第68話「裸体パズルを組み立てろ」


 最初は不評だったパーツの罰だったが、大当たり効果で前の罰より好評 となった。  罰が終わった放課後の教室には、夕陽が窓から差し込み、温かいオレン ジ色の光が床や机を柔らかく染めていた。  4組の男子たちは全員残っており、自分たちが集めたパーツを床に散ら ばせてから、1つ1つ繋げようとしていた。  葉須香の等身大の裸体を完成させるパーツなので、その大半は肌色一色 のように見え、手元のパーツはどれも微妙に似通った肌色ばかりだった。 「肌色ばかりだけど、これはこれで楽しいぜ。無駄に印刷が綺麗だしな」 「これは間違いなく高精細印刷ですな」「高精細印刷?カラー印刷と違う のか?」 「一般的なカラー印刷のスクリーン線数を175線で、それを300線以上にし た印刷が高精細印刷ですな。ただ、これは!1000線を超えてるのですぞ!」 「いや、でもあまり高精細にするとドットゲインの影響が出るんじゃ..」 「ドットゲイン?」「すまん、ドットゲインは本来の濃度と実際の濃度が 異なる現象で、インクと紙が圧力を受けてインクが広がってしまうんだ」 「もちろん、その欠点はありますが、これは超高級印刷用紙ですな!」 「超高級印刷用紙?」「耐水紙と印刷用紙の製造技術を応用し、耐水強度 に優れたドットゲインを発生しにくい用紙ですな!」 「いや、許奇の奴、技術と金を使いすぎるだろ!いや、これって、最先端 の世界技術じゃねーか」「かっての笛地を超えてるよな?笛地もう戻って も居場所がねーぞ」「って笛地の奴、3月末で研修追い出されたらしいぞ」 「いや、残りの4か月どうすんだ?って言うか日本に戻ってきたのか?」 「噂だと結婚を迫る久遠寺先生から逃げるために海外研修を受けたって話 だから、そのまま海外に居るんじゃないか?」 「俺が聞いた噂だと、変装して日本に戻ってきた数日後に久遠寺先生に捕 まったって話だぞ!」 「そうだとしたら、笛地はどこ居るんだよ。4月から見かけてねーぞ」 「ああ、肝心の久遠寺先生はいつも通りだし、これも噂だが、笛地を見限 ったって聞いたぞ」「マジか」「まあ、あんなことしてたらな」 「そういえば、その久遠寺先生があの許奇と付き合ってる噂もあるぞ」 「……」「……」「なあ、この話はここまでにしようぜ」「そ、そうだな」  何かを察した男子たちは、この話題はここまでにすることに決めた。 「昨日は完成するかどうか不安だったけど、まさかダブるパーツがあった とは驚きだな」「ああ、身体に残ってたパーツがおそらくダブりなんだろ う」「昨日の初日は相崎で、今日は飯倉くぱあが3枚だったな」 「相崎と飯倉はよくこんなくぱあを提供できるよな。大体、俺たち4組は あいつらのくぱあ見たこと無い奴ばかりだよな?」 「まあ、3組メインの罰で何回も晒しただけだしな。大河先生は名歯亀の 罰、普通に受け入れてたみたいだぞ」 「それにしても、相崎も飯倉もまだ処女だったのには驚いたな〜」 「ああ、処女膜まで見えるくぱあだったし、2人とも環状穴じゃないから、 男とやってらすぐに分かるしな」 「相崎が二ツ孔の中隔処女膜で、飯倉が小さな穴だらけの篩(ふるい)状 だったとはな。二人とも、あんなデカいおっぱいだから、3組の男子何人 かと経験済みだと思ってたぜ」 「そもそも、3組の男子連中、絶対フル勃起してたはずなのに、よく相崎 や飯倉の裸を見て、我慢できたな」 「いや、実はな..4組と違って勃起した男子も罰として勃ったままで全 裸起立されたようだぜ。しかも女子たちの見てる前で抜かれたようだ」 「おいおい、それって女子の手か?」「そんなわけねーだろ。自分の手か、 大河の指し棒みたいだぞ」「一見、屈辱的だが、大河の指し棒って結構、 癖になるみたいだぞ。思わず喘ぐほどの刺激だとよ」 「あと、大河の雑魚ちんぽ罵倒もかなり病みつきになるって話だぞ」 「要するに、指し棒で抜かれまくるから、セックスなんてする気力がない ってことか..女笛地、女名歯亀と言われるだけあるな」 「じゃあ、3組童貞率が高いって話はマジだったか..