第83話「予期せぬ来場者たち」


「結婚式はここかぁぁ!」
 大きな声と共に、かって荒れてた学校の生徒たちが次々と入ってきた。
 しかも、当時はかなりめちゃくちゃな暴れぶりをした者として有名だっ
た。
 普通だと大騒ぎになるが、誰もが平常心のまま、様子を見ていた。
「これって..また」
 葉須香が小声でつぶやく。
「ただのお祝いでしょ。皆、礼服着てるし」
 そう、昨日の伊藤の件があったので、誰もが落ち着いていた。
「姉御!結婚おめでとうございます!」
 かって荒れてた学校のリーダー格だった中村が、礼服姿で深々と頭を下
げた。続いて他の者たちも一斉に頭を下げる。
「姉御の結婚式に呼ばれなかったのは寂しかったですが、聞きつけて駆け
つけました!」
 久遠寺先生は微笑みながら彼らを見つめた。
「みんな、よく来てくれたわね。立派になって」
 中村が照れくさそうに頭をかいた。

「姉御のおかげです。あの時のロッカー、今でも心に痺れてますぜ」
 会場のみんなが興味深そうに聞き耳を立てる中、中村が当時の話を始め
た。
「俺たち、怖いもの知らずで、集団でバイクで走ってたところに、久遠寺
先生が坂道の上に急に現れたんだよな」
「あれはビビったぜ。あんな風になるとは」
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 真夜中の大きな坂道。数十台のバイクが暴音を立てて、坂の上から降り
ていく久遠寺先生の方へ向かっていく。
「いい女じゃねーか!こりゃ朝まで楽しめそうだ!」
「へへっ、今さら逃げようとしても無駄だぜ」
「ふふ、逃げるのは、あなたたちよ」
 その時、パチンと音がした。
 その音は、あたりに響く独特のリズム。久遠寺先生が坂道を軽やかな足
取りで進んでいく。指をパチンパチンと鳴らすたびに、バイクが次々と大
型のロッカーとなって坂を転がっていった。
 バイクの暴音があっという間に消えて、ロッカーが転がる音だけが響い
ている。
 何人かバイクを乗り捨てて逃げるが、坂道を降りる途中でロッカーにな
って転がっていた。
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「あの時はマジで怖かったぜ」
 中村が苦笑いを浮かべる。
「ああ、朝までロッカーの中で自分たちがしたことを悔やんで...出てき
た時には泣いてましたよ、俺たち」
「でも、それで目が覚めたんです!」
「もう馬鹿なことはしないと!」
「なので今は皆、真面目に働いています。建設業、飲食業、IT関係...そ
れぞれ頑張ってますぜ」
 中村が胸を張った。そして、持参した花束とお祝いの品を久遠寺先生に
手渡した。
「姉御、幸せになってください。そして、笛地、姉御を泣かせたら俺たち
が黙ってないぜ!」
 中村の言葉に、会場が温かい笑いに包まれた。
「ありがとう、みんな」久遠寺先生の目に涙が浮かんだ。
「あなたたちが立派に成長してくれたことが、私にとって最高の結婚祝い
よ」
「姉御ぉぉぉ〜」「俺たちこそ、ありがとぉぉぉ」

 こうして、中村たちが帰った後、次はビデオレターの時間になった。
 本来は進行になかったのだが、誰かが強引に送ってきたらしい。
 笛地の友人だったのか、司会者が新郎新婦に確認した。
「あ、あの周という方からのビデオレターですが..」
「周か..俺はOKだ」「周くんから?何かアヤシイけどまあいいわ」
「みなさん、ここでビデオレターが届きましたので流しますね」
 モニタにはビデオレターが流れたが、それは笛地の友人の周では無かっ
た。
「周くんだと思ったら、大間違いよ。この大先輩を呼ばないなんて、どう
いうつもりよ!久遠寺、あんたが言ったでしょ!」
 笛地が苦笑いを浮かべる中、久遠寺先生が代わりに答えた。
「私が呼ばないよう頼んだのよ。裸になりそうな露出狂の先輩なんて呼ぶ
わけないでしょ。一緒に来そうな高3の娘もかなりの露出狂みたいだし」

「ぷっ!」
 葉須香が勢いよくジュースを吹き出した。慌ててハンカチで口を拭く。
「あ、ご、ごめんなさい!」
 心の中で葉須香は確信していた。(さっちゃんのことだ...!)

