隣人の妻 U 第4回

作 沼隆(ヌマ・タカシ)

登場人物
  岡下 美咲
  岡下 宗男  美咲の夫
  四方 郁恵  美咲の友人
  江木  亘  郁恵のセフレ
  郷田 軍治  岡下夫婦の隣人


(1) 孤閨

夫婦の寝室。
宗男は、いびきをかいて眠っている。
宗男には、《男》を感じなくなってしまった。
夫婦のイトナミは、おざなりで、
月に数回交わるけれど、
夫の排泄行為の相手をしているだけのような気がする。

美咲は、眠れない。
午後、夕方近くまで、この寝室で、
宗男には知られてはいけないことをした。
向かいの家に住む郷田とセックスをしたのだ。
その時使った来客用の布団は押し入れにしまい込み、
郷田のために買ったセクシーな下着は
洗濯かごの奥底に隠してあり、
郷田の精液がべったり付いたティッシュは、
匂いが広がらないようにポリ袋に入れて、
しっかり口を締めてある。
眠れないのは、夫に対して後ろめたいからではない。
悦楽の残り火が、
体の芯でチラチラ燃えている。
美咲の体は、ずっと火照っている。
乳房が疼く。
股間が、疼く。
乳房をなでただけで、腰の奥がきゅんとなる。
腰を浮かせて、パンティを太ももまで下ろす。
そろそろと指を進めて、
クリトリスに触れたときだった。
稲妻が体を走り、
股間が震え、
尻がぎゅっ、と引きしまる。
美咲は、あふれ出そうとする声を、懸命にこらえる。
左手でクリトリスの包皮を剥いて、
右の人差し指で爪弾く。
(んんんんんっ…………)
肉穴から、蜜があふれ出して、肛門の方に流れていく。
肉穴に、人差し指を差し込む。
ヌルヌルして、
くちゅ
小さな音がした。
背中を丸め、腰を浮かせて、
人差し指と中指をそろえて差し込む。
指の硬さ、太さを確かめるように、
肉穴に力を入れる。
きゅっと締まる。
昼間、郷田のペニスを締め付けたように、
自分の指を締め付ける。
オナニーしても、満たされない。
欲しいのは、郷田の肉棒なのだ。
欲しいモノは手に入れようがなく、
切なさが増すばかりである。

(2) つのる欲情

〈えええええっ!〉
郁恵が、びっくりして、言った。
〈もう、美咲の、大バカモノ!〉
〈なんでだよお!〉
〈布団敷いて待ってたなんて……
 あきれて、言葉も出ないよ……あんたって……〉
美咲は、郁恵の言葉に戸惑う。
〈いけなかったの?〉
〈……〉
〈ねぇ。いけなかったの?〉
〈今更言っても、始まんないよ〉
〈バカにして!〉
〈でもね、ともかく、男が見つかったってわけさ、
 おめでとう、美咲〉
〈……ありがとう〉
〈これから、毎日、ときめく、ってことだよね〉
〈どうなんだか……〉
美咲は沈んだ声で言う。
〈なによ、何があったの?〉
〈うん……なにがって言うか、何にもないんだよ〉
〈なにを待ってるの?〉
〈彼から電話とか、彼が来る、とか……〉
〈きゃあああ!〉
〈また、バカにしてる!〉
〈これは、大変だぁ!〉
〈なによぉ!〉
〈知いらない!〉
〈何なのよぉ!〉
〈彼、奥さん、いるんだよね〉
〈そうだよ〉
〈ふううううん〉
郁恵は、あきれた、と言うような声で言った。
美咲は、バカにされていると感じた。
〈郁恵、思ってること、言ってよ〉
美咲は、郁恵がどう思っているか、知りたい。
〈奥さんがいる人と、どうしたいの?〉
と、郁恵が尋ねてきた。
〈どうって……〉
〈旦那と別れて、その人と一緒になりたいわけ?〉
〈……〉
〈ま、頑張んなさい、すっごく大変だろうけど〉
〈イヤミ言ってるみたい〉
〈そんなんじゃないよ、美咲、なにやってるか、わかってんのかな、って〉
〈バカみたいに言わないでよ〉
〈応援してるからね……あはは〉
と、郁恵は笑いながら電話を切った。

(3) 残り香

寝室の掃除が済んで、
美咲は、押し入れから客用の布団を引っ張り出した。
シーツを洗濯しようと思った。
布団を広げる。
郷田の匂いがした。
美咲は、深呼吸をして、郷田の匂いを嗅ぐ。
そして、布団には、黄色いシミがあり、
かすかに精液の匂いがした。
きのうのセックスがよみがえる。
美咲は、布団に横たわる。
乳房を揉む。
「ん」
ため息が漏れる。
ブラジャーを外して、両方の乳房を揉み続ける。
郷田の指を思い出す。
「あうっ」
女の悦びを知り尽くした郷田の指が、
美咲の乳房の弾力を楽しんだように、
今は、美咲の指が、乳房を揉む。
目を閉じると、
郷田の息づかいが聞こえてくるようで、
指先で、硬くなった乳首をいじると、
「ああんっ」
あえぎ声がでてしまう。

