第12話「合同社内ミスコン」


 梅雨でジメジメした日が続く6月初旬、結愛子は辞令によって晴れて大 プロジェクトのメンバーに選出され、大忙しの日々を過ごしていた。  今回、メンバーに選ばれたのはたったの2名であり、結愛子の他には川 阪が選出されたらしい。  ただ、川阪の方は相変わらずのグータラぶりを見せており、そのせいで 結愛子の仕事は増える一方だった。  が、結愛子にとってはこれは嬉しい悲鳴だった。ようやく自分の腕を存 分に発揮できる仕事につくことが出来たからだ。  ここ数ヶ月、いろいろと恥ずかしい目に遭ったが苦労を乗り越えて、こ うして大きな仕事につけたのだから、結愛子の我慢は無駄にはならなかっ た。  それに、特別夕食会以降はすっかり奈緒の嫌がらせがなくなり、逆に大 プロジェクトのサポートをしてくれるので今や奈緒との関係も良くなって きた。  ただ、それは奈緒が表立って嫌がらせをしなくなっただけで、影ではい ろいろと結愛子を堕とす計画を着々と進行しているらしい。  ちなみに、結愛子が行なっている大プロジェクトとは崎長食品会社が創 立50周年の企画として進めている最高のフルコース料理メニューを完成さ せることだった。  前菜からデザートまで、誰もが最高と絶賛する料理メニューを作るのだ が、ありふれたものではいけない。  50周年企画として相応しいものでなければならず、料理の知識が豊富で なければ作り上げることが出来ないだろう。  今はとりあえず、いろんな料理を集めて半年後の50周年記念祭典までに メニューを間に合わせることに結愛子は必死に取り組んでいた。 「前菜からデザートまで7品..フランス料理みたくすると最後のコーヒー を入れて全部で8品考えないといけないのね..」 (とりあえず、今月中に最低一品は決めないと..)  すでに、グータラな川阪をあてにしないで最初のメニューを考えていた 結愛子だったが、まさか川阪のやる気を起こす事件が2日後に起こるとは 思いもしなかった。  それは、崎長食品会社のライバル会社である木佐下食品会社が似たよう な創立50周年企画を発表してきたのだ。  そう、崎長食品会社と木佐下食品会社は奇しくも50年前の同じ年に創立 した食品会社であり、両社は50年間、様々な新製品を出し合って競い合っ てきた。  その木佐下食品会社が創立50周年の企画として「王道のフルコース料理 メニュー」を発表してきた。  それも、この企画の指揮をとるのが食の世界では絶対的な力を持ってい る大物の美食家、陸永洋蔵がすることになった。  が、何故これほどの大人物がわざわざ食品会社の企画に参加してきたの だろうか?  その答えは、意外にも川阪に関係するらしく、この発表を聞いた川阪が、 形相を変えて怒ってきた。 「”あいつ”め!この俺が憎いからって、こんな汚い手までしてきたのか!」 「川阪さん?あ・あいつって..まさか、陸永洋蔵のことを言ってるの? 相手は大物の美食家なのよ..そんな人と知り合いなんですか?」 「知り合いも何も、あいつは俺の最低な親父だ」 「ええぇぇっ!?お・お父さん?だって、苗字が..」 「川阪は母方の苗字だ。奴とは絶縁したからな。今はただの赤の他人だ。 いや、俺が倒すべく相手だ」 「え?倒す相手って..どういうこと?」  どうやら、川阪と陸永洋蔵の間には他人には話せない深い確執があるら しく、事あるごとに2人は反発しあっていた。  つまり、川阪が「最高のフルコース料理メニュー」を担当しているのを 陸永洋蔵が耳にして、わざわざライバル会社の「王道のフルコース料理メ ニュー」に手を貸してきたらしい。  