麻耶の黒い下着(修正版) 第3回

沼 隆

おことわり: 登場する人物名、地名、団体名などは、
       実在するものと一切関係がありません。

登場人物  塩津美和 坂下家の隣人
      坂下大樹 アマチュア写真家 浩平の父親
      坂下麻耶 大樹の妻
      坂下浩平 大樹の先妻の子
     *   *   *
      浜部朱美 大樹の写真仲間
      篠田麻妃 大樹の写真仲間
      沢渡良太 大樹の写真仲間


(1)

美和は、寝室にいる。
明かりを消して、暗くした寝室。
ベッドに横になっている。
浩平は、隣に越してきたとき、感じのいい男の子だと思った。
お父さんそっくりの、礼儀正しい、男の子。
でも、今日は、ちがった。
別人というより、隠していたものを、突然見せつけてきた、という感じ。
冷ややかな目をしていた。
激しく怒ったりしたけれど、とても冷静な声だ。
けれど、麻耶がいるところでは、笑顔を見せた。
あの、感じのいい、浩平だった。
美和は、浩平が見せた2つの顔に、驚き、怖くなっている。
表の顔と、裏の顔、いや、内面をむき出しにした顔。
義理の母親の前では、「いい子」のフリをしているのだろうか。

麻耶は、浩平には、義理の母。
去年、浩平の父親と再婚したばかり。
それに、浩平がお隣に引き取られてきたのは、つい、ひと月前のことなのだ。
浩平の両親は、浩平が小学生の時に離婚した。
以来、浩平は、母親と暮らしてきたのだ。
それが、数ヶ月前、母親が亡くなって、
父親に引き取られたのである。
浩平は、麻耶の前では、いい子ぶっている。
麻耶と暮らし始めて、日がたっていない。
麻耶に相談したところで、麻耶を困らせるだけだろう。
浩平の父親は、50歳に近いのだが、
麻耶とは親子ほども歳が離れていて、
確か、麻耶と浩平は、10歳も違わないはず。
父親に話して、解決しようと思ったけれど、浩平に逆襲されてしまった。
あの、わいせつな写真ガネットで公開されたら、おしまいだ。
隣家の浴室で、シャワーを使う音が、美和の寝室まで聞こえてくる。

(2)

浩平は、ボディソープで全身を洗い流した後、陰茎をていねいに洗っている。
亀頭を、サオを、いとおしむように、洗う。
タマ袋も。
塩津のオバサンの下着には、がっかりした。
色気もなにもない、白い下着。
オバサンと比べたら、麻耶の下着は・・・
オヤジの、趣味なのか。
塩津のオバサンにも、似合いそうなのに・・・
麻耶より年上で、三十いくつということだけど、
浩平の目に、美和の肉体は魅力的だった。
「熟女」という言葉は、こんな女に使うのだろうか。
パソコンに保存した画像が、目に浮かぶ。
今夜は、100枚ちかく撮った塩津美和の写真を、整理するのだ。
塩津のオバサンを、もう一押ししておいたほうが、いいかもしれない、
ダンナが帰ってくるのは、真夜中過ぎだろう。

(3)

浩平は、自分の部屋に戻った。
窓から、隣の家を見た。
美和の寝室のカーテンが、閉まっている。
窓辺に近寄って、下を覗いた。
ガレージには、美和の車しかない。
ダンナは、まだ帰っていない。
美和の携帯に電話する。
呼び出し音を20回鳴らしても、美和は出ない。
浩平は、いらだつ。
もう一度。
やはり、出ない。

