「真夜中の図書室」アクセス25万記念作品

淫獣の城 

沼 隆

第1章

木枯らしが吹き始め、街路樹が寒々としてきた。
中小企業に経理ソフトを売り込む営業は、今の時期、地獄の苦しみだ。
ほとんど購入しそうにない担当者を相手に、必死にプレゼンをおこなった疲労感が、全身にのしかかる。
敦史は、ドトールに入る。
マルボロをくゆらしながら、コーヒーを飲む。
ふうっ、と大きなため息をつく。
道行く人を、窓ガラス越しに眺める。
ちょっと肩をすくめて歩く人たち。
(あ…)
人違いだった。
この時間、ここにいるはずはない。
夏に、出会い系サイトで知り合って、鶯谷のラブホで何度か寝た浦和の女。
女が、秋口からパートに出るようになって、疎遠になってしまった。
(敦史、いつまでそんな仕事してるんだよ、オレのところに来いよ)
瀬川の誘いが耳によみがえる。
インターネットで、怪しげな通販をやって稼いでいるらしい。
エロ画像満載のCD−ROM
女子高生の染み付きパンティ
くねりながら伸び縮みするバイブレーター
合法ドラッグ…
銀行口座に送金させて、品物は送らず、そのままドロン。
(オレの仕事、手伝えよ)
(経費なんか、ほとんどかからないし)
(ぼろ儲けできるんだぞ)
そんなおいしい仕事に、仲間は要らないだろう。
一人でやれる《仕事》だろうが。
その気になったら、自分でやるさ。
瀬川の腹が簡単に読めた。
やばくなったら、敦史に責任を取らせるつもりだ。
苦笑しながら、コーヒーを飲み干す。
風が枯葉を巻き上げる。
確かに、人肌が恋しい季節だ。
携帯が鳴る。
美紀だった。
「ねえ、週末、温泉に行こうよ」
敦史はけだるい返事で、温泉行きに同意した。

美紀が見つけてきたのは、「秘湯」と呼ばれる山奥の温泉場であった。
国道をそれて、山道を1時間ばかり車を走らせた場所にあった。
ここまで来ると、降り積もった雪が解けないで残っている。
澄み切った冷気が、うまい。
シベリア寒気団が張り出していて、今にも雪が降りそうな寒空であった。
熱い湯に浸かって、あったまろう。
午後遅く、宿に着く。
部屋に通されると、手早く浴衣に着替えて、丹前をはおり、露天風呂に行く。
「きゃはっ! ねね、雪が…」
地面には、雪が積もっている。
「あはっ! 冷たいよぉ」
美紀は、うれしくてたまらない様子で、素足で雪を踏む。
湯船から湧き上がる湯気が立ち込めている。
脱いだものを脱衣籠に片付けると、湯船に飛び込んだ。
「熱いよぉ」
美紀は、はしゃいでいる。
注文しておいた熱燗の酒が運ばれてくる。
盃を口に運ぶ。
熱い酒が胃の腑に染み渡る。
美紀の色白の肌が、熱い湯と酒に、さくら色に染まる。
美紀は、敦史に口移しで飲ませる。
「ねえ、おいしい?」
「ああ…」
敦史は美紀を抱き寄せて、唇を重ねる。
抱きかかえながら乳房を吸った。
「んんんっ…」
美紀の上体がのけぞる。
「ここ、ヌルヌルだよ」
「うふ」
敦史の指が、淫裂を広げながら、撫でまわす。
でも、美紀は、湯の中では、あんまり感じない。
粘液が洗い流されて、さらさらするからであろうか。
「お風呂の中より、外のほうがいい」
「大胆だなあ」
「キモチよさそうだもん」
「寒くないか?」
「だいじょうぶだよ。からだがぽかぽかしてるもん」
湯船から立ち上がる。
「あ…」
性器から流れ出るものに気がついた。
つ、と赤いものが太ももを流れ下る。
「敦史、始まっちゃった…」
「ん?」
「生理…始まっちゃったよ」
「えええっ! なんでだよお」
「そんなこと、いわれても…始まっちゃったんだもん…仕方ないじゃん」
「そうだけどさあ…マ、いいか」
「うふふ」
敦史のペニスは、湯船の中にいるときから勃起していた。
削って磨き上げ、座れるように加工した岩に腰を下ろした敦史は、美紀を抱き寄せる。
向き合い、敦史のひざにまたがる。
敦史は、天を向いてそそり立つ肉棒の先端を、美紀の淫裂にあてがう。
美紀は、腰を落とす。
くちゅ
美紀は、この瞬間が好きだ。
亀頭が陰門を広げながら侵入して来る瞬間。
ぐっ、と広げられる感覚。
「あん…」
もともと美紀は敏感なからだをしている。
パンティ越しに触れただけで、濡らしてしまうのだ。
感じやすい美紀のからだが、敦史に広げられ、挿し貫かれて、もだえる。
敦史の肉棒の太さ、硬さを味わうように、ゆっくりと腰を沈めていく。
美紀は、この姿勢が好きだ。
こうすると、敦史の肉棒に子宮を突き上げられる。
敦史がしっかり背中を支えてくれるので、思いっきり、イクことができるのだ。
性器は、敦史の怒張した肉棒を飲み込んだ。
「んんんん…」
敦史は、美紀の上体を抱えるようにして、上下に動かす。
ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ…
美紀も、自分から腰を使い、敦史のサオを味わう。
「ねえ、吸って」
ふくれあがった乳首を、敦史は音を立てて吸う。
「ああん…いい…キモチ、いい…」

