stage1「フジエーダ攻防戦」12


 目を覚ましたとき、あたしは柔らかいベッドに埋もれるように眠っていた。
 ベッドで寝るのもずいぶんと久しぶりの事だ。それに加え、この布団の柔らかさと温もりはなんだろう。これをマシュマロとするなら、今まで使ってきた布団は煎餅とは行かないけど、堅焼きクッキー明日香作に該当する。
「あの時、イヤだって言うのに無理やり食べさせられて、歯が砕けそうになったっけ。―――で、ここどこ?」
 体を起こすと、薄いシーツがあたしの肌を滑り落ちて行く。―――何故か全裸だ。けど、目が覚めると裸になってる事ってごく最近あったことだし、なんて言うか………慣れた。慣れたくなかったけど。
 恥ずかしがるよりも、それを事実としてすんなり受け入れられてしまう自分自身にそんな自分に気付き、軽いショックを受ける。
 けれどそれは後回しにし、大きく膨らんだ乳房をシーツで隠し、そのまま体を何周かさせてキュッと結べば――ま、当座はこれが服代わりだ。
「さて―――と。とりあえずここが何処かを調べなきゃ」
 まだ眠ってはいたかったけど、そうもいかない。なにしろ……あたしは黒衣の魔道師に捕まったはず。あたしにしてはやけに目覚めもいいし、起きた直後とは思えないほど思考もはっきりしてる。自分の状況を把握してボンヤリ眠っているときではない事を自覚すると、ワンピースドレスのように体にまとったシーツをなびかせてベッドから降りる。
「しっかし、なんでこうもおっきいベッドなんだろ。天蓋付きって本当にあるのね……それに合わせるように部屋も大きいし」
 あたしがフジエーダで使わせてもらった神殿の宿舎の部屋や娼館の部屋とは比べ物にならないほど大きい。宿舎の部屋なら十の部屋が取れるんじゃないかと思うほどの広さだ。その中央には、通常のベッドの四・五倍はあろうかと言う天蓋付きベッドが鎮座していて、脇のサイドテーブルには水差しとグラス、そしてパンとスープの入った皿の乗ったトレイが置かれている。
 幸い、マジ死にそうなトラブルに巻き込まれまくったにしてはたいした怪我もして無いし、結構長い時間眠っていたらしい体は、食事を見た途端に強烈に胃が収縮し、恥ずかしげもなくお腹を鳴らしてしまう。
「………わざわざ毒をいれてなくてもね」
 そんな手の込んだ事をしなくても、あたしを殺そうと思えば寝てる間にとっくに殺されている。――とは言え、やっぱり「女は度胸」なのかな……以前のあたしじゃ殺されるなんて考えたらそれだけで怯えてたけど。
 とりあえずパンを大きくちぎり、温もりの残るスープをよく染み込ませて口の中へと放り込む。
「あ、おいしい」
 パンもスープも、見た目は平凡ながら今まで食べたほどが無いほど美味しかった。空腹と言う調味料も手伝い、ペロッと平らげてしまうと、指に尽いたスープの名残を舐め取りながら、光の差し込む窓へと近寄る。
 一応、フジエーダには結構滞在する事になったので、建物の位置などはある程度頭に入っている。これだけ大きい部屋のある建物で食事まで美味しいとなると、お金持ちが住まう高級住宅街の一角だと察しがつくけど、とりあえず現状確認が第一だ。―――が、
「………あれ?」
 そこから見える光景は、なんとなく見覚えがあった。
 緑の木々が生い茂る中庭……と言った所なんだろうけれど、なにか変だ。なんだか………何処かで見た覚えがある。
「神殿……水の神殿はどっちだろ?」
 窓に張り付き、この街で一番目立つ建物を探すけれど、あれだけ大きな建物がどこにも見えない。窓の向きが悪いのかとも思ったけれど、窓一枚を挟んで見える庭を眺めている内に、ここが何処かようやく思い至る。
「―――って、ここ、水の神殿!?」
 そういえば、黒衣の魔道師が「神殿を占拠した」と言っていた筈だ。ならここはその一室。しかもこれだけ大きいとなると………
「間違いない……多分ここ、静香さんの部屋だ」
 あっちゃ〜。クラウド王国の王女様と同じベッドで寝てたのか……道理でフカフカなわけだ。