いや俺たち4組も 童貞ばかりだから笑えないがな」「最上級の推しがずっと間近に居たら、 そうなるだろ」「言えてる」 「大体、3組の女子たちって、大河の影響受けてるから、男にくぱあや、 おっぱい見られても気にしなくなった感じだな。相崎も飯倉も俺たちに冷 めた目を向けてたし」 「百合、BL好きの大河らしいけど..女子の恥じらい残してくれよ〜」 「って言うか、相崎や飯倉、3組の女子たち、葉須香ちゃん大好きじゃね ーか?」「2年の時のバレンタイン、葉須香ちゃん総取りだったし」 「つまり、飯倉がくぱあ提供したのも、葉須香ちゃんのくぱあ折り紙が欲 しかったんだろ?飯倉の奴、相当葉須香ちゃんのくぱあ持ってるみたいだ ぞ」 「だから、今日は飯倉のくぱあ折り紙だったのか。許奇の奴、俺たちの隙 を狙って、飯倉の机の上に投げたよな」 「それよりも、今日は1枚残らず拾ったはずなのに、何で葉須香ちゃんの 近くに落ちた1枚だけ見逃したのかが疑問だぜ。しかもそれが大当たりの くぱあだし」「いや、急に現れた感じもあるし、あれも許奇の仕掛けか?」 「おそらく陰影の錯視ですな」「陰影の錯視?」 「葉須香ちゃんや机の影を計算して、折り紙が見えなくする風にしてます な。明日は違う場所に置かれるので予測も難しいと思いますな」 「ちくしょおおおお、やっぱ俺たちが手に入れないようにしてるのか!」 「いや、でも身体から落としてるのは良心的だぞ!万が一、拾う可能性も 無きにしも非ずだし」「そういう演出が本当、俺たちを興奮させてるよな」 「当の葉須香ちゃんは全面否定してるけど、あれだけ顔を真っ赤にしてた らバレバレだよな」「まあ、今日も飯倉に返してと嘆願してたしな」 「そんなことより、早く組みあげようぜ」「そうだな、日が落ちてしまう」 「こっちの肌色は手で、こっちは足っぽいな」  どちらも肌色一色のパーツだが、濃い肌色と淡い肌色のピースを見比べ て適格に判断する男子。 「おいおい、それは上下逆だろ」「あっ、そうだったな」  肌色一色なのに、葉須香ちゃんの肌の向きを見極める男子も居た。 「こうやって、お腹部分が出てくるのがたまらんよな」  おへそを中心にパーツをはめ込んでいた男子は、葉須香のお腹が形を見 せ始めたのを感動していた。  初日は少し苦闘していた男子たちだが、2日目にはもうパーツを手に取 りながら、ここは腕だ、ふとももだと意見を交わし、肌色の濃淡を判断し て次々に等身大の裸体パズルを組み立てていった。 「でもさ、同じ絵を続けてるかと思ったら、こっそり変えるのが許奇らし いな」「ああ、昨日は足を閉じてたか、今日は開いているよな」 「乳首のパーツのダブりが多いと思ったら、実は全部、勃起の具合が違っ たしな」「交換しても違和感のないようにするよも凄いぜ」 「高精細印刷も活かしてますな。背景は教室の床になってますが、実際は 寝て撮ったものではないですな」「どういうことだ?もしかして..」 「情景の奥行きを作り出す風に影をつけていますな」「立体視か!」 「まあ、そんな感じですな。影と床との関係から、奥行きを感じるキャス ト・シャドウを用いてますな。簡単に言えば紙から飛び出す絵ですな」 「だから、俺たち完成までやめられないのか。この夕方の教室が余計にリ アルさを引き出しているよな」「ああ、離れて見ると葉須香ちゃんが寝て る風に見えるし」「今日なんて足を開いているから、股の間を覗いてしま うぜ」「いや、平面!へ、平面だよな?」  完成は近づくとついつい、何人かの男子たちが離れて、葉須香の立体視 を楽しんでいた。夕日に照らされながら、どの位置がより立体に見えるか に夢中になっていた。  そして、最後の一つをはめる瞬間は、男子たちが息を飲む中で、慎重に 最後のパーツをはめ込むと、教室の中に歓声が響いた。  今日も見事な葉須香の裸体が教室に現れたのだ。  みんなが肩を叩き合い、完成した裸体パズルを見つめながら、何とも言 えない達成感に包まれていた。 