4月中旬のある晴れた日、葉須香は自ら決めた校庭5周の罰を受けるこ
とになった。
「わ、忘れ物をしたので、罰として校庭を走ってきます」
少しの緊張と共に校庭5周の罰をすることになった葉須香に4組の男子
たちは、葉須香が走り出す前に優しい言葉を掛けてくれた。
「罰だからって全力で走らなくていいんだぜ」「ゆっくり走ってこいよ」
と、彼らの声は温かく、葉須香の心を少し軽くした。
葉須香は深呼吸をして、ゆっくりと走り始めた。春の陽射しが暖かく、
空は澄み渡っていたが、1つだけ気になったことを口にした。
「これって罰なのかな..制服で運動してるだけじゃ..見ている皆も
すごく朗らかだし」
そう、校庭を走る葉須香の姿は、まるで春の風に乗って舞う蝶のようだ
った。髪が風になびき、汗が額に浮かび始める。
「こういうのもたまにはいいなぁぁ」「ああ、制服姿も最高だぜ」
男子たちは教室の窓からその様子を見守っていた。そして、葉須香が戻
ってきたときに備えて、机の上に汗を拭くためのタオルと冷たいミネラル
ウォーターを用意していた。葉須香が風邪を引かないようにと、心配りが
感じられた。
他のクラスの男子たちもこの罰のことを耳にしていたが、今更走る姿を
見ても何の興奮もしないので普通に授業を受けていた。
葉須香は、忘れ物の罰として校庭を5周走り終えた後、息を切らしなが
ら立ち止まった。授業中の校庭は静かで、葉須香の荒い呼吸だけが響いて
いた。汗が額から滴り落ち、制服が背中に張り付いているのを感じながら、
心の中で不安を抱えていた。
「はぁはぁ..こんなので..みんな私の忘れ癖が無くなると思うのかし
ら..」葉須香は、本音を思わず口にした。裸になっても忘れ物をして、
その度に罰を受けてきた自分に今回の罰が効果があるとは思えなかった。
(な、何か、これじゃ罰をした感じがしない..また忘れ癖が悪化したら、
どうしよう..)
再び同じ過ちを繰り返すのではないかという不安が心の中で渦巻いてい
た。
その夜、葉須香は喉の渇きで目を覚ました。冷蔵庫を開けると、飲みた
いジュースが無いことに気づた。
寝起きのクセ毛がひどかったので、頭だけ軽く洗った。ドライヤーで髪
を乾かしてから、小銭だけを持って近くの自販機まで買いに行くことにし
た。
乾かした髪がぼさぼさで、誰とも会いたくなかった葉須香は、近くのコ
ンビニを通りすぎ、そのまま自販機へ向かった。
(パジャマでコンビニは恥ずかしいし..ふぁぁ、あくびも出ちゃうし)
葉須香はパジャマを着ていると思い込んでいたが、実は全裸だった。
頭を軽く洗う際に、無意識に裸になって風呂場に入ったらしい。
夜の静けさの中、葉須香の足音だけが響き、無防備なおっぱいは大きく
揺れていた。
コンビニを通り過ぎ、3分ほど歩いたところに自販機の前へたどり着い
た。街灯の明かりがぼんやりと照らす中、自販機の前に立ち止まる葉須香。
「どれにしようかな〜、う〜ん」
自販機の光が彼女の顔を照らし、少し眠そうな目が輝いた。葉須香はの
んびりとジュースを選び、ボタンを押した。
「ピピピ、ピピピ」と大きな電子音が鳴り響き、ルーレットが回り出した。
葉須香は驚いて目を見開いたが、すぐに自販機のルーレットが回る様子
をじっと見つめる。運が悪いことに、大きな当たり音が鳴り響き、もう1
本タダで飲めることになった。
「うわっ!当たった。私って今日もしかしてツいてるのかな」
葉須香は嬉しさのあまり声を上げた。未だに裸でいることに気づいてな
い。傍から見ると、露出狂が全裸プレイをしているように見えていた。
そのまま葉須香は、2本のジュース缶を手に持ちながら、再びコンビニ
の前を通り過ぎ、家に到着し、何事もなく部屋に戻った。
「いやああああ〜すっぽんぽんだったよぉぉ」と気づいたのは、部屋に戻
ってからだった。
顔を赤らめた葉須香は誰にも見られていなかったことに安堵した。もし
これがコンビニだったら、露出狂と勘違いされるところだろう。
葉須香はベッドに戻り、ジュースを1本飲んでから、再び眠りについた。
(やっぱ、普通の校庭5周なんて駄目なんだわぁぁ〜!)