立ち上がった美紀の股間から、精液と交じり合った経血が流れ出し、地面の雪を赤く染める。
部屋にもどり、女将とひと悶着あった後、もう一度…などと敦史が思っているところに、美紀の携帯が
鳴る。
「ごめん、敦史…東京に戻らなくちゃ…」
「おい。なに言ってるんだよぉ」
社長の鯨岡の大きな声が、敦史の耳にも届く。
……クライアントからのクレームがはいった。徹夜で手直しをする。
……すぐにもどって来い。
……ん? 温泉? すまんな。
敦史は、不愉快になった。
鯨岡のやつ、オレが美紀と温泉に来ているのを知ってて…
美紀に惚れてるからな…
クソっ! 邪魔をしやがって…
美紀は、有給休暇を取っただけで、敦史と温泉に来ることを鯨岡に話してはいないのだが、敦史はそう
考えた。

雪の中で車がエンストを起こしてしまった。
くそっ! こんな場所で…
「こんなことになったのも、おまえのせいだ」
オレは助手席に座っている美紀に毒ついた。
こいつが、テレビの「秘湯の旅」などというクソ番組を見て、週末を過ごしたいなんぞとほざきやがっ
たのが、始まりだった。
半日がかりで山奥の「秘湯」に着いた。
なるほど、「秘湯」だった。
古びた隙間風が吹き抜けるぼろ家に、ちんけな露天風呂がついていた。
美紀は喜んだ。
生理が始まったが、オレは平気だ。
楽しんださ。
髪を乾かしている美紀を背後から抱きしめて押し倒し、いきり立ったムスコを挿入した。
桜色に染まったからだのぬくもりがオレにも伝わってくる。
腰を使い始めたときだった。
廊下と隔てるふすまが開いて女主人が顔を出し、「きゃっ!」と叫んだ。
美紀のからだから抜いて、濡れてテラテラしているムスコを女主人に突きつける。
「きゃあ」
バカ女…
おれのムスコに驚きやがって。
あはっ!
経血で、赤く染まっているんだ…ははは
ふふっ…
ムスコが、おれの自慢なんだよ…
あんた、こんなでかいやつ、見たことねえだろ…ふふふっ
怒張して、ビクンビクン脈を打っているのを見せ付けてやった。
美紀が使った濡れ手ぬぐいで拭った。
赤く染まる。
女主人が、あわてて出て行く。
そのとき、携帯が鳴ったのだ。
鯨岡のバカ野郎!
休みが台無しだ!
「出るぞ、美紀…こんなとこまで、わざわざ来たのによぉ…ばかばかしい! くそっ!」
山道を下り始めたころ、白いものが降ってきた。
ちっ! ついてねえなあ!
国道まで、曲がりくねった道が続く。
あたりがいっぺんに暗くなった。
美紀にフェラさせながら運転するつもりが、そうもいかなくなった。
小一時間ほど走ったころ雪が激しくなり、それから、エンストを起こしたというわけだ。
オレは、美紀を殴りつけたいほどだった。
「降りて、歩くぞ」

「10分も歩いたら、国道に出る」
敦史は、美紀を連れて雪道を歩き出した。
薄いコートを羽織って。
懐中電灯の明かりで足元を照らしながら。
必死でついてくる美紀に悪態をつきながら。
国道まで、あと少しのはずだった。
しかし、寒さに凍えながら1時間あまり歩いたのに、出会うはずの国道が見えなかった。
雪がやんだ。
いつのまにか、森にさまよいこんでいた。
もう、方角はわからない。
車のところまで、引き返しようもない。
寒さと恐怖で、からだが震える。
敦史はこみ上げてくる怒りを美紀にぶつけようとして、そちらを向いたとき、美紀の背後、そう遠くな
いところに明かりを見つけた。
憤怒の形相を向けた敦史の顔が、ほっとした表情に変わるのに美紀は驚いた。
「あっちだっ」