美和は、明かりを消して、リビングのソファに座っている。
暗がりの中で明滅する携帯を見つめている。
浩平は、3度かけてきた。
美和は、出なかった。
恐ろしくて、出なかった。
出なかったことで、恐ろしくなったが、出なかった。
あの写真を、あの、いかがわしい写真を、公開されたら・・・
そう思うと、からだが震えた。
玄関のチャイムが鳴る。
壁のインターホンを取る。
「どなた?」
「・・・・・・」
「どちらさまでしょうか?」
返事がなかった。
玄関に向かう。
もう一度、チャイムが鳴る。
玄関ドアに向かって、美和は「どなたですか」と言った。
明かり取りのガラスに、人影が映っている。
「だれ?」
「浩平です」
抑えた声だった。
「浩平くん・・・」
「居留守、使うんだね」
「そんな・・・」
「開けて」
美和は、ためらっている。
浩平は、抑えた声で、しかし、激しい口調で言った。
「開けて!」
美和がドアを開くと、浩平は、押しのけるように入ってきた。
美和は、ひとめを怖れて、急いでドアを閉める。
「なんで、電話に、出ないんだよ」
「用を、たしてたから・・・」
「うそつき! うちじゅう真っ暗にしてさ、オバサン、なに、やってるんだよ!」
「大きな声、出さないで」
一呼吸置いて、浩平は言った。
「オレに、なにをしてくれるって?」
「・・・・・・」
「さっき、オレに、してくれるって、言っただろ?」
「お願い、大きな声、出さないで」
「あんたが、出させてるんだろうが!」
「なにを、したらいいの?」
「そうじゃないって、言ってるでしょうが!」
「どうすればいいの?」
「バカじゃねえの? オレが何をしたいかじゃないって!
 あんたが、何をしてくれるかって、言ってるんだよ!」
「こ、浩平くんが、し、したい・・・こと」
「ぶちのめされたいのか、あんた!」
「え、エッチ?」
「へえ、エッチ、させてくれるんだ」
「お、オバサンと、し、したいの?」
「ふふ、オバサン、結構、いい感じなんだよ」
浩平が、にやりとする。
(浩平くん、あたしと、エッチしたかったのね・・・)
「エッチ、するから、約束して」
「約束?」
「ウン、約束して」
「なにを?」
「写真、ひとに見せないって」
「ははは、ははは、ははは」
おかしくて笑っているのではない。
浩平の、わざとらしい笑いかたに、美和は打ちのめされていた。
「オバサン、じゃあ、〈ロースン〉で待ってるから」
「えっ、これから?」
「ああ」
「まって」
出て行こうとする浩平を呼び止める。
「〈ロースン〉、困る」
「なんで」
「ひと目が・・・」
「じゃあ、来なくていい」
浩平は、振り向きもしないで出て行った。

(4)

塩津美和は、コンビニ〈ロースン〉にいた。
夜道を、歩いてきたのだ。
人目につかないように、黒っぽい服装で。
不安におびえながら。
夜道が怖かったのではない。
浩平が怖いのだ。
浩平に脅されて、エッチするかもしれない、
これから先も、ずっと脅かされるのか、
アレを見られたばかりに、
写真に撮られたばかりに、
弱気になって、脅されて、
浩平の前ではだかになり、
四つんばいになったり、
性器を広げた写真を撮らせてしまった。
エッチさせたら、
写真を返してくれるのか。
そんなこと、いけない、
エッチなんて、
そんなこと、したら・・・
エッチ、って、どこで、どこでするつもりなんだろう・・・
美和は、動転している。
〈ロースン〉に入って、浩平を探す。
いない・・・
どこ?
店内を一周する。
いない・・・
店員の目が、突然気になる。
何か、何か、買わなくちゃ。
でも、目が店内を泳ぐ。
浩平の姿を求めて。
いない・・・
本当に、いない。
もう、どのくらい、こうして待っているんだろう。
店内の時計を見ても、ここに来て何分経ったか、わからない。
雑誌コーナーを確かめる。
同じ年頃の男の子が、エロ雑誌を立ち読みしているけれど、
浩平ではなかった。
携帯で浩平の番号に電話する。
なんの応答もないまま、あっさり切られた。
どうして?
なんで?
その時、浩平は、横たわる麻耶のそばにいたのである。

(5)

浜部朱美(はまべ・あけみ)と篠田麻妃(しのだ・まき)は、
坂下大樹が主催する写真愛好会の会員である。
この日の撮影会が終わって、
朱美は、麻妃の車で自宅まで送ってもらうところである。

「朱美、これから、カレシとデートなんでしょ?」
麻妃が、助手席に座っている朱美に訊いた。
「ええっ」
「とぼけても、無駄よ、わかってるんだから」
「なに、言ってるの」
「朱美、家で着替えして、デートの場所に行くんでしょ」
「バカなこと、言わないでよ」
「ちゃんと、顔に書いてあるんだからさ、朱美」
「帰って、ダンナと晩ご飯ですぅ」
「ふうん、ちゃんと、奥さんするんだ」
「そうだよ」
「うそつき! 今日一日中、はしゃいでたくせに」
「それは、愉しかったからだよ。麻妃だって、愉しそうだったじゃない?」
「全然!」
「ごめん、ごめん、沢渡さん、来てなかったね」
「もぉ! 朱美ったら! 良ちゃん、仕事だって」
「あ、そうだったね」
「仕事か・・・ムカツク」
「寝たの?」
「バカ言わないでよ、朱美、あんたと一緒にしないでよ」
「ひどおい、麻妃ったら」
「はいはい、着いたよ」
「ありがとう」
「またね。カレシによろしく」
「ばかねぇ」
走り去る麻妃の車を見送って、朱美は家にはいる。
麻妃は、お見透しだ。
麻妃に自宅まで送ってもらったのは、着替えをするため。
今夜、カレとお泊まり。
夫は、長男を連れて、宮崎まで一泊二日の帰省をしている。
釣り旅行を兼ねてのことだ。
子供の頃からよく知った釣り場があるという。
月に一度、出かけていく。
それは、朱美にとっては、カレシと一晩過ごせる時間でもあるのだ。

