序章00


 それは千数百年前にさかのぼる。  魔法のもたらす恩恵により栄華の極みにあったクラウド大陸――人々は餓えに苦しむことなく、夜の恐怖すら も克服し、誰もが争うことなく平和な日々を暮らしていた。  だが、誰もが享受するだけの平和という世界は、たった一つの綻びによって次々と崩れ去る事となる――  魔族の襲来である。  怪物たちはどこから来たのか、  それは奢る人々に神が下した審判なのか、  発展しすぎた魔法が生み出した怪物なのか、  何故襲われるのか、  何故殺されるのか、  何故死ななければならないのか、  なにもかもが分からぬまま、人々は突如襲来した幾千幾万と言う魔族の大群に襲われ、その命を恐怖と言う名 の爪に引き裂かれ、暴力と言う牙に食い散らかされた……  それが後に「魔王戦争」と呼ばれた戦いの始まりだった。  人々を、そして共存していた自然と精霊を破壊し尽くす魔族、そんな彼ら――彼らと呼べるかどうかはともか く…――を率いていたのはただ一つの「存在」だった。  「魔王」  ある時は勇ましい狼の姿をとり、  ある時は見目麗しき乙女となり、  ある時は黒い鱗を持ちて空を駆け、  ある時は魔神となって一晩で国を打ち滅ぼす――  「彼」に率いられた魔族は負ける事がなく、けして人に打ち滅ぼす事の叶わぬ存在――それが「魔王」だった。  大陸の人間――生態系そのものは瞬く間に滅ぼされていった。  幾つかの強大な国家は軍を率い、力を合わせて戦いもしたが「魔王」の力に抗する事ができず、  魔法と言う強大な力を持っていた人間と言う種は、より大きな力を持つ「魔王」と言う存在に滅ぼされそうにな っていた。 ―――だが、一人の若者が黄金に輝く剣を振りかざした時、「魔王」と言う名の暗雲は切り裂かれ、世 界に再び日の光が差し始めた。  これがこの世界の過去。  今へと繋がり、今を生み出した世界の一端。  長大な世界の歴史の中においては瞬きのような繁栄と滅亡の時間。  そうして世界は全てを忘れ――  魔王の恐怖も、復興の苦しみも、勇者の剣の輝きすらも――  人々にとっては詩人の奏でる物語の世界でしかなくなっていったのだった――


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