明かりは、別荘と思われる洋館からのものだった。
降り積もった雪に足を奪われながら、玄関にたどり着く。
チャイムを鳴らしても、応答がなかった。
敦史は、チッ、と舌打ちをしながら、ドアノブに手をかける。
鍵は開いていた。
重厚な木製の扉が音もなく開いた。
中にはいる。
玄関先に立っていられなかった。
寒さに、がちがちと歯が鳴るほど凍えていたのだ。
「だれか、いませんかあ」
玄関ホールから2階に続く階段にむかってもう一度大きな声を出したが、返事はなかった。
静まり返っていた。
わずかに開いた扉から、応接間と思しき部屋に入る。
重厚な調度の部屋だった。
西洋のアンティークを思わせる、ずっしりと落ち着いた家具。
よく磨きこまれて、つややかだ。
暖炉に火が赤々と燃えている。
コートをソファに投げかけて、敦史も美紀も、暖炉に駆け寄る。
手をこすり合わせる。
やがて、からだが温まり、敦史が空腹に気づく。
ホールの反対側に、ダイニングルームとキッチンがあった。
「おおっ! すごいぞ」
「だめよ、勝手なことしちゃ」
「うるさいっ!」
敦史は、大きな冷蔵庫の中から取り出したハムにかぶりつく。
「う、うまいぞ」
まるで、ようやく餌にありついた野犬のように、敦史は肉のかたまりをむさぼった。
美紀は、牛乳に口をつけた。
濃厚で、甘みのある液体が、美紀を落ち着かせる。
「これ、すごくおいしいよ」
敦史は、ハムをほおばって、むしゃむしゃやっている。
立派な台所だった。
磨き抜かれた鍋が並んでいる。
食器類も、気品のある、高価そうなものが並んでいる。
「コーヒー入れてくれ」
2階を見てくる、といって、敦史は出て行く。

「誰もいないぞ」
独りぼっちにされて心細さに襲われていた美紀は、敦史の声にほっとする。
「2階に、寝室が4つと、書斎がある、でも、誰もいない」
暖炉に火が燃え盛り、明かりがともされたまま、この屋敷は無人なのだった。
「怖いよ」
「ん?」
「ここ、なんか変だよ」
「バカか! ここを出て、どこに行くんだ? ん?」
敦史は冷蔵庫を空けて、中身を調べる。
「おおっ! キャビアがあるぞ! すげえ!」
美紀がとめるのも聞かずに封を切り、指ですくった。
「うおっ! 美紀、おまえも食え…うまいぞ…うはっ」
ワインクーラーの中にシャンペンを見つけ、それを持って、暖炉の前に移動する。
「やめてよ、勝手なことして、あとが大変だよ」
「うるせえなあ、俺たち、もう少しで死ぬところだったんだぞ!」
ぽんと音がして、栓が抜ける。
「命が助かったんだ。お祝いをさせてもらっても、いいと思うよ」
「勝手なことばかり言って…」
「う…うまい…美紀も飲めよ」
ぱちぱちとはぜる音を立てながら燃え盛る暖炉の熱で、美紀のからだが温まる。
気持ちが落ち着き、トイレに行きたくなった。
宿で手に入れた生理用ナプキンは、車においてきた。
「トイレ、どこかな?」
「2階の…」
「いっしょに行ってよ」
「ん? オレ、さっきすませたよ」
「怖いよ、いっしょに、来てよ」
「ばかか、だいじょうぶだって」
ソファに座り込んで立ち上がろうとしない敦史の様子に、美紀は仕方なく、階段を上っていく。
どこもかしこも、暖房が効いていて、快適な暖かさだ。
トイレは、すぐに見つかった。
敦史が教えたとおり、最初の寝室の奥にあった。
美しい花柄の陶器を使った、ばら色の化粧室。
戸棚には、生理用ナプキンがあった。
水を流す大きな音が美紀を驚かせた。
この屋敷中が静まり返っていたから。
水流が止まると、再びもとの静けさに戻る。
寝室を眺める。
ばら色のベッドカバーで覆われた、キングサイズのベッド。
おそるおそる開いたクロゼットには、若い女性用のドレスが何着も、かかっている。
どれも、レースをふんだんにあしらった華麗なものだ。
いったい、このドレスの持ち主は、どんな暮らしをしているんだろう。
美紀は、つい見とれてしまい、背後に人の気配を感じて心臓が口から飛び出しそうになるほどの恐怖に
襲われた。
「なにしてるんだよ」
「あ…敦史…おどかさないでよ」
「いつまでも、戻ってこないからさ、来てみたんだよ」
「この部屋、女の人の部屋だよ」
「ああ…はは、きれいなパンティだ」
「よしなさいよ」
「この部屋に寝るわけにはいかないな」
「きっと、来客用の寝室があるよ」
「多分、隣が、来客用だ」
その部屋は、バイオレットを基調に整えられていた。
クロゼットは、空っぽだった。
ベッドの上には、パジャマが2着置かれてある。
ふたりは、それに着替えた。
「あは! ぴったりだよ」
すみれ色のベッドカバーをはがすと、美紀と敦史は、暖かいベッドにもぐりこんだ。
「だめぇ、シーツ、汚しちゃうよ」
パンティを脱がせようとした敦史に、美紀は言う。
「遅いよ」
「もう…」
「美紀も、したがってるよ」
「ばかぁ」
「……」
「どうしたの? 敦史…」
「……」
敦史は、ぐっすり眠り込んでいた。
美紀は、起き上がり、パンティをはいてベッドに戻る。
疲労と、安堵感で、ふたりは、深い眠りに落ちていた。


