03「言葉じゃ嫌だと言ったって…」


(もし今、顔を上げたら間違いなく殺されてしまうような気が……)
 床に額を擦り付けて身を丸めた神奈は、背中に冷たい汗をかきながら必死に死の恐怖に抗い続けていた。
 頭のすぐ傍で衣擦れの音が響く……それがあの重機関銃と大薙刀を手にした巨乳メイドの蓬が服を脱いでいる音だと思うと、押さえつけた両手をさらに太股ではさんで隠している股間に若さゆえの熱い血潮がドクドクと流れ込んでしまう。
(こ、こんなのを高菱先輩に見られたら、自殺モノだよォ!)
 既に一度“モッコリ”は見られてしまっているのだけれど、今はさらに状況が悪い。弥生のバスローブを肌蹴た姿に興奮していただけならいざ知らず、頭の天辺から三十センチと離れていない場所で恥らいながら衣服を床へ脱ぎ落として行く蓬を想像して興奮を募らせたなどと知られたら、まさに節操無しの恥知らず。歳相応に女の子への好奇心旺盛な神奈がもし顔を上げれば、弥生から侮蔑の視線を浴びた上に物騒な凶器を持つ蓬にどんな目に合わされるか、想像に難くない。
『ご主人様…あの……ほ、本当に服を……?』
『ええ、そうよ。蓬が銃や薙刀で散々驚かせてしまったから神奈くんがおびえてしまったのだから。当然、貴方が責任を取って無防備な姿を晒して安心させて上げなさい』
 恐くて丸くなってるわけじゃないんですけど……そう言って弥生の命令を止めたかったのだけれど、その時点でとんでもない事になっていた股間をなだめるのに必死になっていた神奈には、その声を振り絞る事が出来なかった。加えて、神奈を散々脅迫してきた蓬が漏らした恥じらいの声を耳にしてしまったことで、若い男の子のエッチな妄想が補完されてしまい、股間の血管を破裂させそうなほどの更なるグレードへと昇りつめてしまっていた。
(そうだ、何か他の事を集中して考えて邪念を追い払うんだ。漫画の事、テレビ番組の事、絵の事……そういえば先輩のアソコ、やっぱり金色で……って、うわうわぁ! こんな時になに考えちゃってるんですか僕は。蓬桟だけじゃなく先輩のアソコまで、ア…アソコ……あうゥううう〜〜〜!!!)
 実際に見た光景を正確に瞳に焼付けてしまう神奈の才能が、今この時点では、とてつもなく本人を苦境に陥らせてしまう。ちらりと見えてしまった丈の短いバスローブの奥を思い出しただけで、節操とか理性と言う言葉をどこかに放り投げてしまった神奈の股間はズボンの中で暴れ狂う。それと同時に、メイド服に締め付けられていた蓬の巨乳まで頭の中に鮮明に描き出されると、健全な少年である神奈は天井に向けて突き出した腰をビクッビクッと震わせ、声にならない苦悶を吐き漏らしてしまう。
(それになんだよ、このスゴくいい香りは。蓬さんが今まで着ていたメイド服がすぐ傍にあるからって、何で……あああああっ、罪深い僕を許して助けてぇぇぇ!!!)
 男の子にとって本能そのものである健全な反応にもがき苦しむ神奈……そんな彼の頭の上に、パサッ…と柔らかい布が被せられる。
(あ…温かいし……さっきまでより濃厚に蓬さんの匂いが漂ってくるし……もしかしなくてもこれ、よ…蓬さんの……!)
 絨毯と数センチの距離で見開いた目に届いてくるのは、その布地を通って神奈の視界に差し込んでくる白い光だけ……神奈の頭に被せられたのは、紛れもなく、蓬の上半身に直接触れていた彼女のブラウスだった。
「あ……あっあああァ……」
(スカートとかエプロンとか全部脱いで……当然ブラウスって最後だよね……じゃ、じゃあ、すぐ傍に、あの蓬さんが、し、下着姿で………わああああっ! 考えるな、考えちゃダメ、ダメだってばァァァ!!!)
 想像だけで神奈の股間は激しく脈動してしまう。なにしろずっと女顔を隠すためにグリグリ眼鏡をかけてきた神奈は女性にもてたためしがない。女の子とどう喋ればいいかも分からないし、どう接していいかなんてもっと分かるわけがない。そんな純情すぎる青春を過ごしてきた神奈が、心の防壁の役割も果たしていた眼鏡を奪われた状態で、今また手の届く位置で巨乳の女の子が服を脱いでいるなんて言うとんでもないシチュエーションにいつまでも堪えきれるはずがなかった。
(見たいけど……殺されるし。けどでも、こんなの生殺しだよ、あああああ、最後まで持ってくれよ僕のリビドー!)
