第6話「特別夕食会」
桜が散り始め、吹く風がいちだんと心地よくなっている5月下旬、結愛
子は今日も課内で一番早く出社してきた。
先日の社内誕生会での辱しめの件は早く忘れるようにして、今はただ崎
長食品会社で新商品開発に携わりたいと頑張っていた。
奈緒の嫌がらせの方もあれから今月中旬に1回されただけで、それ以降
は何もされてこなかったので結愛子はホッとしていた。
(あれは気づかなかった私も悪かったし、忘れることにしよ..)
その嫌がらせは4月の内科検診の時と、ほとんど同じものであり奈緒の罠
と気づかなかった自分が悪いと、すでに結愛子は割り切っていた。
(私1人だけ再検査を言われたときに気づくべきだったわ)
そう、内科検診の時も再検査と言われたのを素直に信じて数人の男子社
員に裸を晒してしまったことがあり、今回の罠もほとんど同じ手であった。
それは、健康診断で撮ったレントゲンが上手く取れなかったと言われ、
地下の駐車場のレントゲン車で再撮影して欲しいと言われたのだ。
結愛子はまたそれを素直に信じて、レントゲンを撮りにいき、今回も撮
影中に何も知らない数人の男子社員たちがレントゲン撮影をしに普通にカ
ーテンを開けて入ってきた。
そして、カーテンを開けるとパンイチで撮影している結愛子のあられも
ない姿が視界に飛び込んだ。
それもこの時の結愛子の格好は再撮影が無いように写りを良くしたいと
医者に言われ、今でも破れそうな薄い紙パンツを穿かされて撮影していた。
もちろん、すぐに彼らの存在に気づき、胸を隠した結愛子だが外にもレ
ントゲン待ちの男子社員が集まってることを知って車内から逃げることが
出来ず、その場で手隠しながら着替えるしかなかった。
「あ・あの..すぐ着替えますので、その間だけ見ないでください」
「ああ、もちろんだよ(ちゃんとバッチシ見させてもらうよ)」
「俺たちはそんな男じゃないよ(いや男なら絶対、見るっしょ)」
(ぁぁ..やっぱり、みんな見てる。見ないでいるなんて無理よね..)
言うまでもないが、結愛子は紙パンツも穿き替えないといけないので、
多少の恥部を見られるのを覚悟して着替えた。
ちなみに、この時の結愛子はおま●こを見られることを絶対に避けるた
めに、おっぱいとお尻は諦めて晒すことになった。
どうやら、結愛子は異性におま●こだけは決して見られたくないようだ
った。
(アソコだけは絶対に隠さなくちゃ..ぁぁっ、どんどん人が入ってくる)
何とレントゲン車のすぐ近くで待ってた男子社員たちが、結愛子が中に
居ると分かった途端に強引に理由をつけて入っていく。
まあ、仕方ないだろう。中に入ることさえ出来れば結愛子の痴態にあり
つけるからだ。
ただ、結愛子の方も必死で着替えたので、美味しいシーンは3分ほどし
かなかったらしい。
こうして、何とか着替え終えた結愛子はレントゲン車から降りると、い
つものように急いでトイレに駆け込んだ。
入社してから何度、恥ずかしい目に遭っても慣れる事はなく、すぐに顔
が真っ青となり、ひどい嘔吐感が襲ってくるのであった。
「はぁはぁ..これだけは何とか治さないと..何で、こんなに私って恥
ずかしいことがダメなんだろう..それに、吐いたすぐ後に濡れてくるな
んて、どうかしてるわ」
普段の生活では、ほとんど濡れる事がないが、吐くほどの辱めの後では
必ずといって大量に愛液が溢れてくるのだ。
(美亜子の言うとおり、適度に発散しなくちゃダメなのかしら..でもオ
ナニーする気は起こらないし..この前したから、まだ大丈夫よね)
どうやら、結愛子は社内誕生会の晩にしたオナニーから全くしていなか
ったらしい。
(濡れるのは..適度にしないから溜まっているせいよね?そうよね、濡
れたからって感じてるわけじゃないし..いつもの様に少し落ち着けば止
まるはずよ)
結局、結愛子はオナニーで発散することもなく、濡れたショーツを穿き
替えただけで何事も無かったかのように、そのまま仕事に戻った。
そう、今回の嫌がらせは普通なら世間に訴えもおかしくないレベルと思
うが、結愛子にとっては、ただの嫌がらせの1つとしてそのまま我慢して
しまう。
いや、最近では我慢というよりは「次から次によく考えてくるわね」と
呆れるだけで済ましてしまう結愛子だった。
(これで、またしばらく嫌がらせが来ないから仕事に集中できるわ)
「さて、朝からこんなこと思い出してる場合じゃないわ。早くちゃんとし
た仕事がもらえるように頑張らないと!」
今はまだ新人女子社員ということもあって雑用が多く、自分の腕が試せ
ないことにだけ、ストレスを感じていた。
実は、結愛子も料理に関しては多くの知識と高い技術を持っており、学
生時代には何度か小さな料理コンクールで優勝した経歴があった。
