第八章「襲撃」09


 ―――あたしとゴブリンたちの戦闘は、意外にあっけなくその終わりを見せた。
 あたしの背丈を越えるほどに巨大化したままのジェルに小柄のゴブリンたちは一匹、また一匹と順番に吹き飛ばされ、何度目かに仰向けに倒されたところでリーダー格らしいゴブリンが打ち据えられた場所を押さえながら口を開いた。
『ワイラ、戦ウ、シナイ、負ケ、コウサン』
 それならそれで…もっと早くに降参して欲しかった……
 ジェルとの行為の直後、自在に膣内をかき混ぜるスライムファックに続いて硬い剣の柄で犯された後だっただけに、気持ちよすぎて体が思うように動かなかった。それに加えて全裸で戦うことになっちゃったのでどうしても胸や股間に意識が行ってしまい、戦うことなんてろくに出来ず、もしあたし一人だったら確実にゴブリンたちに負けていたことだろう。それを助けてくれたジェルには感謝感謝である。
 ―――とは言え、このゴブリンたちには元から戦う気迫や殺気と言うものが感じられなかった。
 それに武器や防具はおろか、腰布一枚身につけていない。ゴブリンの知能が人間より低いと言われているけれど、五匹のうちの一匹は片言ながらも言葉を話している。それなら、あたしを襲うときに森から木の枝を折ってきて棍棒にする…とか言う発想が出来てもおかしくはないはずだった。
「それで何が目的だったの? えっと……あたしの方も悪かったとは思うけど、いくらなんでもいきなり襲い掛かってくるって言うのは……」
 体を洗おうと地面に脱ぎ捨てていた短パンと下着は、周囲を取り巻いていたゴブリンたちの足の爪に引き裂かれてボロボロのドロドロだ。辛うじて無事だった汗まみれのシャツを身に付けはしたけれど、汗のにおいを濃厚に放ちながらボディーラインにぴったりと張り付いて、むしろ服を突き破りそうなほどのたわわな膨らみを浮かび上がらせているような姿でゴブリンたちの前にいる事に強い羞恥心を覚えてしまう。今まで人の目を気にせず火照った体を慰めていた反動もあってか、地面にひざまずきながらも、あたしの体をねめ回しているゴブリンたちの視線が、快感の余韻が残る張り詰めた肌にくすぐったく絡み付いてくるのを否応無しに感じてしまう……
『腹、減ッタ……食料、欲シイ、思ウ』
「え……あ、あ〜あ〜あ〜。食料、食料かぁ。へ、へぇ〜」
 いけない……ようやく収まりかけてたのに、また体がおかしくなるところだった……弘二の奴、とんでもない薬を飲ませてくれてわね。
『俺、知ル。人間、光ルノ、欲シガル。ヤル、カラ、メシメシ』
 どうやら奪おうとするんじゃなく、物々交換で食料を分けて欲しいらしい。………となると、さっきあたしに襲おうとしたのは……ま、まぁ、異種族間では意思疎通が出来ずにトラブルがよく起きるって言うし……不幸な事故だった。
 それはさておき、光るもの…と言えば当然貴金属だ。食料はそれほど持ってきていないけれど、弘二のリュックには十分入っているに違いない。それと交換すれば……と頭の中で打算しながら、ゴブリンたちが少し離れた場所から幾ばくかの荷物を運んでくる。それを見て……あたしは人間とゴブリンの感覚の違いに少々困惑してしまう。
『コレ、ヤル。ダカラ、メシメシ』
「いや…ちょっとこれは……」
 確かに光るもの…だろう。けれどそれは貴金属と呼べる代物ではなかった。
 ゴブリンたちが持ってきたのは、穴の空いた銅鍋や錆び過ぎて中ほどで折れている剣、割れた鏡の欠片、挙句の果てに金属ですらない木の板やザルまで混じっている。
『メシメシ。コレ、ワイラノ、大事ナモノ。宝。ヤル、ダカラ、メシメシ』
「ちょ、ちょっと待ってね……え〜っと……」
 これでも実家は道具屋だ。色々と古道具や中古の武具を持ち込まれることもあるけれど……もしこんなものを持ってきたら、全部抱えてとっとと帰れと言うしかないだろう。鍋の穴も塞ぎようがないし、さびた剣なんて振っただけで残った刀身が全部折れてしまいそうだし。全部の価値をあわせて、どう贔屓目に見ても5ゴールドあるかどうかだ。
 しかし事故とは言え、ゴブリンたちを叩きのめさせたと言う負い目もある。交換できないといえばまた襲われる可能性だってあるし、負けることはないだろうけど大怪我させるのも可哀想………んっ?
