第十章「水賊」05


「う〜ん……これは嫌がらせか何か?」
 なにやら強くなってきた“商船の護衛”と言う依頼への不信感から、あまり部屋を出ないように過ごしてきたあたしと綾乃ちゃんに舞子ちゃんを加えた三人。そんなあたしたちの部屋へ夕食が届けられたのだけれど、パンやスープの横にあるべきもの……フォークやスプーンがものの見事にどのお盆にもついていなかった。
「これでどうやって食べろって言うのよ。ちょっと行って文句言ってくる」
 長時間狭い船室に引っ込んでいれば、多少のストレスも溜まるし体も動かしたくもなってくる。ちょうどいい機会だと、椅子代わりに腰掛けていた二段ベッドの下段から腰をコキコキ伸ばして立ち上がるけれど、それよりも先に、向かいのベッドに舞子ちゃんと並んで座っていた綾乃ちゃんがパッと動き出してしまう。
「私が行ってきます。先輩は舞子さんと待っててください」
「いいよ、あたしが行くって」
「い、いえ、先輩が行くまでもありませんから……その…す、少し時間が掛かるかもしれませんから、だから…えっとぉ……」
 ……これは何かあるな。
 綾乃ちゃんのはっきりしないものいいと、気付かれまいと恥ずかしそうに太股をモジモジ擦り合わせる仕草に、大体の事情を察する。……つまりおしっこに行きたいわけだ。
「……やっぱり付いて行く。舞子ちゃんも悪いけど付いて来てくれる?」
 一人でトイレに行かせるわけにはいかない。……べ、別に覗きたいからとか苛めたいからとか、そう言うイヤらしい意味じゃない。
 船の中の雰囲気に違和感を感じる今、一人で船内を行動させる危険は出来るだけ避けた方がいい。あたしがトイレに行く時にだって、部屋の入り口に魔封玉を仕掛けて用心していったのだ。それにフォークやスプーンを受け取るのなら、大勢船員がいる場所へ行かなければならない。だったらみんなで行動した方が襲われる危険性も少なくなると思う。………が、
「ダダダダダダメです! せ、先輩は付いて来ないでください!」
 と、綾乃ちゃん本人に激しく拒否されてしまい、そのまま扉を開けて逃げるように廊下に飛び出されてしまった。
 ……やっぱりエッチとおトイレって、恥ずかしさが違うものなのかな……
 思い返してみれば、綾乃ちゃんだけは船の中で一度も用を足しに部屋から出ていない。窓の外はすっかり暗くなってしまっているにもかかわらず、だ。
 壁にはめ込まれた丸い窓に目をやると、外は景色を見ることも出来ないほどに夜の闇が広がっていた。しかも船は動いていない……河をさかのぼる途中で雨が降り出し、風が激しく荒れてきたので、大河を挟む切り立った崖の窪みで天候が回復するまで錨泊(びょうはく)することにしたらしい。
 北側の街へ到着するのが遅れると連絡を受けた際に説明されたが、窓に無数の雨粒が叩きつけられ、船体が軋むほどの風が吹きつけられると、船旅初体験の人間としては、不安で不安で仕方なくなってしまう。
 それはともかくとして、こんな時間まで我慢していたのだ。扉の外であたしたちが待っていたら、のんびり用も足せないか……船室に響く雨と風の音を聞きながら綾乃ちゃんの苦悩と恥じらいに思いを馳せていると、不意に、あたしが腰掛けているベッドが軋みの音を上げた。
「お姉さまは綾乃ちゃんがそんなに心配なんですかぁ〜?」
 振り返ると、あたしの目の前に綾乃ちゃんの顔があった。一瞬ドキッとして慌てて身を離そうとするけれど、あたしの腕にはスルッと舞子ちゃんの両腕が絡みつき、ギュッと意外にボリュームのある膨らみが押し付けられてしまう。
「そ…そりゃ心配よ。この船の中、お、男の人しかいないんだし……」
 これで無理に距離をあけることも出来なくなった……二人っきりになった途端のいきなりすぎる大胆な急接近に胸をドギマギさせながら、あたしは急速に火照っていく顔を窓の外へ向けながら当たり障りのない答えを返す。