第2章

暗闇の中で眼が覚める。
かすかに悲鳴を聞いたような気がする。
誰もいないと思い込んでいた。
そんなはず、ないじゃん…
明かりはついているし、屋敷中、暖かいし、暖炉には薪が燃えていた。
人気はなかったけど…無人のはずがない…
うん、誰か…誰かが、いる…
美紀は、敦史の背中にしがみつく。
んんん…
敦史はわずかに身じろぎをしただけで、寝息を立て続けた。
(あああっ…)
遠くの部屋から、悲鳴が聞こえる。
女の…多分若い女の悲鳴…
(あああっ…いやあっ…いやあっ…)
確かに、聞こえる…
「ね、敦史…敦史…」
「うるせえなあ…眠らしてくれよ…」
「ね、聞こえるよ…」
「なあにが…」
(あああっ…いやああ…)
「ほら…悲鳴…女の人の…」
「ん?………何にも聞こえねえよ」
「でも…」
「気のせいだよ…寝かせてくれよお」
たちまち寝息を立てた敦史をあきらめて、美紀はベッドを降りる。
足元に、ふかふかした寝室用のスリッパがあるのを履いて、そっと廊下に出た。
悲鳴が大きくなった。
廊下は、照明が消されて、暗かった。
いつ、誰が消したんだろう…
美紀が寝室に入り込むまで、あかあかとしていたのだが。
(あああっ…いやああ…)
一瞬浮かんだ疑問も、消えてしまう。
美紀は、悲鳴の聞こえるほうを見た。
廊下の奥のほうに、わずかに開いたドアの隙間から、明かりが漏れている。
突き当たりにある、敦史が書斎と呼んだ部屋だった。
美紀は、足音を立てないように気をつけながら、進む。
毛足の長いじゅうたんが、足音を消してくれる。
心臓の鼓動が聞こえるような気がする。
部屋の中の人影が動く。
とうとう、戸口のところに来てしまった。
「ああああああ!!!!」
女の悲鳴に体がこわばる。
こわごわ覗き込む。
美紀は、息を呑んだ。
部屋の中央に、漆黒のドーベルマンがいた。
体毛が、暖炉の明かりに照らされて妖しく輝く。
しっとりと濡れているかのように、つややかだ。
そのドーベルマンが、前足の間に全裸の娘を組み敷いていた。
娘の両手首は皮ひもで縛られている。
娘を見下ろすように、赤毛の女が椅子にかけている。
肩まで垂れた真っ赤な髪。
ちらちらする暖炉の明かりを映して、燃え盛る炎のように見える。
彫りの深い顔立ち。
西洋人のようだ。
くっきりと浮かび上がる顔の陰影が、美紀に魔女を連想させる。
女が娘の耳元でささやいた。
聞き取れなかった。
しかし、娘がはっきりと答える声は聞こえた。
「いやっ…いやです…やめて…やめて…」
「うふふ…ほんとうに、いやなのかい?」
「いやです…」
「ほんとうは、大好きなんじゃないのかい?」
娘が女を見ようと顔を上げたとき、長い黒髪が流れて、美紀は娘の横顔を見た。
目鼻立ちのはっきりしたきれいな娘だった。
色白の頬が朱に染まり、紅色の口紅を引いたような赤い唇が、わずかに開かれて、真っ白い歯が見える。
大きく見開かれた眼には、涙をたたえている。
「さあ、お尻を高く上げて」
「いやっ…」
「だだをこねるんじゃないよ」
「ううう…」
「お仕置きをして欲しいのかい?」
「いやぁ…」
「じゃあ、お尻を高く上げて」
「……」
「そう…そうだよ…素直にあたしの言うことを聞くんだ」
「うう、ううう…」
娘は、四つんばいになり、ひじをゆかについて、尻を突き出した。
「いい子だ、いい子だね」
女の指が、娘の黒髪を梳いてやる。
白い背中がむき出しになる。
「フリッツが、うれしそうだよ」
フリッツ…
犬の名前…
あっ…
悲鳴を上げそうになった美紀の口を、背後から大きな手がワシづかみにした。
美紀は恐怖に全身が硬直する。
身動きができない。
腹部を、男の太い腕ががっしりと抱きかかえている。
毛むくじゃらの男の指が目に入る。
栗色の密集した柔毛。
恐怖に見開いた美紀の目に映ったのは…
ドーベルマンは、ペニスの先端で、娘の陰裂を探り当てる。
先端が、娘の肉にもぐりこむ。
眼を背けようにも、毛むくじゃらの手がさせてくれなかった。
「あああっ!」
「ほら、いいキモチだろ?」
「ああ…ああああ…ああああ……」
「おや、お客さんがおいでだよ…」
美紀の目が、赤毛の女と合う。
緑色の眼が、美紀を射抜くように見つめる。
「お入り…おまえさんも、お入り」
背後の男に抱きかかえられて、美紀は部屋に連れ込まれる。
「もっと、こっちにつれておいで…アルベリヒ」
アルベリヒ?
男の名前?
「あはああああっ!」
娘の悲鳴がひときわ高まる。
フリッツのペニスが、深々と挿し込まれたのだった。
舌をだらりと垂らして、フリッツは、はあはあと息を荒くしている。
「さあ、そこをくねくねさせて、フリッツをいかせておやり。そうすれば、おまえももっといい気持ち
になれるんだから…」
娘は、密着するフリッツの腹の下で、腰をうごかす。
「そう、そう…そうだよ」
娘の淫裂から、ぽたぽたと淫水が流れ落ちる。
「おうおう、気持ち、いいんだね」
女は美紀を見つめる。
「この子はね、お客さん、ひとのちんぽより、イヌ畜生のちんぽの方が…」
「いやっ! いわないでっ!」
「しっかりそこを動かして、フリッツをいかせておやり」
美紀は、腰の辺りにごつごつしたものを感じた。
背後の男の陰茎がいきり立っているのだと、すぐにわかった。
「アルベリヒ、おまえも、女が欲しいんだね?」
「うう…」
美紀を背後から羽交い絞めにしている男が、うめくように答えた。
「そうかい、そうかい、おまえ、その娘としたいんだね」
「うう…」
「血の匂いがするよ…アルベリヒ、娘さん、メンスのようだよ」
「うほっ、うほっ…」
「ふふ…アルベリヒ、おまえ、血の味が好きだったね」
男のからだが、うれしそうに揺れるのを、美紀は感じた。
ナプキンごとパンティをむしりとられ、男のいきり立った肉棒がずぶずぶと挿し込まれる感覚に、美紀
は悲鳴を上げていた。