一日でも早く、自分の腕を発揮したい。その為に憧れの食品会社に入社
したのであり、大きな仕事がもらえるまで、どんな困難でも負けずに乗り
越えてやると決意していた。
「それじゃ、いつものように、みんなの机拭きから始めますか〜」
上着の袖をまくり上げ、課内全員の机を綺麗に拭きはじめる結愛子。
この机拭き、別に新人の仕事と言うわけではなく、結愛子が自発的に行
なっている行為であった。
もちろん上司への点数稼ぎでしてるわけじゃなく、みんなが気持ちよく
仕事ができるようにと思って自分から進んでやっていたのだ。
こうして見ると、とても社長令嬢に嫌がらせを受けてるようには思えな
い。
「湯川さん、相変わらず雑誌を出しっぱなしだわ」
「松下さん、またコーヒーこぼしてる。灰皿も灰が溜まりっぱなしだわ」
灰がたまった灰皿も全部回収して、灰を捨てた後で結愛子が自分の手で
1つ1つ丁寧に洗っていく。
20分ぐらい経つ頃には課内はピカピカになっており、綺麗になった机を
見て結愛子はにっこりと微笑んだ。
「よしっ。綺麗、綺麗っ♪さあ、今日も1日頑張るぞ」
両手でガッツポーズを取りながら、朝から張り切る結愛子。
こういった結愛子の前向きな姿勢が課内で少しずつだが評価されてきて
いるが、まだ大きな仕事を任されるようになるには時間が掛かるだろう。
まあ、結愛子本人も今はどんな雑用でも一生懸命にやろうと思っていた。
が、こんな真面目に努力する結愛子のやる気を削ぐものが今日も結愛子
の近くに居た。
「はぁぁ〜、私ってついてないのかな。彼が私の教育担当者だと思うと..
どうしても疲れるわ..」
課内の清掃を終えた結愛子が、大きなため息をついてソファを見ていた。
ソファには大いびきをかきながら寝ている社員が横たわっており、どう
やら家に帰らずにここで夜を明かしたのだろう。
それも、ソファの周りが酒臭いとこから、飲んだ後で会社に戻って寝て
いるようだ。
「川阪さんっ!起きてください。もう朝ですよ!毎回、飲んで会社に戻ら
ないでくださいよっ」
「ふあぁぁっ..桜野さんかぁ〜。相変わらず早い出勤だな。まだ当分、
誰も来ないんだから、もう少し寝かせてくれ〜」
「ちょっとぉぉ〜。また寝ないでくださいよぉぉ〜。川阪さん〜」
(この前の社内誕生会では助けてもらったから、少しは感心したんだけど、
やっぱこの人ってダメダメよぉぉ〜)
課内でもグータラ社員で有名な川阪にあきれ返る結愛子。
(はぁぁ〜、本当にこの人って料理の腕がすごいのかしら..まあ、女性
には興味ない料理バカっていうことは分かるけど..)
そう、この川阪は決して無能社員というわけじゃなく、料理に関しては
社内一の実力があった。だからこそ、これだけのグータラぶりを見せても
クビにならないのだろう。
(んも〜、社会人なんだから無精ひげを伸ばしっぱなしにしないで欲しい
わ。けど..よく見ると川阪さんって結構、格好いいのよね..)
結愛子の言うとおり、もし川阪が身なりを正して、きちんとすれば相当
な二枚目と見えるのだが、料理のことしか頭にない川阪にとっては格好な
ど、どうでもいいらしい。
「ほらっ!さっさと起きてくださいっ。ほらほらっ」
「わかった。わかったよ〜。起きればいいんだろ」
「コーヒーいれてきますから、顔洗ってきてくださいっ」
「わかったよ。まったく、お前が配属してからオチオチ眠れないな」
「飲んで眠る自体、間違えてますっ。昨日も課長が怒ってましたよ」
「あんな奴は怒らせておけばいいんだよ。ところで相変わらず掃除なんか
してんのか?せめて自分が拭いたと言えば得するのに。みんな、掃除のお
ばちゃんがサービスでしてると勘違いしてるぞ」
「別に誉められたくてしてるわけじゃないので構いません。私は誰にも知
られなくてもいいと思ってますので」
「ふぅ〜、桜野さんは本当にお人好しだな。わがまま社長令嬢に嫌なこと
をされても会社のために、ここまで頑張れるとはな」
「会社としては立派なとこだと思ってるので頑張れるんです。崎長食品会
社の食にかける情熱は素晴らしいと感じてます」
「まあ、それは同感だな。だが、俺みたいなのが教育担当だと先が見えな
いと思うがな」
「!自覚してるなら、ちゃんとしてください。私だって早く自分の腕を活
かせる仕事がしたいんです」
「腕を活かせる仕事かぁ..それなら、大プロジェクトに参加するのが一
番だな。今度、崎長食品会社で大プロジェクトを起こすらしい」
「大プロジェクト..それは私みたいな新人でも参加できるのですか?」
「ああ、こういう大プロジェクトに必要なのは料理に関する腕だからな。
新人もベテランも関係ないな」
「でも、そういう大プロジェクトって課の推薦とかで行なうんですよね?
