ファーストバトル・R−1対アルトアイゼン


 ギィン! グォン!! ドゴォォ…ン…… 『くそっ、相手は壊れ掛けのPTだと言うのに!』 「うぉぉりゃあぁぁぁ〜〜!!」  バキッ! 『ぐあああ!!』  リュウセイとブリットの闘いは、PTの重量や出力、武装の差などまったく関係無く、完全にリュウセイが圧倒していた。  完全ナ接近戦の間合いでの闘いは、その間合いで闘う事を想定して作られたアルトアイゼンの攻撃が完全に躱され、  代わりに息をつく間も持たせぬほどに繰り出されるR−1の拳が次々と分厚い装甲にヒットしていた。  引けば追い、詰めてくれば叩き返す、なんとかいったん間合いを切って体勢を立て直したいアルトアイゼンではあるが、  R−1の攻撃はその暇さえ与えようとはしなかった。 『くっ…こんなはずじゃ……!』  コクピット無いで重たい衝撃に晒されているブリットは操縦桿を動かし、左腕の三連マシンキャノンを撃ちながら右から  左へとなぎ払った。 「しゃらくせぇ!!」  しかし、それすらも身を屈め、頭を腕の軌道よりわずかに低くしただけで躱したR−1はその間に引き抜いたコールドメタ  ルナイフを装甲に覆われていない部分――左腕の内側に突き刺し、一気に切り落とした。  だがわずかに力が入った攻撃であったため、振りぬいた直後にわずかに動きが止まり、結果としてアルトアイゼンは左腕  を犠牲にして、ようやくR−1のラッシュから逃げ出す事が出来た。 『くそっ…なんでこうも一方的に……これがEOTの力なのか……』 「……違うな…たんにてめぇが……」  R−1が右足を切り落とされたアルトアイゼンの左腕を持ち主の足元へと蹴り飛ばした。 「弱虫野郎だからだろうが……強いものにこびへつらうだけのな……」 『なんだと!! イングラムにいい様に利用されているだけのあなたににそのような事を言われたくない!!』  いつもとは違い、静かに語るリュウセイの言葉にブリットがすかさず怒りの言葉を発した。 「わかんねぇのか……お前の言葉は…全部借り物だ……グルンガストに乗ってる野郎に言われるがまま、闘い、そして俺たち  に機体を降りるように説得した……そして一番弱いと思ったクスハには攻撃をし掛けた…自分を正当化するためだけに…違うか?」 『な、何を言っている! 俺はあなたたちの事を思って――』 「だったらなんでクスハを泣かせやがった!!」 『つっ…これは……?』  ブリットの声を遮り、いや、押し返すかのようにリュウセイが一喝した。声に含まれる怒りの念はT−LINKシステムで増幅され、  同じ念動力者のブリットの脳に貫くような鋭い痛みを生じさせていた。 「あいつは…クスハは本当は戦うことが好きじゃねぇ……できれば戦いなんかしたくないんだ……でもな…今まで戦闘中に泣いた  事なんか一度も無い……一度もだ……あの泣き虫なクスハがな……」 『それが…それがなんだって言うんだ! ここは戦場なんだ、弱いものが倒され、己が意志を貫けずに泣くのは当たり前のはずだ!!』 「そんな事知るか!! お前はあいつを泣かした、だから俺は…俺はお前をぶん殴るんだよ!!」  両者の距離が開いた、それはブリットにとってはピンチを逃れた事になるのかもしれないが、別の意味ではリュウセイに力を溜め  こませる間を与える事にもなる。 「はあぁぁぁぁぁ…………!」  ゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……  両の拳を握り締め、腰だめに構えたR−1を中心に大気が、いや、空間自体を震わせるような低く、重たい振動が広がっていく。 『な…なんなんだ、この力は……これが…EOTの……』 「………いくぜっ!」  さらに激しくなる頭痛、そしてグルンガストをも圧倒しそうなほどの威圧感にアルトアイゼンが無意識に一歩後退さった瞬間、R−1  は真っ直ぐ、真正面から身を低くして突っ込んできた! 『くっ、なめるな!!』  頭痛に顔をしかめながらも操縦桿をすかさず操り、肩の装甲を展開、先ほどの近接戦闘では使えなかったアルトアイゼン最強の  武器、スクエアクレイモアの発射体勢を取る。 『俺は…なんの考えも無しにイングラムに付き従うだけの…!』  発射。加速をつけたR−1がが真っ直ぐ突っ込んでくる進行方向に、大量の火薬の爆発でいっせいに発射された無数のベアリング  弾が打ち出される!! 「しゃらくせぇ!!」  着弾の直前、R−1が右腕を後ろに引き、アルトアイゼンのいない目の前の空間を右から左へなぎ払う。  ガガガガッガガガガガガッガガッ!!!  数え切れないほどの鋼鉄の玉がR−1の装甲に、頭に、足の、肩に、次々とめり込んでいく。しかし、先の一撃でコクピットや動力炉  のある胸から腰に向かって飛んできた鉄球はすべて吹き飛ばされ、他の部位のダメージを気にする風もなく、そのまま突っ込んでいく! 『あなたなんかに…負けるわけにはいかないんだ!!』  赤い重戦士が己の意思と共に右腕を真っ直ぐ前に突き出す。 「いけぇぇえええ! T−LINK…ナッッコォォォォォーーーーーー!!」  白い戦士は守るべきものの悲しみと、己の怒りを乗せて、光り輝く左拳を真っ直ぐ前に突き出す。  交錯  グシャ!!  