最終話「みんなと俺」


うっとうしい雨が続く梅雨の中、意外にも平穏な日々を過ごしている事に 不思議さを感じてしまう。 露出部なんて、とんでもないものを作った以上、くだらないことをすると 思ったアミモだが、こいつは相変わらず、ただぶっ飛んだ話を俺らに聞か せるぐらいであった。 まあ、たまにアミモが機嫌が悪いと、しゅまぁちゃんが脱がされるという 美味しいハプニングがあるから俺にとっては嬉しいことだ。 だが、いつこいつが何をしでかすかが不安でたまらない。 特に上機嫌の笑顔でいる時は何かくだらない事を考えるはずだからこいつ の笑顔は怖い感じだな。 「ねえねえ、そういえば夢魔って1人だけだと面白くないよね〜」 またこいつの突然話が始まった。 少しは聞かされる俺の身になってほしいぜ。 「まあ、夢魔はサキュバスとインキュバスがいるからな..けど、インキュ バスは男じゃなかったのか?」 「そうそう、けど彼らって実際は同一の存在なんでしょ?じゃあ、両方女性 でもいいわけよね?」 まさか、こいつは夢魔を2人、入部させたいってことか? まあ、その前に1人目の夢魔を用意しろっていいたいよな.. 「部員は1人で充分だわ。もう1人は露出部の様子を見ているって感じでどう かしら?」 「何だよ..それは..俺たちの様子を見て何がしたいんだ?」 「きっと露出部がすっごぉい事をしてくれるのを待っているとか♪」 いや、その前にすっごぉい事は控えて欲しいんだがな.. 「う〜ん、考えただけでゾクゾクしちゃうわね〜♪きっともう1人の奴は私たち がすっごぉい事を早くすることをずっと待ってるのよ」 じゃあ、そいつは永遠に待ってもらいたいね。 俺がそいつに会ったなら待つだけ無駄だぜ!って忠告してやるぜ。 「そうだ!そんなに待たせるのは悪いから何か行動しなくちゃね♪とりあえず、 しゅまぁちゃんに何かエッチなことをさせてみましょ〜」 いつも思うんだが、露出狂宣言をしているお前が何故やらないんだ? まあ、しゅまぁちゃんの「ふぁぁぁんん〜」と甘い声を出して恥ずかしいこと をしている姿を是非とも見たいのは言うまでもない。 「さあ、善は急げってことね〜、あんたも早く来なさいよ」 「わかったよ」 言われなくても行くさ。しゅまぁちゃんの霰もない姿は俺の唯一のオアシスだ からな。 相変わらずアミモは言いたい事だけいって、先に行ってしまった。 さすがに、ほっとくとすっごぉい事をしそうだから、ある程度で止めるつもり だ。 もし、もう1人の夢魔って奴が居たとするなら残念だなと大きな声で言ってやる だろう。 それとも意外と俺の取る行動に止めにかかるとか.. いいだろう。居たら本当に止めてみろ!俺を足止めさせてみろって言いたいぜ。 「あの〜ちょっといいかしら?」「国龍さん」 「ごめんなさい..もしかして急いでいた?足止めしちゃったかしら..」 「別に平気ですよ。何か俺に用ですか?」「ええ、ちょっとね」 これは嬉しい展開だぞ。クラスの中で一番人気のある女子から声をかけてもらえ るなんて絶対に有り得ないことだろう。 こんな足止めだったら、いつでもOKさ。 アミモがさっさと居なくなってラッキーだった。あいつが居たら真面目な国龍さん が来るはずないからな。 「最近、部活がんばってるみたいよね?」「そうですね..」 これはどういう質問なんだ?露出部の存在はもうクラスの全員が知ってる事だから 委員長の国龍さんが知らないはずはないよな。 もしかすると真面目な国龍さんだから、俺にこの部を何とかして欲しいという無茶 なお願いでもしてくるとか.. 「変な部はわかっているわ..でも竜宮さんがあなたのおかげで明るくなったのは 嬉しいわ。あとはクラスのみんなとも仲良くなってくるともっと嬉しいよね」 おおっ、さすが性格の良い国龍さんだ..あんなぶっ飛んだ奴の心配までするなん て普通は出来ないぞ。 アミモと同じ見事な容姿を持ち、成績も優秀、それでいてみんなからの信頼もあると いうからこれぞ完璧少女の見本と言った方がいいだろう。 ネジ一本入れ忘れた完璧少女の大失敗品であるアミモとは大違いだ。 「すいません、あいつが変な部を作ってしまって。いつか俺があんな部を無くしま すから」 「ううん、それは望んでないわ。せっかく竜宮さんが元気になったのよ。多少おか しくてもしばらくそのままにしてあげて」 いや、そのままにしたらとんでもない事になります。こればかりは譲れないかも.. 「私ね..みんなが仲良くできるクラスが好きなの。だから、ずっと委員長をやっ てるの」 なるほど..国龍さんらしい素晴らしい考えだ。そういう国龍さんだからアミモの ことを心配しているということか.. 「すいません、その内、あいつもまともにするのに俺も力を貸しますので」 「心強いわね。頼りにしてるわ」頼りにしてくださいっ!その言葉だけで俺は頑張 れます。 