心の中で忘れ癖を直すための新たな決意が芽生えていた。
翌日、また忘れ物をした葉須香は罰を実行するために昇降口に向かうと、
そこには3年4組担任の臨時教職員の許奇 麻耶草(ゆるき まやくさ)が
立っていた。
ぼさぼさ頭で無精髭を生やした許奇が頭をかきながら葉須香に挨拶きて
きた。
「おはよ。須和葉須香さん」「おはようございます。許奇先生」
「えっと、僕はかしこまった呼び方は面倒なので、これからは葉須香でい
いかい?」「は、はい。構いませんが」
「ところで、もしかしてこれから噂のわすれんぼの罰をするのかい?」
「は、はい」「まさか今日も普通に走るだけかい?」「え?」
「コホン、実はね〜。バス停に痴女が現れたって噂話を聞いたんだけど」
「あっ、そ、それは..」「まあ、別に責めるつもりはないよ。ただ、こ
のままじゃ全裸のままでバスに乗っちゃうよ」
「そ、それは」
「臨時教職員の僕が言うことじゃないけど、ここは校庭5周を普通に走っ
ちゃダメなんだよ」
「え?それって..」
「どうだろう。ここは全裸で校庭5周を走ったら、いい罰になるんじゃな
いかな」
急におかしなことを言ってきた先生に葉須香は戸惑いながらも反論した。
「それはちょっと..」
「でも、もしもだよ。バスが出発間際だった時があったら、どうする?」
「うぅっ」
「もちろん裸に気づいてないから乗っちゃうよね。乗らない自信あるかい?」
「そ、それは..ないかも..あのっ、でも全裸の罰なんて絶対駄目です」
「もしかして何か勘違いしてないかい?」
「勘違いって..」
「僕が言うのは罰の再開ではないよ。走ったあとは制服姿で教室に戻って
もらうよ」「え?どういうことですか」
「つまり、これは限定的な罰さ。素っ裸でバスに乗らないための”校庭全
裸5周の罰”なんだよ」
「ぅぅぅっ..」(それを言われちゃうと心が揺らいじゃう)
「それとも、忘れ癖を悪化して全裸でバスに乗りたいのかな?いや、コン
ビニに全裸で入っちゃうかも知れないな」
「それだけはいやぁぁぁぁ〜」(何かやってしまう自分が思い浮かぶよ)
「じゃあ罰の再開は僕の権限では絶対にしないと約束しよう!こういうの
は4組の皆が決める事だし」
「本当に再開はしないんですよね?」「ああ、それは皆が決めることだ」
(何か引っかかる言葉だけど..限定的なら..罰をしても)
「そうだな。これはある意味、全裸飛び出しの罰からの脱却する罰になる
のかもな」
「ぅぅ…」
(こんな理不尽な罰、本当は許せないけど..でも..これは、わすれん
ぼの新たな罰よ..それなら私は..)