 リビドー(性衝動)が最後まで持つのがどういう意味かはともかく、神奈はもう限界だった。
 キツく閉じた目蓋の裏には、完璧すぎるほどのプロポーションの弥生が半裸で迫ってきた光景と、メイド服姿から導き出された巨乳の蓬の下着姿が次々と押し寄せていた。温かい弥生の唇の感触が、恥らう蓬が頬を染めて服に手をかけるところの想像が、延髄をキリキリと締め上げながら飴の様にネットリと溶かし、過熱状態に陥って処理能力が著しく減少した頭の中を男の子らしくエッチな事で埋め尽くす。
 何度も言うけれど、もう限界だった。切れて血が出るほど唇を噛み締めてふしだらな性欲を押さえ込もうとしても、頭を包み込んでいる蓬のブラウスが首筋や耳たぶをくすぐるように刺激し、鼻から空気を吸い込むたびに甘酸っぱい汗の香りが鼻腔の奥をくすぐってくる。どうあっても神奈の男心(?)を刺激するこの状況に忍耐力は既に尽き、かと言って性欲丸出しにして弥生や蓬に飛び掛れるような性格でもない。神奈に出来るのはズボンの中で暴れている愚息を手の平でしっかり押さえ込み、一分一秒が少しでも早く過ぎ去ってくれる事を願いながら身を丸め続ける事だけなのだが、
「あの……し、下着は……あの…脱がなくても………」
(うあゥ! そんな……恥ずかしそうに喋らないでェ!)
 蓬が口にした「下着」と言う一言で、少年の想像力はより豊かに膨らんでしまう。そんな神奈の頭の上からブラウスを拾い上げると、蓬はさらに一言。
「だってこの男、絶対にいやらしいこと考えてますもん!」
 ―――神奈の精神にハンマーで殴られたようなダメージを与えられた。
 もし仮に、メイドさんがすぐ傍で服をモジモジ脱いでいく状況で欠片もふしだらな事を想像しない男がいれば、よほど思考が偏っているに違いない。そう言う意味では神奈はとても健全な青少年なのだが、改めて声にして言われると、グサッと鋭く心に突き刺さってしまう。
「………まあいいでしょう。では蓬、“危険物”の確認、今すぐ行いなさい」
「はい……ううう、なんで私が………」
 言葉の端々に「あんたのせいで私がこんな恥ずかしい目にあっちゃってるんだから…!」と言う神奈への敵意を覗かせながら、少し声を熱く潤ませた蓬は神奈の頭のすぐ傍にしゃがみこみ、
「抵抗はやめて、おとなしく体を起こしなさい!」
 と、服を脱がされた趣旨も忘れ、力ずくで神奈の上半身を床から引っぺがしにかかった。
「い〜〜〜や〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜!!!」
「抵抗はやめなさいって言ったでしょ! これ以上暴れるなら、あ、後で射撃訓練の的にしちゃうからね!」
「それもいやだけど先輩の前で体を起こすのは―――って、あ、ダメ、こっちに来ないでェ!!!」
 もし蓬が服を脱いでいなければ、体の小さい神奈なんてどれだけ亀になっていても一瞬でひっくり返されていただろう。鉄の塊である重機関銃を片手で扱い、長柄の大薙刀も片手で振り回す蓬の腕力はウエイトリフティングの選手以上にとんでもない。そもそも自分の巨乳を支えるための筋力をつけようとして武道を修めてしまっただけに、特に腕や背中の筋力は見た目からは想像も出来ないほど強力になってしまっていたのだ。
 だが今は、高菱家メイド服務規程により上下は共に白の下着、それに白のガーターベルトと白シルクの吊りストッキングと言う白尽くしの下着姿だ。しかも胸囲100センチを軽く超えている胸はブラに押えつけきれるはずもなく、神奈の体を起こそうと力むほどにブルブルと震え、零れ落ちそうになってしまっていた。
 しかも、そんなグラマーすぎる肢体を小柄とは言えれっきとした男である神奈に近づけるには、意外なほどに蓬は恥じらいが強かった。少し離れた位置から伸ばした腕を神奈の体の下に差し入れても、ろくに力など入るはずもない。しかも太股をぴっちりあわせた体育座りなら尚更だ。もし今、神奈が顔を上げてしまったら、太股の下から見えてしまっている白いショーツに覆われた蓬の股間を見て鼻血を噴いて卒倒していたことだろう。
 こうしてワーワー言いあいながらも、神奈は辛うじて体を丸め続けていられたわけだけれども……それが恥ずかしさと怒りがミックスされて爆発しやすくなっていた蓬の精神を容易く崩壊させた。最初は少し離れていた距離を膝を突いて詰め、それでも神奈が抗うと、理性の糸がプッツンと音を立てて切れてしまい、神奈の背中に覆いかぶさると右腕を首に、左腕を腰に回し、締め上げながら自分の体ごと絨毯の上をひっくり返った。
「ふにゃあああああああ〜〜〜!!?」
 軽量級の神奈の体は、背中にムッチリ柔らかい感触を押し当てられながら視界が180度回転し、天井を目にすることとなる……が、神奈の体は蓬より小さく、なおかつ蓬より軽く、そのうえ蓬より力が弱かった。“コロン”と言う擬音が聞こえてきそうなほどに見事に回転した神奈は、その勢いのままさらに180度回転し、結局背骨を軸に蓬と一緒に回転して、また元の亀になっている体勢に戻ってしまった。
「なっ、なにやってるのよ、あんたはァ! どうして回転中は抵抗しないのよ!? なんでどうして一回転してこの格好になっちゃってるわけェ!?」
「驚いたのは僕のほうなんですけどォ〜! あ、だから、は…離れて離れて離れてぇ! 今、物凄く危険だから、お願いだから僕から離れてください〜〜〜!!!」
「あんなのどこが危険なのよ、何の運動もしてないようなナヨナヨの腕してるくせに! そんな脅しに引っかかるほど私は甘くないんだからね!」
(き…危険なのは蓬さんのおっぱいなのにィ! うァ、うアアアアアアアアア! そんなに動かれたら、おっぱいが、二の腕が、太股が、アソコが――――――!!!)