「いてて…いてええよ、美紀!」
敦史の声に、美紀は目が覚めた。
下半身を裸にされて、背後から敦史に挿入されていた。
ゆめ…
安堵に大きくため息をつく。
敦史は、美紀の恐怖にお構いなく、腰を使い続ける。

第3章

厚いカーテンのわずかな隙間から、光の筋が部屋の奥まで入り込んでいる。
光の帯の中で、埃が舞っているのを、美紀はしばらく見つめていた。
裸の敦史が、背中を美紀に向けて、寝息を立てている。
眼が慣れてきて、室内が見渡せるようになった。
思い出した。
昨日の夕刻、山道を下りながら降り出した雪に道を見失った。
故障した車を捨てて、あげく、森の中をさまよい、この屋敷にたどり着いたのだった。
明かりはともっていた。
屋敷中が暖かかった。
けれど、無人だった。
ダイニングにも、キッチンにも、客間にも…
2階の4つある寝室にも、一番奥の書斎にも…
人の気配が、まったくなかった。
不思議で、恐ろしい気もしたが、雪の中に出て行くのは、もっと恐ろしい。
結局、2階の寝室のひとつを使わせてもらうことにしたのだ。
無人の屋敷。
……
……!
夜中に恐ろしい夢を見たのだった。
起き上がろうとして、経血がどろりと流れ出すのに気づく。
2日目。
子宮のあたりが痛む。
2日目は、出血が多い。
いやだなあ…
ナプキン、取り替えなくちゃ。
あ、持ってないんだ。
替えの下着も、もってないよ…
着替えがはいったカバンは、車に残してきた。
まいったなあ…
夜中にエッチしたとき、パンティを汚してしまった。
あ…!!
もしかして、シーツ、汚しちゃったかも…
どうしよう…
パンティは、はきかえたいな。
そうだ…隣の寝室。
いま着けているナプキンも、隣のバスルームにあったんだ。
女の子の下着もあった。
女の子…
ゆうべ、屋敷の中に、だれもいなかった。
……でも
あの、ゆめ……
美紀は、恐る恐る廊下に出る。
屋敷は静まりかえって、人の気配がない。
夢に出てきた書斎のドアは、閉まっている。
物音ひとつしない。
美紀は、隣の寝室のドアを開ける。
明かりをつける。
ばら色の、女の子らしい、華麗な装飾の部屋を、眺める。
ベッドには、カバーがかかっていて、使われた様子はない。
夢に出てきた、あの娘の寝室なのではないか…
夢を見ただけなのに…
そう、あれは、ゆめ
引き出しから、ピンクの薔薇の模様がはいったパンティを借りることにする。
借りる?
誰から…?
おそろいのブラジャーに腕を通す。
まるで、美紀のために用意してあったかのように、ぴったりとフィットした。
「なんだ、ここにいたのか」
戸口に立った敦史が声をかける。
「へえ、きれいじゃん」
美紀は、得意そうに敦史に向かってポーズをとる。
「ねえ、これ、着てみてもいいかなあ」
クロゼットからピンクのドレスを取り出す。
ドレープがたくさん使ってある、華麗なドレス。
大きな鏡に、映す。
「うふっ、お嬢さまって感じだよね」
「はは、美紀、似合ってるよ」
「うふふ」
「腹、すいたよ。何か、食いに行こうよ」
とたんに、美紀のおなかも、クー、と鳴る。

2階から玄関ホールに降りていく。
晴れているのだろう。
正面入り口の装飾ガラスを通して、ホールに光が射しこんでいる。
ダイニングルームの扉を開ける。
「きゃあっ!」
美紀は、悲鳴を上げていた。
敦史も、飛び上がらんばかりに、驚いた。
男がいた。
敦史と美紀をじっと見つめている。
ダイニングテーブルの正面のいすに座って。
端正な顔立ちの、中年の男。
「お入りなさい。お待ちしておりました」
男が指差したいすに、美紀と敦史は腰を下ろす。