 正確に言うと、ここは静香さんの部屋と言うのは間違いで、正しくは来賓室と言うべきだろう。いくら静香さんが王女様でも、聖央都クラウディアから遠く離れたフジエーダに私室を持っているわけがない。
「ともあれ……今のあたしにはラッキーかな」
 ここが一階の来賓室であること。
 外部から覗かれ難いように庭の木々が配置してあること。
 道を知っているので、外にさえ出られれば逃走も容易であること。
 裸足だとか服がシーツ巻きつけただけとか、イヤになる条件もいっぱいあるけど、今は逃げる事を優先する。
「ジェル、出番よ」
 魔封玉は、持ち歩いていなくても念じるだけで手の平に生まれ出てくる。
 こういうとき、鍵を溶かす事の出来るスライムのジェルの出番だと判断したあたしは、手の平へ意識を集中する………けれど、一向に魔封玉は現れようとしなかった。
「………そっか。ジェルはアイツに……だったら」
 敵討ちとかを考えるのはまた後だ。あたしは別の魔封玉……蜘蛛とコボルトが封じられたものを手の平へと出現させるけれど、出てきたのは一個だけ。黄玉石のコボルトが封じ込められた魔封玉だけだ。
「あの蜘蛛、結局逃げちゃったのか……しかたない。出てきて、コボルト」
 魔封玉を床へ投じると、一瞬の輝きの後には小柄なコボルトが姿を現す。
 ――――パタッ
「ちょ…こらこらこらぁ! 何でいきなり倒れてるのよ。今からここを抜け出そうって言うときにぃ!!」
 コボルトは呼び出されると、そのまますぐに床へと倒れこむ。―――もしかして、寝てた?
 見たところ、あたし同様それほど怪我はしていないように見える。でも、昨日今日契約したばかりだし、コボルトの生態もほとんど知らないから、もしかすると今の時間は寝ているのかもしれないし……あたしと契約したばかりでなれてないとか、色々無理をさせているのかもしれない。
「ごめんね。もっと必要なときに呼ぶから……」
 さしあたって、コボルトにしてもらわなきゃいけない事はない。寝ているところを起こす様な真似をした事を詫びながら、再び魔封玉へと戻す。
「………となると。ここはあたしが自力でやらなきゃいけないわけか。おっし、がんばろ〜!」
 窓には鍵が掛かっている。当然、あたしが鍵を持っているはずも無いし、アンロックの魔法も使えないし、針金で器用に開けられるわけも無い。
 そんなあたしが取りうる手段はこれだ。室内にあった椅子を一脚、引きずって窓の傍へ戻ると気合を入れて頭上へ持ち上げ、
「ん〜〜〜……、とりゃあ!!」
 振り下ろす。
 その途中で、握る力を緩めた手の中から椅子の感触は消え、頑丈な分だけ重たい椅子は薄い窓へと飛んでいく。
 ―――そして、はじき返された。
「う……嘘だぁ!! なんであんな薄い窓が、んな頑丈なのよ!?」
 もう一度チャレンジしても結果は同じ。バンッと投げつけた椅子の方が跳ね返されて戻ってくる。自分の手でたたき手も見るけれど、窓も枠も撓みはするけれど壊れる気配はまったくない。
「ああ、もう。窓の部分に障壁でも張られてるのかな……」
 あたしを閉じ込めてるんだから、当然といえば当然か。そうなると………わざと悲鳴を上げて扉の陰に隠れて、誰か来たところを気絶させて……
「――だめだ。あたしの力じゃ一発で気絶なんて格好いい真似、絶対にできっこない」
 しかたない……とりあえず、この椅子振り下ろしちゃえ。当たり所がよければ死なないでしょ。
 その後どうするかは決めてないけど、逃走計画も決まった。あたしは床に横たわった椅子をとりあえず立たせると、さっきと同じく引きずりながら扉へと向かい、
 ―――カチャ
「んのわあぁぁぁああああああっ!?」
 あたしが行く前に扉が開いた事に慌てながら、何故かその場で椅子に腰掛けてしまう。
「おや、お目覚めでしたか」
「え………ええ、まあ」
 入ってきたのは……黒衣の魔術師。いきなりの大ボスの登場に急いで気を引き締めると、なんとか出し抜いて逃げ出す方法を考え始める。