 バカにされたと思ったのだろう、蓬は声を荒げながら神奈の背中に覆いかぶさって馬乗りになり、首と腰に回した両腕を締めでかかる。幸い、首にまわされた腕には神奈の顎が挟まっていて、頚動脈を締められて数秒で落ちるということはなかったものの、それは神奈にとって天国と地獄を一度に味わう悶絶に始まりだった。
 先に述べたように、蓬の腕力は尋常ではない。その二本の腕に締め付けられている顎はミシミシと嫌な音をたて、腹部も息が出来ないほどの圧迫を受けている。けれど口から頬にかけて押し付けられる蓬の腕の感触は筋肉でゴツゴツなどではなく、とても滑らかでスベスベしている。
 加えて、神奈を締め落とそうと躍起になるほどに蓬の超が付くほどの巨乳が制服越しに背中へとグニグニと押し付けられる。しかも腰の左右は蓬の太股に挟みこまれていて、弥生の時とは違い、神奈は今度はしっかりと蓬の股間の温もりを意識して感じ取ってしまっていた。
(耳に息が、首に腕が、鼻に香りが、背中に胸が、腰に脚がぁ――――――ッ!!!)
 悲鳴を上げたくなる痛みと苦しみだけれど、それを上回る心地よい女体の感触の方に神奈は言葉を失ってしまう。まるで抱擁を受けているかのように体中に絡みついて密着する柔らかい感触とぬくもりは筆舌に尽くし難く、遠くなっていく意識は蓬の感触を記憶すうことだけに集中してしまう。
(って、僕はどれだけスケベ人間ですか―――! 締め付けが、しゃ、洒落になってない…! 本当に…死ぬ〜〜〜!!!)
 “締め落とす”のではなく“締め砕く”のを選択した蓬の腕の中で、骨の軋む激痛と息の出来ない酸欠とで、床に向けた神奈の顔から血の気が徐々に薄れて行く。蓬が本気で神奈を殺害しようと目論んでいる事は密着した肌越しに感じ取れているけれど、
(それでも大きくなってるアソコだけは見られたくないし―――!!!)
 頭蓋骨が粉砕骨折したら治るのに何ヶ月かかるだろうかと、今さらのんきな事を考えながら神奈は股間を包んでいる手をギュッと握り締める。
「ほらほら、さっさと降参しなかったら本当にあの世に生かせちゃうんだんからね! 死にたくなかったら「蓬さん、ごめんなさい」って素直に謝っちゃいなさい!」
(口塞がれてて、どう言うの―――――――――!?……て、あ、ダメ……あ、ンガッ………)
 顎を万力のように締め上げながら鼻と口を塞ぐ蓬の腕と濃密な体臭とに溺れながら、神奈が体を大きく震わせる。けれどその断末魔の震えは弱々しく、曹操にギブアップすると思っていた蓬もそれに気づかない。ますますヒートアップして腕に力を込めてしまい、トマトのように神奈の口から下がつぶけようとしたその瞬間、
「蓬、そこまでです。お嬢様の命により、後は私が引き受けます」
「んなっ!? なんでお傍つきの詩雨がしゃしゃり出てくるのよ!?」
 神奈も気付かなかったけれど、いつの間にか二人のすぐ傍にもう一人メイドが近づいてきていた。理由はともかく締め付けから開放された神奈が咳き込みながら空気を吸い込んでいると、絨毯を至近距離で見つめる視界の端に詩雨と呼ばれたメイドの白いストッキングに包まれた足首が映る。
「お嬢様の命が下ったと説明したはずですが? か弱い男の子をいじめるのに夢中で気付かなかったようですね」
「い、いじめてなんか! それになんか言い方が卑猥!」
「では貴方がした事……無抵抗の少年の身体検査をするだけなのに締め技まで使ったのは、弱者への不当な暴力とは言わないのですね?」
「無抵抗ってどこがよ!? こいつが抵抗するから、わ、私、あ、あの………」
 自分の行動を正当化しようとした蓬が、自分で神奈に加えた行為を思い返して顔を赤く染める。
「まったく……第四メイド隊を率いる隊長ともあろうものが、考え無しに力ずくで物事を解決しようとするなんて」
「うるさいなァ! じゃあ詩雨だったら、この亀野郎をどうにかできるって言うの!?」
「当然です。ですからお嬢様は貴方の代わりに私へお命じになられたのですから」
 頭の上でやりあう二人のメイドの会話を聞きながら、「亀野郎」という言葉にショックを受けつつ神奈は呼吸を整える。
 けれど一難去ってまた一難。正気に戻った蓬が恥ずかしがって背中から離れていくのを寂しく感じていると、なんだかイヤ〜な予感が神奈の背骨を這い上がってくる。
(このままじゃきっとろくな目に会わない……いや、さっきのは実は物凄くラッキー? 弥生先輩に続いてあんなに巨乳のメイドさんのおっぱいまで……ああ、きっと僕、死んじゃうんだな。死ぬ前だからこんなにエッチでハッピーな目に会うんだ)
「―――蓬の胸はそんなに心地よかったですか?」
「ほにゃらあぁ!!?」
 またしても神奈の気付かぬうちに顔のすぐ横に詩雨はしゃがみこんでいた。その詩雨の言葉は神奈の心の内をズバリ読みきっており、今日何度目になるかも分からない驚いた時の奇声を漏らしてしまう。
「ふふふ、日本の平均的な男子と同様の思考をしている貴方の考えてる事は全てお見通しですよ。―――ですから、お望みの通りの事をして差し上げます」
