「俺たちって、もしかして許奇に騙されたんじゃないかぁぁ〜」 5月下旬、ある事実に気づいた男子が大声で叫び、皆が耳を傾けた。 「おい?何叫んでんだよ?」「騙されたって何のことだよ」 それは5月中旬の主張の罰での葉須香の宣言だった。 「新しい罰になるまで..校内は裸のままでずっと居ますー!」 4日目で校内すっぽんぽんが確定し、生徒たちは歓喜に沸いた。 罰が続く来週は月曜から金曜まで、葉須香はすっぽんぽんのままで、学 校の中を移動することになるからだ。 が、思い返せば校内で全裸の葉須香を拝めたのは殆ど居なかった。 「あっ!俺たちが水着姿を頼んだから、その姿でトイレとか行ってたよな」 「しかも途中から放課後までマッサージテーブルとか、保健室とか、職員 室に行ったりと、あまり動いてないよな?」 「そういえば、教室のお風呂にずっと入ってたんじゃないか」 「そうだったぁぁぁぁ〜」 今さらながら、生徒たちは気づいた。 確かに校内すっぽんぽんが決まっても、基本的に4組教室から、ほとん ど出てこなければ意味ないことに。 「ちょっと待て!パンイチのおっぱい丸出しも歯科検診だけじゃないか?」 「いや、昼休みはすっぽんぽんで食堂行ったはずだろ?」 「あれは女子たちが囲っていたから、俺たちが見えたのは足元だけだよ」 「ちくしょぉぉ、罰のインパクトが強すぎて、肝心なもの見てねーじゃん」 次第に、主張の罰がそんなに過激じゃなかったことに気づいた。 「結局、いつもの教室罰が少しだけオープンになっただけか!」 「これじゃあ、4組の奴らが得したってことだよな」 「まあ、それでも葉須香ちゃんの全裸は屋上からでも、みんな見れたから、 それで良しとするか..」 「そうだな..」 ずっと全裸で過ごす宣言のインパクトに踊らされ、実際はいつもと殆ど 変わらなかったことを気づかなかった男子たち。 当然、主張の罰が終わったので、葉須香が全裸になるのは4組だけとな ったのだ。 そして、新しい罰はレベルダウンと思う「身体データ計測の罰」であり、 忘れ物をする度に自分の身体の部分を計測される恥ずかしい罰が始まった。 1年生の時は、「身体データ説明の罰」として身長やバスト・ウェスト・ ヒップの普通の説明をして、レベルアップするとおっぱいのサイズから乳 首の色・形など恥ずかしい説明をすることになった。 ただ、本人が絶対に公開したくないデータだけは、今回の計測でも絶対 に行わないことを約束したようだ。 意外にも、それは体重であり、2年生の時の「身体データ変化の罰」も おっぱいや乳首の固さや弾力を発表しても、体重だけは断固拒否したので あった。 まあ、体重以外なら、固くなったときの乳首の長さや太さまで、教えて くれたので、それで充分満足した。 そう、男子たちは本当に葉須香の体重など知りたいとは思わなかった。 (いや、そのスタイルじゃ大体分かるしな..) (俺たち、何回か持ち上げたことあるけど、軽かったし) (大体、葉須香ちゃん、体重はダメでも、おっぱいの重さは教えてくれる から、そっちの方が重要だよ) 今回の計測の罰では、去年と違ってちゃんとレベルアップしていると許 奇が言っており、今までの本人計測から男子たちが計測することに意味が あるということだ。 そんな中、朝の教室に駆け込んだ葉須香は、息を少し切らしながら教室 前の扉に鞄を置いた。 どうやら、何かを忘れ物をしたのに気づいたのか、葉須香はちらりと教 室内を見回し、まだ許奇は来ていないことを確認する。 (あんなにチェックしたのに..また忘れ物するなんて..) 一瞬、葉須香の脳裏に先月の光景がよぎった。先月はこんな会話がまず 始まっていた。 「おはよう、葉須香ちゃん。もしかして忘れ物をした?」 「う、うん」 「それじゃ、制服はそこで脱いでね」 「は、はい。ここで脱ぎます」 こういう感じで男子に指摘されてから、観念したように制服を脱いでい く流れだった。 それが、次第に「忘れ物した=全裸になる」という図式がクラスの暗黙 の了解になっていき、今では誰かに言われるのを待つ必要はない。 (忘れた私が..悪いんだから) 教室の扉を開けっ放しで、ここがまるで脱衣所であるかのように制服を 脱ぎ始める。まだ朝の挨拶も交わしてないのに、いやむしろ挨拶される前 に、教室前の扉の床には脱いだものが重なっていった。 あっという間に下着姿となり、そのままブラも最後のショーツも床に落 ちていく。まるで、浴槽に入るかの様に全裸になった葉須香がようやく教 室に入ってきた。 「おはよう。みんな、今日も忘れ物をしてしまいました」 「葉須香ちゃん、おはよう」「おはよう」 挨拶を終えた葉須香は黒板の横に立ち、許奇が来てからようやく、新し い罰の説明をし始めた。 「おはよう葉須香。じゃあ、新しい罰の説明を頼むぞ」 「はい。今日から..身体データ計測の罰をすることになったので、今日 は..私の両腕を自由に計測してください」 「え?それって、今日は腕だけことか?」「いやいや、何だその罰!」 「両腕だけ測る罰ってレベルダウンだろ!」 「それって、両手は含まれるの、葉須香ちゃん?」 「いえ、今日は腕だけなので、手は明日になります」 「何だ、そりゃ!明日も大した罰にならねえじゃないか!」 男子たちは抗議の声を上げるが、許奇はニヤリと笑った。 「いや、お前ら、計測はしたことないだろ?やってみれば分かるさ」 「おっぱいなら良いけど..腕って..」「今日はこれで我慢ってことか」 不満そうな顔で男子たちが、葉須香の両腕の計測を始めた。 けれど、計測の名の元で、葉須香の腕を自由に触れられるということに、 興奮が抑えられなくなってきた。 「や、柔らけぇぇ〜、しかも触り心地がたまんねぇぇ!」 ちょっと出来心で葉須香の腕の肉をむにょんと摘まむ。 女性の腕なんて、何度も触ってるはずなのに、大して違いなど無いと思 っていたのだが──。 「やべぇぇぇ!!!」「この肌触りは!!!」 女性の腕なんて全く興味が無かった男子たちが、今にも叫びそうな顔を して興奮した。 「えっと、葉須香ちゃん。腕曲げても大丈夫?」「普通に曲げるから」 「うん、そんな気にしなくてもいいよ。どんどん曲げちゃってもいいよ」 男子たちが葉須香の腕を曲げると、何とも言えない達成感が湧いた。 ただ腕を曲げるだけのことだが、直に触れて自由に曲げられるという感 触がたまらないのだ。指先から伝わる情報が、今まで触れてきた女性とは 大違いであるのを告げていた。 「この二の腕のぷにぷには最高だ!」 「ああ、ちょっとひんやりしてて、柔らかくて、それでいて、もちもちだ!」 「これ枕にしたら最強じゃないか!」「確かに!」 気がつけば、葉須香の両腕計測は大好評となり、さらには「葉須香の二 の腕徹底解析」と休み時間と昼休みで計測した結果を5時限目の自習で発 表することになった。 「いやぁぁ〜。そこまで徹底的に調べないでぇぇ〜」 顔を真っ赤にした葉須香が叫ぶ中、黒板には男子たちの各グループがま とめた大きな模造紙を貼っていった。 「まず俺たちグループは、葉須香ちゃんのぷにぷにに対抗できるものを探 すべき、昼休みに急いでこれを買ってきた」 「そう、ぷにぷにとは、押すとへこむが、すぐに元に戻る特性を持つ柔ら かいもの!そこで、これを用意した!」 教卓には、マシュマロとゼリー、プリンや餅等が置かれ、葉須香の二の 腕との違いを語り始めた。 「まず、ぷにっと押したときの感触はやっぱり一番は…」 「「葉須香ちゃん!!!」」 「次に適度な弾力で一番いいのは…」 「「もちろん葉須香ちゃん!!!」」 「最後に一番気持ちいいのは…」 「「ダントツ葉須香ちゃん!!!」」 (いやぁぁ〜!そんなに熱く語らないでぇぇ〜) 次の男子グループの発表では、何かを統計した表を元に結果を言い始め た。 「僕たち、彼女もしくは女子と仲が良いグループは、二の腕比較をしてみ ました!」 そこには葉須香と同じぐらい人気の高い女子たちの名前があがっていた。 「え?ま、まさか..」 「そう!彼女たちにお願いして二の腕を触らせてもらいました!」 