第7話「裸の謝罪」
結愛子は昔から自分の舌に関しては強い自信と意地があった。
高校1年の頃だった。料理部のOBの招待で、日本一を自称する蕎麦屋へ
誘われたことがあった。
ここの店、味は最高なのだが店主に問題があり、客に対して横柄なのだ。
ちょっとでも談笑したり、泣く子供など居たら、大声で怒鳴って追い出
すのが当たり前の光景となっていた。
そして堂々と客である結愛子たちに、こう言い放ってくる。「俺の蕎麦
を食べたい奴は五万と居るんだ。だから俺が認めた客しか俺の蕎麦はくわ
せねぇ。そば粉もコシも最高、つゆも最高、俺の手打ちも最高の蕎麦なん
だからな」
そんな店主の自慢の蕎麦を注文し、さっそく食べた結愛子がとんでもな
い言葉を出してきた。
「・・・そば粉もコシも最高、つゆも最高だけど、大事な手打ちは最低です」
と堂々と店主に文句を言ってきた。
当然、店主は顔をゆで蛸のようにして怒り出した。「ふざけんな、小娘!
てめーなんかの安い舌で俺の高級蕎麦にケチつけんな!」と大声で怒鳴り、
何と結愛子の胸ぐらをつかんできた。
「私も自分の舌には自信があります。これは高級蕎麦じゃありません。周
りの客に聞いてみてください。誰かしらは、この味に疑問を思ってます」
「ふざけた小娘だ。これ以上、くだらねーこと言うと素っ裸に剥いて外に
放り出すぞ!いいかっ、俺は本気だぞっ。さっさと俺に謝れ」
「あなたに謝る理由はありません。たとえ、脱がされても私は自分の舌に
嘘をつくわけにはいきません」
「ぐぬぬっ、そーかい。それなら、この店のルールを教えてやるよ。順二、
泰三っ!この小娘の服を剥いて外に追い出せっ!」
「へいっ、親分っ」「そういうわけで、お嬢ちゃん、覚悟してもらうぞ」
「こんなことしても、この蕎麦の手打ちが最低なことには変わらないわっ。
自分の腕が鈍っていることに気づかないなんて、残念だと思います!」
相手が本気だというのに、まだ結愛子は自分の主張を強く言い続けた。
実は、結愛子には時々、自分の舌の意見を通すために無茶をすることが
あり、どんな脅迫を受けても最後まで自分の舌を信じることにしていた。
普段だと店を追い出されるだけで済むのだが、この時は本当に裸に剥か
れて追い出されることになった。
「おりゃ、おりゃ!お前の服が塩の代わりだぁ〜」ポイッ、ポイ。
蕎麦屋の外には次々と店員に脱がされた結愛子の服が投げ捨てられてい
く。そして信じられないことにブラやショーツまでも外へ投げ捨てられた。
「親分っ、全部服は捨てましたぜ」「へへ、お嬢ちゃん。下ばっか隠すの
はいいが、綺麗なおっぱいが丸出しだぜ」「・・・・」
そう、店内には股間だけを必死に隠して、おっぱいを丸出しにした結愛
子が床に座っていた。こんな辱めを受けても、凛とした態度で店長にこう
言い放った。
「たとえ、裸で外に追い出されても、私は最後まで自分の舌の意見を変え
ません!」「ぐぐっ、生意気なっ。そんなに裸で追い出されたいか」
「親分っ..これ以上は世間的に」「いい加減、お嬢ちゃんも謝りな」
「謝りませんっ。謝るのはそっちの方です」「順二、泰三っ、追い出せ!」
店長の言葉で店員が結愛子の両足を引きずるように外へ向けて引っ張っ
ていく。ズルズルッ..
もはや、このまま裸で外に追い出されようとなる中、新たに入ってきた
客の言葉で状況がガラリと変わった。
「この蕎麦を作ったのは誰だ〜!店主は貴様かぁぁ〜!」
この客、まだ蕎麦を注文もしていなかったが、結愛子の蕎麦を勝手に食
べて店主以上に怒鳴ってきた。
「てめ〜、俺に文句あんのか!勝手に蕎麦を食べて何様のつもりだ!」
「わしは陸永洋蔵だ!美味しい蕎麦があると聞いてきたが、こんなものを
食わせるとは!!いったい、どういうつもりだ。店主っ!」
「げっ..陸永洋蔵って、まさか..」
「店主!わしが誰だが知っているな。豪華美食会を主宰する陸永洋蔵と分
かりながら、こんなものを出したのかっ!」
「いや..そういうわけじゃ..」ガクガクッ..