それだと新人にチャンスなんかないんじゃ..」
「いや、その手のものは誰でも応募できるようにするのが、ここの会社の
方針でな。ただ、その応募が突然くるから困るとこだがな」
「そうなんですが..じゃあ、私も応募できるんですね」
「ああ、そういう機会があったら、すぐに応募した方がいい。そうすれば
俺の朝の安眠も確保できるってわけさ。ふぁぁ〜」
「んもぉ〜、川阪さんっ!」
「怒るな、怒るな。ほら、コーヒー頼むぜ」
ムッ。「・・・わかりました」
酒臭い川阪に呆れながら、コーヒーを淹れに行く結愛子。
この時の2人の関係はまだただの教育担当と新人OLだった。後々、こ
の2人が恋人同士になるとは、本人たちも思いもしなかっただろう。
そう、この2人の関係を大きく変える出来事がすぐ近くに迫っており、
それは3日後の特別夕食会だった。
3日後、崎長食品会社の社長命令で近くの料亭で特別夕食会が開催する
ことになり、料理の腕が優れてる社員200名が料亭「千兆」に呼ばれた。
当然、料理の腕がある結愛子や川阪も呼ばれることになったが、川阪は
いつものグータラぶりでなかなか会場に来なかった。
(んもぉぉ〜。川阪さんだけよぉぉ、まだ来てないのはぁぁ〜)
当然、川阪が来るのを待つわけはなく、特別夕食会は川阪抜きでが始ま
った。そして、いきなり社長がここで大プロジェクトのメンバーを選ぶた
めのテストを行うと発表した。
「今日、君たちに集まってもらったのは他でもないわが社の命運をかける
大プロジェクトのメンバー選出で、ここに来てもらった」
「!!」結愛子は社長の言葉を聞いて驚いた。
(ええぇっ!大プロジェクトって応募じゃなかったの?って言うと、もし
かして私にもチャンスがあるってことよね)
これは新人の結愛子にとって千載一遇の大チャンスであり、雑用業務や
グータラ教育担当から抜けられる絶好の機会だろう。
(頑張らなくちゃ!こういうテストなら得意だし。絶対に正解してやるん
だから)
突然来た大プロジェクトのテストに意気込む結愛子。
そして、集まった社員たちの目の前に@ABと書かれた3種類のケーキ
と、CDEと書かれたワインが置かれた。
用意したケーキとワインの中から、これから社長が言う条件に沿ったも
のを1つずつ選ぶのがテストの内容らしい。
「さて、君たちにはこれからケーキとワインの利き味をしてもらう。が、
ただ美味しいのを選ぶだけじゃ、君たちの実力なら簡単だろう」
(美味しいのを選ばないって、どういうことかしら..)
「そこでだ。君たちには私が言う条件のものを1つずつ選んで欲しい。ま
ずケーキの方は味に関係なく一番甘いものを選んでくれたまえ。ちなみに
ここでいう甘さは”糖度”としての値が高いものだ」
(つまり、甘さを消してるものを舌で見抜けってことね..)
「次にワインだが、こちらも1つだけ選んで欲しい。条件としては一番年
代モノであるものを選んでくれたまえ。ここで言う年代モノは寝かせて熟
成したものだ」
(あれ?何で社長はわざわざ年代モノの説明を..ここに居る人はそれぐ
らい言わなくても分かっているはずなのに)
「制限時間は30分だ。さあ、今から開始してくれたまえ」
社長の開始の合図で集まった社員たちが一斉にケーキやワインを口に入
れて吟味し始めた。
結愛子も真剣に味を吟味してきたが、徐々に表情を曇らしてきた。
「えっ..これって、どういうことなの?」
(おかしいわ..このテストって答えが1つずつなんて、あり得ないわ)
結愛子はこのテストの正解が1つずつではないと思い始め、確証を得る
までもう少し、自分の舌で確認することにした。
だが、この優れた結愛子の舌がとんでもない恥辱なトラブルを呼ぶとは
思ってもいないだろう。
そして、その恥辱さは社内誕生会を遥かに上回ることになってしまった。
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