 立ち上がった詩雨は、そう言いながら神奈の背後へと回る。
 もしかして、また背後から締め落とそうとするんじゃ……神奈はそう心配するが当然のことだ。なにしろ一分前まであのよい気がほぼ確実になっていたのだから。
 だが、詩雨の取った行動は神奈の貧相な想像を容易く上回り、まだ蓬の体温の名残りが残っている体を驚きに打ち震わせた。
 ―――撫でたのである、尻を。顔は美少女顔でもれっきとした男の子である神奈の、尻の谷間を。
「北風と太陽のお話……ご存知かしら?」
「し、知ってますけど、あ、やめ、んひゃあっ!?」
 詩雨は余裕のある声で優しげに神奈へ語りかけながら、突き出されている神奈のヒップへしなやかな指を這い回らせる。それは決して触れるだけなどと言う生易しいものではなく、制服ズボンの縫い目に沿って股間からアナルへと、谷間を優しく撫で上げるその動きは年下の少年の敏感なポイントを確実に捉えており、その場から逃げ出す事が出来ない神奈はただ腰を左右にくねらせて身悶えるしか快感に抗う術は残されていなかった。
「どこに…触ってるんですか……そん案と子、ああ、くゥん、んッ、くゥ……!」
 年上の美人メイドの指先が、両手で包み隠された陰嚢のすぐ傍からキュッと収縮しているアナルの間を往復し、何度も丹念に扱き上げる。
「北風は旅人の衣を剥ごうと強く吹き荒れたけれど、結局衣を脱がせたのは太陽のほうだった……今の貴方に当てはめれば、どういう意味かはお分かりでしょう?」
 決して強い力は加えず、神奈の感じるギリギリの強さで繊細な動きを見せしなやかな指。太股をキツく閉じ合わせて絨毯の上で身を丸め、額を床に擦り付けている神奈は為す術もなく、女性に辱められる屈辱的な刺激に、ズボンの内側でペ○スは亀頭を膨張させ、射精直前のように激しい反応を繰り返してしまう。
「分かります、伝わってきますよ、貴方の苦しみが、貴方の懊悩が。イきたい? 苦しい? 出してしまいたい? だけど許しては差し上げられません。貴方が体を起こして弥生様の御前ではしたなく膨らんだ股間をさらけ出さない限り……フフフ……」
「そ…んな……やァ………!」
「意外と強情……だけど、そう言うところが物凄く可愛い………♪」
 神奈の知らぬ浴室での出来事からは想像も出来ない淫靡な表情を浮かべ、神奈の背後で腰を浮かせた詩雨が両手を学生ズボンのベルトに沿って下半身の正面へと回していく。
 だからと言って無抵抗で体を起こすことを拒んだ神奈が自分の股間から手を離すはずがない。
 だからその代わりに弥生が触れたのは、神奈のズボンを腰で繋ぎとめているベルトのバックル。何十人ものメイドとただ一人の主人の見つめる仲でカチャ蚊帳と金属の擦れあう音を響かせてベルトをはずすとスルリと腰から引き抜いてしまう。
「私はね……弥生様の可愛がっていただける事を幸せに感じるんだけど、とても可愛い男の子を泣いて許しを請うまで弄ぶのも同じくらい大好きなの。もちろん……泣いたからって許してなんかあげないけど♪」
(ヒ…ヒョエェェェ〜〜〜! この人、なんか物凄く怖すぎる、さっきの蓬さんとは別の意味で……それなのに、どうしてボクのアソコは縮こまらずにますますドクドク脈を打ってるんでしょうか!?)
 意味ありげな微笑みをこぼした詩雨は、今度はゆるくなったズボンのウエストからシャツを引き抜き、その隙間から神奈の背中に直接触れる。ほんの少し冷たく感じる指先は快感の火照りを帯びている神奈の背を大きく円を描くように撫でまわすと、むき出しになった腰に口付けをしながら無防備になっている脇腹を撫で上げていく。
「あ…ああああ………!」
 まるで楽器を奏でるように十本の指がきめの細かい肌の上を滑るたびに、神奈の唇から悩ましい吐息がこぼれる。焦る事無く、なおかつ的確に、舌先と指先は性器に触れる事無く神奈と言う“男の子”の性感の扉を一つ、また一つと開け放ち、目がくらみ息が詰まるほどの官能へと引きずり込んでいく。
「お姉さんに全て任せればいいんですよ……おチ○チンだけじゃない、男の子の体に隠されてる気持ちよさをたっぷりと教えて差し上げます」
「い、いい、そんなことしなくて…いい、ですか、らァ………!」
「でしたら、もう少し女の子の体で気持ちよくして差し上げましょうか?」
 神奈のお尻に弥生や蓬ほどではなくてもかなりふくよかな胸の膨らみを押し付けたかと思うと、詩雨はシャツの下にもぐりこんだ腕を伸ばし、神奈の薄い胸板にぽつんと存在する小さな乳首をキュッと摘まみ上げた。
「ひゃああああァん!」
 頭の中が真っ白になるほどの強烈な火花が頭の中で弾けた瞬間、神奈は全身を激しくガクガクと震わせる。丸めた身を硬く強張らせ、女性とは比べ物にならないほど平らな胸の先端から迸る快感の刺激に筋肉と言う筋肉を緊縮し、重たい圧迫感がペ○スの根元から先端に向けて押し上げられ始めてしまう。
(漏れる、漏れる、おっぱいをいじられて……僕、イっちゃいそうになってるぅ!)