屋敷の主人は、鹿島左京と名乗った。
慶鳳大学で、西洋美術史を教えている。
週末を過ごしに、妻と息子を連れてやってきたのだが、昨夜の雪で閉じ込められてしまった。
「閉じ込められた、って?」
「大雪で、ふもとの町まで下りて行く道が、通れなくなりました」
「そんなに、降ったんですか?」
「窓の外をご覧なさい」
美紀と敦史が立ち上がろうとしたとき、キッチンに通じるドアが開いた。
「妻のモニクと、息子の隼人です」
そちらを振り向いた美紀は、息を呑んだ。
湯気が立ちのぼるキャセロールを両手に入ってきた女性は、燃えるように赤い髪をしていた。
見れば見るほど、夢に出てきた、あの女性そっくりだ。
「ごめんなさい。朝寝坊したものだから、たいしたもの、作れなくて」
モニクは、外国訛りを残してはいるが、美しい日本語を話した。
「今夜は、ご馳走を用意してさしあげるわ」
暖かい野菜たっぷりのクリームシチューを口に運びながら、美紀は向かいの席に座った隼人に眼を奪わ
れていた。
夢の中の、あの犬に犯されていた娘に、そっくりだ。
なんてひどい夢を見たんだろう…
でも…
どうして…
「ははは、ゆっくり召し上がってください」
主人の笑い声に敦史を見ると、むさぼるようにシチューを口に運んでいた。
「お、おかわり、いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「腹ペコなんですよ」
左京が、うんうんとうなずく。
モニクが差し出す深皿に手を伸ばすとき、敦史とモニクの視線が出会う。
緑色の眼。
敦史は、一瞬気を奪われた。
このひと、いくつなんだろう…
西洋人は、老けて見えるって言うから、オレと大して変わらないかも…
年齢を訊くのは、失礼だって言うからな…
おなかが満たされてくると、好奇心が頭をもたげる。
「あのぉ…隼人さん、お母さんと似てないって言うか…」
「ははは、隼人は、亡くなった先妻の子です」
隼人が、父親を一瞬にらみつけるような眼をしたのに、美紀は気がついた。
「あ、失礼しました」
「もぉ、敦史ったら…」
「ははは、気になさらないで、美紀さん」

食後のコーヒーを、暖炉が燃え盛る客間でいただくことになった。
美紀は、コーヒーカップを手に、窓際に立った。
眼を見張るすばらしい雪景色だった。
一面の銀世界。
日の光を受けて、光り輝いている。
まぶしくて、眼を細めてしまう。
湖だ。
こんなきれいな湖があるなんて。知らなかった。
向こう岸まで、たいした距離ではなさそうだった。
その向こう岸は、急な斜面が立ち上がり、雪をかぶった木立が、ずっと上のほうまで続いている。
けれど、地表には雪が分厚く積もっているのである。
一晩中降り続いたのだろうか。
もしかしたら、死んでいたのかも…
ゆうべ、どこをどうやってここまで来たのだろう。
どちらの方角から…?
夜中に降り積もった雪の壁が、この屋敷を出て行く道を閉ざしているように思われた。
気がついて、会社に連絡を取ろうと携帯を取り上げた。
今朝から、何度か試みていたが、やはり、圏外を示した。
「昨夜は、勝手なことをして、すみません」
「いやいや、お気になさらないでください。私どもこそ、おふたりがおいでになったのに気がつかなく
て」
「どこにもいらっしゃらないようでしたので、勝手なことを…」
「ははは…昨日は夕方から雪が激しくなったでしょう。これは、閉じ込められるかもしれないな、って
心配になって、家族全員で、地下の食料庫や、燃料庫やら、準備をしておりました」
「気がつきませんでした」
「2,3日は、出られそうもありません」
「えっ! そんなに?」
「以前にも、こんなことがありましてね。備えはしてあります、安心してください」
会社に連絡したいと言う美紀に、鹿島は気の毒そうに不可能だと答えた。
電話を引いていない。
そもそも、ここは、人里はなれた場所で休暇を過ごすための別荘なのだ。
「つかの間、仕事の忙しさを忘れさせてくれるのですよ」
自家発電機を備えてある。
燃料は、十分に備えてあるから。
暖房も、心配はない。
「ここで、2,3日、ゆっくりしてください」
美紀も、敦史も、あきらめるよりほかなかった。

話を聞きながら、美紀は隼人を観察していた。
昨夜見た娘と、一卵性双生児と思われるほど、そっくりだった。
恐ろしい夢を思い出して、ぞっとした。
美紀が見つめるものだから、隼人は、はにかんだような笑顔を見せた。
父親に似た端正な顔立ち、母親が美しい人だったことも想像させる。
隼人がじっと見返したとき、美紀は、頬を赤らめた。
モニクは、目鼻立ちがくっきりとして、意志の強さをはっきりと示していた。
燃えるように赤い髪が、激しい気性を表しているようにも思われた。
大きな緑色の眼が、強い印象を与えた。
敦史は、じっと見つめることができなくて、視線をそらせた。
モニクの強い視線に、射すくめられるような気がしたのである。