さっきまで怒っていた店主が、この陸永洋蔵という客の言葉で怯えだす。
どうやら、この食の世界では陸永洋蔵は絶対的な力を持っている大物の
美食家であり、陶芸家としても有名な天才料理人でもあった。
この陸永洋蔵が一声掛ければ、こんな蕎麦屋など1日も経たない内につ
ぶすことが出来るらしい。
「店主っ!貴様の蕎麦の手打ちは最悪だ。己に過信しすぎて腕が落ちたな。
これはもはや蕎麦ではない!悔しかったら、修行をしなおせ!」
「・・・ぅぅっ」がくっ。思い切り陸永洋蔵に叩かれた店主が膝を落とし、
その場に愕然と座り込んだ。
そして、陸永洋蔵はいったん外に出て何と結愛子の服を拾って店内に戻
ってきた。
「そこの娘。貴様の舌は素晴らしい。今回は災難だったが、これぐらいで
負けるんじゃないぞ!貴様の名が世間に轟くようになったら、この陸永洋
蔵が主宰する豪華美食会に入会を推薦してやろう」
「豪華美食会に..」「そうだ!今後も一生懸命頑張るがよい。がっはは」
そう言って、嵐のようにやってきた陸永洋蔵は嵐のように店から出てい
った。
今回、かなりの恥ずかしい目に遭った結愛子だが、思わぬ絶好のチャン
スが訪れた結果となった。
それからというもの、自分の舌や料理の腕をあげるため日々精進し、大
プロジェクトのテストを受けられるとこまでたどりついたのであった。
だからこそ、このテストでは自分の舌を最後まで信じることを決めた。
(もしかしたら応えは1つじゃないかも。今は確証を得るまで何度も味を
確認しなくちゃ)
こうして結愛子が念入りに味を確認する中、社長の近くでは、あの社長
令嬢の奈緒や取り巻きも同じテストを受けていた。
「奈緒様。このケーキ、@が見た目も綺麗で味も甘くて美味しいですね。
逆にBは見た目最悪で味もダメな感じです」
「そうね。@は高級洋菓子店の高級ケーキであることには間違いないわ。
ただA、Bへなるにつれて形が崩れているのが怪しいわね」
「確かに何かの意図が見えますが、私も舌には自信があります。A、Bは
正直、美味いとは言えません」
「いや..元々このテストの回答は一番甘いものを選ぶものよ。これはB
が正解かも知れないわ。味は悪くても中の甘さだけは本物だわ」
「そうですか..じゃあワインはどれですか?正直Cが一番年代モノと思
ってますが、ワイン愛好家の奈緒様なら、もしかしたら違う答えを..」
「ええ、これも一番新しい味がするEが正解よ。年代モノでもこういう味
を出すワインがあったのよ。私の舌の記憶に間違いないわ」
「さすが奈緒様です。でも、何で社長に正解を聞かなかったのですか?わ
ざわざテストしなくても聞けば教えてもらえるんじゃ..」
取り巻きのちょっとした提案に奈緒の眼光が鋭く睨み付けた。
「貴女たち、私の舌や料理の腕を侮辱するつもりかしら?返答しだいでは
ただでは済まないわよ」「す・すいません、奈緒様。そういう分けでは」
「奈緒様の実力は重々分かってますが、わざわざ一緒にテストを受ける必
要はないかと思って..」
「んふふ〜、ちょっとキツク言い過ぎたわね。まあ、これは私の実力を見
せ付けるためのものよ。BとE、これがこのテストの正解よ。もちろん、
貴女たちは私の真似ではなく、自分の舌を信じた答えを言いなさい」
「わ・わかりました。それでは私たちは@とCを選びます」
そう、取り巻き同様にほとんどの社員が@とCを選び、BとEを選んだ
のは何と奈緒1人だけとなった。
「んふふ〜、誰もこのテストの真意を見抜けないとは情けないわぁ〜」
自分1人しか正解を出してないことに満足する奈緒であったが、そんな
奈緒に異議を求める回答が出た。
「あ・あの..私の答えなんですが、一番甘いものは@、A、Bでワイン
の方はどれも年代モノではありませんので無しです」
「何ですって!今口にしたのはどこの誰よっ!」
「わ・私です。食品開発部開発課の桜野です」
何とその答えを出したのは結愛子であり、周りも結愛子が出した回答に
騒ぎ始めた。
「ちょっと、桜野さん。このテストは1つ選ぶもんだよ。@、A、Bって
言うのはどういうことかね?」
「@、A、B、どれも同じ甘さだからです。何度も自分の舌で確認したの
で間違いないです」
「おいおい、それは自信過剰じゃねーか。それじゃワインの方はどういう
ことだ?1年でも半年でも経てば一応年代モノじゃねーか?どれも無しは
あり得ないだろ」
「それは、これがワインじゃないからです。きっと人工的に作られた偽の
ワインだと思います。人工的だから年代モノという答えには当てはまりま
せん」
堂々と自分の主張を述べた結愛子だったが、この答えに怒り狂うものが
居た。それはもちろん、自分の答えに絶対の自信がある奈緒だった。
「桜野さん!ふざけたことは言わないで欲しいわね。お父様は1つ選べと
言ったのよ。貴女は耳が悪いのかしら?頭が悪いのかしら?おかしな答え
を堂々と言わないで欲しいわね」
完全に奈緒の逆鱗に触れてしまった結愛子だったが、何と奈緒の怒りに
怯まずに反論してきた。
「いいえ、このテストは1つ選ぶところが引っ掛けだと思います。社運を
かける大プロジェクトのテストなんです。適当に選んで当たる人を外すた
めだと思います」
「!!ふ・ふざけないでっ!この私の舌が間違えてると言うの?ワインだ
って貴女のような貧乏人じゃ決して飲めないものを毎日飲んでいるのよっ」
「それでも私は自分の舌を信じます。いくら社長令嬢でも、これだけは譲
れませんっ!」
「・・・わかったわ。それほどまで言うなら貴女の自信、買ってあげるわ。
それだけ断言する”覚悟”もあるってことよね?」
「あ・あります。私だって、自分の舌を信じてますから」
「ふ〜ん、それだけ舌に自信があるのね。それなら、もし貴女の答えが違
ってたら、この場で素っ裸になって土下座するっていうのはどうかしら?
