第58話「全裸飛び出しの罰」(挿絵:さばにしきさん)


※時々CGと文字が重なる場合がありますので、その時は1回再読み込みしますと直ります。

 高校3年始業式の日。高校3年生になった葉須香は、春の柔らかな日差 しが差し込む教室で、窓の外をぼんやりと眺めていた。 「何か..制服姿で1日過ごすなんて久しぶりかも..」  高1からの「わすれんぼの罰」の記憶を振り返る葉須香。 「わすれんぼの罰」は、元々、忘れ癖を直すために導入されたもので、忘 れ物をするたびに罰の辱めが増していくというものだった。  最初は皆の前で校歌斉唱する程度だったが、次第に罰の辱めが増してい き、2年生の途中からは全裸のままで一日を過ごさなければならなかった。  しかも、高校3年生の初日から全裸登校することが決まっていたからだ。  もちろん、それは自宅のドアから何も着ないで生まれたままの姿で通学 することである。 「そんな露出狂みたいなこと絶対に嫌!何でそんなことを」  しかし、運命は葉須香に微笑んだ。名歯亀が定年を迎え、学校から去る ことになったのだ。彼の退職と同時に、「わすれんぼの罰」は全て白紙と なり、葉須香はその知らせを聞いた瞬間、心からの喜びを感じた。 「これで、忘れ物をしても制服のままで学校生活を送れる…」  葉須香は、胸の中に広がる安堵感を噛みしめた。 「そうよ!もう全裸にならなくていいんだよね、いいんだよね!」 と、葉須香は心の中で何度も繰り返した。  もし名歯亀がまだいたなら、始業式当日に全裸で登校し、忘れ物がひど い場合は、おま●こも開くことになっていただろう。  ちなみに始業式は鞄と筆記道具だけで良いのだが、葉須香の手に持って いたのは菓子パンだった。 「ぅぅ..鞄忘れちゃった..でも制服のままで新しい教室に行けるんだ」  3年も同じ4組であり、クラスメイトの顔ぶれはほとんど変わらず、数 人の入れ替えがあっただけだった。  本来だったら、罰がリセットされることはなく、葉須香は裸で登校し、 新しい罰を言われたはずだ。 「そうよ。いきなり裸で教室に行くなんて絶対におかしいわ!もう、裸に なんて2度とならないからっ!」と、葉須香は自分に言い聞かせた。 (そう、これが普通っ!クラスのみんなも罰を要求しないし、これで3年 は普通の学生として過ごせるよね)  しかし、葉須香の忘れ癖は相変わらずで、翌日も鞄の中には全然違うも のがいっぱい入っていた。 (う〜ん、ちょっと今日はたまたま忘れ物が多かっただけよね)
 少し忘れ癖が悪化したかもと思う葉須香。今までは必死に辱めを受けな いように神経を尖らせていたので、少々の忘れ物で済んでいたが、罰が消 えたせいで緊張感がすっかり消えてしまった。  そんな葉須香は、忘れ癖がひどくなることを気にせずに過ごしていた。 「忘れても問題ないし、ひどくなったら注意すればいいだけ」と楽観的に 考えていた。しかし、その気軽さが忘れ癖をさらに悪化させることになる とは、まだ気づいていなかった。  ある朝、葉須香は久しぶりに寝坊してしまった。慌てて焼きたてのコロ ッケロールを口に咥え、家から飛び出した。しばらく走ったところで、突 然立ち止まり、顔を真っ赤にして家に戻ってきた。 「いやぁぁぁぁぁ〜!服着るの忘れちゃったよぉぉぉ〜!」  葉須香は1年生の頃によくしでかした玄関からの全裸飛び出しを久々に やってしまったのだ。靴下を片方間違えることはよく聞くが、シャワーを 浴びたあとで着替えるのを忘れて裸で家を出るなんて、葉須香にしかでき ない芸当だった。 「2年生の時は1回もしなかったのに、なんでぇぇ」と、葉須香は悔しそう に呟いた。今まではわすれんぼの罰の効果で全裸飛び出しをしなかった葉 須香だが、罰がなくても忘れ癖の悪化で罰をしたような目に遭ってしまう 様だった。  実は中学や小学の頃も、忘れ物がひどくなると全裸のまま家を飛び出し てしまうことが度々あった。