隼人は、22歳。
屋敷の中を案内しながら、美紀に教えてくれた。
体調を壊して、大学を休学している、と付け加えた。
敦史は、興味がないのか、一眠りしたいから、と寝室に引っ込んだ。
「私、真那井美紀、26歳。広告関係の仕事をしてます。えっと…カレは、窪川敦史、35歳。ソフト
ウェア会社の、営業マン」
書斎に入る。
昨夜、隼人とそっくりな娘が犬に犯されていた部屋。
そういえば、私も…
血の味が大好きと言う男に背後から…
でも、夢から覚めれば、敦史のペニスに刺し貫かれていただけのこと。
窓からは、穏やかな初冬の陽光が差し込んでいる。
床に敷いてあるじゅうたんは、素人目にも立派なもので、きっとペルシャじゅうたんだろう。
美紀のマンションに敷いたら、部屋からはみ出してしまいそうな広さがある。
どっしりとしたアンティークなデスク。
テーブルを挟んで、長椅子2つ。
立派な書斎だ。
左右の壁には、床から天井まで、書物がぎっしり詰まった書架が備え付けてある。
戸口のほうを振り向いたとき、美紀はぎょっとした。
そこに人が立っている…ように錯覚したからだ。
壁の肖像画だった。
「あっ!」
女の子の肖像画だった。
あの、犬に犯されていた女の子の。
こちらに向かって微笑んでいる。
ブルーのワンピースを着て。
白い大きなリボン。
少女のような服装をしているけれど、隼人と同じ年頃に見える。
ごく最近に描かれたものか。
でも、なんで…どうして…
「妹の、瀬里奈です」
「妹さん?」
左京が、入ってくる。
「ああ、ここにいたのか」
「隼人さんに、案内してもらってます」
「ははは、お見せするものなど、ありませんが」
「この絵は?」
「娘の瀬里奈です」
「隼人さんにそっくり」
「ふたごなんですよ」
「へええ…きれいはひと」
見れば見るほど、隼人に似ている。
一卵性双生児、っていうのかなあ…
「瀬里奈さん、いっしょに来られなかったんですか?」
左京は、一瞬ためらう様子を見せた。
「瀬里奈は…交通事故でなくなりました」
「えっ…」
隼人が左京に険しい視線を向けたのも、美紀を驚かせた。
視線を落としたとき、美紀は自分が着ている服に眼が行った。
隣の寝室から、勝手に拝借したピンク色のドレス。
「じゃあ、この服…」
「ええ、この子の形見です。どうぞ、遠慮せずに、使ってください」
左京は、瀬里奈の肖像を見つめている。
隼人は、左京の横顔をにらみつけている。

夕方、再び雪が降り始め、夕食が終わるころには、激しくなっていた。
「今夜も、荒れそうだ」
美紀は、後片付けを手伝い、敦史は暖炉の前で、隼人と話しをしていた。
やがて、全員が寝室に引き上げる。
ピンク色の寝室、かつて瀬里奈の部屋だった寝室の向かいが、隼人の寝室。
美紀と敦史が使っている部屋の向かいが、左京とモニクの寝室だ。

詰め物をした鴨のローストにすっかり満足してベッドにはいる。
シーツを汚さないように、腰の辺りにバスタオルを敷いて、セックスを楽しんだ。
後始末を終えると、美紀はぐっすり眠り込む。
真夜中、啜り泣きを聞いた敦史は、ベッドを出た。
好奇心をむき出しにして、耳をそばだてながら。
足音を忍ばせて、廊下に通じる扉を開ける。
左京と、モニクの性の営みか…
モニクのセックスは、激しそうだ…

第4章

女のすすり泣きに引き寄せられるように、敦史は廊下に通じるドアを開ける。
敦史は、この屋敷の主、左京と、妻モニクの夜の営みだと思った。
真っ赤な髪と緑の瞳を持ったモニクが、左京の腕の中でもだえる、妖艶な姿態を想像した。
あの、昼間は、取り澄ました感じを与える左京が、どんなテクニックでモニクをイカセルのか、覗いて
みたい。
モニクの陰毛は、髪の毛と同じ色なのだろうか。
外国製のアダルトビデオを思い浮かべる。
モニクの白い肌。
どんな体位で。
向かいの部屋に近づこうと、一歩踏み出した。
毛足の長いじゅうたんが、足音を消してくれる。
すすり泣きは、思わぬ方角からだった。
泣き声は、敦史と美紀が使っている部屋の隣、使う人のいないはずの部屋からだった。
美紀から、一家には瀬里奈という娘がいたが、交通事故で亡くなった、と聞いていた。
その娘が使っていた部屋から、聞こえてくる。
敦史の好奇心が大きくふくれあがる。
なんだあ?
瀬里奈の幽霊でも、いるのかあ?
ゆっくりと近づく。
反対側の部屋、隼人の部屋のドアに、目を向ける。
何の気配もしない。
隼人、眠っていてくれよな。
何かあったら、助けに来いよ!
ドアの前に立つ。
心臓が早鐘を打つ。
ノブを握る。
手が、汗ばんでいる。
パジャマでぬぐう。
慎重に、ノブを回す。
焦るな…
落ち着け…
カチッ
一瞬、体がこわばる。
ふっ
一息ついて、ドアを少しだけ開ける。
部屋は、青白い明かりに包まれていた。
カーテンが開けられていて、部屋中を青白い月の光が照らしていた。
雪は、やんでいた。
ベッドの上に、女がうつぶせに横たわって、すすり泣いている。
敦史は部屋に入り込み、そっとドアを閉める。
気づかれないように足音を忍ばせて、敦史はベッドに近づく。
丸いお尻がむき出しになっている。
「ああ…ああ…」
敦史は、女がオナニーをしているのにようやく気づいた。

