第六章「迷宮」07


 …………まだ生きてる……さすがにもうダメかと思ったけど……
 本気で死を覚悟するぐらいに激しいSEXだった。……まだ生きていられた事は喜ばしいけど、目を覚ましたのは白濁に覆われた通路のど真ん中。目をあければ白いい反りか見えないと思ったらまぶたまでねっとりと粘つく白濁液で覆われていて……はっきり言って最悪の目覚めだ。
「どうせ仮想世界なんだから……いっそゲームオーバーになってればなぁ…とほほ……」
 この世界でのルールは頭では理解できているけれど、できれば「死ぬ」と言うのはあまり体験したくない。エッチな事はともかく、そんな事にまで慣れてしまったら……考えたくもない。いや、エッチするのだったら慣れてもいいとか言う話じゃないんだけどね。
 ST異常「発情期」には困りものだけれど、ここまで来れたのも、こうしてまだ動けるのも、ワーウルフに変身しているおかげだ。強さは結構なりを潜めたけれど、タフだし。もしいつもの人間の姿なら、オークのペ○スを入れられれば……ううう、なんかものすごくスプラッタな想像を……いくら精神世界だからってそういうのはいやだな。精神的にもよろしくない。
「くんくん……ん〜…こっちでいいのかな……」
 目を覚ましてから重たい体を引きずって奥へと進んできてはいるけれど、あたしの体から発せられるオス豚の精液の臭いのせいで鼻がまったく利かなくなっている。
「はぁぁ……せめて水浴びぐらいさせてくれないかな……こんなに汚れたままじゃ……また……」
 精液が毛の根元まで染み込んで重くなった尻尾を振り、あたしは肌の表面を撫でるように精液を拭い取ると床へと振り捨てる。ビシャリと音が響くほどの量が取れたけれど、どこにそれほどと思うほどに次から次へとあたしの体を白い体液が伝い落ち、その感触と濃密な臭いに時折背筋がぞくっと震えてしまい、嫌でも自分の体の罪深さを自覚させられてしまう。
「乾いたら乾いたで臭いもキツいし……ん? くん、くんくんくん……」
 不意に鼻先に漂うある匂い。それは匂いと言うのは匂いがなく、だからこそ今のあたしには嗅ぎ取れる唯一の匂いだったのかも知れない。
 冷たく清らかで、だけど嗅ぎ慣れた匂い……その正体が何かに気づいたあたしは考えるよりも先に脚を動かし、匂いが漂ってきた方へと駆け出していた。
「多分こっちだと……あ、あった。やったぁ♪」
 角をいくつか曲がり、その光景は突然あたしの目の前に広がった。
 泉だ。水の神殿にある地下湖のように広い空間一面には清らかな水がたたえられ、波一つたたない静かな水面は周囲の空気を冷やしては迷宮の通路に送り出していた。
「きゃっほう♪」
 あまり冷たい水は好きじゃないけど、事と次第で状況が状況だ。これで体の汚れを洗い流せる事への嬉しさのあまりに嬉しさ爆発の声を上げながら床を蹴り、あたしは水の中へと飛び込んでいった。
 バッシャ〜ンと、あたしの体が水面を打つ音が木霊するけれど、水の中へ犬耳の先まで潜ってしまったあたしの耳へは届かない。―――が、三秒…五秒…十秒と潜り続けても、あたしの脚の先に水底の感触が触れる事は無かった。
「………、――――――ッ!!?」
 やばい。ここ、ものすごく深い!