「舞子、綾乃ちゃんの横にいたから分かりますぅ〜。綾乃ちゃん、お姉さまのことが大好きなんだって♪」
 ……意外に鋭い。のんびりした話し方をするから性格もそうなんだと思ってたけど……こうもズバッと聞いてくるとは。
 これに「そうなんだ」とそっけなく答えるのも、「ええっ!?」とわざとらしく驚くのも、かと言って答えに窮して無言を貫き通すのも、返事としてはどこかおかしい。まあ……見る人がみれば綾乃ちゃんのあたしへの思いは結構分かりやすく、あたしも何度か肌を重ねて気付いてはいたので、ストレートに肯定するのは一つの手なのではあるが……ううぅ、こういう話をいきなり振られたら、本当にどう答えていいのか……
 結局あたしが選ばざるを得なかったのは、肯定とも取れる「無言」だった。よどみなく返事を返せたら格好いいんだろうけれど……どうせあたしはもてませんでしたよ、とほほほほ……
 年頃になっても街の女の子から無視され続けてた男の自分に恨みがましい想いを抱くが、今はそれどころではない。腕には年下の女の子の柔らかいおっぱいの感触……それだけで女になれた事をちょっぴり神様に感謝したくなるのに、そんな状況で綾乃ちゃんへの好意にどう答えればいいのか―――
「でね、舞子もお姉様のこと、ダ〜〜〜〜〜イスキになっちゃったんですよぉ〜♪」
「………はい?」
「困ってる舞子を助けてくれたときのオネーサマ、すっごく素敵でしたぁ〜……舞子、一目でメロメロですぅ〜……♪」
 そう言って赤く染まった顔で防具を着けたあたしの肩へしなだれかかってきて……って、さっきの「綾乃ちゃんはあたしが好き」っていうのは一体なんだったわけ!?
 ……とは言え、今、あたしは「大好き♪」と、言われましたか?
 その事実を思い返して確認し、もう一度確認し、さらにもう一回だけ耳を疑いながら確認してみる。……そして腕にしがみついてきている舞子ちゃんを見下ろすと、暗い室内を照らすランプの明かりに照らされながら、舞子ちゃんは小悪魔のような笑みを浮かべ……急にその表情を曇らせた。
「あ〜あ……お姉様が、舞子の本当のお姉様だったらいいのになぁ〜……」
「本当の…お姉様?」
 反射的に聞き返すと、舞子ちゃんの表情はますます暗くなる。その分だけ、救いを求めるかのようにしがみつく腕に力を込める。
「……舞子ちゃんは、お姉さんを捜して旅をしているの?」
 本当のお姉様……と言う事は姉妹と言う事だろう。肉親を探しているのなら、決して強く見えない舞子ちゃんのような子が旅をしている事にも納得が行く。
 けれど、
「違いますぅ…舞子が捜しているのはお姉さんじゃなくてお姉様ですぅ……ずっと、ず〜っと北にいるお姉さまを捜さなきゃいけないんですぅ〜…」
 ……姉妹と言う意味のお姉様じゃないのか。
 舞子ちゃんが口にする“お姉様”と言う言葉は、親愛の情を込めた呼び方だ。その言葉に含まれるニュアンスは実際の姉妹を意味しているものではないように感じられる。
「じゃあ……その舞子ちゃんのお姉様ってどんな人なのかな?」
「? 舞子のお姉様は目の前にいますよ?」
「そうじゃなくて、捜さなきゃいけないほうの“お姉様”って人。北の方にいるんでしょ?」
「………知らない」
 それは、今までの舞子ちゃんからは信じられないほど暗く沈んだ声だった。
「舞子、そんなの知らない……会った事もないから……」
「え、でも……」
 じゃあなんで“お姉様”と呼んでるんだろう……そんな疑問が頭をもたげるけれど、思考はすぐに中断されてしまう。
 上を向いた舞子ちゃんの顔が、涙で濡れていた。
「グスッ……お姉様は、舞子のことがお嫌いですかぁ〜?」
「そ、そんなことないよ。でも、舞子ちゃん、どうして急に――」
「やっぱり……そうやってすぐ話を逸らすの、舞子とお話したくないからなんですね……」
「違う、違うって! うわぁ、舞子ちゃんとお話できて嬉しいな〜♪………う、うれしい…な……」
 ――わ…わざとらしすぎた…かな?