このままじゃ本当に全裸でバスに乗ってしまう可能性もあるのだが、何
故か脱ぐことがすごく恥ずかしくなっていた。
(あれ?今まで罰で脱ぐのが当たり前になってたのに..脱げなくなって
る?すごく脱ぐことが恥ずかしい..恥ずかしいの)
顔を真っ赤にして何も出来なくなった葉須香を見て、許奇が厳しい口調
で話してきた。
「よく考えてみろ、葉須香っ!恥ずかしい目になってるのは、何でだか口
で言ってみろ!」
「は、はい。忘れ物をした私が悪いんです!だから!須和葉須香はわすれ
んぼの罰を受けなければいけませんっ」
「よし!それじゃ、始業式から今までした忘れ物をしたことを含めると、
校庭5周の罰で上着を脱ぐのは?」「と、当然です」
「スカートを外すのは?」「当然です..」
「ブラを外すのは?」「それはちょっと..」「ああ?ブラを外すのは?」
「ぅぅ..当然です..」「じゃあショーツを下ろすのは?」
「全裸はいやぁぁっ!」「ここまで忘れたのは誰だ!」「わ、私です」
「つまり!ショーツを下ろすのは?」「と、と、当然です」
正面玄関で許奇に問い詰められて次々と服や下着を脱いでいく。
葉須香の足元には制服や下着が脱ぎ捨てられており、許奇は最後の質問
をした。「それじゃ..恥部を隠して走るのは?」「それも答えるの?」
(な、何か、笛地先生と話しているみたいだよ..ぁぁ)
「どうした?もう1回、同じことを聞くぞ。恥部を隠して走るのは?」
「ぅぅ..だ、駄目です!」
気づくと葉須香は恥部を隠さずに全裸で校庭5周することが当然という
ことになった。
だけど裸のままで校庭に出るなんて、どうしても出来ず、ここまで脱い
だにも関わらず悲鳴をあげた葉須香だった。
「いやぁぁぁぁぁっ!やっぱ無理ぃぃぃ〜。こんな恥ずかしい姿で校庭5
周なんて絶対おかしいよぉぉぉ〜」
「そうか、じゃあ中止だ!制服を着ていいぞ。それがお前の最終判断だろ」
「…ず、ずるいです..先生。中止にできるわけないのに..でも、この
ままじゃ走れない..」
「そうだな..じゃあ、ここは名歯亀先生の考えで行こう!」「え?」
「葉須香、こんなに忘れるとは呆れたぞ。全裸で5周?そんな罰で名歯亀
先生が納得すると思うか?これを見ろ」
「テープ?ま、まさか..」
「名歯亀先生なら、ここはテープでま●こを開いたままで走ってもらおう!」
「そんなの絶対無理ですっ!」
「ならテープ無しなら走るってことだな」
「わ、わかりました..」
(そうよ、名歯亀先生なら、あそこを開いたのかも..)
ついに、葉須香は全裸のままで校庭に立ち、深呼吸をしてから走り始め
た。周囲の視線を感じながらも、葉須香は一歩一歩を踏みしめて走り続け
る。
「こんな罰、ひどすぎるよぉ〜。もう、次からは絶対に忘れ物なんかして
たまるものですかぁ〜」と全身を真っ赤にして叫んでいた。
葉須香が全裸で校庭を走り始めると、校舎の窓から覗いていた4組の男
子たちがざわめき始めた。
彼らの視線が一斉に葉須香に向けられ、驚きと興奮が広がっていく。
「!!!!!!!!!!」
「おいっ!何で葉須香ちゃん、すっぽんぽんなんだ?」
「うおおっ〜、葉須香ちゃんが全裸で走ってるぞぉぉ〜」
「いや、喜んでる場合じゃねーよ。こりゃ、どういうことなんだよ?」
そう、校庭が見える教室からは葉須香が全裸で校庭にやってきて、その
まま恥部を隠さずに校庭を5周している姿が見える。
幸いなことに4組以外のクラスで騒いでいないところを見ると、葉須香
の全裸走りを見逃しているのだろう。
校庭を5周走り終えた葉須香は、息を切らしながらも罰の効果があるこ
とを感じていた。これで忘れ物が減ることを願いながら、昇降口で制服へ
着替えた葉須香は教室に戻った。
「やっぱ、あれはまずかったのかも..許奇先生の剣幕がすごかったとい
っても信じてくれないし、そもそも、これで罰が再開したらどうしよ〜」
どうしても罰の再開をしたくない葉須香は、全裸で5周したことに今さ
らながら後悔していた。
「い、言い訳を..何とか考えなくちゃ..」
いっそ素直に許奇先生に言われたと素直に喋ってもいいけど、だからっ
て全裸で走るのもどうかしている。
「でも許奇先生に言われた罰なんだけど..信じてくれるのかな」
(本当にどうして、あんなことしちゃったのよぉ〜)
「はぁぁ〜。もう教室に着いちゃったわ..」
結局何も思いつかないまま、制服姿の葉須香は教室の前まで戻ってきた。
(ああぁぁ..どう言えばいいか分からないよぉぉ〜。きっと、みんな怒
るかもしれないわ..)