ただ、川阪にとっては会社を巻き込んでまでの争いをするつもりはなく、 木佐下食品会社に出向いて、この対決をなくす事を考えていた。 「桜野さん。俺はこれから、あいつのとこに行ってきて、今回の企画をや る気はないと言ってくる。俺たちのくだらない喧嘩に会社を巻き込む訳に はいかないからな」 「川阪さん..」(って言うか、やる気を出して欲しいんだけど..)  まあ、結愛子も大物相手に勝負するわけにはいかないので、川阪に全て を任せることにしたが、話は何故か両社が月に1回、料理対決をするよう にまとまってしまった。 「ええぇぇっ!何で、そういう風になるんですかっ。料理対決だなんて、 どっかの料理漫画みたいなことをするんですか?」 「すまない、桜野さん。だが、奴との料理対決なら俺も精一杯協力する! さっそくだが最初の勝負に向けて、俺は材料探しに行ってくる」 「ちょ・ちょっと、川阪さん。突然、そんな材料探しだなんて..」  こうして、結愛子はこの2人の壮大な親子喧嘩に巻き込まれてしまうこ とになった。  そして、早々と6月中旬に「最高の料理」VS「王道の料理」の最初の料 理勝負の話が決まった。  が、ただの料理勝負だけじゃ味気ないと、料理とは全く関係ない2社合 同の社内ミスコンを料理勝負の前に開催する流れでまとまった。  まあ正直な話、メインの料理勝負よりも合同社内ミスコンの方が大いに 盛り上がるだろう。  ここでも両社の意地がぶつかると予想されたため、幾つかのハプニング が発生するかもと両社の男子社員たちが密かに期待していた。  2日後、料理勝負当日。まずは合同社内ミスコンが始まり、男子社員の 期待通りの嬉し恥ずかしのハプニングが続出し、メインの料理勝負そっち のけで男子社員たちが大騒ぎした。  そんな大歓声が鳴り止まない中で、合同社内ミスコンは最後まで進み、 結果発表終了後に優勝者の女性が笑顔を見せながら手を振っていた。 「ありがとうございます。まさか優勝するとは思いもしませんでした。こ の後の料理勝負でも頑張っていきますのでよろしくお願いします」  そう、優勝した女性は結愛子であり、顔を真っ赤に染めながらも明るい 笑顔で応えていた。  そしてまたもや、屈辱の2位になったのは奈緒だった。  今回こそは優勝を奪還しようということで、奈緒は定番な罠をいくつも 仕掛けてきたが、全てが裏目に出てしまったらしい。  一番定番な罠は、水着入れ替えであり、結愛子の印象を悪くさせようと 思ってエッチなハプニングが起こる水着を着させることに成功した。  今回の合同社内ミスコンでは主催者側が提供した数種類の水着から選ん で着る事になっており、結愛子が単色で派手じゃない白のワンピース水着 を指定したのを聞いた奈緒は取り巻きに命令して、結愛子の水着を極薄生 地のワンピース水着に入れ替えさせたのだ。それも本来付いてあったサポ ーターを取り外して。  まあ別に水に浸かるわけではないので思い切り透けることはなかったが、 サポーターが取り外されていたので、生地越しに乳首や恥丘の形がくっき りと浮かんでいた。  恥ずかしいことに男性社員たちの集中する視線によって、乳首は固く勃 ってしまい、辱めで苦痛にゆがめる結愛子の顔を奈緒が横目で見ながらく すくす笑っていた。 「これであの女の清楚なイメージはなくなったわね。相手側の会社の連中 の目には破廉恥なOLに見えるはずだわ。今度こそ、私が優勝はもらった わ。あはははは」  しかし、結愛子の恥ずかしさに耐える態度が次第に男子社員たちの好評 を高めてしまい、逆に奈緒が焦り出す羽目になった。  