「ねぇ……さっき吹っ飛ばされただけにしては怪我がひどくない? なにかあったの?」
 言葉を交わして交渉している事もあってか、最初に遭遇したときよりもあたしのゴブリンたちへの警戒感は幾分和らぎ、相手を観察する余裕も出来ている。けれど言葉を話せるために自然と交渉役として一番前に座るゴブリンの体をよく見ると、ジェルに二・三度打ち据えられただけにしては怪我が多く、中には刃による切り傷もある。それに気付いて他の四匹の体も見ると、同様の怪我を全身に負っていた。
「………ちょっと待っててね。ジェル、荷物を運ぶから手伝って」
『メシメシ、早ク、メシメシ』
「飯より先に怪我の治療! ご飯は食べさせてあげるから、動けるなら薬草ぐらい取ってきなさい!」
 そうゴブリンたちを怒鳴りつけたあたしは、驚く五匹に背中とシャツからどうしても飛び出してしまうお尻を見せ、弘二が気絶しているテントへと早足に駆け寄って行った。



『ウマ、ウマ、メシメシ、ウマ。コンナ美味イ、ハジメテ』
 最初に洗っておいた短パンが未だに乾いていなかったので下半身に下着だけ履いたあたしは、弘二の大きなリュックから食料と鍋、それと自分の荷物からポーションや薬を持ち出し、ゴブリンたちに分け与えていた。
 火を起こして鍋でお湯を沸かし、干し飯や干し肉などで簡単な粥を作って、その一方でひどい怪我に治療を施していく。もともとあたし一人分の衣料品だったので、すぐに無くなってしまったけれど、打ち身など軽い怪我には集めさせた薬草をすりつぶさせ、大きめの葉を包帯代わりに患部へ貼り付ける。
 ジェルはテントで弘二の見張りをさせている。股間を押さえて呻きながら眠りに落ちているから大丈夫だとは思うけど、目を覚ましたら溶かさないように上から乗っかっておくように言いつけてある。
 そしてそうこうしている内に鍋も煮えてきた。ま、怪我人だからと言う理由で粥にしたけど、ゴブリンたちにはそういう料理もないらしい。中央がへこんだ丈夫そうな木の葉を椀の代わりにしてフゥフゥと息を吹きかけて冷ましながら、「ウマウマ」言いながら瞬く間に平らげてしまった。
「―――そう言えば怪我の理由をまだ聞いてなかったよね。何があったの?」
 粥を食べ終え、お礼にと例のガラクタを押し付けようとするゴブリンたちを押しとどめ、ずっと気になっていた事を訊ねてみる。
 そもそも、ゴブリンたちが宝と言うようなものをもって食料を貰いに来ようとする事が異例中の異例だ。
 ゴブリンといえば悪戯や略奪をするモンスターの代名詞のようなものだ。蓄財などの概念はなく、欲しいものがあったら他所から奪ってきて、使い尽くせばまた奪いに出かけるという習性で、手足の鋭い爪や醜い外見も相まって、人間からはかなり忌み嫌われる存在だ。それに繁殖力…と言うか性欲も強く、人間の女性を特に好んで襲いかかり、自分たちの巣穴で事切れるまで犯し続けるなんていう話も聞いた事がある。―――そう言った異種族館のトラブルがないように、弘二…は別として、冒険者に街の周囲を見回ってもらい、人間と接触する事の内容に互いの領域を暗黙のルールとして決めていたはずだ。
『追イ出サレタ。ヨソカラキタ連中ニ』
「え……他所からって、それもゴブリン?」
 あたしの問いにゴブリンは頷いた。
『イキナリ、アイツラ来タ。南ノホウカラ、数エ切レナイ、タクサン。仲間、殺サレタ、数エ切レナイ、タクサン。ワイラ、逃ゲタ、ナントカ』
「たくさん来て…たくさん殺された………で、でもこの辺りにはそんなにいないじゃない。数え切れないぐらいいるなら、この辺りにもいっぱいいるんじゃない?」
