第13話「スケスケ倉庫片づけ」


「はぁはぁ..はぁはぁ..」  息を切らしながら、結愛子が必死に1人で倉庫の片づけをしている。  朝一番から始めてから数時間、時計を見るともう昼の2時をさしており、 時折、小雨がぱらつくため倉庫内はジメジメとした空気に包まれていた。    結愛子は”崎長食品会社”と社名が入った白の作業着で片づけをしてい るが、作業着というよりも薄いランニングウェアのようにしか見えない。  それも男性用の下地が透けても構わない白い布地となっており、雨が降 る中で汗をかきながら作業している今の結愛子は上の白シャツから下の半 ズボンまで見事なまでに透けていた。  この作業着を下着を着けずに直に肌につけてるので、上の方は乳首の色 や形が分かるほどまで、おっぱいが丸見えであり、下の半ズボンも意図的 に細工されてるせいで、恥丘の割れ目がくっきり映るほど透けていた。 「こ・これじゃ..裸で仕事してるみたいじゃない..」  恥ずかしい格好をしてると思うと気持ち悪くなり、結愛子の顔が少し青 ざめてきた。  今はまだ倉庫の周りに誰もいないが、もし1人でも倉庫に近づいてきた ら、近づいた人は大声をあげて騒ぐだろう。何せ、遠目からでも結愛子が 裸同然で仕事をしているのが分かるからだ。 「はぁはぁ..1分でも早く終わらせないと..」  いつ誰か来るか分からない焦りと、恥ずかしさからくる嘔吐感の苦しさ と葛藤しながら一心不乱に荷物を運んでいく結愛子。  荷物を運ぶ度に結愛子の髪はどんどん乱れ、全身も汗だくになっていく。  これが化粧尽くしのOLなら、とても見たくない醜い姿と豹変したかも しれない。ところがスッピンに近い結愛子だと、男性が股間を勃起し生唾 をゴックンするような官能的な被虐感を出す女性へと変わっていくのだ。  そんな結愛子の姿を監視カメラで確認している奈緒が妖しい笑みを浮か べながら、とある部署へ電話をかけた。  電話先は営業2課、今月優秀な営業成績を収めた課である。 「もしもし、私よ。今回の優秀な成績見せてもらったわよぉ〜。これだけ 頑張ったんだから、私からのご褒美をあげるわ♪これから言う倉庫に行っ て片づけを手伝いなさい。ただし、気づかぬフリを最後まで通すことよぉ 〜♪えっ?何のことかって?それは着いてのお楽しみよん」  その10分後、社内の廊下を威圧感たっぷりで横1列で歩く連中が倉庫へ 向かっていた。  彼らは営業2課の男子社員たちであり、常に営業成績トップを死守して いるバリバリのエリート社員たちだ。  それも、食品会社の営業と言うこともあって、全員が一流の美食家と自 認しており、最高の三ツ星レストランのメニューを持ってしても彼らの舌 を満足させることが出来なかった。  今、彼らは奈緒に言われて結愛子がいる倉庫へ近づいている。  当然、倉庫に結愛子が居ることを知らず、わがままお嬢様の機嫌を損な わないよう、言われたことを素直に従っているだけだ。 「ご褒美と言ったが、あのお嬢のことだ。ろくな物を用意してるんだろう な。あれが次期社長だと思うとゾッとするぜ」 「まあ、いいじゃねーか。案外、グルメな俺たちが喜ぶ料理でも用意して たりしてな」 「馬鹿言うな。俺たちが喜ぶ料理があんな小娘に用意できるわけがないだ ろ。昨日の三ツ星レストランのようにガックリするだけだ」 「おとといの三ツ星よりはマシだったねーか?まあ、どっちも見た目だけ の料理だったがな」 「しかし、最近は俺たちを満足させる三ツ星がねーな。そろそろ俺の右手 を震えさせてみろってな」 「”中津の右手を震えさせる料理”か..そりゃハードル高けぇな。俺も 一度でいいから飛びつきたくなるほどの料理に出会いたいな」 「”長居が飛びつく料理”なんて絶対ないだろ?そんな料理なら俺は感涙 するぜ。まあ、今までどんな料理でも涙がちょっびとポロリ出た程度だが」 「ともかく倉庫に行ったら即帰りしよーぜ。それでお嬢には納得してもら おう」  そんな彼らが倉庫に着くと、眼前にはスケスケ作業着の結愛子の姿が見 えた。それも何故か結愛子の全身には生クリームとバター、更にはハチミ ツが頭からつま先までたっぷり、まったりとかかっていた。  どうやら、奈緒の罠により蓋が開けっ放しの材料が入ってる箱を倉庫に 積み上げる際に思いっきりこぼして頭からかぶったらしい。 (ううぅ、やられたわぁ〜。こんな罠にひっかかるなんて最悪っ!)  が、この罠は結愛子にとっては幸いな出来事だった。  何故なら、罠に掛かる前の結愛子の白の作業着は、何も着てないほどに 見えるほど全てが透けており裸同然だったからだ。  それが生クリームやバター、ハチミツをかぶったことにより、恥部が見 えにくくなっていた。  