ついには男子社員たちの視線を自分に戻そうと、焦った奈緒が大胆にも 審査の途中で水着の紐を故意的に外し、自慢のロケットおっぱいをポロリ する自作自演のハプニングまで見せてきた。 「いやぁっ♪取れちゃったぁ〜。みんな見ないでっ」ちらっ。 (・・・えっ?何か歓声が少ないじゃない..)  どうやら奈緒のロケットおっぱいは結愛子のスケスケ水着に負けたよう であり、結局これ以上、手の打ちようがない奈緒は優勝を逃し、準優勝と なってしまった。 「く・くやしいぃ〜、私はおっぱいまで出したというのにぃぃ〜〜あの女 のちょっとスケスケな水着姿に負けたなんてぇぇ〜。私が出来なかった隼 人の本気を出させたぐらいでは飽き足らず、私から2度もミスコンの優勝 を奪うなんて屈辱だわっ!」  そう、結愛子と企画を組んでから、やる気を出してきた川阪の態度にも 頭にきていたようだった。 「ゆ・許せない・・・もう料理勝負なんて関係ないわ。あの女をいつしか 隼人が嫌うような女に陥れてやるんだから・・こうなったら嫌がらせも再 開してやるわっ」  よりいっそう、嫉妬と悔しさがこみ上がった奈緒だった。  ちなみに、この後の第一回の料理勝負は残念ながら崎長食品会社の敗北 で終わったが、合同社内ミスコンでは崎長食品会社側が圧勝したため、総 合的?には引き分けという結果となった。  だが、この合同社内ミスコンでまた奈緒の機嫌を大いに損ねてしまい、 せっかく止まった嫌がらせが再び始まることになった。  もちろん、あからさまに嫌がらせをすることは出来ないので、あくまで 建前上は結愛子を苛めてないようにしながら上手く責めてきた。  まあ、周りから見ればこれが嫌がらせであることは一目瞭然だろう。  表向きは仕事と言いつつ、明らかに性的な嫌がらせをしているのだから。 「えっ?私が倉庫の片付けですか。何で急にそんなことを!」  合同社内ミスコンから翌週の朝、結愛子の驚いた声が回りに響く。近く には取り巻きのOLを連れた奈緒の姿があった。 「ごめんなさいね〜、桜野さん。倉庫には結構、大事なものがあるので信 用出来る社員しか頼めないのよ〜。重い荷物はないのでお願い出来ますか しらぁ〜」  社長令嬢という立場を使って、奈緒が満面の作り笑顔で結愛子に仕事を 頼んできた。  こんなことをする暇が無いと言いたい結愛子だったが、のど元から出そ うな文句をぐっと呑んで応えることにした。 「今日中で無ければいけないのでしょうか?明日だったら課内のみんなと 協力して片付けられますが..」 「ええ、出来れば今日中でお願いしたいわぁ〜。本当は男子社員に頼もう と思ったんだけど、行き先掲示板見たら頼める人はみんな1日中、会議な んですものぉ〜。本当にごめんなさいねぇ〜」 「・・・いえ、そういう理由なら」(相変わらず用意周到だわ..) 「本当にごめんねぇ〜。私、嫌がらせで貴女に頼んでるわけじゃないのよ ぉ〜。貴女はこの会社にとって大事な優秀な社員ですものぉ〜。少し辛い けどこれも仕事の1つとしてやってくれないかしらぁ〜」 「・・・わかりました。今日中にすればいいんですね」 「ありがとぉ♪やっぱ桜野さんは頼りになるわぁ〜。課長に言って特別手 当出すように言っとくから、頑張ってちょーだいね。うふふっふ〜♪」  明らかに嫌がらせと分かっても結愛子は受けるしかなかった。  結愛子自身も、この嫌がらせが合同社内ミスコンで優勝したことに対し たものだと分かっていたからだ。 (落ち着くのよっ、結愛子。2回も優勝してしまった私も悪いんだから。 それにこの嫌がらせで奈緒さんがすっきりすればしばらく変なこと言って こないはずだし..)  結愛子はイラつく自分を必死に心の中で説得した。  