 言葉からだんだん力がなくなっていくのが自分でも分かる。これじゃ逆効果で舞子ちゃんの機嫌を損ねてしまうかも……と思っていると、
「クスッ……お姉様、ありがとうございますぅ……舞子、嬉しいです……」
 あんなに暗かった表情に明るい笑顔を浮かべて涙を指先で拭い……いきなり、あたしの唇へ顔を近づけてきた。
「――――――ッ!?」
 かわすだけの距離的余裕も、時間的余裕も、精神的余裕もなかった。柔らかい唇があたしの口を塞ぎ、温もりのある鼻息が顔を撫でられて……ここまでされてはもう疑いようがない。
 ……舞子ちゃん、同性愛の、いわゆる一つの女の子が好きな女の子ォ!?
 あたしの事をお姉様と呼んだり、男性をあんなに恐がっていたのに初対面のあたしにはしがみついてきたりと、いくつかその兆候は感じてはいたけれど、まさか、二人っきりになった途端いきなりキスなんて思いもしなかった。そのままあたしは粗末なベッドへと押し倒されてしまうけれど、乱暴に押しのける事も出来ず、困惑したまま美少女の熱のこもった口付けに身を委ねてしまう。
「ん…んっ……お姉…様ぁ……ん…んん……んっ……」
 どこかぎこちなさが残るキス……それでも唇同士が絡み合い、舞子ちゃんの唾液がゆっくりとあたしの口内へ染みこんでくると、遅ればせながら脳がこの状況の異常さに反応し、顔を揺すって唇をずらすと必死になってうめき声を溢れさせた。
「ま、舞子ちゃん落ち着いて!」
「舞子は落ち着いてますぅ……お姉様…舞子を受け取ってください……」
 ―――受け取るって…舞子ちゃんを受け取るって一体どういう意味を含んでいらっしゃるんですか!?
 このままだと本当に貰ってしまわなければならない状況になりそうだ……どういう意味か理解しないままそう判断すると、とっさに舞子ちゃんの小柄な体を押し返そうと手を動かす。
「こ…こういうことは好きな人とするまでもっと大切にした方がいいと思う。だから、ね?」
「舞子はお姉様の事が大好きだから問題ないですぅ〜♪」
「そうじゃなくてぇ〜〜〜!」
 一体どう説明したものか……この子には何を言っても通じないような感じがする。ここは何か破壊力のある一言を言って舞子ちゃんを怯ませなければ…………はっ、そうだ。あたしには他の人にはないとっておきの一言があったではないか!
「……これだけはイいたくなかったんだけど……よく聞いててね、舞子ちゃん」
「んにゅ?」
 これを言ってしまうと、女の子が好きな舞子ちゃんから嫌われるかもしれないけれど……
「実は……あたし、男なの」
「あはははは♪ お姉様、そんな嘘には舞子は引っかかりませんよ〜だ♪」
 こうして、あたしが嫌われるのを覚悟して放った言葉はあっさり無視され、逆にショックを受けたあたしの隙を突き、舞子ちゃんの膝頭がグリグリとあたしの股間へ押し付けられてしまう。
「んんゥ!」
「ちゃ〜んと知ってるんですよぉ〜。股間にあるのが男の人でぇ、ないのが女の人ぉ〜♪」
 股間の縦筋に沿って膝が動くたびに、重い衝撃があたしの腰を震わせる。いくらあたしが感じやすくてもそう簡単に……と思う間もなく、前を開けたジャケットの下へ滑り込んだ舞子ちゃんの手が量感のある膨らみをゆっくりと揉み始め、小さく唇から吐息を漏らした途端、待ち受けていたかのように舌が口内へと入り込んでくる。
 ………だけど、なんかこう違和感が……
「ん…む……ッ―――!」
「あ……ご、ごめんなさい、歯が……」
 愛撫が始まり、流されようとしていたあたしの意識が一瞬の痛みで目覚めてしまう。
 舌を動かすのに夢中になっていた舞子ちゃんの歯があたしの唇を少しだけ切った。口の中に広がる鉄の味に似た血の味に、驚いて離れた舞子ちゃんの唇の代わりに右手の親指で切られた唇の端っこを擦ってみる。