パンティを脱いで、股間に指を這わせると、
じっとり濡れていた。
(欲しい! あの人のおチ●ポが、欲しいよぉ!)
オナニーは、果てしなく続く。
美咲の体も心も、オナニーは満たしてくれない。
布団にうつぶせて、
郷田の匂い、精液の匂いを何度も吸い込む。
美咲は、布団の上で、悶え続けた。
欲望が、押さえられない。
「おチ●ポ、欲しいっ!」
美咲は、声に出していた。

(4) 郁恵

しばらくたって、平日の午後のショッピングモール。
美咲は、スターバックスに入る。
郁恵がいた。
「待ち合わせ?」
と、尋ねると、郁恵は
「そうだよ」
と、答えた。
郁恵は、カラダにぴったり張り付く服装をしている。
「カレシと待ち合わせ?」
「うん、美咲は?」
「暇つぶし」
「カワイソウ」
「バカにして」
「ふふ、美咲の口癖ね、バカにして、って」
「バカにして」
「ほら……ハハハ」
「どんな人?」
郁恵は、思わせぶりな顔で、美咲を見る。
「もうすぐ来るよ」
「そうなんだ、じゃあ、あたし」
「待ってよ、紹介する……」
郁恵は、フラペチーノを吸った。
「ワタルくん、彼氏、ワタルくんていうんだけどさ……」
「うん」
「テク、あげてるの」
「テク?」
「そう、テク……セックスのテクニックだよ」
「もう……郁恵ったら……露骨なんだから……」
「ふふ」
美咲は、周囲が気になるけれど、
この場所で、こんな話ができる郁恵がうらやましい。
「セックス、どんどん上手になってるの」
「上手って?」
「そうね、私を気持ちよくさせるのが、上手くなっていく、って感じ」
「そうなんだ」
「郁恵さんを、イカせてあげる、なんて言うの」
美咲は、郁恵が照れもせずにセックスに話をするのを、聞いている。
「一生懸命なんだよ。かわいいんだよ」
郁恵は、うれしそうだ。
ワタルとのセックスが、そんなに楽しいのだろうか。
「仕込み甲斐がある、ってとこ」
「仕込み甲斐?」
「そうだよ、女をイカせるコツを、仕込んであげなくちゃ」
「どうやるのよ?」
「努力に、報いてあげるんだよ」
「どういうこと?」
「どうやったら、女がイクか、カラダで応えてあげるんだよ」
「???」
「いいときは、いいってこと、ちょっとオーバーに見せるとか」
「そうなんだ」
美咲は、納得する。
「年上のお姉様を、ちゃんとイカせることができるようになって」
郁恵は続ける。
「男は、一人前だからね」

「で、美咲の方は、どうなの?
 天才料理人とは、うまくいってる?」
「時々……」
「セックスしてるんだ」
「うん」
美咲は、言いよどんだ。
「どうしたの?」
と、郁恵が尋ねた。
「ねぇ、バカって言わないでね」
「なんなの?」
「彼が奥さんとエッチしてるって思うと、腹が立つの」
「あらら……」
「わかってるんだけど……」
「頑張って、略奪婚しなさい」
「……」
「旦那とは離婚する」
「……」
「どうなの?」
「そんなこと……」
「でしょ?」
「うん」
「わりきっちゃいなさい」
「わりきるって?」
「彼は、セ・フ・レ」
「セフレ?」
「セックスフレンドよ」
「……」
「美咲、気をつけないと、カレシに捨てられるよ」
「どうして?」
「だって、美咲、オモイもん」
「オモイ、って……」
「うざい、って思われるかも」
「うざい……」
「あ、あたしのセフレが来た」
振り返ると、若い男が近づいてきた。
「こちら、ワタルくん」
男は、ちょこんと頭を下げた。
すらりとした体型の、もしかして大学生だろうか。
「こちら、美咲」
そして
「悩める人妻さん」
と付け加えた。
「郁恵ったらぁ……もう」
郁恵はワタルの手を握った。
ワタルが握り返す。
恋人同士。
美咲は、ふたりがキスをするのではないかと思った。
ふたりから目をそらし、ワタルの股間を見てしまう。
ジーンズのそこは、
むっくり膨らんでいる。

「じゃ、美咲、頑張ってね」
と言い、耳元で
「これから、ホテルで、エッチするの」
といたずらっぽく言った。
去って行くふたりの後ろ姿を見ながら、美咲は
「セフレ、か……」
と呟いた。
ワタルは、郁恵の腰に腕を回し、
郁恵の脇腹をまさぐっている。
郁恵の尻に張り付いたスカートには、
Tバックの線がくっきり浮き上がっている。
郁恵の尻タブがぷりんぷりん蠢いて、
妖しく、なまめかしい。
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