ここは嫌がらせの1つか2つは仕方ないと思って受け入れるしかない。 1日だけ我慢すれば、また関係が修復されると結愛子は信じていたからだ。 「わかりました。それじゃ、今から片付けに行きますので場所の方を教え てくれませんか?」 「あっ、それじゃ服が汚れちゃうから、この作業着に着替えてちょうだい」 「えっ?別に汚れても構いませんので」  これ以上、奈緒の企みにはまらない様にしたかったのだが.. 「ダメよぉ〜。桜野さんの服が汚れたら、まるで私が貴女を汚して苛めて るみたいじゃないのぉ〜。ほらっ、これは社名が入ったちゃんとした作業 着よっ。変な意図はないんだからねぇ〜」 「・・・けど、それって男性用ですよね?」 「あらん♪言ってなかったかしらぁ〜。本当は男子社員に頼むつもりだっ たからぁ〜男子用を用意しちゃったのよぉ〜。でもサイズはほらっ♪小さ いやつだから、全然平気よぉ〜」 「・・・わ・わかりました。それに着替えればいいんですね」  これ以上、聞いても無駄だと分かった結愛子は、作業着に着替えること にした。が、まだこれぐらいでは奈緒が納得するはずはなかった。 「あっ、そういえば桜野さん。今日、下着の替えとかはあるの?」 「はい?下着ですか..あの日でもないのでありませんが」 「う〜ん〜、困ったわぁ〜。片付けと言ったら汗をかくわよね?」 「は・はい..」 「帰るときに汗臭いなんて言われたら、やっぱ私が苛めてる風に思われち ゃうわぁ〜。それは不味いわねぇ〜。あそこの倉庫は普段、誰もこないこ とだしぃ〜。この作業着、男子用だから生地厚いしぃ〜」  奈緒が言いたいことは、すでに結愛子には分かっていた。 (どうせ、嫌がっても難癖つけてくるんでしょ?素直に私が奈緒さんの求 めることを言えばいいんでしょ) 「あ・あの..それなら、下着外します。はしたないけど、構いませんか?」 「あらぁ〜、そう言ってくれると助かるわぁ〜。これ白いけど透ける事は ないはずだからぁ〜」 ぼそっ(たぶんね。ふふっ)  どうやら今回の嫌がらせは下着無しの辱めだと思って、ため息をはいて 全てを承諾した結愛子だった。  こうして朝から倉庫の片づけをすることになった結愛子は黙々と外に置 きざらしにしてあったダンボール箱を1人で倉庫の中に入れていった。 「どこが大事なものなのよぉ〜。ずっと外に置きっぱなしじゃないの!雨 も降ってきたし、早く片さないと..」  すでに全身は汗だくになり、作業着の方はかなり際どい感じに透けてい た。(この作業着も、どこが生地厚いのよっ。普通の白シャツと半ズボン に社名が入ってるだけだわ..)  唯一の救いは倉庫整理をしている結愛子の周りに誰も居ないということ だろう。  が、この救いも一時的なものに過ぎなかった。実はこの倉庫整理の様子 を奈緒が監視カメラでチェックしていたようだ。  社長特別室にいる奈緒の眼前には大きなモニターがあり、そこには全身 雨や汗で濡れきった結愛子の姿が映っていた。  奈緒の思惑通り、白の作業着は見事なまでに透けており、不様な結愛子 の姿を見て1人大笑いする奈緒だった。 「やだぁ〜。思ってた以上にスケスケじゃない〜♪桜野さんったら、おっ ぱいやおま●こがばっちし丸見えよぉ〜。あははははは」  だが、これは奈緒にとってはまだ、ただの余興の1つに過ぎなかった。  奈緒の机の上に乗っている計画書が動き出すまでの憂さ晴らしの余興。  その計画書には「結愛子の媚肉料理計画」と何とも悩めかしい題目が書 かれていた。


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