プロローグ


 人気新人女子アナ、南賀 羽代佳(みなみが はよか)20歳。  某大手局の新人女子アナであり、次々と人気番組のレギュラー司会に抜 擢され世間から注目を受けている。  まあ、実力というよりは運が良いらしく、先輩女子アナたちの寿退社の 後継者として良く指名されてるようだ。  もちろん、女子アナに必要な度胸は先輩女子アナ以上で、高校生のとき から女子アナになるまで、非公式のゆるキャラの中の人でTVで活躍して たので、かなり度胸は座っているのだ。  羽代佳は中学生の頃からゆるキャラが好きで、地元の公式ゆるキャラが、 あまりにも不甲斐ないのを見て「私が頑張るしかないわ!」と勝手に非公 式キャラをつくっていろんなイベントに強引に参加していく内にTVで取 り上げてもらい、一気に有名となってしまった。  本人はこのまま非公式ゆるキャラを続けるつもりだったが、中の人がバ レた途端に「美人すぎる中の人」で周りの扱いが一変した関係で辞めざる を得なかった。  その後は、非公式ゆるキャラとしていた所属プロダクションから女子ア ナ転向を勧められて、今に至った。  そして、ついにゴールデン番組のレギュラー司会も引き継ぐことになり、 このまま出世街道を突っ走ると誰もが思ったが、意外な所でつまずいて転 落してしまった。  何と不幸なことに自分が引き継いだゴールデン番組がやらせ発覚で打ち 切りになったのだ。  羽代佳自身には何の落ち度は無いが、そのやらせ部分で実況していたの が大問題となり、全ての番組を降板させられてしまった。  今日も降板させられた事に納得がいかず、局の編成部長に文句を言って いた。 「あの時、実況しましたが、現場から離れた応援席でしたので、やらせな んて分からなかったんです。部長っ」 「もちろん、あの実況は誰がやっても気づかなかっただろう。編集で現場 近くで実況しているようにされてるから、君にとっては不運としか言えな いだろう」 「それなら..何で他の番組まで..降板を?」 「それは世間の目というやつで、あとは局の事情っていうのもあってな..」 「・・・そういうことですか、この局の考えはよく分かりました..」 「そんなに睨まないでくれよ。君は一時的にTVに出ないでもらうだけで、 切るつもりはないんだから。そこだけは分かってくれ。頼む」 「・・・分かりました。それじゃ、しばらくお休みを戴きますので..」 「おおっ、そうしてくれるか。今まではずっと休みなしで頑張ってくれた んだから、ここは長期休暇でリフレッシュして構わないから。ちゃんと、 休暇後の仕事は用意しておくからね」 「・・・はい」  局としては、少し時間を置いてから、羽代佳を復帰させるつもりで、ク ビにするつもりは全く無いみたいだ。  ただ、突然に長期休暇となった羽代佳にとっては何をやっていいのか分 からない状況に陥った。 (前みたいに、ゆるキャラをやりたいけど、こんなに知名度があがってし まったら、中の人なんてやらせてくれないよね..)  そんな中、寿退社した先輩女子アナから意外なオファを受けたのだ。 「ねえ、南賀さん。良かったら、ある地元のゆるキャラをしてもらえるか しら?もちろん、中の人としてだから、裏方みたいな感じだけど〜」 「!本当ですかっ?そのお仕事やらせてくださいっ」  先輩女子アナ、赤下 雅(あかした みやび)が持ってきた仕事に飛び ついた羽代佳だが、これがとんでもない恥辱の始まりとなった。  後日、指定された場所へ行くと新品の着ぐるみ”紅白まんドラ”が置い て羽代佳もこのゆるキャラをかなり気に入ったみたいだ。 「西洋ドラゴンをデフォルトした感じのゆるキャラですね。えっと身体中 にくっついているプヨプヨしたものは、もしかして..」 「紅白饅頭をイメージしたものよ。ここの地元の隠れ名産ともいえる紅白 饅頭を全面的にアピールしたいみたい。まあ、紅白饅頭よりも有名になっ た”とある饅頭”のイメージを払拭したいのかも..」 