「これ、葉須香ちゃんが見たら顔を真っ赤にして怒るかもな」 「ああ、許奇の奴、わざと葉須香ちゃんの陰唇が離れてるのにしたな」 「肝心の部分は見えねーが、ぷっくら感はたまらんな」「言えてる」 「もう俺たちしばらく夜帰りだな」「いやいや、今日もマジで日が落ちて きてるぞ」「やばい、夢中になりすぎた!」「俺も!」  気づけば男子たちは肩を組み合って大笑いしていた。  さっきまで差し込んでいた夕陽はいつの間にか沈み、廊下が夜の静けさ に包まれていた。校門を出ると深い紺色の夜空に変わり、遠くで街の灯り がちらちらと揺れていた。 「ちくしょぉ〜、もう明日のパーツの罰が気になって仕方ねーな」 「許奇の思い通りにさせてたまるかよ。明日は葉須香ちゃんのくぱあを手 にするからな」「俺たちを舐めんなよ」  学校近くのバス停で校舎をもう一度眺め、「これで今日も終わりか…」 と少し名残惜しそうにバスを待つ。それほど、パーツの罰に夢中になった 時間が嬉しかった。  明日もパーツ拾いに熱中し、気づけば夜が訪れている。そんな日常にな りつつあった。  もちろん、翌日のパーツの罰でも葉須香のくぱあ2枚を手に入れられな かったのは言うまでもないだろう。  この日は初堂のくぱあが3枚だったが、許奇がこっそり錯視のヒントを 送ったらしく、男子が拾う前に「残念ね、これは私のお宝」と椅子の下に 落ちてた葉須香くぱあを取られてしまった。もう1枚は相崎の近くに落ち たので、こちらのくぱあも拾えなかった。  ちなみに裸体パズルは葉須香の両手をあげた後ろ姿であり、これはこれ でかなり興奮したらしい。  残念なことにGWがあったことで、鯉のぼりバージョンは4回のみで、 ラストは葉須香の両手をあげて足を開いた後ろ姿だった。  しかも久遠寺のくぱあ3枚とスペシャルバージョンに男子たちは大喜び した。 「許奇〜、これいつ撮ったものだよ?って久遠寺先生にバレたらまずいぞ」 「いつ撮ったかは内緒だ!許可も取らなくても大丈夫だ」 「いやいや、このくぱあ、鮮明すぎてやべーぞ」「言えてる」  男子たちの歓喜の声に許奇の気分は上々し、得意げに微笑んでいる中、 背後から静かな足音が近づいてきた。  ふと振り返ると、そこには久遠寺が穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。 許奇は内心、ドキリとするが、「鯉のぼりはラストだし..これぐらい.. いいよな?」と、いつも通りに振る舞おうとするが、久遠寺の目を見た瞬 間、許奇はごくりと息を飲む。  にこやかな笑顔のままだが、久遠寺の目には不気味なほど光がない。 冷ややかな目で、じっと許奇を見つめている。 「…まぁちゃん、いえ、許奇先生、少しお話しましょうか?」  その一言で男子たちはぴたりと歓喜の声を止め、許奇の背中が冷たくな る。 「いやいや、これぐらい晒されたことあるよな?」  笑ってごまかそうとするが、久遠寺の手が許奇の肩に置かれる。 「みんな〜、ちょっと許奇先生、借りていきますね」 「は、はい..こ、このくぱあ写真も..お返ししますか?」 「それは別にいいわよ。まだまだ若い娘に負けてないでしょ?」 「はい!これはお宝にします」「俺も!」「女子高生でも通じますよ」 「ふふ、ありがとう。さあ、許奇先生は私と来なさい!」 「ぁぁぁぁぁっ...」  いつもより少し強めに肩をつかまれ、許奇はすっかり観念するしかない 様子だ。男子たちも、明らかに冷や汗を流している許奇の様子を見て、口 を押さえながらクスクスと笑っている。  連れられていく許奇が、振り返りざまに何かを合図すると、察した男子 たちは「パズル組み立てた後で探すよ」と軽く手を振り返した。  放課後の教室、夕陽が窓から差し込む中で男子たちはラストの裸体パズ ルを組み立てていた。  床に膝をつき、真剣にパーツを組み合わせている姿を見て、今日は相崎 と飯倉が一緒に残っていた。 「これ、肌色ばっかりだよな..」「むー、これ本当に分かるの?」 