  物凄くいやらしい表情と口調で言いながら、営業部長はもう片方の乳房の上に置かれた竹の輪切りに箸を伸ばす。  私もつられるようにして箸を伸ばし、蠢く触手の一本を摘んでいた。こんな状態になってもまだ生存本能が残って  いるのか、タコの足は少女の柔肌に吸盤を吸いつけて頑強に抵抗した。  箸先に抵抗を感じた私の心の中に、奇妙な嫉妬心のようなものが沸き起こる。こいつは清楚な少女の乳首に吸盤で  吸い付いているのだ……。  少し力を入れて引っ張ると、吸盤に吸い付かれた愛らしいピンク色の突起がくいっ! と伸びるのが見えた。 「あん…っ・・・」  香奈ちゃんがかすかな声を漏らした。思わず手を止めて営業部長の方を見ると、彼も同じように乳首に吸い付いた  タコの足を箸で摘んで引っ張っている。  同時に左右の乳首に吸盤を吸いつけられて引っ張られたのだから声ぐらい出てしまうだろう。目を閉じてはいるもの  の、二人の会話は聞こえていたはずだから乳首の周囲でヌルヌルと蠢いているタコ足に箸が伸びるのは想像していた  はずだが、まさか同時に、それも乳首に吸い付いている足を選んで引っ張られるとは思わなかっただろう。 「ほれほれ、このタコ足、香奈ちゃんの乳首に吸い付くとはふてぇ野郎だ! 離れろっ! 離れないかぁ!」  いささか芝居がかった口調で営業部長はタコ足を前後左右に引っ張って責め立てた。吸盤が吸い付いた透明感のある  ピンク色の乳首が、クイクイと引っ張られて弄ばれる。  それはタコ足を仲介した擬似触手による乳首嬲りだった。 「んぁ……あんっ……ふぁ……」  香奈ちゃんは必死に声を出すのをこらえているようだったが、時折、耐え切れない甘い声を漏らしてしまう。  その声は私の股間を強烈に刺激していた。 (もっと聞きたい……この娘のいやらしい声をもっと…俺も声を出させてやりたい)  急激に心の奥底から沸き起こった嗜虐心の命ずるままに、私はタコ足を摘んだ箸に力を込めていた。  続く


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