 歯を食いしばる事も出来ず、初体験の全身愛撫に口元からは涎まで滴っている。熱い血液が駆け巡っているペ○スを押さえ込んだ手の中では解き放てない射精欲求がとどまる所を知らずに昂ぶり続けているのに、メイド服でその身を包んだ美女の手淫を払いのける事も出来ず、ただただ息を荒げて目もくらむほどの喜悦に身を委ねる事しか出来ずにいる。
(ダ…ダメェ……このままじゃ本当に…高菱先輩が見てる前で、僕、お…お漏らししちゃう、物凄く恥ずかしいお漏らしを、せ…先輩の、目の前でぇ〜……!)
「可愛い声……だけど、少しだけ休ませて上げる」
「ッ………ぇ……え…?」
 神奈の胸を、乳首をなぞり上げては性感帯を穿り返していた指がスッとシャツの内側から引き抜かれる。
 本当は喜ばしい事のはずだった。これで弥生の前で痴態を晒さずに済むのだから……けれど美女の手が敏感な場所から離れた途端、快感の味を覚えてしまった体は強烈な寂しさに支配されてしまい、人肌を求めようと体を小さく左右にくねらせてしまう。
「あ……あ…の………」
 荒い呼吸を繰り返して空気を肺に取り込みながら、射精寸前にまで押し上げられて放置された体から精液を押し留めている括約筋を除いて緊張が抜け、徐々に弛緩していく。いや、あまりに緊張が強すぎたために、神奈の意思とは無関係に弛緩せざるを得なかった。
 そして、その間隙を縫って、
「わ―――んむううううううっ!!?」
 持ち上げられた神奈の顔は、問答無用にむき出しの太股の上へと押し付けられてしまった。
「ひゃあん! こ、こらァ、変な事したら、ほ、本当にぶっ飛ばすからァ!」
 頭上から響く恥ずかしさを怒りで紛らわせている声は蓬のものだ。―――と言うことは、神奈が鼻先をうずめているのは蓬の太股の溝であり、絨毯の代わりに目の前にある白い物体は蓬の股間を包み隠しているショーツに他ならなかった。
「ッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!」
「はあッ!? だ…ダメだって言ったのが、聞こえなかっ……んうううッ! そ、そこ…鼻息がくすぐったい……あ、んふゥ〜……ッ!」
(あわわわわ、そんなこと言われたって〜〜〜!)
 何が起きているのか分からぬまま、顔を下に向けて蓬のような美少女の膝枕に頭を乗せられ、そこで神奈の魂はまたしてもどこかに飛んだ。顔の面積の九割を弾力の溢れる太股に密着し、鼻で息を吸えば神奈を追い詰めた要因の一つである汗の匂いの混じった蓬の体臭が鼻腔の奥に直撃する。神奈はそんな破壊力抜群の状況を受け入れて平静で入られるような甘〜い人生を歩んできてはいないのだ。
「も〜! いい加減にして、暴れるのをやめてェ!」
 もがく神奈の鼻先は、蓬のショーツの股間の部分にツンッ…ツンッ…と当たってしまう。弥生の傍にいつもはべらされる詩雨と異なり、蓬に“そう言う経験”はない。他人に、それも異性の不法侵入者に誰にも触らせた事のないところを偶然にとは言え触れられてしまうと、主人の命令に従おうと必死に堪えてきた下着姿の恥ずかしさが、火山のように一気に吹き上がる。
 ―――が、
「んむゥ!?」
 悶える神奈を取り押さえようとした蓬。けれどその前に、前かがみになった表紙にJカップの巨乳が神奈の後頭部を圧迫し、太股と乳房とでサンドイッチにして押さえ込んでしまう。
(顔と頭が―――――! なんですか、なんなんですか、この重量感と弾力感の見事なコラボレーションは――――――!!!)