まあ、おっぱいの形やおま●この形は隠すことが出来なかったようだが。  これを見た営業2課の長居は思わず結愛子に飛びつきたくなったそうだ。  いや、飛びついて舐め尽したい衝動にかられてた。 (舐めてー!飛びついて舐めてぇぇぇー!俺、いったいどーしたんだ。し っかりしろっ!あれは料理じゃない..いやでも、料理かも..ダメだぁ ぁぁ〜俺には彼女が料理に見えてしまうっ!こんな無様な俺を仲間に見せ るわけにはいかない。中津、これは違うんだぁぁ〜)  が、その中津の右手は激しく震えてた。いや、全身が思い切り震えてた。 (うぉぉっ、この何とも言えない最高の甘い匂いっ!生クリームやバター とハチミツのコラボッ!それが素材の彼女を見事に活かしているっ!あの 股間からとろりと垂れてるクリーム!ひょっとしたら彼女の隠し味が入っ ているのかぁぁー。ううっ!俺はいったい何を考えてるんだ!江坂、俺の 目を覚ましてくれっ)  中津に託された江坂もまた、大粒の涙を洪水のように流しまくってた。 (感動したっ!この料理、食わずとも至高なりっ!)  そして、ちょっとの埃でもついた料理は絶対食べないと言っていた新金 も結愛子の身体から地面に垂れたクリームを舐めたくて仕方なかった。  すっかり営業2課の男子社員を虜にした結愛子が、ようやく彼らの存在 に気づいた。 「きゃぁぁっ!あ・あの、これはその..」 「いや慌てなくていいよ。お嬢に言われて手伝いに来ただけだから」 「・・・そうなんですか」(うそぉ、こんな罠まで用意してたの?どこま で私を辱しめれば気がすむのよぉぉ〜) 「確か、桜野さんだったよね?俺たちは変なことするつもりないから安心 していいよ」 「・・・わ・わかりました」(ここは手伝ってもらうしかないのね..)  結愛子は慌てて自分の作業着の状態を確認した。 (生クリームとバターやハチミツがかかったのが幸いしたわ..そんなひ どくは透けてないよね..)  実際はかなり際どい透け具合となっていたが、男性に恥ずかしいとこを 見られたくないという想いが強いせいで、結愛子の視界を鈍らせていた。  出来ることなら、この場から走って逃げたいが、それも出来なくなって いた。何故なら、こんなスケスケの作業着じゃ、どこにも逃げられないか らだ。  結愛子の服や下着は社内にあり、誰かが代わりの服を持ってこない限り 倉庫に居続けるしかない。彼らが何もしないことを願うだけだった。 「あ・あの..出来たら、あまり見ないでください」  無理なお願いだと分かりつつも、結愛子は彼らの理性を信じて自分の姿 を見ないように頼んできた。 (もしかしたら、このまま襲われてしまうかも..)  結愛子の不安が増していく。こんな裸同然の女性が目の前に居て、相手 が数人も居ればいつ襲われてもおかしくないだろう。  ところが今回は相手が良かった。相手はエリート社員であり、普通の男 子社員よりプライドも理性も高かった。それに複数いることで、お互いに 自分の変な姿を見せるわけにはいかないエリート意識が働いていた。  本心は襲っていろいろしたくてたまらなかったが、俺はお前らと違うん だという見せ場を作りたいのであろう。  そんな彼らの代表として長居が、飛びつきたい思いを打ち消して背広を 脱いで結愛子に投げ渡した。 「安心しな。俺たちは変なことするつもりはない。背広を貸すからさっさ と上に羽織りな」  それを見た周りの連中も長居に負けてたまるかと、ズボンやワイシャツ などを脱いで結愛子に渡してきた。 「おい、背広だけ渡してどうするんだよ。ほら、男物で悪いがズボンを貸 すぜ」「俺は身体が小さいからワイシャツだ。丁度、合うだろ?」  自分たちが紳士的だということをアピールしてくる営業2課の男子社員 たちの好意を結愛子は素直に受け取ることにした。 「ありがとうございます。ちゃんと後でクリーニングして返しますので」 「いつでもいいぜ。あっ、それと倉庫の方は俺たちだけでやっておくよ」 「桜野さんは荷物の影で着替えて、あとは社内に戻ってシャワーを浴びた ほうがいい。もちろん、俺たちは覗かないから安心して着替えてくれよ」 「さあ、いつまでもそんな姿でいないで着替えた、着替えた」 「本当にありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて着替えてきます」  意外な展開に結愛子はホッとした。彼らの理性が働いてる内に早く着替 えようと少し奥側の荷物がいっぱい置いてある場所へ移動した。  が、慌てていたせいか結愛子が着替え始めた場所は結構、隙間が多かっ た。つまり、彼らの居る場所から何の苦労も無く、結愛子の生着替えを見 ることが出来た。  