「ねえ〜、私思うんだけどぉ..人って何かが起こってから行動を取るよね.. あれって遅いよね?」「まあ、日本人は特にそういうとこが目立つけど..」 う〜ん。急に真面目な話をしてきたぞ..このまま政治問題でも話しそうな勢いだな.. 「たとえば..最近問題になってる学級崩壊なんてどう思うかしら?あれって起こる 前に手を打てたと思えないかしら?」「そうだな..まあ手は打てるよな..」 ぅぅ..何かだんだんと真面目になってきたぞ。ある意味、これはこれでツライん だが.. 「こういう時は先に手を打っておくべきよね?私のクラスはたまたま問題のないク ラスばかりだったから良かったんだけど..」 それって遠回しにアミモを何とかしろってお願いなのか? まあ今まで国龍さんが委員長をしていたクラスは不思議に問題が起こらなかったと 言うからすごいことだ。 いや、もしかしたら国龍さんの人柄にクラスの悪い心が浄化されたかも知れない。 もしそういう力があったら、すぐにアミモを浄化して欲しい! けど国龍さんのクラスでもそういうトラブルは皆無ではなく、入学した当時に真面目 だった彼女を嫌った男女5人が放課後に呼びつけたという事件もあった。 しかし翌日には男女5人がすっかり人が変わった様な無欲な人間となり、聞いた話 だと国龍さんが必死に説得したのではないかと言う。 それが本当なら浄化という表現はあながち間違いではないかも知れない。 「ねえ?さっきから黙ってるけど..私、難しい事、言っちゃったかしら?」 「そんな事ないですよ。アミモの件は何とかしますので」 「お願いするわね。でも、部活は彼女の元気の素だから、そのまま続けさせてあげて」 「そうですか..」 「さっきも言ったけど..遅いのってあまり好きじゃないの..それだけは知って 欲しいかな」「はぁ..」 う〜ん、これはどういう解釈で捕らえたらいいのだろうか..何故か、教室から無性 に逃げたい衝動にかられるが、この真面目な雰囲気に耐え切れないからか? 「お・俺..そろそろ部の方に行くとするよ。じゃあ、また明日」 「明日?会えたらいいね..」「えっ?」 あれっ、今日は週末じゃないよな..国龍さん、明日が休みだと思ってるのか? 「そういえば..あなたのあだ名、イエローだったよね?」 「ええ、俺はそんな変なあだ名、嫌いなんですかね。色があだ名っておかしいと思うし」 「そう?私はイエローって名が好きよ♪・・・・・・・・・ばいばい、イエロー」 何だ?急に国龍さんが俺のことをあだ名で?いや、俺はそんなあだ名を認めてないが。 「ん?何だ..扉が動かない?」 教室から出ようとする俺が扉を動かそうとしたが、何かが引っかかって動かないぞ? 「ごめんなさい♪それ無理かもぉ〜」「えっ?」 国龍さんが満面の笑みで俺にそう答えて来たのだが、何か普段とは異質な感じがして ならない。 いや、よく見ると国龍さんが服を着ていない?いつの間にか全裸となって立っていた? もしかして、これは嬉しいシチュエーション到来かっ! 普段の俺なら大喜びするはずだが、何故か身体が異常に震えて怯えている。 これは一体..どういうことなんだ!
最終話後編
何で俺はこんなに震えているんだ?疑問に思う俺に全裸の国龍さんが俺の方へ 迫ってくる。 「これで変わるはず..動いてくれると思うわ♪」 何が動くっていうんだ?わけ分からないぞ!とにかく教室から出たほうがいい んだが、いつから鍵が取り付けられたんだ。 それも内から開かないなんておかしいだろう。 「それ、開かないようにしたから何やっても無駄よ」 おい?開かないようにって?マジシャンじゃあるまいし、いつ鍵なんて取り付 けたんだよっ! 「国龍さん待ってくれ。俺に説明できるようにいってくれ!どうして開かない んだ?なんで裸でこんなことを?」 「ふぅ..調子くるっちゃうわね..まあ、竜宮さんが関係してるってことかしら? これ以上、言ってもいいけど..言うと後戻りできないかもよ〜♪」 ああぁっ!ちっともわかんないぞっ!とりあえず、またアミモが絡んでいると いうことは確かってことか? 「イエス?ノー?さあ選択してよ〜♪イエロー」 微笑みながら2択を迫ってきた国龍さん。1つだけ分かってるのはイエスは決 して言ってはならない気がする。 「結局、あなたも遅いのね..残念ね♪タイムオーバーよ。あなたの答えは、 イエスってことにするわ。じゃあ行くわよ」 おいおい、勝手に決めないでくれよ。大体、行くって何だ?何をする気だ! 「まず、竜宮アミモのことだけど..彼女は蒼き..」 ガラァッ!「青き青春ってやつですかぁ〜。いやぁ〜2人きりってラブラブ っすかぁぁ〜」 突然、教室のドアが開き、大きな元気な声が俺の耳に届いてきた。 健康的な白い歯を見せつけながら大きな口を開けて明るく喋りだす女子。 そう、穂村さんがいきなりドアを開けて現れたのだ。 「!!