 武術で鍛えた筋肉は、人の二倍も三倍もふくよかな乳房を美しい形に吊り上げているだけではない。カモシカのようなしなやかな筋肉に包まれた太股は内股座りをしていても決して硬いだけではなく、表面の丸みと相まって適度な弾力で神奈の顔を受け止めている。その上からスイカサイズの乳房を乗せられると首の後ろになんとも言えない重たい心地よさが圧しかかってくる。
「………蓬、グッジョブ」
「あ…これはあの……決してこういう意図では……って、詩雨、その立ててる親指はどういう意味!? あんた、こうなることが分かってたから私に膝枕しろだなんて!」
「でも息苦しさで抵抗は弱まりました。事を為すのは今を置いて他にありません」
 確かに、蓬の太股に口をふさがれ、鼻も乳房の重量に負けて太股の溝に受けこんでしまい、神奈は窒息寸前状態に陥っていた。だが……詩雨の指先が今度はズボンの中に忍び込んできたとなると、話は別だ。
「どこ触ってんですか―――――――――!!?」
「ひゃあん! あ、暴れちゃダメって言ってるでしょお!」
 ズボンのウエストから下半身に忍び込み、パンツの内側にまで指先が忍び込んできているのに黙ってなんか入られない……が、顔を上げようとすると、たわわ過ぎる乳房を押し上げられた蓬が恥じらいパワーで胸に体重を掛け、浮き上がりかけた神奈の鼻先はすぐさま太股へより強烈に密着させられてしまう。
(この人、胸や太股に人の頭を挟んで恥ずかしがってるのか喜んでるのかどっちですか――――――!?)
 そうこうしている間にも、詩雨の手は神奈のヒップに直接触れ、引き締めている谷間の溝に沿ってなぞり上げていく。そのおぞましさとくすぐったさの入り混じった快感に悲鳴を上げそうになるけれど、蓬の太股に塞がれた口からはうめき声しかこぼれない。慌てて腰を振って逃れようとしても、詩雨の指は神奈の敏感な場所を捕らえて離さない。空いているもう片方の手で神奈のズボンをズリ下ろしながら腰骨に唾液でネットリと濡れた下と唇を這いまわらつつ、男にもある“割れ目”へ往復させている指を押し込んでいく。
(触られちゃうよ、僕のお尻が! き、きれいにしてたよね? ちゃんと朝のトイレはウォシュレットで洗ったし、何度も丁寧に拭きましたです!―――だから触られてもいいって事には全然なりませんでした〜〜〜!!!)
 熱気を孕んだ太股をキツく締め付けても、突き出しているお尻まで隠す事は出来ない。ついに滑らかな曲線を描くお尻をむき出しにされてしまうと、詩雨の手は左右の膨らみをグイッと力ずくで割り開き、ヒクヒクとおびえるように震えているアナルに優しく息を吹きかける。
「んむぅ〜〜〜〜〜〜!!!」
「ふふふ…可愛いお尻♪」
(え〜ん、この人恐いよこの人恐いよこの人恐いよぉぉぉ!!!)
 細い指先が尻タブに食い込む感覚でさえ、今は心地よくなってしまっていた。しかもそこまで敏感になってしまっている神奈のアナルの窄まりに声が響くような位置で詩雨は言葉を繋ぎ、今にもむしゃぶりついてきそうな気配まで漂わせてくる。これで神奈に怯えるなと言う方がどだい無理な話だ。
「恐い……ですか? ここ……貴方の大切な場所へ繋がってるこの場所。ヒクヒクと緊縮を繰り返していますよ」
「んゥウん!」
 陰嚢の付け根に人差し指を這わせた詩雨はそのまま上に、眼前にある小さなアナルに向けて指先を滑らせる。到達したらどうなるか……その恐怖心から菊座をキュッと引き締めるけれど、その様子に余裕の笑みを浮かべた詩雨は指先を下に、手と太股に押さえつけられていてほとんど姿を覗かせていない陰嚢側へと戻っていく。
「いいですよ……スゴくいい。あなたのような素敵な反応を返してくれる子はそうはいませんよ、ふふ、ふふふふふ……」
「んん、んんんゥ〜!」
「でも、私は優しいメイドで通っておりまして。ですから貴方に選ばせてあげます……お嬢様と大勢のメイドたちが見守るこの広間の真ん中で公開アナル調教の辱めを受けるか、それとも―――」
 アリの門渡りと呼ばれる股間の真下の部分をくすぐり、神奈の尻をくねくねとくねらせていた詩雨は、その指先を股間を抑えつけている神奈の手に重ね合わせる。
 言葉にされなくても分かる……そして、神奈がアナル調教を選んだら、詩雨が嬉々として本当に神奈のアナルを抉り抜くであろう事を本能が察していた。
 もう他に道はない……どちらも恥ずかしいのなら、せめて男としての尊厳を少しでも守れるほうにと心が傾くと、それを察した詩雨が優しく神奈の手を股間から引き離す。
「では、早速お嬢様に見ていただきましょう」
「………んうゥ!?」
 それは神奈が抵抗を緩め、蓬が体を起こした一瞬の出来事だった。
 自分の手で神奈の両手をそれぞれ握り締めた詩雨は、そのまま背中へと覆いかぶさり、小さな子供におしっこをさせる格好で抱え上げた。
 しかも恐ろしい事に、詩雨の一瞬の早業で学生ズボンのホックとチャックをしっかり開け放ったれ、。その上ズボンは後ろ側を脱がせたときに、服の袖に仕込んでいたカミソリでパンツのゴムを切っていた。