 さっちゃんは葉須香の親友であり、露出癖があるのも知っており、まさ
か、さっちゃん憧れの周兄さんが笛地の友人だったとは思わなかった。
「どうしたの、葉須香ちゃん?」
 久遠寺先生が心配そうに声をかける。
「あ、いえ、なんでもないです!」
 葉須香が慌ててると、久遠寺先生が続けた。
「あともし、芸能マネージャーからのビデオレターがきたら、それも流さ
ないでいいから」「流すぐらいならいいだろ?」
「いや、さっきと同じパタンで露わな姿の清純派アイドルが出そうな気が
するわ。そもそも、麻耶草って、あのマネージャーのアナグラムでしょ」

「ぶほっ!」
 葉須香がまた盛大にジュースを吹き出してしまった。
「葉須香!どうした?」
「だ、大丈夫です」(それって、いっちゃんだよぉぉ)
 葉須香の頭には、親しい友人のいっちゃんの笑顔が浮かんでいた。清純
派アイドルをやっていて、マネージャーの名前が作山だったことを思い出
した。
(まさか、こんな関係があるなんて知らなかったよぉぉ〜)
 葉須香は心の中でほっと胸をなでおろした。もしさっちゃんといっちゃ
んが来ていたら、それはそれで大変なことになっていただろう。

 ビデオレターは1つ流しただけで終わり、次の質問コーナーが始まった。
 司会者がマイクを手に取り、新郎新婦の座席に視線を向けた。
「さて、ここからは、お二人を質問攻めにしちゃいましょう!皆さん、今
のうちに考えておいた質問を投げかけてみてくださいね」  
 会場が盛り上がる中、司会者が最初の質問をした。

「まずは僕から簡単な質問です。2人は高校からずっと一緒って聞いてま
すが、お互いの第一印象って覚えていますか?」
「可愛かったですよ。おっぱいが見たかったので、どうやって脱がそうか
考えてたら、顔面蹴られました」
 あまりにも大胆な回答に会場から笑い声が響いた。
「まさか、高校生の時から、そんなエロかったとは。久遠寺先生、これは
何か言い返してくださいよ」
「そうね。高校の時から、正人はエロかったわね。どこかの朴念仁の先生
とは大違いね。まあ、今はスケベ主任だけど」
「それは誰の事を..」
「ご想像に任せるわ」
「いいですねぇ!じゃあ次は生徒さんたちの質問に移りましょう。後ろの
方のテーブル、何か聞いてみたいことは?」  

「あ、あのぉ〜、こんなこと聞いたら失礼ですが、久遠寺先生は、笛地先
生と結婚して心配しないんですか?」
「え?どういうこと」
「ほら、女子たちに結構、色んなことしてるし、間違いが起こるとは思わ
ないんですか?」
「ああ、そういうことね。逆にみんなに..女子たちに聞きたいんだけど、
今まで笛地先生、あと名歯川先生、おまけで裾部先生に性行為に近いこと
をされた人いるかな?」
「あれ?されてない」「私もないかも」「いっぱい辱められたけど..無
いよね」「名歯川先生だとバイブ使うけど..それ以上は..」
「あ、でも校長先生は下半身見せて迫ってきたかも」「それはあったかも」
「き、君たち!そういう質問は結婚式に相応しくないからやめましょう!」
 校長が慌てて話の流れを変えようとした。

「まあ、校長はともかく、正人はずっと見てるけど、そういうことは無い
わね。名歯川先生は辱められてる女性を見ながら、「これは最高のおかず
だべぇ〜。白米3杯はいけるだべぇ〜」って本気でご飯食べてたし」
「あ、あの..裾部先生もしてないけど、それは何で?」
「ああ、それはカントン包茎だからね。勃起だけで精一杯ね」
「久遠寺、貴様ぁぁぁぁ〜!」
「まあ、こんな感じで、間違いは起こらないから安心してちょうだい」