舌に絶対の自信があるなら問題ないわよね?」
「・・・」結愛子は一瞬、答えに迷った。もし、これが奈緒の罠だったら
見事に嵌ることになるからだ。が、奈緒の目を見ると、どうやらそんな事
を考えてない気がした。
「言っとくけど、私は自分の舌には絶対の自信があるわ。貴女ごとき、裸
にするために、この舌に嘘をつくつもりはないわ」
この奈緒の言葉を結愛子は信じることにした。相手もまた自分の舌に信
念があることを分かったからだ。
「わかりました。もし答えが違ってたら、この場で裸になって土下座しま
す。約束します」
「ふふ、いい答えね。じゃあ、お父様に正解を言ってもらいましょう」
この場が完全に奈緒と結愛子の舌対決となったとこで、社長がこのテス
トの正解を言い始めた。
「・・・うむ。それじゃ、答えを言おう。正解はBとEだ。間違いない」
「えっ!?そ・そんな..社長っ!本当に答えはBとEなんですか?」
「・・・桜野くん、残念ながら君は答えを深く読みすぎたようだな。もう1度
言う、正解はBとEだ」「・・・う・うそ..」
「んふふ〜。ほらぁ、やっぱBとEじゃないの。さぁて〜、桜野さん♪約
束の話、どうするのかしら〜。別に止めてもいいわよ。今回だけは特別に
許してあげてもいいわよ〜」
「・・・い・いえ、約束は約束です。裸で土下座させてください」
「意味が分かって言ってるのかしら?裸になるってことは、ここで全て脱
ぐってことよ〜。それでも構わないってことかしらぁ〜」
「・・・分かってます。私も自分の舌を裏切ることが出来ません。約束ど
おり、ここで全部、服を脱ぎます」
「んふふ〜、その決意、素晴らしいわぁぁ〜。じゃあ、せめてもの慈悲で
私の近くで服を脱ぎなさい。土下座するまでは、みんなにはお尻を見せる
だけで済ましてあげるわ♪」「奈緒さま?せっかくの機会を..」
何故か、この時の奈緒は結愛子に次々と優しい条件を投げかけていた。
どうやら、よほど自分の舌が勝ったことに陶酔しており、勝者のゆとり
からくる敗者への情けみたいなものだろう。
もちろん、結愛子としても少しでも辱めを低減できるならと、奈緒の言
うがままにすることに決めた。
「あ・ありがとうございます。では、前の方で服を脱がさせて頂きます」
そう言って、結愛子が席を立って社長と奈緒がいる大座敷の奥まで歩き
出す。当然ながら、席に座っている男子社員たちが通り過ぎる結愛子の身
体をじろじろと見てきた。
まあ、数分後には、今歩いてる結愛子の服が脱がされるのだから男子社
員たちが凝視したくなる気持ちはすごくわかる。
そして、結愛子が社長と奈緒が座っている位置まで着き、奈緒に確認を
取った。
「この位置でよろしいでしょうか?」
「ええ、問題ないわ。貴女も見て分かると思うけど、貴女の正面に居るの
は私とお父様だけよ。お父様には見られてしまうけど構わないわよね?」
「は・はい..社長にも迷惑をかけましたので、見られても構いません」
「いい心構えね。じゃあ、さっそく一枚残らず脱いでちょうだい」
「はい、それでは最後まで脱がさせて頂きます」と結愛子がさっそく上着
に手をかけたのだが、ここで奈緒がストップを掛けてきた。
「ちょっとぉ〜、桜野さん。貴女、何こっちを向いて脱いでるのかしら?」
「えっ..あの、土下座するまではお尻だけでいいって..」
「ええ、それは間違いわないわよ。だからって最初から、こっちを向いて
脱いでいいなんて言ってないわよ」
「そ・そんな..じゃあ、私はどうしたら..」
「胸を出すとこまできたら、こっちを振り向いてもいいわよ。それまでは
皆の方に向いて服を脱ぎなさい。いいわね♪」
「・・・わかりました。仰るとおりにいたします」
どちらにしろ、土下座の後には全裸を晒すことになる以上、ここで抵抗
しても無意味だろう。
そう感じた結愛子は奈緒に言われたままに集まった199名の方へ振り向き、
服を脱ぐことを決意した。
これからまさに、結愛子のストリップが始まろうとしていた。
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