「このぐらいなら大丈夫。血がにじんでる程度だし気にしなくても」
「でも……お、お姉さまに怪我をさせちゃった……」
 舞子ちゃんの視線はあたしの唇と、血の色をつけた親指とを往復している。さてどうやって落ち着けたものかと思案していると、胸と股間への責めを中断させた舞子ちゃんはあたしの右手を両手で包み、赤い色をつけた親指を口に含んだ。
「っ………ま…舞子…ちゃん?」
 返事はない。あたしの呼びかけに熱を帯びた視線を向けはするけれど、あたしの親指をくわえたまま離そうとしない。何度も何度も、唾液を纏わりつかせた舌で丁寧に嘗め回され、そのくすぐったさに背筋が震え、脳を沸騰させるような熱く異様な興奮が胸の奥から込み上げてきてしまい、一心不乱に指をチュパチュパとしゃぶる舞子ちゃんから目が離せなくなってしまう。
「ごめんなさい……お姉さまに怪我をさせてしまうなんて……舞子は本当にいけない子ですぅ〜…」
「い…いや……“いけない”ってのは……」
 いけない事をしているという意味ではあっているのに……そう言ってしまいたい衝動は、舞子ちゃんの顔がまた急接近してきた驚きにかき消される。
 けれど今度はキスではない。今にも泣き出しそうな表情で覆いかぶさってきた舞子ちゃんは、あたしの指にそうしたように、切れてしまった唇へ舌先を伸ばし、にじみ出るあたしの血をチロチロと舐め取り始める。
 ―――く…くすぐったい……舞子ちゃんの舌……くっ、ん……もう……あたしも……
 もうすぐ綾乃ちゃんも戻ってくるという焦りもあった。……が、ただ唇を舐められているだけの状況に我慢できなくなってきたあたしは、理性を総動員して欲望に流されまいと頑張っては見たものの舞子ちゃんの体の温もりの誘惑に屈してしまい、ついに、舞子ちゃんを抱きしめるように腕を小柄な体に巻きつけてしまう。
「ひゃうん! お、お姉…様……あむゥ!」
 あたしの血を舐めていた舌を同じく舌で絡め取り、舞子ちゃんの頭を左手で押さえつけて乱暴に唇を奪う。突然唇をふさがれてくぐもった声を上げる舞子ちゃんだけれど、スカートの上から右手でお尻をこねて谷間を布地越しになぞると、あたしの腕の中で身体を硬くし、唇の隙間から熱を帯びた呼気を溢れさせる。
「ん…ん……んフゥ………」
 経験の差なのだろう。あたしの跨ってきた舞子ちゃんだけれど、いつしか主導権はあたしの方へと移っていた。スカートに指先を深く差し込み、太股の付け根から谷間を撫で上げると白い陶器のような美しい肌に震えを駆け巡らせ、キスと愛撫とを繰り返していくと、アレほど緊張で硬くなっていた身体がゆっくりと弛緩してあたしに体重を預けてくるまでになる。
「……いやなら抵抗してもいいからね」
 濃厚な唾液が糸を引くほど唾液を交換し合ったあたしは、体の上下を入れ替えながら綾乃ちゃんに囁きかける。せめてもの心遣い……のつもりだったんだけれど、涙を流しながら嬉しそうに微笑む舞子ちゃんを見ていると、杞憂だった事がすぐに分かる。
 それなら……と、あたしは舞子ちゃんの衣服に手を掛けながら、上から覆いかぶさり耳に唇を寄せる。優しく耳たぶをかむと舞子ちゃんは肩を震わせ、背中を震わせ、そして身体を小さく仰け反らせる。そんなかわいらしい反応に気をよくして、あたしは舞子ちゃんの滑らかなかたわら和にさせている最中にも舌と唇で耳たぶを執拗に弄び、耳の穴に舌先を差し入れた。
「んゥ〜―――! くすぐっ…たい……お姉様って…い、いじわる…ですゥ〜……」
「そうよ。あたしはとってもエッチでとっても乱暴でとっても意地悪なお姉様なんだから。―――やめるなら今のうちだよ?」