しかし、高校生になった今、そんなことはも うないと思っていた。  葉須香は自分に言い聞かせた。「今日は偶々だし、さすがに小さい頃み たいに家を出てもずっと気づかないなんてことないわ」  しかし、現実は違った。翌朝、葉須香は再び全裸のままで家を飛び出し てしまったのだ。 「呑気に朝食食べるんじゃなかったぁぁ〜。このままじゃバスに乗り遅れ ちゃう」  裸であることに気づかない葉須香はそのまま井戸端会議をしていた近所 の主婦たちに出くわした。  けれど、主婦たちは全裸の葉須香を見て、特に驚くこともなく声をかけ た。 「おはよう、葉須香ちゃん。その姿久しぶりね」「え?」 「ずい分とおっぱいは大きくなったわね」「あああっ!いやあああ」 「うふふ、その姿じゃ露出狂と勘違いされちゃうわよ」 「あっ!えっと、おはようございます..これはその」  慌てる葉須香に主婦たちは笑いながら、「もう、今さら隠しても遅いわ よ」「顔真っ赤にして可愛い」「ほら息子が来ちゃうわよ」  葉須香は必死に恥部を隠しながら急いで家に戻った。どうやら主婦たち は葉須香の忘れ癖に慣れていて、温かく見守っていた。 (これも朝が弱いせいなんだけど..何で玄関で気づかないのよぉぉ〜)  そう、忘れ癖が酷くなると、朝がとても弱い葉須香は他人が信じられな いことを繰り返す。  そう、新しいわすれんぼの罰「全裸飛び出しの罰」が始まったかのよう になっていた。  普通、玄関からの全裸飛び出しなど、1度懲りたらしばらくやらないの だが、忘れ癖が改善されないと数日も経たない内にまた朝シャン後に服を 着忘れて全裸飛び出しをする。  しかも距離が少しずつ伸びていき、今度は配達のお兄さんと裸で出くわ してしまった。お兄さんは全裸の葉須香の姿を見て、一瞬驚いた表情を浮 かべたが、すぐに顔を真っ赤にして目をそらした。 「おはよ..葉須香ちゃん..さすがにもう高校生なんだから..」  葉須香も恥ずかしさで顔を赤くしながら、「おはようございます…今、 気づきました」と答えた。  どうやら、お兄さんは何度か葉須香の全裸飛び出しを見ており、顔を赤 くしたまま、そのまま次の配達先へと向かった。 (もう、こんな恥ずかしいこと、絶対にするもんですかぁぁ〜!)  そう固く誓った葉須香は数日後にまた裸で飛び出して、今度は散歩中の おじいちゃんに出会った。おじいちゃんは葉須香の全裸姿を見て、微笑み ながら声をかけた。 「おや、葉須香ちゃん、最近の高校は全裸で登校するのかい?」「はっ!」  葉須香は顔を真っ赤にして、「お、おはようございます…こ、これはそ の」「着忘れたんじゃろ?まあ、わしは朝からいいもんを見せてもらって 幸せじゃな。ふぉっふぉっ」と優しく笑ってきた。 「ああ〜ん、私のバカァァァァ」と慌てて家に戻る葉須香の姿を見送りな がら、長生きして良かったと微笑んでいた。 (これじゃ、わすれんぼの罰をしているのと同じよぉぉ〜。次はもう絶対 に!絶対に裸飛び出ししないんだからっ)  けれど、またやってしまうのが葉須香であり、今度は、登校途中の小学 生たちと出くわしてしまった。  小学生たちは葉須香の姿を見て、大声で笑い始めた。 「うわぁ〜すげぇぇ!葉須香お姉ちゃん、すっぽんぽんで走ってる」 「もしかして罰が全裸登校になっちゃったの?葉須香お姉ちゃん」 「あっ!こ、これはその」と全裸に気づいた葉須香は真っ赤になった。  それに気づいた小学生たちは笑いながら、「もしかしてお母さんがこの 前言ってた、服を着忘れて裸できたんじゃない?」「え〜高校生だよぉ」 「それが許されるのって幼稚園児までだよ」とからかい続けた。  葉須香は恥ずかしさでいっぱいになりながらも、「だって、忘れちゃっ たんだもぉぉんん〜」と涙目で叫び、急いで家に戻った。  こうして葉須香の全裸飛び出しは何回もする内に、何と近くのバス停ま で走ってしまった。 「これじゃ露出狂と勘違いされそうだよぉ〜。