「俺なんて、この通り頬に跡が残るぐらいビンタをくらいました!」 「まあ、僕も久遠寺先生に頼んだら、ビンタされたよ」「許奇、お前もか」 「だが、その結果!適度な弾力、肌感触、匂い、心地良さ等を数値にした ら、葉須香ちゃんが全ての項目で一位でした!」 「「おおおっ!!」」「「やっぱり〜!!」」 (いやぁぁぁ〜!だから言えないでぇぇ〜) 次に、頭の良い男子グループが真面目な顔をして心理的効果を発表した。 「今回、僕たちは、二の腕にどれぐらい。リラックス効果が出るかを色々 なものと比較してみました」 模造紙には数々のリラックス効果が出るものが並べられ、葉須香の二の 腕ぷにぷに効果も一緒に書いてあった。 「まず、僕が最強だと思っていたストレス軽減、安心感等の効果抜群の人 をダメにするクッションは今回、残念ながら、葉須香ちゃんのぷにぷにに 惨敗しました」「そりゃそうだろ!」「葉須香ちゃんのぷにぷには万人を ダメにするぞ!」「言えてる!」 「僕の方も、このめちゃくちゃ高いアロマと色々比較したが、葉須香ちゃ んのぷにぷにには全く歯が立たなかった」「そりゃ無理だ」「ああ!」 次々と葉須香の一人勝ちを発表され、顔がますます赤くなっていく葉須 香だった。 最後の男子グループは、葉須香のぷにぷに罰をもっと早く気づくべきだ と書かれていた! 「このぷにぷに罰は1年生の時でも出来たのに..僕たちはすごく損をし ていました」「確かに!」 「例えば、どんな罰を考えたんだ!」 「はい!まずは授業中、男子にぷにぷにを触らせる罰などどうでしょうか」 「いいね!その他は!」 「ぷにぷに枕の罰なんてどうでしょうか!これは快眠できますっ!」 男子たちが盛り上がる中、女子の初堂がボソリと言った。 「いや、今さら気づいたのか..遅すぎ!」「なっ!もしかして、女子は…」 「ぷにぷに枕なんて、とっくにやってるわよ!女子の間では大好評よ」 「ずるいぞ!女子」「そうだそうだ」 「いや、今さらよね。そんなこと」「ねぇ〜」 「ちくしょぉ〜まさか、ぷにぷににこんな奥深さがあったなんて!」 「ぷにぷに、最高だぜ!」 気づけば、みんなが葉須香の二の腕をつまんでぷにぷにし始めていた。 結局、放課後まで両腕を色々計測された葉須香は今度こそ忘れ物をしな いと固く誓ったのだった。 (今日は腕だったから良かったけど、レベルアップは何としても避けない と!) 家に帰った葉須香は忘れ物をし易いものを机の上に並べて確認していっ た。 「明日使う教科書や提出物はちゃんと鞄の中に入ってるし、よく忘れるも のも机に並べたから、完璧よね」 机の上には、明日の準備が整った鞄。筆記用具、ノート、体育着、折り たたみ傘2本などが並べられていた。 「まさか、あんなに腕を弄られるなんて..これが、おっぱいだったら」 明日はまだ忘れ物をしても両手を計測されるだけだが、忘れ物を続けた ら、おっぱいや股間も計測されるレベルアップが待っているからだ。 「忘れたものも全部、机の上にあるから、大丈夫」 葉須香は、最近忘れ物をしたことを思い返しながら、リストをチェック した。 ・筆箱の中身(何故かスプーンやフォークが入ってた) ・教科書、提出物(単なる日にち間違い) ・体育着(最近多い。忘れると下着も没収されての授業) ・傘(今月7本目、週末に駅やお店から回収予定) 「全部OK!これで明日は忘れ物無しかも!」 しかも今日の葉須香は一味違う。いつもなら、ここで安心して寝ちゃう ので起きた時に何か忘れてしまうのがお約束になっていた。 「そうよ!今日はこれもちゃんと用意したから!」 慌てて起きても平気な”家を出るまでのシミュレーション用紙”を作成 したのだ。 部屋の扉に”玄関”と張り紙を貼って、30分後に目覚ましをセットし てベットの中に入って目をつぶる。 そのまま、寝落ちした葉須香が目覚ましで起きると、これから家を出る かのようなシミュレーションを開始した。 部屋の扉は玄関であり、扉の前で靴を履くフリをし、「忘れ物はないか」 をチェックする。 