「そ、そうですか..えっと、先生方で誰か質問したい人はいますか?」
 司会者が少し戸惑った様子で確認すると、裾部が堂々と立ち上がった。
「この俺が質問しよう!構わんよな、久遠寺?」
「もちろんです、裾部先生」
 久遠寺先生が穏やかに答えたが、裾部の表情は険しく、明らかに何か言
いたいことがありそうだった。
「久遠寺!お前は2度も師をロッカーに閉じ込めたことに何とも思わんの
か!1度目はお前を忘れるぐらい、追い詰めたと聞いたぞ!」
 裾部の大声が体育館に響いた。会場がざわめき始める。生徒たちも困惑
した表情を見せている。
「それはどういうことかしら?もしかして、名歯川先生に直接聞いたの?」
 久遠寺先生が首をかしげた。

「1度目は俺がこの学校の新人教師、笛地やお前が高校2年の時、長期出
張をねつ造して、師をロッカーに閉じ込めてそのまま追い出した!」
「そうね。色々違う点があるけど、せっかく落ち着いた学校で絶対権力教
師なんて名乗って暴走したから追い出したわね」
「そうだろう!大河に聞いた話だと、お前と師は親娘のように仲が良かっ
たと聞いたぞ」
「う〜ん、それは合ってるけど、どっかの朴念仁は合併の際に地方に逃げ
ちゃったから、ほとんど後で誰かに聞いた話ばっかりでしょ?」
「ぅぅ..それは」
 ここで司会者が慌てて割り込んできた。
「あ、あの、さっきから説明しないと分からないことばかりで..良かっ
たら簡単に説明してもらえませんか」
「そうね..説明と言っても..う〜ん」
 会場がざわめく中、突如としてスクリーンに映し出される一つの映像が
流れた。
 それは、この高校の歴史をまとめたもので、笛地や久遠寺先生も「誰が
作ったの」と驚くようなものだった。

 映像は、笛地や久遠寺先生が高1の頃の共学高校の話から始まる。
 当時、底辺共学の高等学校と、全国から容姿端麗な女子が集められた私
立の女子学園が隣接していたところから説明していた。
「え?この学校って昔、合併したんだ」「だから校舎が広いのか..」

 当時の私立女子学園は、立派な校舎と設備を誇る名門校だったが、その
実態は性悪お嬢様4人衆の王国だった。
 理事長の娘は財布として扱われ、庶民出身の女子たちは徹底的に下に置
かれた。学園は豪奢だったが、日々の空気は陰湿で冷たいカーストが支配
していた。
 だが、私立女子学園の経営悪化により、隣接していた底辺共学の高等学
校に吸収合併された。
 けれど当時、共学高校は規模も小さく、古びた校舎しか持たず、対照的
に女子学園は最新設備を備えた大規模キャンパス。その力関係から、吸収
されたのは名目上で、実際は共学高校が女子学園の敷地へ間借りする形と
なった。
   実は、現在の高校に残る古い旧校舎は、かつての共学高校の建物だっ
た。
「いや、あのおんぼろ校舎が共学の方かよ」「大きさが全然違うぞ!」

 合併後はしばらく、性悪お嬢様4人衆が権威と財力を笠に着て振る舞い、
古い旧校舎に押し込まれた共学高出身者を見下すようになった。
 校内秩序は歪んでいき、新人教師の裾部はビビッて、この時に地方に転
勤になった。
「いや、裾部先生。逃げるの早っ!」「まだ何も起こってないような?」

 そんな中、全国から容姿端麗な女子が集められた噂を聞いて、裾部の後
任で新たに赴任してきた名歯川がやってきた。
 校則無視、権威無視の破天荒エロ教師であり、その時に共闘したのが、
ロッカー暴走女子の久遠寺だった。
 後に笛地の友人の作山、周が協力し、周の先輩で地元で有名だった暴走
露出狂先輩(さっちゃんの母親)が参戦し、破天荒な行動で瞬く間にお嬢
様4人衆を追い詰め、高校を短期間で正常化させた。
「うおっ!あの露出狂先輩強すぎだろ!迫る集団をマッパにしてるぞ」
「それを名歯川が次々辱めて、野郎共は久遠寺先生がロッカー責めかよ」
「絶対組んではダメな3人だろ!無敵すぎるぞ!」