「そのように警戒なさらなくても。お連れする際に手荒な事をいたした非礼はお詫びしますが、私にはあなたを傷つける意思はありません」
「………私、ね」
「? いかがなさいましたか?」
「別に」
 確証はあるけど……いきなりそれを言い出すのも気が引ける。ここで言うのはもったいない。……と言う感じだ。
 ともあれ、今のあたしは静香さんに間違われて拉致された以上、いきなり奇声上げたのはまずかったかな……こほんと口を手で押さえながら咳払いを一つすると、魔道師の視線を感じながら居心地悪く居住まいを正した。
「ほう……やはり美しい。窓辺の椅子に腰掛ける白い衣の乙女とは……まさに野に咲く一輪の白百合。あなたの清らかなる美しさの前では例え百万本の薔薇でさえ、その輝きを失う事でしょう、クラウディアの王女よ」
「……………………………」
 いや……そう言うこと言われても困るんですけど。なんかこう…背筋がむず痒くなりそうで。
 だからと言って、背中をムズムズさせて体を揺するのも王女様っぽくない。せめてその姿を見ないようにと窓の外へ顔を向ける………が、それも男のなんかを刺激しちゃったのだろうか、ああっと感嘆とも悲嘆とも声を魔道師があげる。
「なにも境遇をお嘆きになることはありません。私はあなたに損はさせない……いえ、あなたを幸福へと導く提案をするためにここへとお招きしたのですから」
 やたらと広い部屋を横切り、あたしの視界へわざわざ回りこむ黒衣の魔道師。そしてその場にひざまずき、
「美しい……」
 と、とてつもない事を口にしながらあたしの右手を取り、唇を押し付けようと――――――って、い〜〜〜〜〜〜やあああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
 男に手の甲へ口付けされる!―――その意味がなんなのかは知らないけれど、そのキザったらしい行為のおぞましさに体が意識の管轄を離れて抗ってしまい、男の手の中から唇が触れる寸前だった手を引き抜き、その反動を利用して魔道師の顔を座ったまま殴りつけてしまっていた。
「はうっ!」
 下から掬い上げるような一撃は、男のアゴを見事にかち上げ、その体がゆっくりと後ろへと倒れこんで行く。
 そしてその動きにあわせるように、黒衣のフードがめくれ上がり、暗い影に覆われていた素顔があたしの前へとさらけ出される。それは―――
「あ―――――――っ!! やっぱりあんた、変態エロメガネ!」
 自分で言うのもなんだけど、あまりにも率直なネーミングで呼んでしまった。もうちょっと詳しく言えば、
 男の正体は佐野だった。







 ジャスミンが引き返してきためぐみと共に逃げ込んだのは、フジエーダの北側。再開発地区に指定された廃墟街だった。
 密集し、それでも限られたスペースを有効活用するために無秩序に上へ上へと建て増しされた建物は、道を迷路のように狭く要り込ませ、細い路地には日の光が差し込むことがほとんど無い。
 住む上でもあまりに不便なため、一度全ての建物を解体し、都市計画に基づいて再開発する案の健闘中であった場所だが、その地理的状況から一度に大軍を送り込むことの出来ないため、逃げ遅れた場合の避難場所に指定されていた。
 そこに食料、武器などを運び込んでいたのは神官長だった。住民たちにとって精神的支柱であり、共に逃亡するよう周囲の人間が進めたのだが、最後まで戦い、奪還作戦の際には率先して戦いに赴くといって、ここに残る事を自身で選んでいた。
 だが―――
「なぜです! なぜ姫の捜索に向かってはいけないのですか!? このような場所に息を潜めていても、静香様は見つけられませんし、たくや様とて助け出す事はできません!」
 ジャスミンが黒衣の魔道師に敗北し、たくやが連れ去られてから丸一日が経過していた。その間、めぐみによって回復魔法を掛け続けられて回復すると、ジャスミンはすぐさまモンスターに占拠されたフジエーダの街へ向かおうとした。
 けれど、神官長がそれを止めたのだ。