「払拭?」 「まあ、それは後々話すとして、このゆるキャラの仕事は引き受け入れて もらえることでいいかしら?」 「はい、やりますっ!頑張りますので、よろしくお願いしますっ」 「ありがと、助かったわ。そうそう、1つだけ重大なことを守って欲しい んだけど、それを先に言っていいかしら?」 「はい、どんなことですか?」 「このゆるキャラは絶対に”中の人”をばれないようにしてもらいたいの。 確か貴女、前のゆるキャラでうっかり出てしまったところをスクープされ たのよね?」 「は、はい..あまりにも暑かったので、少し涼むつもりで頭を出したら スクープされてしまって..今回はそんな失敗は絶対にしませんので!」 「けど、やっぱ人間だもの。あまりの暑さで外に出たい衝動にかられるの は仕方ないわ。だから、その衝動を抑えることをしてもらえるかしら?」 「えっ?衝動を抑える方法って、何を..」 「うふふっ♪すごく簡単なことよ。このゆるキャラはチャックが正面にあ って下から開ける風になってるの。つまり頭を出すと同時に全身も出ちゃ うのよ。この意味わかるかしら?」 「えっと、入りやすいってことしか..」 「つまり、暑くても絶対に外に出られない格好で入ってもらうわ。そう、 素っ裸で入ってもらうってのはどうかしら?」 「!ちょ・ちょっと..素っ裸って..そんな恥ずかしい姿で..」 「あら?どっちにしても、貴女は下着姿で入るんでしょ。前スクープされ たの時も汗だくの下着姿だったよね?」 「は、はい..いつもは下着姿で入ります」 「それじゃ裸と大差ないでしょ。汗でびしょびしょになってスケスケにな るんだし〜」 「下着によっては..汗をかいても透けないのがあります..ただあの時 は透けやすい白の下着だったので..全部..す、透けてました」 「そうね、一部の雑誌はモザイク掛かってたもんね〜。まあ、別に貴女の 裸を見せろとは言ってないのよ。要は、更衣室以外で脱げないようにする だけの事よ」 「・・・そうですよね..」(先輩の言い分はよく分かるし..恥ずかしい けど..ゆるキャラが出来るなら、ここは我慢するしかないわ) 「まあ、断るのは自由だから、裸が駄目なら、この話は白紙ということに しましょう」 「!い、いえ。その条件、問題ありませんので、よろしくお願いしますっ」 「うふふ、それじゃ裸で着てもいいってことね。その点も契約に入れてい いってことよね?」 「構いませんっ。裸で着ることを、どうぞ契約書に明記してください」  こうして羽代佳はゆるキャラの仕事を受けることになり、契約書にはさ っきの条件がしっかりと記載されていた。  契約重要項目   ・南賀 羽代佳は着ぐるみ装着の際、全裸で無ければいけない。   ・着ぐるみは専用の更衣室以外では絶対脱いではならない。   ・提供側は子供の悪戯等のハプニングでも脱げない対策を講じること。    及び、暑さ対策等、脱がなくてもいいような対策も講じること。   ・体調不良等を考慮して更衣室は移動式にする。及び、更衣室内には    男性は絶対に入室禁止とすること 「これでどうかしら。何か条件に注文があるかしら?」 「い・いえ、これで問題ありません」(これって一番上以外は私の裸が他 人に見られないようにしてるんだ..)  裸で着ぐるみに入れと言われたときには一抹の不安を感じた羽代佳だっ たが他意がないことを知ってホッとした。  一方、そんな羽代佳の安心する顔を見て、妖しい笑みを浮かべる赤下雅 だった。 (うふふ、バカねぇ〜。裸の条件ばかり気にして、肝心なことに気づいて ないなんてね〜。本当の恥辱は2番目以降の条件なんだから〜♪)  どうやら、赤下雅は今回の着ぐるみを使って羽代佳を恥辱な目に遭わせ るつもりであった。


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