そして玄関は通学途中ということで、再チェックしてみた。 「あれ?何でチラシが入ってるの〜。提出物のプリントは?」 急いで部屋に戻ると机の下にプリントが落ちており、明日買い物に行く チラシと間違えて入れたようだった。 「シミュレーションして良かったぁぁ〜。余計なものは机に置かない!」 チラシは間違えて入れる可能性があるので、台所に持っていき、これで 一安心と眠ることにした。 だが翌朝、学校に行く途中、朝食での出来事を思い出した。 「葉須香、今日このお店に行くんじゃないの?チラシ置きっぱなしよ」 「あっ、忘れてた。このチラシのクーポン今日までだった」 チラシを鞄に入れる葉須香だが、その時、無意識に何かと入れ替えてし まったらしい。 「しまったぁぁ〜。提出物のプリント置いてきちゃったよぉぉ〜」 今日も、忘れ物をしてしまい、両手計測をすることになってしまった。 腕の時と同じで、男子たちが夢中で葉須香の両手計測を細かくしていく。 「左手の方が右手より良いと思わないか」「いや、右手だろ!この小指の 綺麗さは正に右に出る者なしだ」「おいおい、左手の親指を忘れてるぞ」 (ええぇぇ..いや、何でみんなこんなに真剣になれるの?) しかも、今日の5時限目の自習は、男子たちの強い要望で握手会をする ことになった。 「お願いだ!せっかくの両手計測なんだから、握手会もさせてくれ!」 「って全員、土下座までして頼むことなの?どうする、葉須香?」 「私は別にいいけど..握手だけだよね?」「もちろん!」「握手会だし」 呆れ返った女子たちとは違い、握手ぐらいなら良いかなと思う葉須香は 快諾したのであった。 (握手会って…ただ手を握るだけよね?) こうして、教室は握手会の会場となり、男子たちが教室の扉を開いた瞬 間、葉須香の姿にものすごく興奮し、感動したのであった。 握手会では決してあり得ない、アイドル級の葉須香が全裸で立っており、 おっぱいをぷるんぷるんと揺らして満面の笑顔を見せてくるので、破壊力 抜群だった。 「今日はみんな、握手会に来てくれてありがとう。応援よろしくねっ!」 <<どっきゅぅぅーーーんんっ!!>> (うおおっ!本物のアイドル超えてるぞ!!) (すっぽんぽんの破壊力も半端ねぇぇ〜) (しかも本物の笑顔だああ〜!こりゃ最高の握手会じゃないか!) 男子たちは見えない銃弾でハートに撃ち抜かれたかのように全員硬直し た。一瞬の沈黙の後、ごくりと喉を鳴らしながら握手の列に並んだ。 「最初は伊藤くんね」 「よ、よろしくお願いします」 葉須香が最初の男子、伊藤の手を優しく握った。 すべっ……!!「ふおおおおっ!!」 (女子の手って、こんなにスベスベするのかぁぁぁ〜) まるで高級シルクのような手触り。優しく包み込むような温かさ。指先 が触れ合うだけで、心の奥底がとろけてしまいそうな感覚を伊藤を襲う。 「伊藤くん、今日はありがとうね」ニギニギッ 「こ、こちらこそぉぉ〜」プシュゥゥ〜! 全身を真っ赤にした伊藤が静かに崩れ落ちた。 どうやら、握手と笑顔と手のスベスベ感のトリプルコンボに耐えられな かったらしい。 「いや、それだけじゃない!女子の誰かが入れ知恵しやがったな!」 「こんなことをするのはやはり!」 伊藤が倒れる姿に、ニヤリと笑い眼鏡のフチを指で押し上げる初堂の存 在に気づいた男子たち。 クイクイッ「今さら気づくなんて、遅すぎね」 (フフフ、葉須香には童貞男子を昇天させる握手テクを教えてあげたわ。 さあ雑魚チ●コを無様に爆発させなさいっ) 「ぬううっ!初堂の奴〜!余計なことを」 「まあ良いじゃないか!所詮、握手さ。この斎藤に任せな!」 「す、すごい自信じゃないか..さすがの斎藤だ!」 おっぱい大好きの斎藤が余裕の表情で手を差し出す。 「斎藤くん、今日も応援してくれて、ありがとうね」 「葉須香ちゃんのためなら、どこでも行くさ」 斎藤の目の前で無防備な葉須香のおっぱいが元気よく揺れる。 <<ばっきゅぅぅーーーんんっ!!>> 「こ、こんなの反則すぎるーーー!