 そんな状態で膝の裏に腕を回されて抱き上げられたらどうなるかと言うと―――抱え上げた動きにあわせてズボンとパンツも膝に向けて一気にズリ上げられ、神奈に膝枕していた蓬、そしてただ一人椅子に腰掛けて成り行きを見守っていた弥生の見ている前で、逞しく、雄々しく、とても女性器に収めるためのものとは思えないほどに勃起してしまった逸物が姿を現してしまう。
「あ……………」
「え……………」
 太股に挟んでいたことが仇となった。意外なほど神奈の体がやわらかくて膝が方に触れるほど腰が曲がったのも仇になった。
 本当なら締め付けている太股と一緒に体の間に挟まれるはずだったペ○スは、逆に脚の裏側へと頭を向けてしまっていた。見られるとしてもズボン越しだと思っていた神奈にとって、むき出しになったペ○スをさらけ出してしまったことはショックだったけれど、それ以上のショックを受けた人物が二人いた。
 ―――弥生と蓬である。
(だ、男性のものってああなっていますのね……も、もちろん知っていましたわ。学園で性教育はきちんと受けましたし、海外の映画に登場するものなんていくらでも……けど、や、やっぱり、彼のはそれとは形が……お、大きいんですのね。バイブを初めて見たときは体内に入るものかと驚きましたけど、それよりも……)
(なんで? この子、男の子じゃなかったの? 声は可愛らしいって思ってたけど、顔はスゴく可愛くて……なのになんで、あ、アソコにこんなに大きなのが!? 男の人の嫌な臭いはしないし、私の胸を見ずにあんなに怯えて顔して……そ、それに……)
 どれだけ知力も体力も美貌も完璧なお嬢様でも、どれだけ腕力をつけて武芸を極めても、初めて実物を目にする男性の生殖器に驚きを禁じえない。必死に内心の動揺を顔に出さないように取り繕うけれど、そんな二人を正面から見ていたのは恥じらいで耳や首まで真っ赤にした神奈だけではなく……詩雨もいた。
「それでは、今からこの“危険物”を取調べしたいと思います」
「え!? ま、待ってよ、話が違っああ、ああああァん!!!」
 神奈のお尻を床に下ろし、両膝を左腕で抱え込んだ詩雨は、はち切れんばかりに勃起しきっている神奈のペ○スに細い指を絡みつかせ、扱き始めた。
「スゴい……こんなに可愛らしい顔をしていて、こんなに凶悪なものを隠していたなんて……」
「ダメェ〜〜〜! 扱いちゃ、触っちゃ、先っぽを剥いちゃダメェエエエエエエッ!!!」
 神奈の悲痛な叫びを耳にして、詩雨と言う名のメイドはネットリと唇を嘗め回す。それは逞しいペ○スを手に入れ、それなのにやめるなんて選択肢を選ぶはずがないと言う意思の表れだった。
 今までズボンの中で大きく膨らみ、神奈自身の手で押さえつけ荒れていたペ○スはそれほどに大きかった。小柄で細身で、スレンダーな女の子と言われても納得してしまいそうな体型や肌のきめ細かさをしているのに、股間のその一点だけは不釣合いなまでに男性の凶悪さを主張している。
 長さは二十センチ近い。太さも申し分なく、亀頭も大きく膨らんでいるけれど、カリ首だけは包皮が覆いかぶさってしまっている。先端部分は痛々しいほどに血液が集まって真っ赤に腫れあがっていて、先端から溢れ出ている透明な粘液を詩雨が手の平にまぶして扱きたてると、肉茎の内側にますます若い性欲を漲らせ、全体を力強く反り返らせていく。
「やめェ……! やめて、これ以上は許して……ああ、ダメ、出ちゃう、出る、出る……やああああああッ! 見ないで、お願いだからイくとこ見ないでぇぇぇ〜〜〜!!!」
 誰に「見ないで」と言ったのか……最初は軽く握っていただけの詩雨の指は締め付けるかのようにペ○スを握り締め、先走りを大量にまぶしてニチャニチャといやらしい音を響かせる。その音が加速し、連続し、包皮をズリ下ろして刺激になれていないカリ首をめくり上げるように肉茎を激しくしごき上げられ、それでも神奈は自分に突き刺さるや酔いと蓬の熱のこもった視線を意識しながらガクガクと頭を揺さぶり、一気に昇りつめていく。
「出る! 出ルッ! 出るうううううううううううううッ!!!」
 顎を突き上げて唇を開き、喉の奥からずっと押し殺していた悲鳴を迸らせると、それと同時に、詩雨の指に根元まで扱き下ろされた肉茎の先端から濃厚な白濁液が、太く、高く舞い上がる。キツく閉じ合わせた目蓋の裏に弥生や蓬の豊満な乳房がチラチラとよぎるたびにペ○スは力強く脈動し、両手両脚で必死に押さえつけてきた性欲を、最も見られたくなかった相手の前で噴き上げてしまう。
「ひッ! んあああッ! こんなの、酷いィ! やあ、ああッ、止まんない、見ないで、こんなところ見ないでェ〜〜〜!!!」
 どんなに泣き叫んでも、堰が一度でも崩れてしまった射精絶頂は全てを吐き出すまで収まらない。しかも……詩雨によって角度を調整されたペ○スから迸る白濁液は、狙い澄ましたかのようにすぐ傍で座り込んでしまっていた蓬の体に次々と浴びせかけられていく。
「ん……ん…ゥ………ぁ…んぅ………!」