 目を下に向けて、底が確認できない事を知ると、あたしは慌てて水面に向けて手足を動かした。
 ワーウルフでよかった……ワーキャットなら泳げたかどうか怪しいものだ。
「………ぷはぁ! ハァ、ハァ…こ、これもトラップ!?」
 深さも確かめずに飛び込んだのはあたしのミスだけど……おのれ、エロ本。こんな卑怯なまねを……
 けど、とりあえずは体を洗う事も出来た。何度か水の中に頭を沈め、手を動かして体を拭うと全身を覆っていたヌルヌルも落ちていく。髪の毛と尻尾はちょっと苦労したけれど、それでも久しぶりに体を綺麗に出来たあたしは湖の淵に手を突くと、水に濡れた裸体を一気に水中から引き上げ、―――途端に、あたしの体に疼きが走り抜ける。幾度も体験した「発情期」の前触れだ。
「し、しまった!」
 後悔してももう遅い。あれだけバシャバシャと音を立てていれば、ここにいますよと相手に教えているようなものだ。
 けれどまだ臭いはそれほど強くない。水から上がったあたしはブルブルッと体を震わせて肌と毛の間に纏わりついた水滴を振り飛ばすと、まだ体が動くうちにとばかりに通路へ向けて走り出した。
 ワーウルフの脚なら100メートルでも5秒とかからない。―――だが相手が待ち伏せていては意味が無い。通路の角を曲がったところで突然、横殴りに巨大な斧があたしの体へと叩きつけられた。
「つッ!」
 咄嗟に腕に残っていたワーウルフの銀色の毛並みで防御したけれど、重たい攻撃のダメージ全てを防ぐ事は出来ない。戦斧の一撃で軽々と吹き飛ばされたあたしは受身も取れず、走った道をまた戻るように湖のほとりまで転がってしまう。
―――HP−57。残HP29+100
 やばい……防御力が高い場所で受けたにもかかわらず、このダメージだ。もう一度攻撃を受けたらワーウルフの変身が溶け、非力な人間の姿に戻ればどうしようもない。それにHPの減少と共に減っていく銀色の狼の毛も、さっきの一撃で残すは手の甲と足、それに尻尾ぐらいしか残されていない。
 逃げ道は………ない。視線を走らせても、この泉から通じている道は何者かが塞いでいる通路意外に見当たらなかった。
 それに――
「あうっ…あっ…力が……」
 床へへなへなと崩れ落ちると、冷たい水に冷やされた体が内側から炎にあぶられていくように火照っていく。しかも今度の「発情期」はかなり強烈だ。重たい足音を響かせてモンスターが近づいてくると、オークの時よりもさらに強く快感の震えが全身を駆け巡っている。
 乳首は屹立し、膣口は魚の口のように開閉を繰り返している。臭いはそれほど感じないというのに、まるでオーク十匹が近づいてくるような体の疼きに、あたしは体を抱きしめてその場で声を押し殺して悶絶してしまう。頭の中に流れ込む全ての情報が快感の本流であり、吸い込んだ息が凍り付いているかのように感じるほどあたしの体は異常に燃え上がっていた。
―――ミノタウロスが現れた。
「くっ…ううっ……」
 通路から姿を現し、あたしの目の前に仁王立ちになったのは、身の丈2メートルを越える巨大な亜人間型モンスターだ。焦点の定まらない瞳で見上げれば、最初に目に付くのは角を持つ牛そのものの頭だ。
 上半身は鍛え上げられた戦士よりもさらに逞しい筋肉に覆われていて、それを支える下半身は頭と同様に牛のそれ。人間とは異なる二重の関節を持ち、地を踏みしめる蹄は蹲るあたしの眼前で黒く輝いていた。
 手には巨大な戦斧を持ち、明らかに好色の色を湛えてあたしを見下ろしている。……その姿はラビュリントスの支配者、半牛半人のモンスター、ミノタウロスだ。
 ………最悪だ。ミノタウロスは冒険とは縁がなかった生活を過ごしていたあたしでも知るほどの強力なモンスターだ。ワーウルフなどのライカンスロープ系の獣人とは一線を画し、地下迷宮に封じ込められなければならないほどの力と凶暴性を秘めているはずだ。
「冗談キツいわよ……あのエロバカ魔王…ちょっとはあたしの事を考えなさいよね…くぅ……!」
 このまま座っていたいけれど、目の前に死の具現とも言うべき相手がいるのだ。のんびりしていてただ犯されるというわけにもいかないだろう。―――あっちはやる気満々だし。
 何とか気合を入れて腰を浮かせると、目に入ったのはミノタウロスの股間の逸物だ。―――はっきり言おう。あたしの腕がそのままついているような、あんな巨大なものを入れられたら死ぬ、死んじゃう!
 逃げるには……何とかミノタウロスを躱して通路に駆け込むしかない。けど……その作戦はあたしの目の前で打ち砕かれた。
 ミノタウロスは通路から泉のある空間へと出てくるや否やその場で振り返り、手にした戦斧で通路の入り口を粉砕したのだ。
「さて……これで雑魚モンスターに邪魔されずに楽しめるのう……ク〜ックックックッ!」
「その声…まさか!?」
 今までに遭遇したモンスターたちは、叫び声は上げるけれど言葉らしい言葉を発しなかった。けれど眼前のミノタウロスは違う。……そしてその声には聞き覚えがある。
「は〜はっはっはぁ! 知りたいならば教えてやろう。ある時は通路を埋め尽くすナイスでエッチな触手の群、またある時は筋骨隆々ミノタウロス、またまたある時は黒い表紙に近時がポイント、ギャルの間で大人気の黒い魔道書姿、しか〜しその実態はぁぁぁ!!」
「エロ本、何でこんなところにいるのよ!」
「ぬほぁ!」
 戦斧を振り回した後、格好つけて背中を見せたまま独り言を続けるミノタウロス…もとい、エロ本ミノタウロスの後頭部に怒りの飛び蹴りを叩き込む。
 巨体がゆっくりと前へと傾ぎ、鼻先を崩れた通路へと突っ込んでさらに周囲の壁を崩しながら倒れこんでいく……しまった。回し蹴りにして置けばよかった。
 見たところ、崩れた通路はミノタウロスのバカ魔王がどけば通れないほどではない。だからといって全速力で駆け抜けられるものでもない。通路の三分の一に至る高さまで瓦礫に埋もれていて、今のあたしの状態ではさっきみたいに怒りで我を忘れない限り飛び越えられそうもない。
「や…やぁぁぁってくれたではないか。この大魔王パンデモニウム様に真空飛び膝蹴りとはなぁぁぁ!!」
「いや、真空なんとかって言われても意味わかんないし」
「だがそんな事はどうでもいい!」
 あんたが言い出したんだろうが、あんたが!