それは二人の意思の強さの違いだとでも言うのだろうか、アルトアイゼンのステークがR−1の左拳に鈍い音を立てながら根元  まで深々と突き刺さった!! 『この勝負、もらった!』  ゴオォン! 「がああぁぁぁ!!」  アルトアイゼンの右腕のリボルバーから銃撃に似た音が響く。装填された薬莢内の火薬が炸裂し、その衝撃が全て、ステーク  の突き刺さったR−1の左腕に叩きこまれる! 『俺の意地、俺の信念、俺の全てをお前に叩きこんでやる!』  ゴオォン!  二発 「これが…てめぇの意地かよ……信念かよ……」  ゴオォン!  三発  リボルバーが音を立て、一発分ずつ回転するたびに、R−1の左腕が震え、手首、肘、肩と火花を上げる部位が徐々に胴体に  近くなっていく。  ゴオォン!  四発 「……生ぬるいぜ…意地って言うのはな……」  ゴオォン!  五発 『これで最後だぁ!!』 「こう言うのを言うんだよ!!」  六発  敵を粉砕しようと最後の衝撃が叩きこまれる、と同時にR−1がそれ以上進めぬはずの足をさらに一歩、前に踏み出した! 『えっ!?』  アルトアイゼンのコクピット内のブリットが奇妙な浮遊感に襲われる。今まで力強く踏みしめていた地面がが急になくなったかの  ような感覚。そして――  グゴオォォォン!!  轟音を立てながらアルトアイゼンの左腕が、左肩の巨大なクレイモアユニットごと機体から吹き飛ばされた! 『そんなばかな!?――!! しまった!』  それまで前へ進もうとしていたはずのアルトアイゼンが左腕を吹き飛ばされ、後ろへと向かって宙を浮いている間に、R−1が  その眼前にまで間合いを詰め、身体を捻りながら黄金の輝きを宿す右拳を振り上げる! 『くっ、動け、アルトアイゼン!!』  ブリットが慌てて操縦桿を引くも、左肩のバーニヤを失い、その衝撃が内部にまで及んでいたアルトアイゼンは反応が一瞬遅れる。 「これでラストだ、くらえぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!」  左足を地面にヒビが入るほど強く踏み込み、肘、腰、肩と、機体の各部を限界まで捻って溜めこんだ力を拳に集約し、そして一気  に解放する。  前へと。 「T−LINK、ナッコォォォォォーーーーーーーーー!!!」  真っ直ぐ、前に、目の前の障害を全て叩き潰し、R−1の拳がアルトアイゼンの顔面へと叩きこまれた!  メインカメラを顔と一緒に原型が分からないほど粉砕させながら、アルトの象徴ともいうべき前頭部の一際長い角を根元から叩き折る! 「念動ぉぉぉ…爆砕!!」  R−1の拳が宙に浮いたアルトアイゼンを仰け反らせながら振り抜かれる!  ズズゥゥゥ…ン……  アルトアイゼンを殴っただけでは止めきれなかった勢いのままに二十メートル以上地面の上を滑ってようやく止まったR−1の後ろで、  空中で一回転したアルトアイゼンが背中から地面に落ちて大地を揺るがすほどの轟音を上げた。  プシュゥゥゥゥゥゥゥ………  その直後、アルトアイゼンを沈めて動きの止まったR−1の各部に開いた放熱口から、過剰起動による異常発熱で冷却剤が気化した  白い蒸気が吹き出され始める。そして、一時的に機能の停止したR−1はまるで力尽きたボクサーのように拳をガクンと下に降ろし、  白煙を身にまとわせながらその場に立ち尽くした。  地面に横たわったアルトアイゼンもまた、両腕を失い、全ての武器を破壊され、横たわったまま立ち上がる事が出来ないでいた。 『…………これが…あなたの意地ですか……』  メインカメラも潰され、外部の映像を映さなくなったモニター。暗くなり、しかも仰向けになったコクピットの中で、ブリットは奇跡的に無事  だった通信装置に向かって話し掛けた。 「……ちっ…まだ生きてやがったか……」 『勝手に殺さないで下さいよ…わざとコクピットは狙わなかったんでしょう?』 「一対一のガン○ムファイトでコクピットを狙うのは反則なんだよ…それより助けろって言っても、それこそしらねぇからな……俺は今から  クスハを助けに行かなきゃいけねぇんだからな……」 『わかってますよ。俺だってさっきまで敵だった人に助けてもらおうとは思いません……ただ…ヒュッケバインMK−Uのパイロット――  クスハさんにひどい事を言ったので…謝っておいて欲しくて……』 「んなもん知るか。そう言う事は自分の口で言え…俺はお前のせいで疲れてんだから、そんな面倒はごめんだ」 『……そう…ですね』  頼みが断られたと言うのに、ブリットの声は妙にさっぱりとしていて、まるで何かを成し遂げたかのような満足感さえ感じさせる。 「機体の冷却は…途中だけど動くか……じゃあ…またな」  ズン……ズン……ズン……  アルトアイゼンの体を通して、R−1の遠ざかっていく足音がコクピットの中にもわずかに響いてくる。 (またな…か……負けたな……意地だけは絶対に負けないと思っていたのに…完敗だ……でもいつか…次こそは…必ず勝ちます……  待っていてください…リュウセイ少尉……そして…すみませんでした…クスハさん……)


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