 最初の一番飛んだ精液を顔に、そして二回目以降を胸や太股に浴びた蓬は次々と降り注ぐ白濁液の雨が降り止むまで身を硬く強張らせ、その生暖かい感触にブラに締め付けられている豊満な乳房を打ち震わせる。そうして永遠かと思うほどに長く続いた射精が終わり、すすり泣く神奈の声を聞きながら目を開けた蓬は、自分の眼鏡に付着した粘液をすくい取り……少し逡巡した後、それを自分の唇へと運んだ。
(美味しい……わけがない。物凄く変な味で……吐き出したいほどなのに……私、頭がおかしくなりそうなぐらい……美味しく感じてる………)
 舌の上で何度も転がして心行くまで味わった精液をコクッと飲み下すと、神奈の精液に汚された自分の体を抱きしめ、ブルリと背筋を震わせた。
(本当に……私、どうしたんだろ……汚らわしい侵入者で、いやらしい事ばかり考えてる変質者で、そんな相手のせ…精液を……飲み下しちゃうなんて……)
 舌にも喉にも絡みつく濃厚な味わい……それが胃にまで流れ着くと、それがスイッチになったかのように蓬の全身が熱く火照っていく。何度も何度も身震いしながら絨毯の上に点々と飛び散っている神奈の精液を目で追ってしまう。
 床に這いつくばってすすりたいと……そんな淫らな欲求が不意に込み上げ、蓬はすぐさま頭を振った。
 誇りある高菱家所属第四メイド隊の隊長である自分が、そんな人間の尊厳を捨て去って犬のように精液を舐めとろうとするなんて、疲れやショックで頭がどうかしているのだと思った。
 けれど―――
「蓬、何をしているの! まだ危険物処理は終わってはいないのよ!」
 自分でも訳が分からない心中の変化に悩んでいる蓬に、グッタリとした神奈を抱きかかえたまま詩雨が鋭い言葉を飛ばす。
「え………でも、詩雨……き、危険物じゃ……ないと思う、それ」
「分かっていないのね……いい? もし彼が、私たちの隙を付いて弥生様をレイプしたとしたら!?」
「な……この厳重な警戒態勢にある高菱家の敷地内でレ、レイプ!?」
「いいえ、弥生様の優しいお心に付け込んでお傍に近づき、騙し、欺き、一度でも肌を重ねさせてしまったら、弥生様は賊の子を孕んでしまうかもしれないのよ!?」
「孕むんですか!?」
 神奈が男で、蓬の体に浴びせかけられたのが精液なら、当然妊娠の可能性もあり得ると言えばあり得る。だが、その可能性を示唆された蓬は頬を赤く染めてしまうと、やや俯きがちになって自分の秘所にそっと右手を沿わせていた。
「ひゃん! あ、あの、お願いだから、もうおチ○チンを……ひあっ!」
「えっと……詩雨? 私はそこまで言ってないわよ? 彼はその…わ、わたくしの学友でもありますし……」
 涙を流して許しを請う神奈と、普段の自信満々な態度と違って遠慮がちに喋る弥生を、詩雨は完全に無視。その目を未だ迷いを抱えている蓬にまっすぐに向け、
「この者は確かに侵入者ですが、本当にお嬢様の生徒手帳を届けに来ただけかも知れませんので、即座に処刑することは出来ません。ですが生きている以上はお嬢様が不埒者に懐妊させられてしまう危険性はあるのです。我々はこの危険性を排除するために、これより危険物処理に当たらなければいけません、納得しましたか?」
「う、うん……」
「では蓬、私が取り押さえている間に、貴方は彼の凶悪な肉棒を口に含んで嘗め回し、先端の小さな穴から精液をすすり上げて一滴残らず飲み下すのです! こぼしてはいけません。漏らせば漏らすほど空気感染で妊娠する危険性が!」
 精液に空気感染して妊娠するとしたら、世界中の女性が既に妊娠しているはずなのだが、精神が極限状態にあって処理能力が低下していた蓬は、誰でも分かりそうな詩雨の嘘をそのまま信じてコクコクと頷いてしまう。
「わかった……私が、舐めてあげればいいんだね……」
 上気した瞳でじっと神奈を見詰めると、蓬はおもむろに腰を浮かせ、床に手を付き四つんばいになる。先ほどは四つんばいになって精液を舐め取るのを否定したはずなのに、小さくお尻を振って神奈に近づいていく姿はこれに犬耳と尻尾をつければ立派な雌犬そのものだ。
 けれどこれも主人のためと言う免罪符を得てしまった蓬は、遠くを見つめているかのように焦点の合っていない瞳のまま神奈と触れ合える距離にまで辿り着くと、M字に開脚させられた神奈としなやかに背中を反り返らせて見詰め合う。
「あ…の……じょ、冗談、ですよね? お口でだなんて、そんな、い…いやらしいこと……するはず、ない…ですよね?」
「大丈夫……今度は優しく、痛くないようにしてあげるから……ね?」
「うわあぁ〜ん! 何でここのメイドさんってこんなのばっかなんですか――――――!!?」
「だって………」
 そう口にして、蓬は続けて口に思想になった言葉を慌てて押し留める。その代わりに、恐いメイドさんと言う認識が頭に刷り込まれて狼狽し捲くっている神奈の頬を両手で挟むと、緊張し、震える唇を近づけていく。



「こうすればキミ、落ち着くんだよね?………私は、初めてなんだけど………」


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