ただ、全てが見えるわけじゃなく、時々隙間から結愛子の身体がチラチ ラと見えるのだ。  まるで、「これぐらいなら、お礼に見てもいいです」と言ってるように 脱いでるようであり、荷物の隙間からはシャツを脱いで丸出しになったお っぱいがブルンブルンと揺れていた。  彼らの方も今さら、見えてますよとなんて口に出来ないので、ここはせ めてもの紳士的な俺たちへのサービスだと素直に見守ることにした。  こうして彼らの好意で、無事に危機を抜けられた結愛子は、再度お礼を 言って社内に戻っていった。  だが、結愛子が倉庫から居なくなったと同時に彼らの目から涙がこぼれ 落ちた。俺たち、これで正しかったんだよなと互いの顔を見て男泣き。  号泣しなければ、とてもやりきれない状況だった。  例えれば、1等2億円の宝くじを捨ててしまったような、何でも願いを叶 えてくれる魔人を断ってしまったような、とてつもない幸福を逃したよう な想いだった。  そんな哀れな彼らに残されたのは倉庫の片付けと、散らかった生クリー ムやバターにハチミツ、そして結愛子が脱ぎ捨てたままにしてしまった作 業着だけだった。 「いつまでも泣いてる場合じゃないぞ。俺たちは前に進まないと」 「そうだな。俺たちの行為は正しかったんだ!例え、万人が間違えだと愚 弄しても後悔なんてするもんかぁぁ!」 「そうだ俺たちゃ営業2課だ。俺たちゃエリート集団さ!たまにゃ、お宝 逃すけどファイトだファイト、それが俺たちゃの生き様さ!」  かなりショックが大きかったのか、彼らは逃がした結愛子を忘れようと 鬼神の如き倉庫の片づけをし始めた。  それでも彼らの虚しさを埋めることは出来なく、この日からエリート集 団は暴走することになった。  まるでそれは、今まで営業成績トップを死守するために、多くの人を平 然と傷つけた彼らへの報いが訪れたようだった。  どうしても、結愛子のことが忘れることが出来なかった彼らは突然、営 業の仕事を全てほったらかしにして社内で使われない部屋で料理開発を始 めた。  どうやら、彼らは結愛子を逃した後悔を忘れようと何かの料理を必死で 作り始めたようだ。  よく見ると、その部屋には何と結愛子の写真があちこちに張ってあり、 そのほとんどが盗撮によって撮られたものだった。  それも、張られた写真の中には結愛子が自宅の浴槽に浸かってるのもあ ったので、彼らが料理開発の合間にストーカー行為をしていたようだ。 (当の結愛子は、まだ盗撮されてることに気づいてない)  もはやエリート社員の面影が無くなった彼らが全ての想いをぶつけて、 料理開発に没頭し、目指した料理は数日後に完成した。それは彼らが結愛 子に抱いた底知れぬ想いと後悔の念が集まった“料理”となっていた。  そうして出来た彼らの料理は6月下旬に行なわれた社内成果発表会で優 勝を取り、7月初日に行なわれる2回目の最高VS王道の料理勝負の材料とし ても採用されることになった。  ちなみに、この栄誉を勝ち取った彼らは過労のために全員入院してしま った。  が、長い悪夢から解き放されたかのように彼らは幸せの表情を見せてお り、数年後には皆から頼られる社員となって出世コースを乗ることになる。  それにストーカーされてたことを知らない結愛子が、定期的に見舞いに きてくれたことが彼らの邪まな心を浄化させたのだろう。  数日後、前回の屈辱戦となる第2回の最高VS王道の料理勝負が開催した。  今回の料理勝負はスイーツ勝負であり、営業2課が生み出した噂の料理、 ”神秘の塩生キャラメル”を使った川阪のスイーツ料理が圧勝した。  この”神秘の塩生キャラメル”は北海道の某生キャラメルや京都の塩キ ャラメルを遥かに超えた極上の味となっていた。  ただ、この塩生キャラメルは営業2課が必死な思いで完成したものであ り、数に限りがある貴重なものらしい。  川阪が予想するには、”生クリームとバター、それにハチミツ”に何か 特殊な塩味を加えたものが”神秘の塩生キャラメル”になったのじゃない かと言っていた。  この意見を聞いた結愛子は「まさか、あの時のアレを使ったんじゃ」と 不安になったが、事実を確認することも出来なかった。 (私がかぶった生クリームやバター、ハチミツは使えるわけないよね.. 布でこしで埃などを取り除けば出来るけど..いや、その布ももしかして)  そんな馬鹿げたことを紳士的な彼らがするはずはない。と思いたかった。  だけど、日が経つ事に”神秘の塩生キャラメル”がそんな変なものでな いことを証明しなくてはという想いが増してくるのであった。


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