朱美は、今日は、糸島半島で風景写真を撮影してきた。
メンバーの中から8名が参加した。
小雨が降りはしたけれど、春のおだやかで暖かい雨で、
よろこぶメンバーもいた。
ふたりの不倫は、バレバレかもしれないけれど、
不倫をしているカップルは、他にもいる。

下着からすべて取り替える。
化粧品と替えの下着をバッグに詰めて、
大通りのバス停に急いだ。
大樹の車が、スーッと近づいてきて、朱美は助手席に乗り込んだ。
車は、今泉に向かって走り出す。
このあいだ使った、洒落たラブホテルに向かって。
〈ココナツミルク〉だったかな。
若い子たちは、〈ココミル〉なんて、呼んでる。
朱美は、大樹の太股にのせていた指を、ゆっくり股間に這わせる。
「おいおい」
「なに?」
「運転できなくなるじゃないか」
「だめよ、しっかり、運転して」
「うっ」
「うふ、もう、堅くなってる」
「よせよ、朱美」
朱美は、ズボンの上から大樹の肉棒を握りこむようにして、親指で亀頭をこすった。
「こら」
「待てないよ」
「もうすぐ、着くから」
朱美は、手を離さない。
いたずらっぽく上目遣いに大樹を見つめながら、肉棒を刺激する。
巧みな指使い。
「食事、どうする?」
「ルームサービス、頼もうよ」
「ああ」

(6)

「待ちきれなかったよ、朱美」
「ほんと?」
「ああ、朝からずっと、したくってサ」
「ふふ、あたしもよ」
「そか、朱美もか」
客室へあがっていくエレベーターの中。
ふたりは、ぎゅっと抱き合う。
そう、ぎゅうっと。
朱美の胸が、大樹の身体に押しつけられて、乳房が押しつぶされる。
朱美は、大樹の高ぶりを、下腹部に感じている。
膨れあがった肉の欲望を、相手の身体に押しつけあって、
朱美は、熱い吐息を大樹の胸に吹きかける。
大樹の指が、フレアスカートのすそをまくり上た。
「だめぇ、こんなところで」
「だめなもんか、ここは、エッチをしに来る場所だぞ」
「んっ」
「ほら、よだれたらしてる」
「ああっ」
「すけべ」
「いやん」
朱美の、あの敏感な太ももの内側を、
どうすれば朱美が「イク」か、知り尽くした指のさきで、
撫でるのである。
「ああ・・・ああ・・・ああん・・・」
朱美は、顔を大樹の胸に埋める。
エレベーターは、ゆっくりと上昇を続けている。

ベッドに倒れ込み、唇を吸いあい、背中をまさぐりあう。
ふたりの口の周りは、唾液でべとべとになる。
大樹が、ジュルリと吸いこんだ。
朱美は、上体を起こすと、大樹のシャツを脱がせる。
50近い年齢であるが、からだは若い。
トレーニングを怠らないからだ。
アウトドア派の大樹は、ストイックにからだを鍛える。
何事も、徹底するのだ。
写真も、女も。
朱美は、大樹の乳首を吸う。
大樹の指が、朱美のウエストに伸びる。
その指から逃れるように、朱美は大樹の下半身に向かう。
ベルトを解き、大樹に腰を浮かさせながら、ズボンを脱がせた。
パンツも。
大樹の腰の、生い茂る陰毛から、黒ずんだ肉棒がニョッキリとそそり立っている。
血管が青黒く浮き上がり、ごりごりと節くれ立った肉棒を、朱美は握る。
ドクン、ドクンと、熱く流れる血潮を、朱美は手のひらに感じる。
朱美は、握りこんだ手をゆっくりと上下させ、肉棒をしごく。
「おまえも、脱げよ」
朱美は、大樹をじらすように、ゆっくりと濃紺のブラウスのボタンをはずした。
乳房は、原色の熱帯の花をあしらった大胆な絵柄の、ブラジャーに包まれている。
右の乳房にあるホクロが、なまめかしい。
朱美は、スカートを脱いだ。
ブラジャーと揃いのビキニパンティをはいている。
夫には、見せたことがない下着。
大樹は、朱美を抱き寄せ、唇を吸う。
朱美の指は、肉棒を握り、しごいている。
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