 ちょっと脅かす言葉を交えてみるけれど、ここまできて辞めるつもりはない……赤く染まった顔に恍惚とした表情を浮かべる舞子ちゃんの口元へ舌先を突き出すと、向こうの唇からも絡め取るように舌が突き出されてくる。柔らかい舌を軟体動物のようにヌルヌルと絡めあわせ、おもむろに唇を重ねて混ざり合った唾液をすすりあう。興奮に任せて強く口内を吸い上げる舞子ちゃんに負けじと唾液を飲み下しながら、あたしの手は年下の少女の服を胸の下までズリ下ろしてしまう。
「やっ……は、恥ずかしいぃ……見ないでくださいぃ〜……」
「恥ずかしい事なんてないよ……舞子ちゃんのおっぱい、スゴく可愛いよ」
「だって……今してるブラ、可愛くないもん……」
 そのことか……確かに舞子ちゃんの膨らみを包み込んでいる下着は飾り気のない白地の旅人向けのものだ。けれどその先端にはキスだけで興奮して立ち上がった乳首が自己主張してくっきりと浮かび上がっている。あたしは恥ずかしそうに視線を逸らす舞子ちゃんを見つめながら、両手を二つの膨らみにあてがい、根元から先端に向けて中に詰まっているものを押し上げるように絞り上げていく。
「ふ…ふみゅうん………!」
 いささか力を込めすぎた気もするけれど、その動きのままにブラのカップを上へとずらして乳房を露わにすると、想像していたよりもずっと綺麗な形をしている舞子ちゃんの可愛らしい乳首を指でつまみ、指先の間からほんの少しだけ覗き見えている先っぽをチロッと舌先で舐め上げた。
「ひゃあんッ! お、お姉、様、ダメ、舞子…か、感じちゃいますゥ〜〜!」
 そんな言葉には耳を貸さず、赤い晴れがくっきりとついてしまった膨らみをこね回しながら、快感神経の集まった先端を舌の上面で丹念に舐めしゃぶる。舞子ちゃんの恥らう瞳にも見えるように、わざと唇から突き出した舌で棒付きの飴にそうするようにゾロリと舐め上げる。圧力を受けた乳首は上に持ち上げられてからプルッと弾け、そのたびに舞子ちゃんの身体は電流に打たれたようにビクッと跳ね上がる。
 経験の少ない少女にはあたしの愛撫は強烈過ぎるのか、プルプルと震える膨らみをグリグリと圧搾し、さゆうnお乳首を両方唾液まみれにしてしまうほど吸い上げると、浮いた背中はベッドに落ちる事無く反り返ったままになってしまい、まぶたはキツく閉じられ、快感に堪えるようにキュッと唇を噛み締めるようになってしまっていた。
「舞子ちゃん……」
 優しく呼びかけても唇は開かれない。喋った途端あふれ出す喘ぎ声をあたしに聞かれるのが、そんなに恥ずかしいのだろうか……そう思うと罪悪感がちくりと胸に突き刺さるけれど、ここでやめてしまうほどあたしも残忍ではない。
「いま……終わらせてあげるからね……」
 前髪を書き上げ、額にキスをすると、今にも張り裂けそうなほど張り詰めた乳房を左手で大きな円を描くようにこね回しながら、負う閉じるだけの力も残っていない膝の間からスカートの中へ手をしのばせ、熱い湿り気が充満した股間に指先を滑らせる。
「あっ…あぁあッ……!?」
「こんなに濡らしちゃって……ごめんね、ずっと待っててくれたんでしょう?」
 指先で乳首を擦りたてるだけで舞子ちゃんの全身は打ち震えている。木製の粗末な二段ベッドを船の揺れとは異なる揺れで軋ませるほど身をよじる舞子ちゃんをさらに追い詰める為に、下着にくっきりと浮かび上がった浅い縦筋を人差し指と中指をまっすぐ伸ばして撫で上げる。邪魔な布地が刺激を和らげてくれているけれど、指先が往復するたびに下着から染み出す愛液の量が少しずつ増し、次第に淫らな蜜の音がスカートの中から小さく響き始める。
「あ、ああぁ……お姉様…ん、や、あ、熱いのぉ……舞子のお腹…苦しくって…それで……それで……」
「無理に喋らなくていいよ。舞子ちゃんは身体を楽にしてて」
「でも……んゃ、ふ…ふぁぁ………!」
 あたしの指先がショーツの上からコリッとした突起を捉える。―――クリトリスだ。