ホムラさん..いったい何の用かしら..」 「うんっと..用はコクリュウさんじゃないんでねっ。それに私もただの つきそいなもんでっ」 そう言った穂村さんの横にいた女性が教室の中に入り喋りはじめた。 「あなたの妹さんが校門に迎えにきたみたいよ。職員室から連絡が入った から代表でここにきたのよ」 俺に話しかけてきた女性は保険医の来朝(らいちょう)先生で噂によると あのアミモが唯一苦手な女性だというらしい。 というのか、保険医が苦手なんて注射や薬が嫌なのかって聞いてみたい。 ただ、そんなことよりも今の状況をどう説明したらいいんだ? 裸の国龍さんのことをどう言ったらいいんだ..いや、それよりも2人と もあんまり驚いてないぞ? 「どうしたんだいっ?ラブラブ見られてボーとしちゃったんかい。これ からブッチューだったんかなぁ〜」 「何、馬鹿なこと言っているんですか、ホムラさん。ただの打ち合わせ よ。そういう風に見えるかしら?」 見えるかしらって、裸をどうやって..!!えっ、服を着てる? まるでマジシャンかのように、いつのまにか国龍さんが制服を着ていた。 夢でも見ていたのか、俺は..そうだよな、一瞬で脱いだり着たり出来る わけないよな.. 「とにかく、妹さんのことを伝えたから私は保健室に戻るわよ。あまり 待たせないで迎えにいってあげてね」 「っということで私もこれでっ!じゃあ、続きをどうぞ」 そういって、すぐに教室から出ていった穂村さんと来朝先生。 もしかして、またさっきの続きになってしまうんだろうか.. 「あの、国龍さん。えっと、さっきのイエスかノーのことなんだけど..」 「何のことかしら?私、何か求めたかしら?もしかして私の話がつまら な過ぎて寝てしまったのかしら?」 おいおい、かしらかしらって、知らぬ存ぜぬかよ.. 「そうそう、早く妹さんのところに行った方がいいわよ。あっ、そういえば、 あなたの妹さんのお名前を聞いていいかしら?」 「きりんだけど..」「そう..”キリン”ちゃんか〜。可愛い名前ね」 う〜ん..とりあえず、さっきの事は俺の見た夢にしておこう。 よく考えたら、真面目な国龍さんが裸で迫るはずはないし、教室に鍵がかか るはずはないもんな。 「どうしたの?1人でぶつぶつ言ってるけど。私の話、そんなに面白くない のかしら?」 「いいえ、そんなことないですよ」 「そう、それならいいけど。とりあえず、これだけは言っておくわ。あんま り遅いとまた..ううん、その時になったら、また話すことにするわ」 う〜ん、これはどういう解釈で捕らえたらいいのだろうか.. 平穏なクラスを脅かしたら許さないっていうことか.. どちらにしろ、真面目な国龍さんはアミモの行動が心配なんだろう。 「ところで急に話は変わるけどぉ、露出部って元は写真部って本当なの?」 ギクッ「まあ、いろいろあってな..写真部には悪い事をしたと思ってるよ」 「別に怒ってるわけじゃないわよ。もしかしたら、そのまま移った子も いるのかなと」 「1人だけ居るんだけど、何か結構マイペースな奴だから大丈夫だよ」 「その子の名は何て言うの?」「玄夢きゆちゃんだけど..」 「ふ〜ん、玄夢さんね..もしかしたら、その子、いつも身に着けている ものがあるとか?」 「身に着けてると言っていいのかわからないけど、カメラはいつも磨いてたが..」 「!カメラ..ふふ、だから写真部ってことかしら..」「?国龍さん..」 「ごめんなさい..ちょっと聞いただけ。私もその"カメラ"見せて欲しいわ」 「それなら、いつか俺がお願いしてみるよ」「そう♪楽しみにしてるわ。 楽しみにね..」 何かきゆちゃんのカメラの事をずい分、気にしてる感じだけど、国龍さんも 実はカメラ好きなのかな..まあ、そんなに楽しみにしてるなら、いつか 借りてみるか.. とりあえず、いろいろあったけど、こんなに国龍さんと話すことが出来たん だからいいとしよう。 今は妹のきりんを迎えに行かないとな。何でここに来たかわからないが、ほっ ておくと校内に入ってきそうだ。 俺は帰り支度をはじめ、国龍さんに挨拶してから教室を出て行った。 アミモには悪いが今日はこのまま帰らせてもらうとしよう。 しゅまぁちゃんの霰もない姿を見れないのは残念だけど、仕方ないだろう。 俺が校門に向かうと妹のきりんが素直に待っていたのだが、きりんの横に 見知らぬ男子が立っていた。 そう、後々こいつが転校生であり、露出部に入部する奴であることを、この 時の俺は知るはずはなかった。 そして、こいつが来てから俺が感じていた全ての疑問が1つずつ解決されて いくことになるのであった。 まだこの時は物語の序章であったのかも知れない。 俺がこの事に気づいたのはずっと先のことだった。


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