ガラガラッ。さっきの全裸罰をどう言ってくるのが不安いっぱいの中、
葉須香はおそるおそる教室のドアを開けた。
葉須香の顔は真っ赤で困惑の表情をしていたが男子たちは普通に話して
きた。
「葉須香ちゃん、ご苦労様〜。少し休んだほうがいいよ。ほら、席に座っ
た座った〜」「あ、あの..あれはその..」
「それは後でいいよ。今はゆっくり休んだやすんだ」「う、うん..」
何故か男子の誰もが、さっきのことについて1つも聞いてこないことに
違和感を感じたが、あとでしっかりと説明すればいいと今は思った。
(絶対に!絶対に罰の再開だけは避けなくちゃ!うん)
結局、葉須香は何も説明出来ずに1日を終えることになり、うやむやな
ままで翌朝を迎えることになった。
「忘れ物が無いか、学校行く前にチェックしなきゃ」
独り言をつぶやきながら、カバンの中を確認した。今日は普通に起きる
ことができ、忘れ癖が少しマシになったのを実感していた。
(やっぱり、あの罰はやって良かったのかも..今日は忘れ物しない自信
があるから罰をしなくていいんだし)
しかし、家を出た後、葉須香の部屋には今日の授業で使う教科書が1冊
だけ置いたままになっていたことに気づくことはなかった。
学校に到着すると、教室では葉須香より少し早く登校してきた4組の男
子たちが昨日の件で騒いでいた。一部の男子たちは、罰の再開を提案して
いた。
「やっぱエッチな罰の方で攻めていこうぜ。葉須香ちゃんもきっとまんざ
らじゃないしな」
「いや、あれは先生が絡んでいそうだし..あの許奇って何で臨時なんだ?
色々と怪しいとこあるよな」
「けど、ただ走って忘れ癖が治るわけないことはみんなも分かってるよな?」
「そりゃそうだけど、俺は他に何か絶対いい方法があると思うんだ」
「でもな。忘れ癖って健忘症みたいなものだろ。悪化させてもしものこと
があったら俺一生後悔するぜ」「だからって裸は駄目だ!」
「ここは様子を見ようじゃないか。なあ、みんな?」
「うーん、わかったよ。所詮、俺たちだけじゃ罰は難しいし..」
こうして、昨日の一件は見なかったことにしようと決めた男子たち。
まさか登校してきた葉須香が教室の外で聞いてしまったとは思いもしな
かっただろう。
(やっぱ、みんな真剣に考えてるんだわ..私も..本気で..この癖を
治さないといけないわ)
ガラガラッ。「おはよ、みんな」「!!お、おはよ、葉須香ちゃん」
「おはよ..今日もいい天気だな」(やべ〜、今の聞かれたか?)
「どうしたの?みんな。何か顔が険しいよ」「そ、そうかぁ?」
「・・・えっと、今日も..忘れ物をしちゃった..ごめんね」
「謝ることはないよ、葉須香ちゃん」「じゃあ、今日も校庭5周だな。制
服で5周だからな」「!!ばかっ、お前。強調しすぎだ」「ははは..」
「くすっ、そうそう、今日の忘れ物だけど..じゃーん、教科書1冊だけ
でした!」「おおっ!俺より忘れてねーじゃないか」「すげーな」
これは明らかに昨日の全裸5周の罰が効いたのだが、誰も口にすること
は無かった。
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