「いやいや、よく見ると色が違うんだ」「こんな感じでな」  幾つかのパーツを並べて、肌色のグラデーションを丁寧に熱弁する男子。  濃い肌色、淡い肌色、そしてお尻の柔らかさが見えるような肌色と、ど れも微妙に異なるが、男子たちは分かるらしい。 「ここまで本気なら、言う事はないな」「むー、そうだね」 「ところで、お前らは今日は何で一緒に残っているんだ?」 「許奇を探すのを手伝ようかなと..」「むー、あとパズルも気になった しね」 「まあ、俺たちが喜んでのを見て、久遠寺先生も照れてたし、まあ大丈夫 だろ?」「どーせ、どこかに転がってるロッカーに入ってるよ」 「前から聞こうと思ったけど、あのロッカーってどこから出てるの?」 「むー、どうやってあれを仕掛けてるんだろう」 「ん?お前ら、一時期TVで流行っていたマジックショー見てなかったの か?」「ほら、特番でよくやってただろ。世紀のマジシャン、クオンジ・ フィールドのマジックショー、すごかったんだぜ」 「名前は聞いたことあるけど..」「むー、久遠寺先生と何か関係あるの」 「クオンジ・フィールドの孫娘が久遠寺先生なんだよ。結構有名だぜ」 「そうなんだ。でも、マジックショーでタネがあるんでしょ?」 「むー、ロッカーを出すマジックなんて簡単なような」 「いや、クオンジ・フィールドのマジックショーはレベルが違うぞ!生放 送の大平原に伸びる一本道でしたイリュージョンは鳥肌もんだったぞ」 「ああ、地平線が見える一本道を観客が見てる中でクオンジ・フィールド が両指をパチンパチンと鳴らしながら歩いてくるんだけど、次々と建築物 が出てくるんだよ。しかも観客がいつの間にか建築物の中に居るんだよ」 「あれはビックリしたぜ。日本の中継アナウンサーもしばらく言葉でなか ったよな」「あんな建築物出せるマジシャンの孫ならロッカーなんて朝飯 前だよな」「大体、よく考えてみろよ。葉須香ちゃんがいつも裸にされて たら、暴走する連中が絶対いるはずだろ?」「当時の3年生や、近くの高 校の連中だな」「葉須香ちゃんを襲う計画もあったみたいぞ」 「ああ、葉須香ちゃんが1年の時も上級生が体育倉庫や校舎裏に連れ込む 計画が幾つもあったみたいだぞ」「あの頃の葉須香ちゃんも絆創膏水着の 罰でおっぱい出してからな」 「それ、どうなったの?」「むー、すごく気になる!」 「一時期、校内のあちこちにロッカーが転がっていただろ。まあ言うまで もないよな..」「学校の周りもロッカーあった気がするぞ」 「いや、近くの不良の集まりなんてロッカーの展示場みたいになってたぞ」 「うわぁぁ〜、それ以上聞きたくない」「むぅぅぅーーー」 「そういえば俺たちが1年だった時は5組はかなりヤバい連中が多かった んじゃないか?」「男も女もイカレタ恰好してたよな」 「でも、1学期終わりになると全員、真面目になってたよな」 「確か、身長2メートルを超える極悪男子が居たよな?」「いや、俺は見 てないな。デカいロッカーなら校舎隅にしばらく置いてあったのは知って るけど」 「その男子ってバスケで全国優勝に貢献したノッポくんでしょ」 「むー、顔は怖いけど、ものすごく優しいって聞いたよ」 「ああ、そいつで間違いないよ。ロッカーがトラウマになったらしく、自 分の選手控え室のロッカーは要らないって話は有名だな」 「確か、クオンジ・フィールドもロッカーを見ると悲鳴を出すって噂だぞ」 ぼそり「名歯亀先生も..笛地先生も確か..」「むー」 「……」「……」「なあ、この話はここまでにしようぜ」「だな!」  何かを察した皆は、この話題はここまでにすることに決めた。  ちなみにパズル完成した男子たちは少し校内を探索し、校舎外れに放置 されたロッカーを見つけたらしい。中に誰が入ってかは言うまでもないだ ろう。  こうして、鯉のぼりバージョンのパーツの罰は終わったが、レベルアッ プまではまだ行かず、別のバージョンのパーツの罰が始まったのであった。


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