 一番感じるポイントを捕らえたあたしは、下着の上から中指の先を硬く口を閉じた割れ目へ押し込み、親指の丸みでクリトリスを圧迫する。愛液を潤滑液にして輪郭をなぞるように指を滑らせると、手入れの行き届いた長い髪を振り乱すように舞子ちゃんは頭を振り、汗と熱気に包まれた全身をくねらせる。どこか幼さを感じさせる快感の受け止め方に、ふとある女性の顔を思い浮かべ……すぐに頭の中から追い出した。
 ―――今は、舞子ちゃんだけを見ていてあげないと……
 小さな罪悪感に胸を痛めながらも、舞子ちゃんの膝の間へあたしは身体を割り込ませる。もしあたしが男のままだったなら、大きくそそり立った性器を舞子ちゃんの股間へ突きつけてしまうような位置に腰を固定すると、淫核をこね、割れ目を弄ぶ右手の甲がちょうどあたしの股間の位置へと来る。……こうすると、まるで本当に舞子ちゃんと繋がっているような気分になってしまう。
「ハァ…ハァ……もう…舞子……お姉様の…お姉様のぉ〜……!」
 指を蠢かせるたびに舞子ちゃんの股間からは卑猥な水音を奏でるのに十分すぎる量の愛液があふれ出してくる。それを中指にたっぷりと絡め、舞子ちゃんの縦筋に沿わせてあてがうと、
「見ててあげるから……ね」
 未知の快感に恐れの表情の感情をにじませている舞子ちゃんへ微笑みかけ、ズリッと、指を上へと滑らせた。
「んあぁぁぁ!」
 上下に指を滑らせ、小刻みに震わせると、腰に集めるように服を脱がされた少女の裸体がビクッと跳ね上がる。下着越しとは言え、秘所へ重点的に振動と愛撫とを加えられ、本当の快感を知らなかった唇からは鋭くも熱を帯びた喘ぎ声が迸る。それと同時にパンパンに膨張した乳房も左手で押しつぶすように揉みしだき、今にも昇りつめようとしている舞子ちゃんをひたすらに弄び、オルガズムへと突き上げる。
「ああぁ、ダメ、舞子…とろけちゃうぅ……お姉様の指で…こんなに…こんなに気持ちが……あ、あぁぁ〜……!」
 最後の瞬間、あたしは右手の指全てを使って舞子ちゃんの割れ目を押し開くようにこね回しながら、いじってもらえずにいる左胸の乳首へ無我夢中で吸い付いていた。やわらかい膨らみを口いっぱいに頬張り吸い上げると、クリトリスから、花弁、そしておそらくまだ誰のモノも受け入れたことがない膣口に至るまでが次の瞬間に一気に緊縮し、舞子ちゃんは甲高い悲鳴を迸らせながら汗に濡れ輝く裸身を強烈なまでに反り返らせた。
「ああ、あああ、あああぁあぁぁぁあああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 快感に突き上げられ、舞子ちゃんが限界に達するのと同時に、指で圧迫と摩擦とを繰り返していた股間から勢いよく体液が迸る。………だけどまだやめない。ビクビクと痙攣している膣口やクリトリスにさらに刺激を加えると、舞子ちゃんの唇から溢れるはしたない声を聞きながらシュパッシュパッと打ち出される愛液の飛沫を手の平の中に受け止める。
「ふあぁ、お姉、様…舞子…こんなの…こんなの初めてぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!」
 今にも身体が折れ曲がってしまうのではないかと心配してしまうほどベッドの上で全身を反り返らせた舞子ちゃんだけれど、急に糸が切れたようにベッドの真ん中に崩れ落ちた。あたしが指を動かしても返事はどこか虚ろで、だらしなく開いた唇からは白く泡立った唾液がトロッとあふれ出してしまっていた。
「ぁ……ん…ハァァ………お姉ぇ…様ぁ………♪」
「ッ――――――!」
 ………マズい。そんな表情されたら…こう…また襲ってしまいたくなる衝動に……おおお落ち着けあたし。もう綾乃ちゃんが戻ってきてもおかしくない時間だ………し?