 こうして、性悪お嬢様4人衆は散々な辱めを受けて全ての権利を捨てて
逃亡した。だが、理事長の娘は「全ての責任は自分にある」として、名歯
川の辱めフルコースを1人で受けることになった。
 校門にはしばらくの間、おま●こ開きでの全裸姿で磔され、全校生徒に
晒されることになった。
 この頃から絶対権力教師として、様々なエロい校則が次々作られ、名歯
川が女子たちを辱めることになり、久遠寺先生と激しく対立し始めた。
 笛地の方も名歯川と手を組み、校内で好き放題してたらしい。
 かつて親娘のように共闘した久遠寺先生だったが、袂を分かち、名歯川
をロッカーに閉じ込めて追い出したところで映像が終わった。
 ちなみに暴走露出狂先輩は、性悪お嬢様4人衆逃亡の後に、元の子育て
生活に戻っていた。

「ええ〜、この映像..ロッカーのとこで終わるんだ」
 久遠寺先生が少し呆れて言う中、裾部がますますヒートアップした。
「やっぱり、俺の言ったことは合ってるじゃないか!師はロッカーに閉じ
込められて、追い出され、この時のショックでここに戻ってきたときは、
お前のこと忘れてたんだぞ」
「そのことに関しては私も驚いたわ。まさか名前言ってもはじめましてだ
ったし」
 それを聞いた裾部の怒りはさらに高まった。
「なのに、お前はまた師をロッカーの中に閉じ込めて、ずっと放置した!」
「いやいや、それって、本物のドクロだべぇ〜になっちゃうでしょ」
「笛地!お前からも確認しろ!追い出された師が傷心しながら全国をさま
よっていたこと!その師を未だにロッカーの中に放置してることを!」

 笛地も困ったような表情で答えた。
「そうだな...俺もあの場に居たからな..まさか、お前を忘れるぐらい
の思いをしてたとは...ましてはあの年で1人だもんな」
「そうだ!1人で頑張ってきた師を!定年間近の師をまたあんな目に遭わ
すとは...うぅ、師よぉぉぉ〜。逃げた俺を許してください!」
 裾部先生が感極まって涙ぐんでいる。会場の生徒たちは、この予期せぬ
展開に完全に困惑していた。

「えっとぉ〜、少しだけ補足していいかしら?」
 久遠寺先生が手を上げた。
「補足って何だ!ふざけやがって」
「お、おい..久遠寺、何をいうつもりだ」
「だから、補足よ!まず、独身ってどういうこと?1度目に追い出した後、
結婚していちゃいちゃ旅してたわよ。大体、戻ってきたの定年間近でしょ。
独身なわけないでしょ!」
「結婚?だ、誰と!」裾部が驚愕した。
「おい!初耳だぞ!」笛地もビックリした。
「嘘っ!」「誰なんだ」会場のみんなも騒いでいた。

「ほら、名歯川先生が散々、辱めた理事長の娘いたでしょ。あの人と結婚
したのよ」
 会場がざわめいた。そして色んな疑問が飛んできた。
「いやいや、相当辱めたんじゃないのか?」「もしかして強制的に」
「違うわよ。元々、奥さんの方がそういう性癖があったみたいで、名歯川
先生に色々開花されて好きになっちゃったみたいよ」
「それってマゾみたいなもの?」「けど、それってラブラブになる?」
「う〜ん、ああ見えても苛めたあとは、配慮や気配りはかなり優しいのよ。
ずっと全裸で磔されてたけど、誰かに乱暴されたことも無いし、怪我させ
るようなこともしないからね。熱っぽい時なんて「こんな時に辱めても、
我輩の飯が不味くなるだけだべぇ〜」とすぐに保健室で休ませていたわよ」
「いや、何だそりゃ」「でも、名歯川らしいのかも」
「だから、理事長の娘の方が猛アタックして、そのまま結婚したのよ」
「でも、あの名歯川にひどいことされるんじゃないのか?」「そうよ」
「そもそも、名歯川先生って釣れない魚より、釣った魚を思い切り愛でる
人だから、ラブラブだったわ。こっちは大学受験でどっかに逃げた正人を
追いかけてた日々なのに」
 意外な事実に生徒たちも初耳の情報に興味深そうに耳を傾けていると、
裾部と笛地が叫んだ。
「ちょっと待て!初耳だぞ!」「こっちも聞いてないぞ!」
「そりゃ言ってないからね」
 久遠寺先生がさらりと答えた。