「それは分かってるアル。けどジャスミンさん、まだ回復してないアルね。折れた肋骨は辛うじてくっ付いた程度だろうシ、魔力も十分じゃないカラ、もう一日ゼッタイ安静。ヨロシイアルカ?」
「くっ………」
 ジャスミンは悔しげに唇を噛む。全力を出せない状況では、あの黒衣の魔道師を打ち破れない事は先刻の戦闘で分かっている。そのため、何も言い返すことが出来ずにいた。
「ともかく、少しは落ち着いた方がいいアル。王女様にしろ、たくやちゃんにしろ、すぐに命の危険に関わるような事は無いと思うアルよ」
 敵がわざわざ待ちの明け渡しと同格の条件として静かの身柄を要求したのだ。それなのに捕らえてすぐにどうこうするとは考えにくい。―――だが、それも絶対ではない。加えて、静香は捕らえられたのではなく、自分から何処かへ姿を消してしまったのだ。もしフジエーダにまだ残っているようなら、王女と間違われて連れ去られたたくやよりもある意味危険だといえる。
 それはジャスミンにも理解できている。だが、絶対の安全であるとも言えないし、女には死ぬよりも辛い辱めを受ける事もあるのだ。考えられる最悪の事態を幾通りも想定しているジャスミンにとって、今は一分一秒でも惜しい時だった。
「あの……ヒーリングの魔法、掛けてもいいですか?」
 結局、ジャスミン一人で廃墟街を出ることは許可されなかった。そんな彼女の心を少しでもなだめようとするかのように、僧衣を着ためぐみが近寄って行く。
「………すみません。あなたまで街に残る事になってしまって……」
「いえ。私は……できれば残っていたいと思っていましたから」
 それは意外だ。めぐみの言葉を聞いたジャスミンは、オーガに殴られた場所を中心にヒーリングをかけてもらいながら、若い女性僧侶の顔へ目を向けた。
 水の神殿に滞在していたジャスミンはめぐみとも何度か顔をあわせているものの、そう長い時間を過ごしたわけではない。けれど、怪我の治療をしてもらっている間に交わした言葉から、彼女が内向的であると考えていた。
「………あ、あの、私の顔が何か?」
「いえ……正直に申しまして、驚いているところです。そのような決意を胸に秘めていらっしゃったとは……」
「あ………ち、ちがうんです。私はただ……心配で……」
 ジャスミンに賞賛の言葉をもらい、慌てて手を振り否定するめぐみ。
「本当は住民の皆さんと一緒に避難するつもりだったんです。でも……たくやさんがまだ戻ってきてなくて、ずっと心配だったんです」
 たくやの名前が出たことに、今度はジャスミンが驚く番だったが、顔を少し赤らめて視線を下に向けためぐみはそれに気づかず、言葉をつなげて行く。
「今のジャスミンさんみたいに、大丈夫だって、ちゃんと分かってたんです。他の冒険者の人も迎えに行ってくださってましたし、たくやさんだって……私が思っているより、ずっと強い人なんですから…って」
 言葉が進みにつれ、めぐみの手から放たれていた癒しの光が弱々しくなっていく。それだけ会話に意識を奪われている証拠だった。
「でも……やっぱり心配だったんです。自分でもよく分からないんですけど……たくやさんがまた怪我をしたらどうしようとか、そう考えてたら、いても立ってもいられなくなって……だから…つい……」
 ヒーリングの魔法を無意識に止め、震える手を握り合わせて自分の胸へと押し付ける。それでも、一度頭を持ち上げた不安はなかなか治まらず、手から腕、腕から肩と、次第に震えを大きくしながら、めぐみは声を詰まらせて、
「あ………」
 ジャスミンに頭を抱きしめられた。
「大丈夫です。―――たくや様なら、きっとそう申されます」
 自分よりもふくよかで、温かい膨らみに顔をうずめながらジャスミンの言葉を聞くと、言われたままの言葉を口にしてめぐみを励ます笑顔のたくやが容易に想像できる。
 体の震えは収まっていた。今まで不安と心配で押しつぶされそうだった心は、力強ささえ感じるたくやの笑みを思い浮かべて少なからず平静を取り戻し、
「………あの…もう大丈夫ですから……腕を放してもらえませんか?」