『アイツラ、消エタ、昨日。ケド、メシ、ナイ。果物、動物、クワレタ。ダカラ、宝モッテ、コッチ来タ』
 ……どういうこと? 嘘を言ってるように聞こえないけど、そんなにゴブリンが現れるなんて……急いで街に戻って神官長に伝えた方がいいかも。ゴブリンがいくら現れても、外壁に囲まれたフジエーダなら大丈夫だろうけど、街の外で作物を作ったり家畜を飼育している人もいるし……
『ケド、コッチ来テ、怪我フエタ』
「? ひょっとしてこの辺りにも……」
『違ウ。人間、襲ッテキタ。弱ソウナ奴。ケド、戦ウ事スル、チカラ、ナイ。剣振リマワス、カラ、逃ゲタ』
「…………そ、そうなんだ……えっと…ごめん、同じ人間として謝っとく」
 弘二のあのバカ……そういえば五匹やっつけたとか言ってたっけ。手負いのゴブリンを追い散らして自慢してたんだ……はぁ…頭が痛い……
「……とりあえず分かった。色々教えてくれてありがと。この話だけでご飯分の価値はあるわ。だから、そのガラク……あなたたちの宝はいらないから」
 実際、貰っても困るし、お宝だというのならご飯や怪我の治療だけで貰ってしまうのも気が引けてしまう。だから遠慮したのに……
『ソレダメ、ヨクナイ、ヤラレタラ、ヤリカエセ』
「そ、その言葉の使い方はどうかと思うんだけど……」
『…………ジャア、ワイラノ、モウ一個ノ、ダイジナモノ、ヤル』
 別のお宝を持ってたんだ……そんな考えがあたしの甘い思い込みである事は、その直後に思い知らされた。
 ゴブリンは…いや、話していたゴブリン以外のゴブリンも合わせた五匹全員が地面に座っているあたしを取り囲むと、フンッと気合をいれ、ダランと垂れ下がっていたモノをグングンと膨らませ始めた。
 もう一個の大事なものって………つまりやっぱりそういう事なの!?
『言葉教エタ、人間、言ッテタ。人間、エッチガ大事。ダカラ襲ウ、ダメ。ワイラノ仲間、守ッテ、大事ナ相手トシカ、エッチ、ナイ』
 逃げようと思えば逃げられなくなさそうだけど……その直後に押し倒されて、後ろから犯されている光景が頭の中に浮かび上がってしまう。
「うっ……」
 今はそういう事を考えちゃダメだって……頭じゃ分かってるのに……………それにしても…臭いがスゴい…おチ○チンもみんなイボイボだらけで…今にも射精しそうなほど張り詰めてる……
『ケド仲間、メス、少ナイ。ワイラ、ダレモ大事、イナイ。ズットエッチ、ズットナイ』
「それ………どれぐらい?」
『ワカラナイ。千回太陽登ッテ、千回落チタ。数エル、ヤメタ。ザット、ソノ倍』
 つまり千日経って、その二倍……うわ、そ、そんなに長い間、ずっと性欲溜めてたって……健全な男の子なら気が狂って死んじゃうんじゃ!? それよりも、性欲の固まりみたいなゴブリン五匹分の性欲をぶつけられそうになってるんだけど……
『オ前、助ケテクレタ。ダカラ、ワイラノ大事ナ、人間ノメス。大事ナメス、エッチ、イイ。エッチ、イイ。エッチ、イイ!』
 どうも、あたしとエッチできると思った途端に、今まで押さえつけていた性欲のたがが外れかかってきたらしい。言葉を話すゴブリンはまだ大丈夫そうだけど、他の四匹の見下ろす視線はショーツだけと言うあられもない姿をしているあたしの柔肌へ突き刺さらんばかりに鋭く強い。そそり立つ異形のペ○スを握り締め、あたしが一言了承するだけで我先にと襲い掛かってきそうな気配が周囲からひしひしと伝わってくる。
 ―――この場合、お礼にあたしの体を差し出すんじゃなくて、相手が体を差し出して……どう考えてもあたしが性欲処理の相手をさせられるんじゃない!