「仮に結婚したとしても!お前のことを忘れて戻ってきたんだぞ!」
 裾部がまだ納得していない様子で反論した。
「それもちょっと違くて、可愛い娘さんが原因で大ショック受けただけよ」
「え?娘さんがいたのか?」
「3人いるわよ。全員、超美少女で有名人よ」
「な、何でお前がそんなことを!」
「3人とも小さい頃から会ってるし、3女の伊衣代(いいよ)ちゃんが原因
で、あそこまでひどくなっただけよ」
「いやいや、何で名前まで」
「だから会ってるから」
 久遠寺先生が当たり前のように答え、裾部が完全に混乱している。
「大ショックってどういうことだぁぁぁ!」

「そこも説明するのね..3女の伊衣代ちゃんは元々、グラビアアイドル
で大人気で、名歯川先生が目に入れても痛くないほど激愛してたのよ」
「グラビアアイドル?」「それも初耳だな」
「でね、突然AVデビューして、男性たちのモノを何十本も咥える子にな
っちゃって..それを見た名歯川先生が相当ショック受けたのよ。伊衣代
ちゃんの言い分では、散々複数の女性を辱めた父親に文句を言われる筋合
いはないって」
「いや..それはダメだろ」「寝取られかよ」
「ただ、そのAVも数年やっただけで芸人の鯉町くんと結婚したときに引
退して今はママタレで人気出てるわよ」

 久遠寺先生の説明を聞いて、会場の一人、戸来が震えた声で口を開いた。
「そ、それは、もしや佳和 伊衣代(かわいいよ)ちゃんのことでは!」
「あら、よく知ってるわね。じゃあ、残り2人も知ってる?」
 久遠寺先生が微笑んだ。
「知ってます!長女の那場、次女のはが、三女の佳和さんが前から3姉妹
じゃないかと疑いがあって、この前、カミングアウトしたのは有名ですよ」
 戸来の興奮した声に、会場がどよめいた。
「マジかよ!あの3姉妹が名歯川の娘かよ!」「俺もそれ見たわ」

「意外とみんな知ってたのね。戸来くん、そのまま続けてちょうだい」
「もちろんですっ!」
 戸来が興奮して説明を続けた。
「確か、長女の那場さんは元・有名な女子アナで、千のあざとテクを持つ、
どんな男性でも虜にする人気女優さん。次女は普段は舌足らずな口調だけ
ど、色んな役の声優ができる、はがちゃん。最近はアニメの歌が次々ヒッ
トしてる人気歌手ですよね。本来の苗字から2文字ずつとって、はがちゃ
んは当時ばかちゃんで出そうとして怒られたっていってますよね」
 裾部が完全に理解が追いつかない様子で立ち尽くしている。

「ちょっと、ちょっと待て...師の娘さんたちが有名人だって?そ、そん
なのは出まかせだぁぁ〜!師はもうあのロッカーでドクロになってるんだ
ぁぁぁぁ〜」
 裾部が誰もが口にしなかった事を大声で喚き散らす中、とんでもないサ
プライズが起こった。
「この我輩がそんな簡単にドクロになると思ったのかべぇぇ〜!裾部よ!
お前は後から我輩の!久遠寺より怖い究極最凶のカントンお仕置きが待っ
てるのだべぇ〜!」
「そ、その声は!!」
「やっぱ、さっきの映像用意したのは..」
「もちろん、我輩にきまっているだべぇぇ〜!久遠寺が言った通り、48手
を極めるラブラブ新婚全国旅にいってたんだべぇぇ」

 ざわめく会場の雰囲気の中、体育館の扉がゆっくりと開いた。
「久遠寺!結婚おめでとうだべぇぇ〜。愛娘たちもすごく喜んでいただべ
ぇぇ〜」
 その特徴的な喋り方に、会場の全員が振り返った。そして、一斉に息を
呑んだ。
「な、名歯川先生!」「うわっ!本物だ!」「どう見ても名歯川だ」
 定年で学校を去ったはずの老教師、ロッカーに閉じ込められたままと噂
された名歯川先生が、満面の笑みを浮かべて立っていた。