「もうしばらくなら構いません。残念なことに、私は出産の経験はありませんが、子供を抱くというのはこういうことなのでしょうね。不思議と私も心が安らいでいます」
「あ…あうぅ………」
 もしかして話す相手を間違えたかな……同性の、明らかに自分の胸より大きな膨らみに顔を押し付けているなんて、冷静になれば逆に冷静になれないほど恥ずかしいと感じてしまう。彼女の先輩僧侶にはその気はあるけれど、めぐみは至ってノーマルなのだから。
「…………なにやら騒がしいですね」
 相手は怪我人、相手は女性、相手は大きな胸で……結局手荒く振りほどく事が出来ず、為すがままに頭を抱きかかえられて髪を撫でられてためぐみだが、いきなり解放されるとなにやら大勢の人間の声が建物の中に響いていた。
 なにかあったのだろうか。もしかしてモンスターの襲撃が……騒がしくなる理由とすればそれが最も有力だ。ここへ逃げ込んだ衛兵二十人弱は誰もが怪我を負っていて、指揮をとる衛兵長も行方が知れていない。戦闘になればどうなるか……
「………はい。私も頑張ります。だから……」
 落ち込みそうになる意思を、想像の中のたくやに励まされてめぐみが立ち上がる。そして自分の頑張りを代償にたくやが無事である事を信仰する神に祈る。
 その時には既にジャスミンが建物の中を移動していた男の一人を捕まえて事情を聞いていた。その傍により、自分も何かに役立てるかと会話を耳にする。
「なんでも街の外から冒険者が来たそうだぜ。なんでも、女が無事かって聞いてるそうだけどよ」







「きゃあっ!」
「ふ…ふふふ……さすが破壊王女。行動力に満ち溢れたあなたはまさに……美しい」
 っ……つ〜〜〜っ! 美しいとか言っときながら、人の体をベッドへ放り投げさせるんじゃないっての……
 黒衣の魔道師――佐野を運良く殴り倒せて、部屋の外へと逃げ出したところまではよかったんだけど、神殿内の要所要所に配置されたオークに捕まえられ、あたしは再び元いた部屋へと連れ戻されていた。
「いくらあなたでも、ここからは逃げられませんよ。もっとも――ガーディアンを呼び出せば、話は変わるかもしれませんがね」
 打ち付けた腰をさするあたしへ、何処か挑むような雰囲気を含んだ佐野の言葉がくる。
 ―――何考えてるんだろ?
 そもそも、どうしてあたしを……クラウド王国の王女、静香さんを捕まえようとしているのか、その理由が分からない。可愛いからと言うだけで、わざわざモンスターの大群を率いてやってくるとも思えない。だって娼館にやってきてあれだけ無茶する人だし、こいつ。……となると身代金か、もしくは、
「もしかして、ガーディアンが目当てであたしの事を……?」
 思いつきでそう言うと、佐野は嬉しそうに顔の笑みを濃くする。
 静香さんの誘拐事件の後、あの光り輝く巨人がガーディアンと呼ばれる物である事の説明は受けていた。なんでもクラウド王国が古代の魔法兵器らしく、あれ一体で一国の軍勢とまともに戦えるらしい。
 けど、扱えるのは静香さんだけで、呼び出せるのも静香さんだけ。しかも呼び出すと、制御に必要な精神的負荷に静香さんが耐え切れず気を失い、瞬く間に暴走し始めるという兵器としては致命的な欠陥を持っている。
 それでもその存在の研究的価値は計り知れない。体の外皮を構成するオリハルコン、無限動力などなど、一世代では調べきれないほどの古代魔法文明の英知が凝縮されているのだ。
 けれど―――
「それだけではありません。私が欲しいのはあなたの「全て」です」
 予想もしていなかった言葉に軽く驚いていると、いきなりあたしの手が見えない力でベッドへと押し付けられる。
「な……まさか魔法で!? 呪文も唱えてないのに!」
「フォースフィールド……なに、単に力場を生み出すだけの単純な魔法です。この程度ならば無詠唱で発動できますよ」
 いまさらながら、性格と実力が関係ないことに驚きながらも、あたしは両手両足を不可視の力場に拘束され、ベッドの上へ大の字に貼り付けられる。そして佐野はそんなあたしの様子を心底嬉しそうに見つめると、ローブを脱ぎ、次々と服をはぐように脱いで全裸になると、ベッド平気を乱して飛び乗り、あたしの上へ覆いかぶさってくる。