大体、裸で出ても感じない し、毎回恥ずかしい思いをするだけなのに!」  ちなみに、ご近所さんは毎度のことなので、露出狂とは思っていない様 だ。  葉須香自身はあまり見られてないと思っているが、こっそり見られてい るようであり、近くの大学生が多く住むアパートの住人たちは窓からその 様子を見ていた。彼らは葉須香の全裸姿を見て、驚きながらも声を掛ける のをためらった。 「また葉須香ちゃん、忘れ癖が悪化してるじゃん。高校生なのに..」 「けど、俺たちが声を掛けたら恥ずかしい思いをさせちゃうよな」  住人たちはお互いに目配せしながら、葉須香が無事に家に戻るのを見守 った。彼らも中学生の頃の葉須香の忘れ癖を知っていて、温かい目で見守 ることにした。  また近所の家の窓からも裸で走る葉須香の様子を見られていた。 「中年の俺が声を掛けるのは不味いよな..葉須香ちゃん、高校生だし」  葉須香が小学生の頃、裸で飛び出すのを注意していたが、今は心配しな がらも声を掛けるのをためらった。 「きっと見てるの俺だけじゃないよな..やばくなったら助けに行くか!」  何件かの家の人たちはお互いに目配せしながら、葉須香が無事に家に戻 るのを見守った。彼らも葉須香の忘れ癖を知っていて、温かい目で見守る ことにした。 「どうしよう〜!このままじゃどんどんひどくなっちゃう〜!制服以外に もおかしな忘れ物をしちゃうしぃぃ〜」  そう、忘れ癖がひどい葉須香は常識では考えられない忘れ物をしてしま い、学校に持ってきたものが鞄ではなくて、フライパンだったときはクラ スメートたちは驚きと困惑の表情を隠せなかった。  誰も葉須香に何を言っていいのかわからず、ただ見守るしかなかった。  男子たちは、葉須香の忘れ癖がどんどんひどくなっていくのを心配し、 声をかけることにした。 「葉須香ちゃん、罰はしなくてもいいから、何か忘れ物をしない方法を 考えないか?」 「そうだよ。最近の葉須香ちゃん、忘れ物がひどすぎるし…心配だぜ」 「そ、そうよね…私もそう思う」と、女子の方も同意した。 「もうあんな変な罰は出さないから、みんなで考えていいか?」 「俺たち、葉須香ちゃんの力になりたいんだ!」 「うん、お願い」  こうして久々にHRのテーマとして”わすれんぼの葉須香の忘れ癖をな くすには”として話し合うことになったが、いい解決策がでるわけがない。  大体、全裸になるまで忘れ物を続けた葉須香に普通の方法が通じるわけ がないだろう。  そう、あれだけ罰を恥辱に変えたのは葉須香の忘れ癖がそれだけひどか ったからだ。葉須香もようやくその事実に気づいたようだ。  なんで私は校歌を歌う罰から、全裸で立つまでレベルアップしたのか。  どんな辱めを受けても忘れものを続けたから。その辱めを受けないよう に努力している自分も居たけど、今はそれが全く無い。  だからって全裸の罰なんて再開したくない。葉須香が男子に提案すれば 罰は再開するが、絶対にそんなことしてたまるものですかと誓っていた。 (当たり前よ!もう私は裸にならないんだからっ!あんな恥ずかしいこと 2度と御免だわっ。けど..普通のペナルティなら..ありかも)  エッチな罰は2度とするつもりはないが、ペナルティみたいなものが必 要なのは分かっていた。 「・・・1年生の頃にやった校歌熱唱を違う方法でやればいいのかも..」  葉須香は今度、忘れ物をしたら校門のところで校歌を熱唱することを決 めた。 「うん!これなら十分恥ずかしいし、忘れ癖もなくなるかも!」  まあ、今更校門での校歌熱唱程度で忘れ癖が治らないのは言うまでもな かった。 「そうよね..校門で歌っても、思ったより恥ずかしくないし..う〜ん」  校門で悩んでいた葉須香に3年1組の男子たちがろくでもないアドバイス をしてきた。 「前みたいに裸になれとは言わないけど、少しは恥ずかしい姿じゃないと 駄目なんじゃないか」「・・・そうなのかな」「試してみたらどうだ?」 「う、うん..