 瓦礫の山から巨大な体を起こしたエロ魔王は戦斧も捨て、けりを放った後再び崩れ落ちたあたしへとズシズシ音を響かせて近づいてくる。一歩足を踏み出すたびに、全長40センチはありそうな巨根を通り越して棍棒のように思えるペ○スを左右に揺れる。
「あっ……」
 だめだ……アレを見ちゃダメだ。見たら…動けなくなる。
「待ちに待ったぞこの時を。ワシ自らのペ○スでおぬしをグッチャグチャになるまで犯し抜き、どちらが上かを明らかにさせる日を! 今日こそおぬしにワシの従順なメス奴隷だという事を教え込ませてやるわいな!」
 けど…逃げ場はどこにも無い。ここまで近づかれたら「発情期」のせいで体が動かなくなっちゃってるし、攻撃されればそれまで……
「アレだけ入り口も塞げば邪魔もはいらんだろう。さぁ、ワシのメス奴隷一号のたくやよ! この貴様のために用意したナイスでマッスルなミノタウロスボディーで貴様のおマ○コをグッチョングッチョンのズボズボのアヘアヘいなるまで犯してくれるぅ〜〜!!」
 あっ……そうだ。逃げ場ならまだ後ろに……こいつじゃこれない追ってこれない場所がまだ……あそこにある!
「貴様が発情期だという事は分かってるからなぁ。死にたくなければ脚を開いてねだるがよい。「魔王さまぁん、あちしにおっきなおチ○チンズボズボしてぇん♪」となぁ! さすればワシも鬼ではないゆえ、ち〜っとばっかし優しくしてやらん事も無いぞ、ん?」
「………冗談は顔だけにしときなさいよね、この…バカ」
 これが…本当に最後の力だ。
 折っていた膝に力を込めて後ろへと飛ぶ。――けれど飛んだ距離はせいぜい1メートル。ミノタウロスの歩幅なら一歩とかからずあたしを捕まえられるだろう。
 だけど逃げるにはこれで十分だ。あたしの体は小さく宙に浮くとそのまま―――水の中へと落下した。
「ふぬぉあ!? ま、待って――」
 ミノタウロスの手が慌てて中を掴むけれどもう遅い。それに水中にまで臭いは届かず、四肢に再び力が篭ったあたしは水面に顔を出す事無く、岸から離れるように水中へ潜り続けた。
 けれど、いつまでも潜っていられるわけじゃない。あまりミノタウロスの周囲の空気を吸いすぎるわけにはいかなかったので、ろくに空気も吸い込まずに水の中へ落ちたのだ。すでに胸の辺りは新鮮な空気を求めて締め付けるように苦しくなっている。
「………、―――ッ!?」
 せめて対岸まで届けば……そう思い、必死に手足を動かす。――その最中、酸欠で歪み始めた視界が水中に浮かぶ光の玉に目を止めた。
 間違いない。ワーウルフになったときに触れた玉と同じものだ。
「――――――ッ!!」
(溺れる前に……せめてあれを!)
 どうせワーウルフでいられるのもあと少しだ。なら別のモンスターになれば今より悪くなる事なんて何もないはず。
 胸に加わる水圧に負けて、唇から空気の泡が漏れこぼれる。もしこのまま溺れたら、本当に死ぬんじゃないか……そんな恐怖を酸欠の頭で考えながら、あたしは必死に手を伸ばす。けど――
(もう…ダメ。息が……)
 残り少ない空気が白い泡になってガボッとあふれ出す。口の中には代わりに大量の水が流れ込み、意識は急速に遠のいていく。死ぬとかどうとか……そんな事を考える余裕もなく、あたしの意識は一瞬にして薄らぎ消えようとしていく。
(……………)
 疲れ果てたあたしの意識が音もなく途切れ、視界が暗くなっていく。
 けど……腕だけは伸ばしていた。その指先に「なにか」が触れるのと、何も感じられなくなったのは、ほとんど同じタイミングだった―――









―――ステータスを更新します。
 ―――能力値・特殊能力が変更されます。確認してください。


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