最高だぁぁぁ」 あっさりと斎藤が両膝をついて崩れ落ちた。 「ふははっ!握手会を経験してない奴には無理な話だ。ここからは握手会 四天王が相手になるぞ!」 先週も握手会に行った小宮が自信満々に手を差し出すと、それを見てい た初堂も何か指示を出してきた。 (あれはえっと、手を思い切り握るってことよね) 葉須香が初堂の指示に従って、握手の力を強くすると、一瞬で小宮は崩 れ落ちた。 「やっぱ、本物の握手は最強だ……」ガクンッ。 「次は太田くんね」 「言っておくが、小宮は四天王の中では最弱。俺はそんなに甘くないぞ」 <<ばっきゅぅぅーーーんんっ!!>> 「やばい!!包み込まれるぞおおお!!」 悦びのあまり、太田の身体が反り返り、そのまま無様に背中から倒れ込 んだ。 いったい何を教えたんだと、全員の視線は初堂の方に集まった。 言うまでもないが、自称四天王の残り2人も、歓喜の叫びのあとで仰向 けで倒れ、虚ろな目で天井を見つめていた。 男子たちの狂喜乱舞が教室に響く。葉須香が満面の笑みを浮かべながら、 優しく、それでいて力強く、一人ひとりの手をぎゅっと握りしめるたびに、 男子たちは昇天し、床に崩れ落ち、教室には握手会の戦場と化した。 そんな中、次に並んでいたのは中学の時からずっと一緒のクラスだった 室井だった。 室井は握手の順番が近づくにつれ、落ち着きなくズボンで手を拭いてい た。実は手汗がひどいのが昔からの悩みだった。 (やばいな……!いくら拭いても手が汗でベタベタだ……) 葉須香のすべすべした手を握ってしまうことが、室井は申し訳なく思え てならなかった。 (俺は握手会向きじゃないし..やっぱ、やめた方がいいな) そう思って室井が列を抜けようとした瞬間、葉須香がすっと手を伸ばし て、室井の手を握った。 「室井くん、どうしたの?」 「え、い、いや……!ほら、俺って手汗すごいし……びしょびしょだし…」 けれど、葉須香はくすっと微笑んで、力強く握り直した。 「そんなの前から知ってるでしょ?どうしたの」 <<ばっきゅぅぅーーーんんっ!!>> 「は、葉須香ちゃんーーー」 室井のハートが思い切り撃ち抜かれた。 「中学からずっと同じクラスでしょ?室井くんの手が汗っかきなの、知っ てるし、そんなの全然気にしないよ」 葉須香は満面の笑みで、室井の手をしっかり包み込んだ。 しかも、それは他の男子よりも長めの握手だった。 「葉須香ちゃんーーー!!」 室井の目に、ぶわっと涙が滲み、声を震わせながら感動すると、その様 子を見た男子たちも思わず拍手した。 「俺たちが見たかったのはこれだよ!」 「葉須香ちゃん、最高だあああ〜!!」 「これ、ラストの奴が羨ましすぎるぜ」 「え?室井がラストじゃねーか?」 まだ誰か並んでおり、そこには何故か校長がソワソワしながら並んでた。 「ようやく、私の出番が来たようだな!」 「……………え?」「何で?」 クラス全員が振り向き、葉須香も目を丸くする。 だけど、校長はニコニコと嬉しそうに微笑みながら、すでに手を差し出 していた。 「いやいや、ちょっと待ってください校長先生!!なぜ!?」 「おかしいでしょ!?いつから並んでたんですか!?」 「これをよく見るんじゃ!お前らと違って、私はこれを持っている!」 何故か、本格的な葉須香の握手券まで自作して持っていた。 「えっと……それじゃあ……校長先生、ありがとうございます」 困惑しながらも、葉須香は 優しく校長の手を握った。 <<ずっきゅぅぅーーーんんっ!!>> 「ふぉぉぉぉぉ……!!これが若さか…!妻とは違いすぎる」 握手と同時に校長の心臓が思い切りどくん!と跳ね上がる。 バタン。 「校長倒れたぁぁぁぁ!!!」 「保健委員!!保健室にはやく!!」 教室が大騒ぎとなる中、初堂が眼鏡のフチを指で押し上げながら、ボソ リと言った。 クイクイッ「葉須香の握手の威力……これほどまでとは……」 一方、葉須香は「こんなの続けたら、絶対ダメかも!」と今度の今度こ そ忘れ物をしないと固く誓うのであった。 |