「え、えーっと...やっぱ本物だよな」
 笛地も戸惑いを隠せない。実際、名歯川先生とはずっと音信不通になっ
ていた。
 しかし、久遠寺先生だけは慌てることなく、にこやかに手を振った。
「名歯川先生、お疲れさまでした。準備はいかがでしたか?」
「おかげさまで、バッチリだべぇぇ!」
 名歯川先生が嬉しそうに答える。
 会場の困惑した空気を感じ取った名歯川先生が、大きな声で説明を始め
た。
「お前ら、何か勘違いしてるだべぇぇ〜!我輩は久遠寺先生に追い出され
たんじゃないのだべぇぇ〜」
「いやいや!追放だろ!」「どういうことだ?」
「実は久遠寺が、我輩に素晴らしいセカンドライフを提案してくれたんだ
べぇぇ〜!定年など存在しない、もっと大きなステージで活躍できる場を
教えてくれたのだべぇぇ〜」
「セカンドライフ?」「せ、説明してくれ」

「もちろんだべぇぇ〜」
 名歯川先生の目が輝いた。
「そう!この数ヶ月間、その準備に忙しかったんだべぇぇ〜!くだらない
邪魔が入らないため、消息を絶っていたのだべぇぇ」
「で、で、何の準備を...?」「早く言ってくれぇぇ」
「貴様ら、この市に住んでいて今年何かあるか分からないのだべぇぇ〜」
「え?」「それってまさか..」
「我輩は今度の市長選挙に出て、ここの市長になるのだべぇぇぇ〜」
「ええええええ!!!」
 会場が驚愕の声に包まれた。生徒たちの口がポカンと開いている。

「市長選挙って...本当ですか?」
 笛地が驚きを隠せずに尋ねた。
「本当だべぇぇ〜!我輩が市長になった暁には、4月に閉鎖となった天然
温泉を大リニューアルするのだべぇぇ〜」
「いや、それだけかよ」「そもそも、あそこは交通手段悪すぎだよな」
「葉須香よ!あの天然温泉の近くに何かあるか答えてみるだべぇ〜」
「えっと、確かアスレチック場があったけど..」
「そう!我輩は天然温泉とアスレチックを一体化し、温泉アスレチックを
作るのだべぇぇ〜!しかもただの温泉アスレチックじゃないのだべ!全国
から選りすぐりの美少女女子高生を集結させて、色んな競技をさせるんだ
べぇぇぇ〜!」(後の全国女子高生温泉アスレチックである)

「師が、そんなことを準備していたなんて..」
「いや、それにしても..色々、腑に落ちないとこがあるんだが」
「そ、そうだ!師はどうして、あの命より大事な番傘を置きっぱなしに」
「すまんだべぇ〜。あれは確かに大事な厄除けの効果がある番傘だったが、
10年間持ち続けていたものじゃないのだべぇぇ〜。コホン、あれはその..」
「伊衣代ちゃんが誕生日にプレゼントしたものよ。その日から、四六時中
身に付けていたのは合ってるけど、随分と都合のいい感じに記憶改ざんす
るとはね」「まあ、そういうことなのだべぇ〜(テレッ)」
「そ、そんな..じゃあ、何でこんなにロッカーを放置に..」
「大体、途中でネズミも大量発生してただろ?」
「そ、それは..私の口からは..」「我輩も..それは..」

 その言葉を聞いて、また戸来が興奮して大声をあげた。
「あっ!最近、ママタレの伊衣代ちゃんの怪談話が関係してるのでは..
旧校舎での撮影でロッカーからドクロが見つかる怪談話は人気あったし、
最近では若手芸人たちをドッキリで「ロッカーから大量のネズミが発声し
たら勘違いする説」が高視聴率でしたよね」
「そうよ。散々、家族に迷惑かけた名歯川先生を説教したいと伊衣代ちゃ
んに頼まれて、放置していたのよ。まさかドッキリのテストでネズミを逃
がしたのは私が後で注意したんだけど..」
「あれはすまなかったのだべぇ〜。番傘は新しいのをプレゼントしてもら
ったから、そのまま置いていたのだべぇぇ」