あれほど雪を降らせた雲が消え去って、夜空にあまたの星が輝いている。
青白い月明かりが、室内を照らし出している。
まるで、幻想の世界にでもいるようだ。
淳史は、女の細かな動きを、はっきりと見ることができる。
寝巻きのすそが大きくまくれ上がり、尻がむき出しになっている。
尻をわずかに持ち上げて、浮かせた下腹部の下から陰裂にほっそりとした指が伸びている。
切ない息遣い。
時にはため息を漏らす。
右手の指を陰裂に這わす。
わずか数センチほどの間を、ゆっくりと、行ったりきたりしている。
淫門と、クリトリスの間を。
しずくが、月明かりにきらきら光る。
淫門から溢れる蜜に浸した指で、クリトリスを爪弾くようにこする。
女の左手は、どうやら乳房を揉んでいるようだ。
顔は、敦史の反対側に向けられていて、表情は見えない。
淳史は、勃起している。
パジャマの上から、肉棒をしごく。
きわまったのか、女は尻をわなわなと震わせる。
淳史は、いきり立った自慢の肉棒を取り出した。
ねっとりした先走りを指先に付けて、亀頭に塗り広げる。
一歩ベッドに近づく。
そのときだった。
ドアの外に人の気配を感じて、急いでバスルームに身を隠す。
間一髪であった。
誰かが、入ってきた。
バスルームの暗闇に身を潜め、ドアの隙間から、寝室をのぞく。
ちょうど、ベッドの様子が見える。
戸口から人影がベッドに近づく。
思わず声が出そうになるのを、敦史は必死でこらえる。
見るもおぞましい、醜い顔の男が、女を覗き込んだ。
ぼさぼさの茶色い髪。
けだもののような顔はゆがみ、めくれ上がった唇から、乱杭歯がむきだしである。
その唇に、べろり、べろりと、何度も舌を這わせる。
娘の背中に差し出した両手は、毛に覆われている。
月明かりに、白く光る。
男は、しゅっ、と息を吐く。
醜い顔をいっそうゆがめて、しゅうしゅうと、荒い息を吐きながら、女の背中をさすり始めた。
「いやあ…やめて…お願い…やめて…」
女は身をよじって男の指から逃れようとするが、毛むくじゃらの指は女を捕らえて離さなかった。
女は、起き上がって逃げようとする様子がなかった。
なぜだ?
女は抱き起こされ、脱がされた。
女の横顔が見えた。
隼人…!
どうなってるんだ…?
隼人そっくりだ!
長い黒髪、ふっくらした乳房、腰のくびれ。
瀬里奈…
瀬里奈、生きてるのか…
でも、どうして…
瀬里奈の乳房に、醜い男のよだれがぼたりと落ちる。
男は、乳房にむしゃぶりついた。
「あああ! いやあああっ!」
女が悲鳴を上げる。
ぴちゃぴちゃと、音を立てながら、男は乳房を吸い続け、それから、下腹部へ、そして…
仰向けに横たえた女の股間に顔をうずめると、ぴちゃぴちゃと音を立てて、舐め始めた。
女は、両手で男の頭を押しのけようとするが、男は意に介さなかった。
黙々と舐め続ける。
ううう…
うめくような声を上げながら、男はからだを起こし、女にのしかかる。
股間にそそり立つペニスをヒクつかせながら。
「いやあっ!!!」
女の両膝に割って入り、ペニスの先端を淫裂にあてがって、腰を沈めようとしたときだった。
「そこまでだよ、アルベリヒ」
モニクの声がした。
「おまえさんは、そこまでだ」
「ううううう……」
「フリッツを呼んでほしいの?」
男は、醜悪な顔を戸口のほうに向け、哀れみを請うような目つきをしながら、よろよろと立ち上がった。
ペニスの先端から、粘っこい液体がとろりと垂れた。
「瀬里奈、いやな思いをたっぷり味わったね。ふふふ。今度は、いい思いをさせてあげるよ」
「アルプ、この子を連れておいで」
モニクの立ち去る気配。
それから、男は全裸の女を抱え上げ、部屋から出て行った。

幻ではなかった。
ベッドは乱れていた。
触ると、暖かかった。
女の名前もはっきり聞き取れた。
瀬里奈!
瀬里奈が、生きている!
死んだなんて、嘘っぱちだ!
この家は…変だ!
何か、秘密がある。
俺たちから、隠しておく秘密。

敦史は、震え上がった。
急いで美紀のいる寝室に戻った。
ドアを閉めるとき、カタンと音をさせてしまった。
恐怖に震え上がる。
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