「や……やあああ〜〜〜〜〜!!!」
 叫び、とっさに押し返そうとするけれど、左右に広げられた腕はわずかにしか動かない。まるで屈強な男に押さえつけられているみたいに体を隠すことも抵抗も出来ない状態のあたしは、キツく巻きつけたシーツに手を掛けられ、腰まで布をズリ下げられて一気に胸を露出させられてしまう。
「ほう……やはり、あなたはどこもかしこも美しい。これが僕の物になるのかと思うと……クックック……」
「ひあぁ……!」
 仰向けに寝てもほとんど形が崩れないほど針のある乳房に口を開けて佐野が吸い付く。敏感な白い肌に舌が這い回る感触のおぞましさに身をよじらせるけれど、どうする事も出来ない。
 豊かな盛り上がりを見せる乳房を両の手で強く、けれど痛みをギリギリ感じない巧みさで入念にこね回し、先端の突起に舌を絡みつかせてくる。
「ああぁ…んっ―――!」
 キュッと唇を引き結んでも、召喚で男の味をいやと言うほど教え込まれた体は愛撫の一つ一つに敏感に反応する。舐められている内に自然と勃ってしまった乳首に歯を立てられ、思わず背中を跳ね上げてしまったのを皮切りに、乳房を唾液まみれにするほどに胸の膨らみを嘗め回され、乳首も指先に押し込まれながら乳房ごと揉みしだかれてしまう。
「いやあっ! も、もう、触らないでぇ!」
 嫌悪する相手に胸を舐め擦られているというのに、徐々に加速していく舌と指の動きに敏感な体は身悶えを繰り返し、アゴを突き上げノドを反り返らせてしまう。
「あ……だめ、もう…感じちゃ……んんっ!! ダメ…ダメェェェ……!!」
 そんなに搾られたら、おっぱいが…先っぽが……ジンジンしちゃう……ひぁあああっ! こ、こいつ…エッチが上手……んああああっ!!!
 手で押さえる事の出来ない唇から、快感のままに大きな喘ぎ声があふれ出す。その反応に気を良くしたのか、佐野はピンッと硬く勃起した乳首から口を離す。
「そういえばさっき、なぜあなたを誘拐したのかと訪ねていましたね」
「ひはあっ!!」
 口を開きながら、佐野の指が体に巻いたシーツの中へと太股側から滑り込み、うっすらと湿り気を帯び始めた淫裂へ指を軽く差し入れ、クチュッとかき回す。たったそれだけでお尻をベッドから大きく跳ね上げ、滑らかな曲線を描く肉体を波打たせる。
 身の毛がよだつほどのおぞましさだった。でも、一瞬の快感が引いた後でも下腹の奥に突き刺さった刺激はジィン…と残っている。
「ククク……ええ、教えてあげますとも。あなたほど僕の花嫁にふさわしい女性はいない……地位、財産、血筋、才能、美貌、どれをとっても全世界であなたほどの女性は誰もいない。そう……力を手に入れた僕は力だけで世界を支配はしない。あなたを后に迎えた新たなる王として世界を統治する」
 佐野はそう言いながらあたしの足元へ手をかざす。すると足首を手で掴まれて動かされているような感覚で中を浮いたあたしの足は、踵をお尻につけるように折れ曲がるとシーツは滑らかな太股の上を滑って下腹の上でわだかまり、佐野の目の前に秘所をさらけ出してしまう。
「あ………」
 その中央へ……女性自身として機能している生殖器の入り口へ怒張の先端をあてがい、腰へ力を込め始める。
「さあ結ばれよう。今この時より、あなたは僕の、魔王の后になるのだ!」
「あ……いやあああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!」
 まだ十分に濡れていない肉壷を、肉棒が深々と貫いた。その強烈な摩擦と意外なほどの大きさにあたしは涙を流して嬌声を迸らせてしまう。


 だけど……「魔王」と言う聞きたくも無い言葉だけは、あたしの耳の中で木霊するようにいつまでも残り続けていた―――


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