「じょ…冗談じゃないわよ!」
 いくら優しくしてあげたからって、性欲満点のゴブリン五匹に奉仕と言う名の陵辱を受けたら体が壊れちゃう。それに……人間の男性相手でも抵抗があるって言うのに、ゴブリンのオスとだなんて……
 けれどここで彼らを刺激したら強姦されるのが落ちだ。だからあたしはゆっくりとその場に立ち上がると、毅然とした態度でゴブリンたちをにらみつけた。
「さっきも言ったように、ご飯と怪我の治療へのお返しは貰った情報で十分なの。だから他に何もしてもらわなくても――」
『ダメ。言葉、価値、ナイ。ダカラ選ブ。宝カ、エッチカ』
 ううう…即物的なゴブリンだなぁ……けど、あたしだってここで引いたら陵辱されて……ぶるぶるぶる、それだけはイヤだ……こうなったら、伝家の宝刀を抜いてやる!
「ふ〜ん…じゃあエッチの方を選ぼうかな」
『ホ、ホントウカ!? ナラ――』
「でもちょっと待って。その前に一つ教えておかなきゃいけないんだけど……あたしとエッチしたら魔王と契約する事になるんだからね」
『マオウ?』
 あたしの様子に不審を感じた喋れるゴブリンが他の四匹を抑えながら、鸚鵡返しにそう言った。
「そうよ。これでもあたしは――(仮免とか言われてるし、サラサラそのつもりはないんだけど)――魔王様なんだからね。さっきあんた達を倒したスライムは下僕一号。あたしと契約したから全ての自由を奪われて言いなりになってるんだから。それでもいいって言うんならあたしがエッチしてあげる」
『…………………』
 さすがの展開に言葉を失っている。やっぱりモンスターにとって魔王という言葉は特別な意味を持つようだ。それに加え、エッチをすれば自由も何もなってあたしの言いなりになるわけだから、二の足を踏まないわけがない。
 ―――だが、あたしの考えは少々足りていなかった。ここでも人間とモンスターの考え方の相違があったようで、五匹のゴブリンは二言三言と言葉を交わすにつれて表情に驚愕の色を浮かべ、目を見開くと一斉に地面に平伏して額を地面に擦り付けた。
『ウガ、ウガ、ウガ……』
「できれば分かるように喋って欲しいんだけど……」
『シ、知ラヌゴザルトモウセバ、飛ンダ跳ネタデ、ブレイセンバン……』
「なんかスゴい混乱してるみたいだけど……落ち着いて。別にとって食べるわけじゃないんだから」
 一応、魔王も王様なんだね。あたしの場合は女王様になるのかな……けど、目の前で土下座されるっていう状況、何と言うか、落ち着かないな……
『魔王サマナラ、食ベラレル、構ワナイ。ムシロ光栄、名誉、コキョウニ錦、契約、イイ、エッチ、イイ!』
「……………えええええええええええええっ!? ちょ、ちょっとよく考えようって。魔王よ? 魔王なんだよ? そんな凶悪凶暴ってイメージの人とエッチした言って思う!? 残虐非道で血も涙もなくて巨乳好きのくせに水に濡れたらすぐへろへろになるようなエロ本魔王のどこがいいって言うのよ!?」
『伝説ノ魔王、仕エル、夢ノヨウ。喜ビ、イッパイ。部族ノ誇リ』
「間違ってる。それは絶対に相手を間違ってる! エッチしたらあたしの命令聞いてばくだん抱えて敵の中に突っ込むような事もしなくちゃいけないんだから。絶対服従なんだからね! 逆らっちゃダメだからね! 遊んじゃダメなんだから!」
『魔王様、魔王ダケド、大事ナ、メス。大切。メスノ命令、守ル、必ズ服従スル』
 あ〜〜〜ん、なんでモンスターってこうなのよ、あたしの方が間違ってるって言うのか〜〜〜〜〜!!
『魔王様、契約、契約スル』
「ちょっと待って、言い訳考えるから待ってってば! え〜っと、え〜っと……そうだ、あたしは、男だぁぁぁ〜〜〜!!! だから大事なメスじゃないの!」
『ドコカラ、ドウ、見テモ、メス。チ○ポ、ナイ。穴、アル。問題ナシ!』
 問題にしてぇぇぇ!! 男とエッチするって言われたら多少は抵抗って言うものがあるでしょ? 一から説明する余裕はないから……って、こら、服に手を掛けるな。着替えは二着分しか…ダメ、だからダメって。あたしとエッチしちゃ、ダメだってばぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!


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