 身も心も蕩けさせてアクメの余韻に浸る舞子ちゃんから慌てて火照った顔を背ける。あたし自身も身体を重ねている間に疼き始めてしまっていて、舞子ちゃんのアソコを想像しながら小さく振っていた腰の奥には射精を堪えるのにも似た重たい感触がわだかまっている。―――が、そんな事は後回しだ。
 窓の外が夜なので日の傾きから時間を計ることは出来ないけれど、綾乃ちゃんが部屋を出てから二十分近く経っている筈だ。もしや外で待っていたり……と不安になって、ベッドから降りて扉に近づいてみるけれど、人の気配は通路側からは感じ取れなかった。
 ―――もしかして……大きいほう? いやいや、朝にちゃんと行ってたし……
 もし綾乃ちゃんがこの場にいれば、失礼すぎて土下座したくなるような想像をアレコレしながら心配するが、それでも帰ってくる気配は微塵もない。そうこうしている間に舞子ちゃんも身体を起こすのだが……
「お姉様、ひどいですゥ!」
 ――と、何故かいきなり怒られてしまった。
「舞子の事をさっきまであんなに愛してくださったのに、どうして離れちゃうんですかァ!? ひどいです、あんまりですゥ!」
「ご、ゴメンね。ただ綾乃ちゃんが帰ってこないから……」
「ブ〜! じゃあ、舞子を愛してくださったのは、全部嘘なんですかァ〜!? すぐ後に他の女の人の事を考えるなんて、あんまりですぅ! お姉様は舞子の理想のお姉様だと思ってたのにぃ〜!」
 ……いや、その“理想”っての……もしかしてそれは“女の子は好き”って意味ですか?
 そりゃあ、あたしは元々男だし、好きになるのなら男よりも可愛い女の子の方がウン百億万倍いいと思うけど、だからと言ってレズではない………と思っている。
 けど実際にやっちゃったじゃないかとか、そう言う議論はまた後だ。なんだかこう……今は、綾乃ちゃんが戻ってこない事に言い様のない不安を感じている。
 ――もしかすると、エッチしてる間に手遅れになってることも……
「舞子ちゃん!」
「は、はい?」
「今すぐ服を着て。疲れたって言うならポーション出すから、それ飲んで。準備が出来たら綾乃ちゃんを捜しにいくから」
 内心の焦りが言葉にも出てしまう。昇りつめた直後の舞子ちゃんに無茶でひどい事を言っていると思うけれど、一分一秒が過ぎていくほどに“なにか”が手指の隙間から砂のようにこぼれていくような気がしてならない。
 出来ればあたし一人ででも綾乃ちゃんを探しに行きたいけれど、この場に踏みとどまっている事だけが今のあたしに出来る舞子ちゃんへの精一杯の気遣いだ。
 そして、そんなあたしの焦りに気づいてくれたのだろう。イったと言っても軽くイっただけだった事もあり、服の乱れを整えた舞子ちゃんは外套と共に置いていた小さな袋を肩から提げ、緊張した面持ちであたしの側によって来てくれた。
「何にもないとは思うけど用心のためだから。ゴメンね、舞子ちゃん」
「いえ……舞子もいけないんですぅ……いきなりお姉さまにあんな事しちゃうなんて……顔から火が出ちゃいますぅ……」
 ―――その話は、また後で……このままだとなし崩し的に“お姉様”にされそうだし……
 あたしのほうも腰にショートソード、手には使い慣れてきた木棍を持つ。……いくら船内の空気がおかしいと言っても、武器も鎧も完全武装で捜索に行くのは物々しすぎると思う。だけど何もなければ笑い話で済むだけだ。
 激しく吹き荒れる雨と風。
 錨泊して動かない船。
 辛うじて舞子ちゃんには笑顔を見せていられるけれど、火照った体が震えるほどの冷や汗が背筋に流れている。
 ―――大丈夫。綾乃ちゃんに何かあればわかるはずだから……
 不安は消せないけど、抑えることは出来る。一つ息を吐き、唇を引き締めたあたしは扉のノブに手を伸ばそうとし、



 突如、無数の刃が扉を貫いた。


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