第一話「異世界 フェアリーナ」


 白いベッドの中で、私は先輩に抱かれている。二人ともなにも身に着けていない、生まれた ままの姿だ。 「先輩、恥ずかしい」 「恥ずかしがることはないよ。望の体、とてもきれいだ」  先輩の言葉に私は耳まで真っ赤になる。 「望の肌、とても柔らかいんだね。ほら、ここなんか特に」  先輩の手が私の胸をつかむ。 「でも。私、胸小さいから」  私の胸は片手に収まるほど小振りだ。周りには大きい子が一杯いるし、ちょっとコンプレッ クス感じてる。 「望はまだこれからだよ。それにこういう小さいのも僕は好きだな」  先輩の手が私の乳房を優しく揉み、その先端をつつく。 「あっ、せ、先輩」 「そんな声出しても許してやらないぞ。今夜はとことんいじめてやるから」  先輩は少し意地悪そうにそう言うと、もう片方の手を私の足の間にのばしてきた。 「だめ、先輩。そこは」 ぴちゃ。 「濡れてる…」  その部分に熱いぬめりを感じて私は思わず声を上げた。ここは私の部屋。私はベッドの上に パジャマ姿で寝転がっている。憧れの先輩のものに見立てた私自身の指で、私は自分の体をい たぶっていた。乳首は固く尖り、股の間は興奮の証でべとべとに濡れている。私は先輩を想い、 股間に指を這わせる。 ぬちゅ、くちゅ。  恥ずかしい音が部屋中に響き、私は自分の口から出たものとは思えないような甘い喘ぎを上 げた。妄想の中の先輩は私の大事な部分を、隠しておくべき秘密の部分をいとも簡単に暴き、 弄んでいた。私は先輩のなすがままに声を上げることしかできない。しだいに股間のぬめりが 強くなり、私の息が絶え絶えになってきた。終わりの時が近い。私は快楽の階段を一気に駆け 上がろうと指の動きを速めた。 (お願い、助けて) 「えっ」  突然聞こえた声に、私は頭から水を被ったように冷たくなった。 「誰かに、見られた?」  私は慌てて周囲を見まわす。でも、辺りに人影らしきものはない。 「空耳だったのかな。あーあ、せっかくいい所だったのに一気に冷めちゃった」  私がそのもどかしさを嘆いていると、 (・・・を、救って)  また声が聞こえた。いったいどこから。そう思ったとき、私の足元の床がなくなった。 「う、うーん」  気が付くと私は広い草原の真ん中に倒れていた。とりあえず、怪我はしていないみたい。そ れにしても、ここはどこだろう。私、自分の部屋にいたはずなのにどうしてこんな所にいるん だろう。周りを見わたすと、同じように倒れている二人の女の子を見つけた。一人は長髪の結 構きれいな子。もう一人は丸い眼鏡を掛けた、ちょっとおとなしそうな子だ。二人とも年は多 分私と同じくらい。やっぱりパジャマ姿だった。 「あいたたた、もう一体なんなのよ」  長髪の子が声を上げる。ちょっと気の強そうな子かも。 「あらら、どうしてお外にいるのでしょう?」  もう一人の眼鏡の子も起き上がった。なんか、あまり緊張感がないみたい。 「二人とも大丈夫?」  私は慌てて二人にかけよった。 「なんとかね。それにしても、ここはどこ?」 「私にもわからないんだ。自分の部屋にいたはずなのにいきなりこんな所に放り出されて…」 「あら、わたくしも同じですわ。つい先程まで自分のお部屋にいたのに」 「それならわたしも一緒よ。なるほどね。この突拍子もない展開。これって、どうやら夢の中 のようね」 「あっ、そうか。それなら納得できる。そうか、夢なんだ」 「そうですか? それでは、ちょっと失礼して」  眼鏡の子はそう言うと、なんと私と長髪の子のほっぺたをつねった。 「ひ、ひはい!」 「ひょっほ! ひっはい、はにふんのお」 「いえ、こういう時はほっぺをつねってみるものだといいますんで」 「それをやるんなら自分の頬でしょ! もう、お約束のボケをかまさないでよね」  長髪の子は赤くなったほっぺたをさすりながら答える。 「でも、痛かったってことは夢ではないってことですよね?」 「そうだ、これは夢などではない」 「えっ」  不意に聞こえた声に慌てて振り向くと、そこには奇妙な服を着た男の人が立っていた。ゆっ たりとした白い布みたいな衣装で、右手には綺麗な飾りのついた杖を持っている。まるで演劇 かなにかの登場人物みたい。 「あなたは、誰?」 「私の名はクリス。この国の導師だ」 「この国の導師って、日本の役職に導師なんていうのはないわよ」 「ここはおまえ達が住んでいた世界ではない。ここはフェアリーナ、おまえ達の世界とはまっ たく異なる異世界だ」 「異世界? それじゃあ私達は全然違う世界に来ちゃったってこと?」 「やれやれ、やっぱり夢ね。そんなお伽話みたいなことが信じられるわけないじゃない」  長髪の子はやってられないといった風に肩をすくめる。 「信じられないのも無理はない。しかし、これはまぎれもない現実だ。おまえ達は我が姫がこ の国を救うために異世界から召喚したのだ」 「この方の言っている事はうそではないようです。ここに生えている草花、どれも図鑑でも見 たことがないような物ばかりです。それに夢ではないのはさっき確認しましたし」  眼鏡の子はそう言うと悪びれもなく微笑む。 「わかったわよ。とりあえず信じるしかないでしょう? それよりその姫様とかいうのに会わ せてよね」 「もとよりそのつもりだ。すまないが私の後について来てくれ。えーと」 「あっ、私は望。花火 望 です」 「わたしは、潮女 水よ」 「歌鳥 空と申します」  そういえば、あまりのことにお互いに自己紹介もしていなかった。 「それでは望、水、空、ついて来てくれ。姫の所に案内しよう」  導師クリスに導かれて、私達三人は草原を歩き出した。そう、これが全ての始まりだった。


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