「それにしても、まさか、あんなに早く絶対権力教師として、暴走すると
は思わなかったわ。伊衣代ちゃんから元のお父さんに戻って欲しいと頼ま
れてたから、私にとっては好都合だったわ」
「我輩も色々思い出せて良かったのだべぇ〜。まさか、旧体育倉庫に娘た
ちが潜んでいたとは気づかなかったのだべぇ〜」
 そう、実際は0時を知らせる音が鳴り響く中、久遠字が名歯亀にこう、
声を掛けていた。
「いつか先生の定年祝いを盛大にやりますから。その時を楽しみにしてく
ださいね..あとは娘さんたちにママより怖い説教をされなさい」
 そう言って久遠字は1人、旧体育倉庫を出ると、まずは伊衣代が激しく
ロッカーを蹴ってきた。
「忘れすぎだろ!私は好きでAVやってたんだから、問題ないでしょ!し
かも私があげた番傘を変な感じで勘違いしてたし」ガンガンガンッ!
「それぐらいにしなさい。時間はたっぷりあるんだから、ゆっくり話し合
いましょうね。お父さん」「うんうん、ギルティ決定〜」
「た、助けてくれぇぇ〜。久遠寺ぃぃ〜!娘たちが居たなんて聞いてない
のだべぇぇぇ〜」
 こうして、朝まで娘たちにきつい説教された名歯亀であり、今後どうす
るかを三姉妹がそれぞれ意見を出し合った。

「ねえ、このロッカーはそのままにしない?お姉(久遠寺)を裸にして三
角木馬に乗せるまで暴走してたんだから、少しは懲らしめないと」
「ぼくも賛成っ。番傘を沿えて置けば効果てきめんだね」
「そうね。私もそれでいいけど..もう1つ何か欲しいな」(こっそりネ
ズミでも用意しとこうかな..)
「あと、お姉(久遠寺)には、いっぱいお礼をしないと。何か、私たちに
出来る事ないかな」
「それなら、ほら海外逃げてた彼氏さん、日本に戻ってくるみたいだから、
ぼくたちで監視して、お姉(久遠寺)に伝えるのはどう?」
「いいわね。まだ私たちのことバレてないようだから、近づいても有名人
としか見られないからね」

 それを今、知った笛地が頭を抱えて何かを後悔していた。
「どうりで、海外で綺麗な有名人を見かけると思ったら、俺の方が監視さ
れていたのかぁぁ〜。娘がいたなんて知らなかったし〜」
「まあ、言う機会もなかったし」
 一方、事実を知った裾部の方は膝から崩れ落ちた。
「じゃ、じゃあ...俺が今まで思ってたことは...全て」
「そうよ。全部、大きな勘違いよ」
 久遠寺先生が優しく微笑んだ。

「それにしても、俺たちもあのロッカー勘違いしてたよな?」「私も」
「コホン、それについては、この私、戸来が解説しましょう」
 戸来が会場のみんなに説明しはじめた。
「まず、それはTVの影響ですよ。ママタレの伊衣代ちゃんの怪談話が事
実なんじゃないかとネットで話題になってましたよね。この学校でも”定
年間近””お守りが沿えていた””ロッカーが放置されてる”とかなり類
似点が多かったので、みんな勘違いしたんですよ。まさか、伊衣代ちゃん
本人が当事者なんて誰も思いませんし、ネズミ発生のドッキリも勘違いさ
せるには充分でした」
「そっか、そういえば俺もその怪談聞いてた」「あのドッキリも事実だっ
たら洒落じゃすまないよねと話してた」

 会場の生徒たちが、この意外な展開に笑い始め、司会者が上手くまとめ
て聞いてきた。
「つまり、名歯川先生は幸せな結婚生活を送って、しかも3人の美人の娘
さんがいて、久遠寺先生とは家族同様の関係だったってことですか?」
「その通りよ」
 裾部の大きな勘違いから始まった質問タイムは、意外な真実の発覚で大
いに盛り上がった。
 名歯川先生と久遠寺先生の本当の関係性が明かされ、さらには名歯川先
生の3人の有名人の娘たちの存在も判明した。

「今日は本当に驚くことばかりでしたね。それでは。そろそろ本日のメイ
ンといきましょう」
 いよいよ、これから永遠の誓いが始まるのであった。