でも..」「俺たちが壁になってやるから着替えてやって みな」「そ、そういうことなら..」  こうして、翌日は体操着で歌うことにし、翌々日はスクール水着で歌っ てみたが、大した効果は現れなかった。  気が付くとレオタードや演劇部から借りた衣装で歌ってみたが歌唱力が 高まるぐらいだった。 (やっぱこれじゃ忘れ癖が治まらない..コスプレ程度じゃ駄目かも.. ペナルティらしいものでいかないと駄目よね?)  ついには3年1組の男子に言いくるめられて、少しずつ脱いでいく脱衣熱 唱の罰をやることになり、気づくと下着姿で元気に歌っており、「って! これじゃ、明日忘れたら、おっぱい出すパタンじゃないのよぉぉ〜」と顔 を真っ赤にして我に帰った葉須香が居た。 (いくら言いくるめられたからって何で下着姿になっちゃったの?これじ ゃ今までの流れと変わらないわ) 「葉須香ちゃん。別にこれ以上脱がなくても俺たち文句言わないぜ。大体、 俺たちもここまで脱ぐとは思わなかったし」「まあ脱ぐのを止めなかった 俺たちが悪いよな」「男子のサガだと思って許してくれっ!なっ」 「・・・うん、悪気がないのは分かってたし、ここまで脱いだのは私の方だ から」 「ありがと、葉須香ちゃん」「けど、4組の連中に文句言われそうだな」 「みんな..」(1組もみんなも真剣につきあってくれたのね..)  どうやら3年1組の男子も葉須香を裸にさせるつもりはなかった。 「葉須香ちゃん、この罰は今日でやめた方がいい。俺たちが壁になってる せいで目立ち始めたからな」「あまり力になれなくてごめんなっ」 「わ、私こそ、みんなに感謝してるから。ありがとう、みんな」  それにしても、どうしてここまで脱いだのだろうか?  先生に言われてやるのなら分かるけど、男子たちに任せてここまでする とは思いもしなかった。  ここで我に帰ったからいいけど、きっと次忘れたらブラを外したのかも、 それでも駄目ならショーツを下ろしてたはず..  いや、これには男子たちに言えない理由があって、この罰のおかげで忘 れ癖が少しながらも改善に向かっていたからだ。  実は、1組の校歌熱唱の罰を続けていくうちに、全裸飛び出しが玄関で 気づくようになった。  そこは感謝したい葉須香だが、そもそも罰自体が下着姿までレベルアッ プしたら、本末転倒であり裸で罰をしたら元通りだ。  この脱衣熱唱は危険だと判断した葉須香は新たな罰をホームルームでみ んなと一緒に考えることにした。 「!そうだわ。1人で校庭3周..いや5周走る罰なら、汗もいっぱいか いて疲れるし、目立つ罰だからいいかも知れない!どうかな、みんな?」 「いいと思うけど、脱衣熱唱みたいに勝手に過激にするのは駄目だぞ」 「あれじゃ、名歯亀や笛地の罰そのものだぜ」 「そうよね..もうあんな恥ずかしいことはしないから..」 「葉須香ちゃん、制服だけは絶対レベルアップで脱ぐなよ」 「レベルアップは別の方法でいってくれよ」 「う、うん、今度はずっと制服で走るし、走る距離を増やすのがレベルア ップならどうかな?」「なるほど、それならいいな」「俺も賛成だ」 「ガンバレよ。葉須香ちゃん」「うん」  葉須香はこの時、ちょっと不思議に思った。2年の時はあんなに先生と 一緒に葉須香の恥ずかしいところを見ようとしたのに..  それが例の名歯亀定年があってからは、すっかり真面目になったような。  4月になって3年1組の担任に復帰した裾部も人が変わったかのように 痩せ細り、女子に辱めをしてくることも無かった。  それと1組の男子も脱衣熱唱の罰以降、何もしてこなかった。 (でも、これでいいんだわ。あんな辱めの罰はもう2度としてはいけない んだから!)  こうして4月中旬から校庭5周の罰を葉須香自身が決めて、案の上、忘 れ物をしたので校庭を走ることになった。


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